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ワイルド・ワイルド・ガールズ  作者: 虹野サヴァ子
前編『太陽よりも激しい少女達』
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失われた砂漠の遺産 その1

 伝えるべきものがある。

 護るべきものがある。

 受け継いでいくものがある。

 ほんの些細なことから重要なことまで。

 生活で仕事で、そして歴史において。

 生きるという事はそういう事なのかもしれない。

 しかしながら、


 それは一つの偏見なのかもしれない。






 春の風が私の頬をなでる。

 あたたかな日差しが私の心も優しくてらしてくれてるみたい。

 聞こえる小鳥のさえずりが私に遊ぼうとさそってくれてるみたい。

 踏みしめる芝生の弾力が私から「真面目に働こう」という気持ちを吸い取っていく。

 美しきは自然、それが命の有り方を教えてくれてるみたい。


「い~てんきだねぇ~」


 口を緩ませ鼻をスンスン鳴らしながらエクレアもそんなことを呟く。


「ほんと、空気もきれいですしね。私、森林浴なんてひさしぶりですよ~」


 マヤも気持ち良さそう。

 私達って、気合いれて「遊ぶぞ!」ってとき以外は無機質な宇宙船の中でいつも過ごしてるし。仕事でどっかの星に来たとしても、こんなサワヤカな場所に来る事は無い。


 目の保養とはこういう事をいうのだろう。

 地平線まで見渡す限りの緑の絨毯。

 あ! 今、白い鳥が群れをなして飛び立った。

 平和だなぁ。

 でも、一つだけ残念な事がある。


 それはこの緑の世界のど真ん中、私達の背後にずどど~~んと、そびえ建つ巨大な建造物。

 そう、私達はその巨大な違和感を視界にいれないようにソレに背を向けている。

 その建造物とは自然とか緑の大地とか、そういったものの真逆な物の象徴とも言える存在。


 建造物の名前はピラミッド。


 自然の営みとか優しい心とかよりも、吹き付ける砂嵐とか奴隷の苦労や憎しみとかが連想されるピラミッドだ。

 そのピラミッドをチラリと覗き見る。

 やっぱりある……。

 やっぱり目の前の現実と向き合わねばなるまいか……。


「やっぱりスゴイ違和感だねぇ……」


「草原にピラミッド……やっぱり現物を見ると目をそらしたくもなりますよね」


 私達がいる星、その名はエジプティア。

 十数年前まで死の星と言われる、砂漠の惑星だった星である。

 超! 緑まくってる今の状況じゃ信じられないけれど、こんなモノがある以上はきっとそうなのだろう。

 そんな星に、残念ながら私達はバカンスではなく仕事で来ている。


「でも、こんな人の手が入りまくりな星のピラミッドに本当に財宝なんてあるの?」


 エクレアが私も思ってる事を口にする。


「正しくは財宝じゃなくて古代エジプティア人の使っていた祭具です」


「どっちでもいいよそんなの」


 私達の仕事はエジプティア人の遺産……というか忘れ物を取りに来たのだ。

 依頼主は当のエジプティア人。

 十数年前にエジプティアの一国で緑を豊かにしようと植樹キャンペーンとやらを起こしたのが原因らしい、緑が豊かになった国を見て他国が羨ましがって似たような政策をとってまた他国に伝染。


 それがドンドン広まって、そのうち「うちの自然のが豊かじゃあ!」「いや、うちじゃあ!」と、変ないがみ合いをやってるうちに、だんだんとエスカレート。


 タガが外れたかのように各国がスゴイ技術を駆使して緑を豊かにし合うという、通称「エコロジカル戦争」というものが起こり。

 それから数年もすると見事にテラフォーミング!


 砂漠の星の面影はすっかりと消えうせ、宇宙からみるとブロッコリーに見えるほど緑色の星になってしまった。

 人はその自らの自然愛護の精神に恐怖したという…….


 その度が過ぎる自然再生の速度にエジプティア人の体質がついていけず、今度は星を後にする人が続出!

 逆に他の星の移住者は後をたたず。お金持ち向けのリゾート惑星へとなってしまい、当のエジプティア人は別の未開の砂漠惑星に腰を落ちつかせ第二エジプテイアを建星。


 我が家(に似た環境)がやっぱり落ちつくとばかりに結局エジプティア人は砂漠でくらしている……。

 話しを簡単にまとめると「自然豊かにするだけして、自分達はまた別の星を開拓する」というご苦労様な話なのである。


 さて、話し変わって依頼の内容なんだけど。

 移住の際にエジプティア人が数年に一度やる祭りに使う道具を古代ピラミッドに忘れたから取ってきてくれという、最後までよくわからない仕事なのだ。


「そんなのエジプティアの人達が自分で取りにくればいい気もしますけどね?」


「何か事情があるんじゃないの? 何にしろ楽な仕事の割に報酬はいいんでしょ? ……ホラーな事にはなんないよねぇ?」


 こういったチョット怪しい何かの呪いとか霊媒あらたかなものが付きまとう仕事はオバケ大嫌いなエクレアは嫌うんだけど、この絵はもはやコメディーなのでどうやら平気かなと思ったけどやっぱり不満らしい。

 だから、道具なんてあるのか?なんて事を言い出したんだろう。私も思うけど……。


「外から見れば確かに変だけど、そこはやっぱり腐ってもピラミッドだから。中は罠とかそういうものでいっぱいだから人の手は加わってないでしょ」


 エクレア、というよりも自分に言い聞かせるように答える私。


「まがりなりにも古代の遺産ですからね、めちゃちゃ外周とか掃除されてておかしいくらいに綺麗ですけど」


「まぁ、とりあえずザ・ママに言われた通り。隠し扉とやらから中に入ろうか」


 ピラミッドは高さ二十メートル外周が二百メートルという中規模の物で、てっぺんまでは一箇所だけど階段が作られている。

 階段を一番上まで上って、そこから20段下がったところに隠された扉があって中に入れるとの事。

 すっごいサワヤカな風の中で汗一つかかずにピラミッドを登る私達。

 うん、やっぱりすっげー違和感だ……。


「「お待ちなさい!!」」


 なんだかやる気が出ない私達をハモらせた鋭い声が呼び止める。


「あなた達ね祭具を奪いにやってきた墓荒らしは!」


「祭具は我々エジプティアの民の物、触らせはしないわ!」


 声とともに両脇からオリエンタルな衣装を身にまとった同じ顔のねーちゃんが飛び出してきた。


「あれは! 分身の術!?」


「「私達は双子です!!」」


 マヤはマジなんだかボケてんだかイマイチわからないリアクションしてるけど、とりあえずこのねーちゃん達。なんだか穏便に話しをしてくれそうもない。

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