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ワイルド・ワイルド・ガールズ  作者: 虹野サヴァ子
前編『太陽よりも激しい少女達』
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星の船は海図も持たずに その4


 向こうも気がついたのかこっちへと迫ってくる。

 そう、思えばここまでがおかしかったのだ。

 ドラゴンだと思ったら……いや、生物としては確かにドラゴンなんだろうけど……ヌイグルミみたいな丸っこいドラゴンのドラッケン。


 しかも不意打ちとはいえ急所である頭を引っぱたいて一撃KOしたから忘れてたけど。

 ドラゴンっていうのはこういう、存在感だけで全身に針をさされるような。

 見るものを圧倒する威圧感がある、生命体のかで最上位に位置される種

族である。


「ワレこらぁ! さっきから何メンチきっとんじゃい!!」

 って、あれ……。


「ああ、コラ!! さっきから人のケツ付け回してなめてんのかアァ!?」


 このドラゴン安っ!!

 ドラッケンの時のようにエクレアがこっそり耳打ちしてくる。


「ねぇねぇ、ジョニー……なんか……コレ、さぁ……」


「私に言わないでよ……まさかヘタレデブの次はヤンキーとは思ってなかったし……ほらマヤなんか隅っこで完全にドラゴン不信になって泣いてるし」


 初めてドラゴンと出会ったマヤにとってドラッケンで幻滅してトドメをくらったようなもんなんだとおもう。

 私だってこんな性格なら、いっそ言葉を喋れない種族のドラゴンのがいい。


「アァ、何か言えコラ! オレは急いでるだよアァ!! このボケ、殺すぞ!!!」


 あんま真面目に聞いてはいないけど、さっきから「ああ!」と「コラ!」が使われる頻度がとても多い。

 それと急いでるんなら無視してればいいのに、なんでわざわざこっちの戻ってくるんだか……。


 そのうえドラッケンなんてこんなチンピラ量産型みたいなのに完全にビビってるし……。


「いや、あの、その……スイマセン……」


 なんか謝っちゃってるし!

 しょうがない……火をつけてやろう……


「何を言ってるのよドラッケン! あのガキ俺にメンチ切りやがってブッ転がしてやるっていってたじゃない!」


「アァ!!!?」


「そんなに転がされるのが嫌だったの?」


 さらに火をそそいでみる私。


「アア! てめぇ、そんなことヌかしやがってんのか。てめぇもうランチタイムはこねぇぞコラァ!!」


 相変わらず「アア」と「コラ」の使用頻度が高いブラックドラゴン。


「わーこわくねぇー」


「ですねぇー」


 もういろいろと諦めたエクレアとマヤがやる気なさそうにため息に近い言葉を吐き出す。


「ぼぼぼぼぼ、僕は。そそそそそ、そんな事言ってないぶほっ!」


 対照的に超ビビってるドラッケン、コイツはもう。

 語尾も言い切れなくて爆発してる漢字になっておる。


「うるせえ! 手前がいったんだろうがピンク色のチンチクリンだろうが紫色のイモイのだろうが黒い田舎くせぇガキが言ったんだろうが関係ねぇんだよ、アァ!!?」


 何かムカツク言葉が聞こえた。


「チンチクリン!」


「イモイ!」


「田舎くさい!」


 やっぱりみんな聞こえてた。


「「「ドラッケン、加勢してあげる!!!」」」


 ジャキリとみんなが思い思いの獲物を取り出す。

 私は剣を抜くと刀身を燃え上がらせる、これぞ私の武器。アースウィンド&ファイアー。

 熱は炎の刃となり、その剣線は飛び道具となり宙を奔る。


 ニーズはスカートの中からロケットランチャーを取り出して肩に担ぐ、相変わらずエクレア自身と同じくらいの大きさの兵器がスカートの中に収まっているのか、その原理はわからない。


「一線! フレアスラッシュ!」


「イフリート照準!」


 私達が同時に攻撃を繰り出し。


「撃てーーーーーー!!!」


 マヤが我が物顔で指示を飛ばした、これといって彼女は何もしていないけど、ポーズまで決めて一仕事終えたように悦に入っている。


「「ええっ!!??」


 そういやマヤはドラゴンに通用するような飛び道具を持ってない。

 だから私達が撃ち出すのにあわせてビシッと指をさして美味しいところを叫ぶだけ叫んだ。加勢どころか足をひっぱってるよ!


 おかげで一瞬だけ撃つのが遅れてしまいヤンキードラゴンに避けるスキを与えてしまった。


「アァ!!? 反則だろコラァ!!!」


 ドッカーーーーン!!!

 私の放った炎の塊とエクレアのバズーカ砲のミサイルはヤンキードラゴンの脇を抜けて山に見事命中!


 爆発をともない大規模な雪崩を起こす!

 威力は十分、ちゃんと狙って命を刈り取るつもりだったけど、結果として脅すだけにとどまった。

 格好がつかない私達は、それをおくびにも出さずにわざと外した体で話を進める。


「あ~あ、山の形が変わっちゃった……で、ラゴンさん。なんでしたっけ?」


 すっごい可愛い笑顔でマヤがちゃっかり答えにくい事を質問する。

 私は時に思う。

 私たちの中で一番この子がタチが悪いのでは、と。


「あ、そうそう。二人ともまだ本気じゃないですよ。あなたのいったピンクの~ええとなんでしたっけ? 彼女はさらに威力を高める技を使ってませんし、緑の~ええとなんだったかしら?は一番威力のある弾を使ったわけではありませんから」


 本当の事とはいえこの子は……。

 おかげでこっちは冷静になれたけど……まぁ、ちょっとやりすぎたとはいえこんだけ離れてれば街への被害はないでしょ……


「あわわわ……ごめんんざさい、マジで勘弁してください」


「わかればいいんですよ」


「そうだよ、イモイって! ダサイくらいならまだしも!」


 エクレアはエクレアで怒るところが微妙にズレてた気がする。

 まぁ、ともかく力技ながら話しはまとまった。


「じゃあ、これにこれに懲りたら悪さなんてするなよ」


 ヤンキードラゴンの肩をポンと叩く私。


「えっ?」


「えっ、じゃないよ」


「……はい、すいません。失礼します。」


 そんなわけで見事ヤンキードラゴンを仕留めた私達は何か腑に落ちないような表情のドラッケンを引きずって山を降りた。

 一応話しとして゛自分がいたことで少なからず人間に迷惑をかけたから必死の思いでドラッケンが戦い勝利した゛という事にしておいた。

 まぁ、あのヤンキードラゴンの方も何かあればまた私達が来るだろうと思って人に手出しする事はないだろう。

 ああいう性格は一度上である存在を知ってしまうと、そこに手出しはしないのが普通だからだ。


 そんなわけでドラゴン感謝祭といった感じの飲めや歌えのお祭りさわぎとなっている。

 市長もドラッケンもすっかりできあがってしまった。

 ってか、酒を飲むドラゴンって……だから太るんだ!


「いや~、ドラゴンの中にもいい人はおるのですなぁ」


「オレは人じゃなくて竜、いい竜」


 そこで見つめ合う両者。


「「あはははははは!!」」


 完全に酔っ払いだ。

 でも、人と竜の間にわけへだてがなくなるって事はいい事だろう。


「よきかなよきかな、この調子ならドラッケンも街の人とうまくやってけるんじゃない?」


「そうですね~、これで依頼達成ですね」


 そう、あとは報酬をもらうだけ。

 実際のところドラゴン討伐のわりにドラゴンと戦った気はしないけど。まぁいいや。


「いやー、人間に友好的なドラゴンもいるんですなぁ」


「そうぶひぃ~」


 ドラッケンのお腹をたっぷんたっぷんさせながら酔っ払いが笑う。


「何しろここ何年も宇宙遺産の森の木が掘り起こされたり皮をはがされたり、スキー場付近の木が倒されて雪崩が起きたりと散々でなあ。修繕しては治してとイタチごっこで、遺産の森が傷ついたと報告したら委員会が観光地運営を縮小しろと言ってきて私達の生活がおびやかされるし、最初は竜にも生活があるじゃろうと目をつむっておったんじゃがなアンタみたいな竜がいるならもっと早く関係を持つべきじゃった。」


「「「ん!!!」」」


 飲み物を噴出す私達。

 エクレアとマヤが耳打ちをしてくる。うん、私もいいたい事がある。


「ね、ねぇジョニー……ふと思ったんだけどさぁ」


「悪さって森林破壊だったよね?」


 二人が思ってる事はきっと私といっしょ。

 あの、「わかる、わかるよ!と泣きながらうなずいてるあのドラゴンと最初に出会った時の事。


「木の根っことかドラッケンの食べ物ばかりだねぇ……」


「「「それと……」」」


 三人そろってチラリとドラッケンの身体を見る。

 うん、太ってる。

 それはそれは丸々と。

 考えてみれば私達にしてみれば野菜みたいな木の皮やら根っこやらだけを食べてるのにあんなに太るのはおかしい。

 性格のせいで悪い事をしそうにないと思ったけれど、本人に悪い事をしている自覚がなかったとしたら。


「そういえば……あのヤンキーは「急いでる」っていってましたよね。ここらに住んでるわけじゃあ……」


「私、ヤンキー特有のアレ発言だと思って流してたんだけど……」


 マヤとエクレアと目が合う。


「「「もしかして、ただの通りすがり……?」」」


 たぶん、っていうか完全にそうなのだろう。


「「あははははははは!!!」


 ドラッケンと市長のバカ笑いを尻目に私達はそんな真相に気がついた。

 きっと最初からしっかり話しを聞いていればこんな事にはならなかったんだと思う。

 私達は次の日、報酬を受け取ると常冬の星ギャクダ・スカルから逃げるように去っていった。

 事件の真相は私達の胸の奥に、そっとしまい込まれる事になったわけだが。


 後日談として、人柄というか竜柄があいなって街の人に受け入れられたドラッケンは街の人からほどこしを受けるようになり、食事には事かかなくなったらしく、例の事件は起きていない。

 それどころか風の噂では街のマスコットとして大活躍しているらしい。くしくも、言っていた自分の生き方も見つかったと思われる。


 もともとユクキャラみたいなフォルムで穏やかな性格だから確かに適任だと思う。

 私は最後に教訓として思う。物事はキチンと確かめ、時に自分の考えでなく客観的に物事を見なければならないという事。

 見かけと印象で中身が異なるという事をゆめゆめ忘れてはならない。


        

 

                                 Bey Bey Space Girls.

                                 See You Next Pranet!

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