雲谷より舞い降りる者、蒼穹に舞い上がる者 その3
「いや、何かキャラが違ってたんで……驚いて……」
「いいよ、マヤこんな馬鹿は相手にするだけ無駄だから」
「兄ちゃんに向かって馬鹿とはなんだ馬鹿とは!いつになったらデレっとするんだジョニーは!」
「馬鹿に馬鹿って言って何が悪いのさ馬鹿! そんな事を言うから馬鹿って言っちゃうんじゃないか馬鹿!」
ポジティブに考えれば兄ちゃんのおかげで場の空気が変わったとも言えるけど、こういう変わり方はノーサンキューだ……
「すっごい馬鹿っていう単語が飛び交ってるです……」
「……いい兄妹じゃない」
「えっと、ジョニーも落ちついて。で、どうなんですか?」
「うん、マヤのお父さんが見張りについてる。ブラニーちゃんはまだ目をさましてないけどね。二人とも戦闘機の類を召還できる物はなさそうだし、このままカイバーベルト社の船にいるらしいブレンダさんと取引になるかな? その船体の識別コードを送るよ。SIDOU-315、確認よろしく」
「はい、確認しました。距離もそろそろレーダーの圏内に入りますね」
「あらら、意外と近かったっちゃね」
「まぁ、何かの話しをしにきてたみたいだし。近くにいても当然じゃない?」
「……フェイフェイ思うんだけど、その何かってわりと重要じゃない?」
あ、そうかも。
自分で言ってなんだけど、こいつら何しに集まってたんだ?
まぁ、そのへんは向こうでマヤパパが聞いてたのかもしれないけど、あのシャオロンが相手じゃ口を割りそうにないか。
そんな、話しをしてるところでタイムリーに警報が鳴った。
「何があったっちゃ!? どうしたっちゃ!?」
「ドロシー落ちついて!マヤ、何に反応したの!」
「いや、さっきのバグが私達を襲ってきたときのためにコード登録をしてたんですけど……それです!」
するってぇと、アレかい?
ドロシー達を助けたからおはちが私達にもまわってきたと。
そうなると相手はアルミの妹さんて事になるけど。
そう思ってると案の定、通信が入った。
アルミよりも、ちょっと凛々しい目をしてるけどよく似ている顔立ち。
だるだるのシャツに、ジャージの下が基本的な格好のアルミとはことなり清楚なドレスに見を包んだ女の子。
まず、間違いなくこの子がアルミの妹だろう。
「……ダイア」
「姉さん迎えにあがりました、おとなしくこちらに来てください」
アルミと同じで人と接するのが苦手なのか、要点だけをドンというダイアちゃん。
さすがのアルミもちょっと引いてる。
「何が来いっちゃかぁ! 私達のプリクラをおしゃかにしたくせに生意気っちゃよ!」
ドロシーが手をぶるぶると振るわせる面白い動きをしながらダイアにクレームをつけてる。
ぱっ、と見た感じだけど。その手の説得に応じるような佇まいじゃないんだよな、このダイアって子。
なんか、シャオロンともブラニーとも違った感覚。
「……ダイア、私に言う事があるなら言いなさい。でも、私の大切な物を傷つけたのは許せないわ」
……この姉妹、なんか会話がかみ合ってないんだけど。
軽やかに姉妹にスルーされてるドロシーもちょっと可愛そう。
「うー! うー!」
ほらあんな涙目で、誰かかまってあげなよ。
とはいえ、この天然ぶりはこの姉妹特有というか。家族の成せる技なのだろうか、ちょっと気になる。
「目標、視覚域に入ります。それにこの通信の発信原は……その船です」
「マヤマヤ、ちょっと待つ。そしたらそのバグとかいうのも船の周りって事?」
「ジョニー、囲まれてるっちゃよ!」
言われた通り、クロックスはバグに囲まれていた。
増援はないのか最初の交戦で打ち落としたぶん数が減ってる。
でも状況はいっこうに変わらない、むしろもっと悪くなってる。なにしろバグ達の大本であるダイアが乗ってる真っ白い船が目の前にあるのだ。
ある……っていうか、正直思っていたよりも大きい。
ってか大きすぎ!
目についてからどんどん大きくなって、遠近法の意味を考えたくなるサイズに見えている。
物資貨物船三つ分くらいの大きさだぞ!? いったい何をやってるんだあの船の中で?
「わーったよ。んでも、こっちには人質二人がいるし。兄ちゃん?」
「うん、こっちの様子は変わりないよ。この船からは二人は逃げられようがないし」
戦闘機を呼ぶか、その船の脱出ポットを使うかしない限りは外は宇宙、生身で出たらまず死ぬ。
むこうが何かしようにも、相手はマヤパパ。
へたな事を考えてもまず無駄だろう。
それなのにこんなヘタを打つという事はないだろうし、そうなるといきなりプリクラを襲撃したとかいう破天荒さを考えるとダイアの独断?
にしては発信地がそのブレンダの乗る宇宙船と同じ。どういうこっちゃ?
「……シャオロン、ブラニーはそこにいますか?」
ダイアは私達に話しかけているわけじゃない。
そうなるとこの通信はHPの方にも流れてるわけか。
「通信機の類は持ってないみたいな事を言ってたけど、それならどうやって連絡をとってたのかな?」
そういえばそうだ、あのマヤパパが通信機を隠し持っているのを見逃すはずがない。
「なるほど……座標はわかりました……転送します」
何だか嫌な予感がする。
「……うわっ、どうしたんですか!? ちょっと、これは!?」
兄ちゃんの慌てた声が聞こえてくる。
そして、それに続いて。
「アプローチ……グナカルタ!」
シャオロンの声、しかもその様子は戦闘機を呼び出す!? 聞いた事のないワードだ!?
思ったそばから、兄ちゃんおHPの目の前に座標軸が広がってシャオロンの乗っているであろうグナカルタが飛び出した。
まぶしく輝く黄金ボディ!
あんな見た目じゃ的にされるだけだと思うんだけど……なんだろう、当たらなければどうという事はないという事なんだろうか……?
偉い人の考える事はよくわからん。
「アプローチ……ニルギルス!」
さらにもう一機!
「あの声はブラニー!」
再び現れる座標軸、それが広がり爆ぜる。
濃いグレーの色の機体、乗ってるのは……
「出て来い! ジョニー・ジョニー・マクレーン!!」
さっきまで気を失ってたぶん、カタパルトでさらに勢い良くトチ狂ったのかヒステリックな声をあげるブラニー。
あいつはどれだけカルシウムが足りないんだ!
「状況は完全に悪くなったっちゃ……」
「悪くなったっていうよりは、もう最悪の極みだけどね」
マヤも思わず愚痴りだす。
「シャオ! 嘘ついたな!!」
「何を言ってるのフェイ、そのゴッデス・ベーゼに間違い無くブレンダは乗ってるわ。約束は案内する。嘘はついてないじゃない」
「なるほど!」
「って、フェイフェイ! 納得してどうするです!!」
「おお、そうだったね! 悪いけどシャオ、だからって逃がしはしないんだから! 来て私の、サルバトーレ!」
「って、出てってどうするっちゃか!」
確かに火に油をそそぐようなもんだけど、かといってこのまま乗ってるのも袋にされるだけだし。ドロシーの突っ込みには悪いけど、出ない事にははじまらないか!
「マヤ、とりあえずこの空域から離れて! クロックスまでオシャカじゃこれからどうしようもないし! アンダンテ起動ぉ!」