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ワイルド・ワイルド・ガールズ  作者: 虹野サヴァ子
前編『太陽よりも激しい少女達』
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星の船は海図も持たずに その2


 常冬の星、ギャクダ・スカル。

 地球基準で比べるなら高地しかないこの星は天気予報が二つしかないらしい。

 一つは晴れ、もう一つは吹雪。


 それなりに観光地としてさかえてるらしく、スキー場とかも目立つけれど都市部からズレればすぐに自然豊かな雪の山々である。

 私達は依頼者である街の市長さんと話しをつけるととっとと仕事に出向いた。


 一面は銀世界。

 そして寒い。

 マジで寒い。


 普段の喧騒とは一線を隠した力強い自然の営みがあるけど長居はしたくないのが本音。

 こういうところに訪れると、吹雪にあって遭難とかがお約束なんだけど、そんなお約束はノーサンキューである。


「ところでジョニー、ドラゴン退治はわかったし。そのドラゴンの出るって山にきたはいいけどさ。めっちゃ広いよ。どうやって探すんのさ?」


「そうですよ、市長さんも特に場所以外はわからないみたいですし、それが一番の問題ですよ」


 あ、そういえば!

 山の自然が荒らされてるとか、ドラゴンが住み着いたせいだと思うとか細かな事情ばっかり聞いて、肝心のどうやっておびきだすかを考えていなかった。

 群れて行動をしないらしいって事は一匹しかいのだろうから、いくらドラゴンが大きくても見つけるのに無策では厳しい、どうしよう急にやる気がなくなってきた。


「あ~~~~……そうだ、エクレアの爆薬全部使って山ごとふっ飛ばしちゃおうか!」


「え~~やだよ~~~、赤字がでちゃうじゃんか!」


「いや、冗談だって」


「ジョニーが言うと冗談に聞こえません、あとエクレアも黒字だったらそれでいいやって反応はどうなの?」


 さすがマヤ、確かに半分本気だった。

 確かにめんどくさい事このうえない任務かも。

 その上寒いし。

 その直後、楽観的にかまていた私達三人に緊張が走る。


「エク、マヤ!」


「あいよぅ!」


「はい!」


 木々がざわめき、鳥達が一斉に飛び立つ。

 足にはちいさな振動が感じられる。

 山が震えている。

 寒さ特有のピンと張った空気に別の緊張感が混じり始める。


 ズゥーン……

 ズゥーン……

 ズゥーン……


 雪を踏む音にまじって下腹部に響く足音。

 大型の生物特有のソレ。


「近づいてきた!」


 エクがスカートから銃を取り出して構える。


「ジョニーさん、何か来ます!」


 マヤが静かに鋭い声を上げて、拳を構える。 

 ズゥーーーーーン……!!

 音と共に蠢く巨大な影!


「出たかっ!」


 私も剣を構えてエクレアに視線を送る。

 相手はドラゴン。

 巨大な体躯、そしてドラゴン特有の硬い皮膚には剣が通じないかもしれない。

 それでも相手を確認しない事にははじまらない。

 エクの銃の腕は信頼している、私は視線だけで自分が囮になる事をエクに伝える。

 エクは両手に銃を構えなおし黙ってうなずく。

 まずは一太刀、理想は確実の攻撃の通る目!

 私は覚悟を決めて足音に向かって走り出す。


「ふんふんふん~、ぶひぃ~! お嬢ちゃん。どうしたこんなところで迷子か? 木の皮かじるか?」


 ズコー!

 私は豪快にスッ転んだ。


「はぁ?」


 思わず声をあげる、ドラゴンは私の気持ちに気がついてくれない。

 なおも目の前のドラゴンはフランクに声をかけてくる。


「ぶひぃ~~! 大丈夫かい? 痛くないかい?」


 なんだこの軽いノリのドラゴンは……小陽気に鼻歌なんか歌ってたし……。

 私が思ってたのと違う、しかも『ぶひぃ~』とか言ってるし、コレジャナイドラゴンもいいところだ。


「これが、そのドラゴン……なんですかね?」


「た、たぶん……」


 マヤもエクレアも困惑気味、そらそうだ。


「ぶひぃ? お嬢ちゃん達が増えた。木の皮が足りないな、根っこほってあげようか?」


 ノンキなドラゴンを尻目にコソコソとエクレアとマヤが寄ってくる。


「ね、ねぇ、これがその探してたドラゴンなのかな?」


「なんていうか、私、ドラゴン見るの初めてなんでけどイメージが違うんですけど。なんかこうスマートで凛々しいイメージだったんですが、これじゃ観光地とかによくいるゆるキャラみたいな」


 確かにこのドラゴン太りすぎだ!

 メタボリックな体系はドラゴンの骨格との相乗効果によってダルマストーブみたいな体系になっている。

 ドラゴンにだってそりゃ個体差があるだろうけど、これはもうドラゴンとは言えないのじゃないか、私達の目の前にいるのは別の生き物なのではないのだろうか。


「ジョニー、とりあえずこれがドラゴンか豚なのかどうかは置いといてさ、コイツが悪さするとは思えないんだけど?」


 さりげなくエクレアが酷い事を言っている。

 でも、確かにそうだ。


「よ、よし、わかった。私がコンタクトを取ってみる」


 私達がこんな算段をしている間もドラゴンはマイペースを貫いて私達に気を使ってくれている。


「ぶひっぶひっ! まってろよ~、今おいしそうな木の根っこを掘り起こしてやるから」


「あっ、ちょっと待ってドラゴン……? 君」


 少し疑問系なのはしょうがない事。


「もうちょっと待つぶひぃ~、この木は美味しそうぶひぃ~!」


「いや、あの、木の根っこはいいから」


 とりあえず、返事をしたってことはやっぱりドラゴンで間違いないらしい。グッバイ私達のドラゴンのイメージ。


「そう? 遠慮しなくてもいいぶひぃ~」


「「「してないしてない」」」


 手と首を振りながら三人で息のあった返事をする。


「ねぇ、ジョニー。単刀直入に聞かないと話しが進まないよこのデブゴン」


「とりあえずこの豚野郎に話を聞いてみようよ」


 エクレアもマヤも困惑顔だ。

 マヤにいたってはやたら辛辣な呼び方になっている。


「よ、よし……!ねえ、聞きたい事があるんだけど……え、えーと」


「ドラッケンと呼ぶがいいぶひぃ~」


「生意気にかっこいい名前……じゃないかった。ドラッケンね。ドラッケン君、率直に聞くけど人里で悪さしてない?


「ん?」


「いやー、私達ね、自然を破壊する悪いドラゴンを退治してくれって雇われて派遣されてきたんだけど、そのドラゴンって君?」


「ちょっと待つぶひぃ~、それはひどいぶひぃ~、ぬれぎぬぶひぃ~!」


 うん、まぁ聞かなくても予想はしてたよ。


「じゃあドラッケンはやってない?」


 エクレアもやっぱりって感じで聞いてみた。


「当たり前だよ、だいたいその自然破壊てのは一体どんなモンなんだい?」


「あれ、そういやぁ……」


 エクレアが気がついて声をあげる。


「そういえばザ・ママもさっきの市長さんも具体的に何をやってるのか教えてくれませんでしたね」


「今思うと市長もなんか話しをそらしてたし、それに久しぶりにドラゴン相手ってきいて私も舞いあがってたしなぁ」


 エクレアもマヤも頭を捻る。

 私もイメージばっか先行しちゃって気にもしてなかった……。


「でも、なんかエゲツナイ事になってるみたいなのよ」


 なんか私達が悪者みたいになってきたので話しをそらす努力を始める私。


「ぶひっ、何にしても俺は人間に迷惑をかける事はいっさいやっちゃいないぶひぃ~」


 キッパリというドラッケン、その瞳に濁りは無い。


「疑うわけじゃないけどさ、ホントに何もしてないんだよね?」


 もう一度念を押して聞いてみる私。


「この誇り高き竜の心臓に誓うぶひぃ~。だいいち人里なんか襲ったらいつか逆襲されるなんて理屈は考えなくてもわかるぶひっ。俺は静かに暮らしたいぶひっ」


 そう言いきるドラッケン、本当に嘘は言ってない様子である。


「それじゃあ、この辺にあなた以外のドラゴンはいないんですか?」


 マヤの質問にドラッケンは頭を捻る。


「ぶひぃ~、この辺りは数年前から俺の縄張りぶひぃ~……それにドラゴンは普通は一匹で行動するぶひっ。ほら俺達って孤独を愛する孤高の種族ぶひぃ~~」


 自己陶酔しながら言うドラッケンにマヤが耳打ちしてきた。


「とてもじゃないけどそうは見えませんよね……」


「うん、なんか肉感タップリだし……」


「ああ!」


 声が聞こえたのかとビックリしたけどそうじゃないらしい。


「そういえばこの間ブラックドラゴンを見た気がするなぁ」


「ブラックドラゴン?」


「そうぶひっ、あいつらは気性が荒いぶひっ。最初は縄張り荒らしかと思ったんだけど、特に因縁をつけてくる様子もなかったから方っておいたぶひぃ、今にして考えるとあいつがひょっとしてぶひぃ」


「真犯人?」


「きっとそうぶひぃ~~~!」


「常冬の星ですからね……食料に事欠いてこの辺の緑豊かな土地に目をつけてやって来たとか……」


「あー、普通に喧嘩売るんじゃなくて濡れ衣をきせて私達に倒させるためにって事?」


 マヤとエクレアの推理は確かに的をえている。


「う~ん、だいたいの話はわかったよ。じゃあそうだね。っていうかさ言葉が通じるなら一緒に街の人達と話あってみなよ」


 私の提案にドラッケンは困った顔をする。


「いや、でも俺ドラゴンぶひぃ~。マンガやアニメじゃないから人の姿になれるわけじゃないしぶひぃ~」


「でも、このままでも困っちゃうじゃん」


「勇気を出してください」


「ぶひぃ……」


「大丈夫、私達がなんとかしてあげるから!」


「ぶ、ぶひぃ。じゃあ……」


 ところで私は寒いのが好きではない。

 寒いというのが単純に苦手。

 加えてこういう雪山のでの私の戦闘能力はとても低くなってしまう。

 なぜかといえば私の武器はアースウィンド・アンド・ファイヤという炎と風をまとって戦う剣。

 そんなものを、しかも手加減が苦手な私が雪山で振り回して戦ったらたちまち雪崩が起きてしまう。

 特殊技術もほとんどは炎、お情け程度で多少の治療技術が使えるくらい。

 つまり大雑把に戦う事ができないと私の戦闘力はとても低くなってしまうのだ。


「ぶひぃ~~~~!!ぶっひぃ~~~~~!!!」


 さて、そんな私の足元にはさるぐつわをして簀巻きにしたドラッケンが転がっているわけなのだが。


「ジョニー、エクレア……私はやっぱりちょっと可愛そうな気がします……」


 マヤがそんな事を言ってるけど私は気にしてない、もちろんエクレアも気にしてない。


「かくかくしかじかまるまるさんかく……ってなわけで、そんな世迷言をいってましたけど、とりあえず安心させたところで不意打ちかまして気絶させて、身動きできないようにがんじがらめに縛り上げてきたんですよ」


「あ、ちなみに後ろ向いた瞬間に私がバズーカ砲の弾の入ってる部分でおもっきり後頭部をひっぱたいたんんで雪崩とかの災害の心配はありませんよ」


 そういってエクレアがスカートからモゾリと取り出したバズーカ砲の後半分をポンポンと叩く。弾をいれるために大きく作られたその部分はまるで漫画のハンマーみたいな大きさをほこっている。

 その様子を見て街の人たちのヒソヒソ声が聞こえてくる。


「最初に見たときはこんな女の子で大丈夫かと思ったが……これはやりすぎじゃないのか……」


「あんな可愛い顔して……悪魔のような……」


「いいのかな~……話しを聞く分には確かにあんなお饅頭みたいなのが悪さするとはとても……それなのに……」


 なんだか、せっかく捕まえたのに非難轟々のような気がする。

 こんな饅頭みたいなドラゴンでもドラゴン、まともに戦うと本当にブレスや硬い肌はやっかいそのものなのに。


「話しは通っていますが、この中にブラックドラゴンを見た者はおりませんし」


 さすが市長、話しがわかる。

 私としてはとっとと仕事を終わらせてこの星から帰りたいし、これで解決って事にしておくれ。


「そうだ、見かけにだまされちゃ駄目だ」


「そうだ、誰も見てないんだデタラメに決まってる!」


「こいつがやったに違いない、見ろよくみりゃ凶悪な肉感じゃないか!!」


 世論の声が私の追い風になってくれている、攻めるは今!


「市長も同意ですかッ!!」


 勢い良く迫る私に市長が後づさる。


「う、うむ……」


「ぶぶぶぶっひぃ~~~~~~!!!」


 鬼の早さの反応でドラッケンが悲鳴を上げる。でも残念ながら私には聞こえない。

 エクレアは目をつむって手を合わせ「オタッシャデー」といっている。


「というわけでドラッケン君、世論調査の結果このままシバキ倒す事になっちゃったから。まぁ長い竜生の間にはこういう事もあるってことでどうか諦めておくれ。大丈夫、私は炎系の技には自身があるから上手に焼いて、こんがり肉として美味しく再開させてあげるから」


 そういって私は剣を抜くと気合を炎に変えて剣に込める。

 ゴッ!という景気の良い音と共に私の剣が炎につつまれる。


「じょ、ジョニー……いくらなんでも最強技を使うのは可愛そうですよ、それに本当にブラックドラゴンがいるかどうかくらいは確かめてあげても……」


 マヤがそんな事を言っている、弱気なヤツだ。

 ドラッケンもングング言いながらうなずいている。ええい、めんどくさい。自分が悪いんだと自己催眠をかけてしまう勢いでふっ飛ばそうと思ってたのに。

 まぁ、いいやメンドイから気かなかった事にしよう。


「行くぞ、必殺!ジョニーーーーー!!ロジャ……」


「ねぇ、ジョニー」


 エクレアに肩をがしっっとつかまれて私は豪快にスッ転ぶ。


「な、何するのさエクレア! せっかくの見せ場を!」


「いやさ、さっきから空に変な鳥が飛んでるんだよ、あれっていわゆる幸せを運ぶ鳥ってやつ? 食える?」


 そういってエクレアは空を指差す。

 街の人も一斉に上を向く。


「え? どれ? え~と……どこ?」


「ほらほら、あそこ。あそこ飛んでる黒いやつ」


「あ、あれね。黒じゃん、幸せを運ぶのは青だよ。それにしてもさすが銃使ってるせいで目はいいわね、このゴルゴ女は」


「もっと褒めてくれてもいいんだよ」


「っていうか、ジョニー。アレは鳥じゃないですよ!」


「あ、あれってもしかして!!」


 あんぎゃ~。

 ブラックドラゴンの方向が風にのって聞こえてくる。

 と、同時に周囲の人達もざわめきたつ。


「ブラックドラゴンだ!」


「本当にいたんだ!」


「と、いう事は!」


 ドラッケンは目に涙を浮かべてうなずいている。


「どうします市長! アレは見なかった事にしますか!!?」


 もう一度ズィっと市長に迫る私。


「い、いや。そういう事ならば放してあげないと駄目でしょう……」


 市長の言葉の後に街の人達がドラッケンの縄をほどいてあげるのだった。

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