宇宙の地平線 その1
過去がある
思い出がある
思い出せば心が踊るもの
思い出しくない辛い思い
過去は人を前進させる時もあり
過去は人の道を踏み外させる
この諸刃の剣はそれでも人の大切なもの
だが
それは決して一番大切であってはいけない
「おなかいっぱ~~~~い!!」
出前のピザの四枚目を食べて私はとうとう満腹になった。
やー、食べた食べた、ビッグサイズは食べごたえがあるよね。
「ジョニーは食べ過ぎ、よくそんな食べられますね。……ところでこの間からエクレアはこの前からどっか体調が悪いんですか?」
同じタイミングで食べ始めたのに普通サイズをやっと半分を食べきったマヤが心配そうにエクレアの顔を覗きこむ。
「あ、うん? なんでもない。ごちそうさまでした、後は二人で食べなよ」
「エクレア?」
あれ、私もなんかちょっと心配だ、エクレアが残すなんて。
食べた量も私と同じくらいだし、エクレアにしては小食だよなぁ?
「どうしたんですエクレア?」
「ん~、最近どうにもアンニュイなのよ。たまにあんな感じでイノセントな感じになってる」
「そうなんですか? あの例の家族の話ですかね?」
「記憶を失うっていうのは私達にはわかんない辛さだからね」
「うーん、気にはなるけど……あんまり立ち入ってもですかねぇ?」
私とマヤがそんな心配をしていると通信が入った。
「HI、レディ達! 初の指名任務おめでとYO!」
この人はいろんな意味で雰囲気をぶち壊してくれる人だ。
「「こんにちはザ・ママ」」
「HEY! HEY! 緑の人気者は今日はどうしたの?」
その割に妙に目ざとく、面倒見がいいのもザ・ママの特徴だ。
とはいえ、私達もよくわからないので言いようがない。
「ちょっと前に出ていって、すぐ帰ってくるんじゃないですかね?」
「そう? まぁ、仲良くやってるならよきかな」
「喧嘩はしてないんで大丈夫ッス」
「それなら今回の大仕事も頑張ってもらっちゃおうかな、今回の舞台は星を離れて宙域をまるごとよ」
お、今度の話しも大きそうだ。
「ちょっと待って、エクレアを呼びますから」
エクレアの自室に通電するマヤ、まもなくエクレアが帰ってきた。
う~ん、見た目もそんな変わった様子もないんだけど……でもいつもとなんか違うんだよなぁ?
「んで、今回のはどんな仕事なの?」
エクレアの言葉に続いてザ・ママの舞台装置がウィーンと動く。
毎度毎度よく考えるっていうか手間をかけるな。
そう思っているとヒュ~~~ドロドロドロという無気味な音が聞こえる。
あれ、いつものラップじゃないぞ?なんだこれ?
「今度の~仕事は~異常宙域の~調査~♪
話しを~聞けば~幽霊の~噂~♪
兵器工場の跡~死んだ兵士の怨念か~♪
ジャミング~レーダー無反応~♪
Ah~♪
何があったのか~♪何がいるのか~♪
それがあなた達の仕事~♪それじゃあね」
「「や、ちょっと全然要領が掴めないよ!」」
私とマヤも抗議に近い一言をあげる。そんな中、一人だけ声をあげる余裕がなく頭をかかえて隅っこでうずくまっている子が一人。
「はわわわ……兵士の怨念……幽霊機体……はわあわわわ……」
「いや、エクレア。どう考えてもザ・ママの冗談だから」
「とりあえずどうします? なんか悪意というか腑に落ちないというか、そんな感じもするような。ただの簡単そうな仕事のようにも思えるような?」
「はわわわわ……」
「う~~ん、マヤの言う通りだなぁ。あ、今メールで詳しい詳細が来た。アダナークコロニーの周囲宙域ですね」
「大きな仕事なんだか小さな仕事なんだか?とりあえず戦闘機は出すようですね」
「はわわわわ……」
「この前は無傷だったからいいけど、戦闘機は何かあると大変だからね?」
「まぁ、戦闘にはならないでしょうけど?」
「はわわわわ……」
「おばけだしねぇ?」
「まぁ、ここでごちゃごちゃ言ってもはじまらないし」
「はわわわわ……」
「あんの若作り~~!!」
「ヘボラッパ~~!!」
「おっかね~よ~……」
それぞれが思い思いの表現でザ・ママの悪口を言いまくる。
確かにそんなに遠くないポイントで、アダナークコロニーの住民課の人ともスムーズに連絡がとれはしたよ。
でも、当のポイントは素敵なまでのサルガッソーっぷり。
ちなみにサルガッソーってのは船の墓場って意味で昔は使われてたらしいんだけど、今は宇宙に漂う文明廃棄物の群体を指している。
イメージ的には夜のお墓みたいなもん、いくらザ・ママの作り話とはいえここが兵器工場だったのは間違いないみたいだし、さすがの私もちょっと恐い。
でも、それよりも何よりも廃棄物が多すぎて船体に傷がつくんじゃないかとドギマギ、私とマヤが文句タラタラなのはそのせい。
まぁ、エクレアは普通に脅えてるけど……
「エクレアのボナペティエで廃棄物を爆破してもらいとこですけど、本人がコレですからねぇ……ジョニーのアンダンテで掃除できませんか?」
「こんなの一つ一つ斬るのは無理だよ、サブマニピュレーターで邪魔なものはどかしながら進むしかないんじゃない?」
そういって私はクロックスの機能の一つである機械腕を伸ばして邪魔な廃棄物をどかしていく。
と、いったものの細かな微調整が必要なこのサブマニピュレーターの作業、私は苦手で自分でもなんだけどかえって危なっかしい、とはいえマヤと運転をかわったら、それこそ船体にぶつけまくりだろうし……。
「うぎゃーーーー、おばけーーーーー!!」
「「ぴゃう!?」」
突然あがった大声に私とマヤが肩をすくませて震え上がる。
「ど、どうしたのエクレア、大きな声出して?」
突然の事に同様しながらも大きな操縦の乱れもなくマヤが振返る、私もエクレアの顔を覗き込むと涙目で歯をカタカタとふるわせながら窓の外を指差すエクレア。
「あれ、あれ、あれれれれれ!」
「ん?」
「なんですか?」
私もマヤもわかってたはずなのに特に警戒する事もなく窓の外を見るとそこには!