未来に輝け黒歴史 その3
ドラゴンの仲でもオロチの類は喋ることが出来ない種類である。
ヤマタノオロチは名前の通り首が八本ある、ちなみにドラゴンの首がわかれていればオロチ種として識別されるので有名なキングギドラもオロチ種というわけだ。
ドラゴン種なので口から炎のブレス攻撃をしてくる、オロチ種は首が数本もあるのでやっかい極まりない。
おまけにヤマタノオロチはその多い首を切り落としてもすぐまた生えてくるという器用な芸当ができる種族なのだが、その大きな胴体には再生能力がないというごくろうさんなドラゴンである。
もちろん炎を吐くだけあって、暖かい場所を好む
で、今私達は溶岩がボコボコと湧き上がる洞窟をトコトコと歩いている。
暑い……というより熱い!!
「しっかし……これじゃ本番の戦いよりも、探し出す方でヘバっちゃうよ」
「私はあんまその本番も期待してないしー」
私の前を歩くエクレアとマヤがぐちをこぼしつつ、汗をふきふき。
ドラゴン不信のマヤなんかは気持ちすら入っていない様子だ。
あたりの熱気と蒸気で視界もすこぶる悪い、家の大きさもあるヤマタノオロチの身体を見失うってことはないだろうけど、足場も悪いしこれはその本番になったらやっかいな状態だなぁ。
「ねぇ、ジョニーさ! 孤高の勇者王が先にヤマタノオロチを倒しちゃったらどうなるのかな?」
「あ、そういやそうですね」
あ、そうか。依頼の内容はサノオさんを助けるってもんだよな。
「どうなるんだろ、そうなるととりあえずサノオさんと合流しないといけないかな」
「あのガキはどこにいったんだろうね?」
「この洞窟にいるのは間違いないんだからそのうち会えるんじゃないですか?」
「いや、ヤマタノオロチの姿はともかくサノオさんはこの蒸気の中じゃわからないよ」
「いっそ私達がやっつけちゃえばいいじゃないですか?」
「内容から察するにそうするのも問題なんだよねぇ……」
なんだか冷静に話し合ってみると激しくやっかいな仕事だなぁ。
ズゥーーー……ン……。
「ジョニー!!」
音と地響き、エクレアの声に反応してヤツがいるほうに走り出す。
「どうせまたファンキーな変なのですよ……」
マヤの顔にシャガッと影がかかって邪悪な表情を見せた。
っと、さして走りもしなかったがその道中にうずくまる一人の影。
「どうしました!?」
うずくまっていたのは他でもないサノオさん。
「どこか怪我をしたのか!」
「大丈夫か!?」
マヤとエクレアがサノオさんを心配そうに覗きこむ。
「フッ……無様なところをみせちまったな……」
サノオさんはそう言うと足をおさえながらよろよろと立ちあがった。
「ちょっ……大丈夫なんですか!」
私達を前に出さないように歩き出すサノオさん。
「なぁに……転んだ拍子のかすり……傷さ……」
渋い……渋すぎる。
「サノオ……」
こういうの好きなエクレアなんかトキメキはぐってる、ズルイ!私だって!
「傷を見せて、私の剣の力を使えば多少の治療ならできますから! ヨルスク・フイカ!」
私のアースウインド・アンド・ファイアのは常に力を抑えている、一つは人の怪我を治すこの能力。基本的に炎と風を出しつづけるこの剣、精神力で押さえる事でこの二つの力を抑えている。
でも年がら年中そんな胃が痛くなるような事はしてられないために、やっぱり特殊な鞘に収めている。
リンプビズキットと名づけたこの鞘はさっきの私の一言で盾へと姿を変える、盾としてだけではなく炎と風を抑える力をちょっとした怪我を治す力にする事ができる。
どういう原理かは自分でもよくわからないが、本来の力じゃないのか剣の炎と風を操作するよりもよっぽど体力を使う。
しかし、背に腹は変えられない。
「足ですか、足のどこのあたり?」
サノオさんはしばし、私の瞳をじっと覗きこむ。
「吸い込まれるような綺麗な青い瞳だ……すまぬ、それでは右足の膝と右肩を頼む」
「わかったよ!」
私は刺激しないようにサノオさんの傷の具合を確かめながら盾を近づける。
「どう、ジョニー?」
「ジョニーさん、どうなんですか?」
私の背中越しにエクレアとマヤが覗きこむ。
「ねぇ、サノオさん……」
「……何だ?」
冷や汗にまみれた青い顔を、私に向けるサノオさん。じっと瞳を覗きこむ。
「ほんんっとーーーーーにかすり傷じゃん!!」
思わず大声をあげてしまった。
「だから言っただろう、転んだかすり傷だと」
「いや、だったら渋い声と表情と思わせぶりな表情で大げさに痛がらないでよ! てっきり大怪我してるのだとばかっし思ってこっちは!」
ただでなくても華奢な体だから不安になるんだよ。こっちは、一応は依頼として受けてるんだから。
「俺は嘘はつかないさ……嘘は心を曇らせる」
何いってんだコイツ?
「ほんとだ……ズボンがちょっと破れてひざから血が出てる……」
「ジョニー、ほらさ。治してやんなよ」
ここまでやって「やっぱヤです!」私も言うきはないけどさ、でもなんか腑に落ちない。
しゃぁねぇやるか……。
「ぜーぜー……はーはー……」
「辛そうだねジョニー」
「回復は体力を使うっていってましたものね」
いや、それならもう少しいたわってよ。
それから一応、私達はサノオさんと一緒に行動をしてるんだけど、サノオさんはやれ「封印された力が疼く」とか「闇の波動が」とか休憩と回復しつづけている。
まだ十回はいってないけど、くたびれたものはくたびれた。
「だから子供は嫌いなんだ……ほら、手をかしてやる」
「……うるせえジジイ」
聞こえないように小声でつぶやく。
「本当に孤高の勇者王と呼ばれていたんですか?」
エクレアのこういう聞きにくい事をストレートにいってくれるのは私は凄く好きよ。
「ああ……昔の話さ……」
「ほんと、そうみたいですね……」
ズゥーーー……ン……
「奴の気配を感じる……」
ここまでくるとうざったいなこの爺さん。
「やっと追い詰めたぞこの野郎!」
私はめんどくさくなってサノオさんをおんぶすると音の方向に走り出す。
「ジョニー、凄い気合だね!」
「気持ちはわからないでもないですよ……」
ありがとうマヤ。
「いたよジョニー、あそこだ!」
白い煙の先にうごめく巨大な影、こいつは大物だ。
「サノオさん行きますよ! ってあれ?」
サノオさんを背中から下ろすとサノオさんはぺたりと座り込んでしまった。
「今度はどこがいたいんですか……?」
マヤも諦めたような顔でサノオさんを覗きこむ、この子はこういう仕事も向いてそうね。
「なに、腰を抜かしただけさ」
「置いてきましょう!」
前言撤回。
「ありゃりゃ、これはデカイや」
サノオさんはとりあえず無視してオロチの前まできたものの大きいなこりゃ。
二階建ての家くらいかなとおもってたけどその倍はある大きさだ、体が弱点っていわれてもこれは骨が折れそうな相手だな。