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ワイルド・ワイルド・ガールズ  作者: 虹野サヴァ子
後編『月よりも優しい少女達』
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新しい朝が来た! その1


 なんだろう……わけがわからない。

 頭が痛くて、それが気持ち良いような。

 眠くて眠くて仕方ないのに、ぜんぜん寝れないような。


 こういう時って言葉は不便だと思う。

 だって、こんなにわけがわからないのに不思議としか言いようがないんだもん。


 夢を見てるときに夢だってわかれば、ちょっとおかしな事をしてみようと考えるけど、これは現実私に起きている夢みたいな感覚。


 似てるようで全く違う意味。

 何も見えないけど全部見えてるような、私の目には何もうつっていないし。


 ただ暗いだけなんだけど凄くまぶしく感じる。

 そこで、ふと思った。

 これが死ぬって事なのかなと。


 びちゃり!


 そんなアカデミックな事を考えていると私の顔に水がかけられた。


「ぷおっ!」


 私は冷たさに驚いて身体を不意にガバッと起こす。


「ぎゃああああ!」


 と、同時に全身に激痛が走り身もだえする。

 思えばシドウにボコボコに殴られて全身打撲なんだからそらそうなんだけど。


 あれ、私って死んだのに何で痛いんだ?

 そう思いながら不意に当りを見まわせば、荒れた大地の荒野。

 赤い土と、風吹けば埃立つ地表。

 気づけばジリジリとした日差しと、その太陽に向かってたくましく伸びる草。


 サボテンみたいな気に、野生の馬っぽいのが駆けまわっている。

 余計にわけがわからないでいたのだけど、水をかけられたという事実を受け止めて、私を被う逆光で顔が確認できない人影を見る。


「なんだ、行き倒れにしては元気だな」


 少しやりあがった頭のオッサンが、どこか残念そうでどこか安心したような顔でそういってくる。

 その顔は……


「どうしましたジョンさん……なっ!! ジョニー・ジョニー・マクレーン!?」


 いきなりさっきまで聞いてた声が私の耳に入ってくる。

 信じられない事と戸惑いながら、痛みの残る身体に鞭うって振り向けば、ジーンズにシャツにテンガロンハットのカウガール姿のブラニーがいた。


 どうして西部のコスプレをしてるんだろうとか、そんな事を最初に思うあたり私も気が動転してるんだろう。


「えっ、確かに見ない格好だけど?えっ、え~~~~っ!?」


 わけのわからないままに、突如現れたブラニーモドキの発言に絶叫の声をあげるオッサン、何がどうなっているやら……


「えっと、ブラニ……ブラウニー?」


 私はよくわからないままにブラニーモドキに声をかけると、カウガール姿のブラウニーは「ハァ」とため息だけついて私の肩に手を置く。


「痛っ!」


「ああ、ごめん。しかし、どうしたんだこんな怪我して? ……まさか、結局あのオデッセイが機動したとか!?」


 正直、今はちょっと触られるだけで身体中が痛いから肩に触られただけで悲鳴をあげる。

 ブラニーモドキも慌ててるようだけど、今の話を聞くだけでもこのブラニーがモドキじゃなくて本人だってわかる気がする。


「本当にあのオデッセイの四角の部屋をニルギルスで抑えたブラウニー? それならそれで何やってんの、そもそもここはどこなの?」


「そんな事よりもオデッセイの機動は止められたの!?」


 私が質問を投げかけると、私の質問に答える事なくもう一度自分の質問をぶつけるブラウニー?


「わからんよ! 最後の手応えでは大丈夫だと思うけど、それが確認できる前にこんな状態になってたんだから!」


 思わず私も言葉が強くなる。

 そこでふと思った。


「あーそうかー、ブラウニーいるって事はやっぱり駄目だったんだ。うわ~私、死んだ~」


 そうだ、このブラニーがブラニー本人ならやっぱりここは天国じゃないか。

 なんだかパッとしない散りざまだったなぁ……


「勝手に私を殺すな! それにブラウニーと呼ぶな、そう呼んでいいのは母さんだけだ」


 うん、これは間違い無くブラニーだ。

 しかし、私が生きてるっていうのも信じられないが……

 思ってブラニーは目を閉じて何かを考えた。


「ジョニー、オデッセイの話しを聞いて何か不思議に思わなかった?」


「ん、どういう事?」


「自分以外の時間を巻き戻す。でも、そうなるとその人自身のもともとはどこへ行くのか?」


 なんだか日本語がおかしな気がするが、それでもブラニーが何をいってるかわからない。


「ジョニーが三年過去に戻るとしたら、その人以外を三年戻すわけだから自分は三年分は歳をとっているけど、その三年前のジョニーは?」


「え、いるんじゃないの? 三年前の私も?」


「いいえ、ぽっかりと空白があったようにその人の存在がなくなった世界に行く事になるのよ。これはタイムマシンの最大の壁でいう、同じ自分への接触。粒子力学でいう対消滅というものでもあるんですけどね」


 深い意味はよくわからんが、なんとなく言いたい事はわかった気がする。


「そしていわゆる自分が過去に戻る一般的なタイムマシン、これも実は超ひも理論で説明できる、つまり過去に戻って歴史を変えるという事はその世界ではないという事だから」


 こっちはいきなり西部の世界に連れてこられて、そんな小難しい数学の話しをされても困るだけなんだけど……


「例えばサイコロを振って1が出るでしょ? そうなると理屈では他にも2~6が出た世界があってしかりという事なのよ。それが別の世界というわけ。もう宇宙規模を超える発想になっちゃうんだけど」


 そこまで言われてピンと来た。

 つまりは、ブラニーは……


「つまり、ここはもともと私がいた世界じゃなくて別の世界だって事!?」


 話し半分で聞いて、自分でも随分飛躍した捉え方かなと思ったけど、ブラニーはふかぶかと頭をさげた。


「なんてこった……わけがわからん……タイムマシンだと思ったら別世界旅行機だったのか……マイレージは溜まるのか……?」


「タイムマシンとして作って、結果としてそうなった。例えばあなた達が家族円満に暮らしている世界になるかもしれないし、私が生まれていない世界。そもそもこんな技術がない世界もあるかもしれない。そう、目先の目的ばかりみていたら結果が変わっていたという事よ」


 そう言ってブラニーはフッと笑った。


「とはいえ、やっぱり考え方しだいなのかしらね? 余計な事を考えず、ただ真っ直ぐに目的を見据えたご褒美というか。あなたの事はやっぱり嫌いだけど、そこだけは大したもんだと思うよ。とりあえず目的は達成したわけだから」


 そう言うとブラニーはプイと後ろを向いた。

 目が会うのは私とオッサン。

 そう、一目見たときから思っていたんだ、このオッサン!


「ジョニー……お前があのジョニーなのか……?」


「もしかして……もしかして……やっぱり……お父さん?」


 ブラニーが呼んでいたジョンさん。

 そして、写真で見た顔からあまり歳をくってないからおかしいと思っていたけど。


 これが、私の!


「赤ん坊から、これは随分と大きくなったな」


「お父さんは逆にほとんど歳をとってないじゃん」


 なんだか、今になって理解できた。

 やっぱり言葉って不便だ、わかったとしかいいようがない。

 でも、確信がある。

 やっと会えた。


 ずっと。

 ずっとずっと。

 ずっとずっとずっと目標にしてきた父さんとの再会。


「あ、ああ。こっちではあの事故から四年しかたってないんだ。こっちでも父さんは相変わらず警察だ」


「わ、私はお父さんを探してそういう職について……あ、兄ちゃんはお父さんと同じ警察になったよ、姉ちゃんはよくわかんないけど、とにかく元気でやってるよ! それに、面白い友達も沢山いるんだ、一番の友達はエクレ」


 言おうとしてエクレアの顔が強烈にフラッシュバックする。

「そうか、よかった……俺も母さんもそれが気がかりだったんだ」


「私、あれ? 私……」


 そういった時点で父さんの顔が薄くなっていく。

 今までの疲れがどっとでたのか、眠くなってきた。

 そんな、まだまだ話したい事があるのに!


「私も母さんもこっちで元気でやってます、安心してください。あ、そうそうあの子がエクレアによろしくと言ってました。エクレアの本当の名前は……いや、やめときます。こっちのもといたのジョンさんと母さんはうまくいってますからあなたのお父さんに手を出す事はないで……」


「ジョニー、いつか母さんにも会いに来い。お前なら必……」



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