悲しみよりもぬくもりを その4
「はああああああ!!」
「うおおおおおお!!」
再び凍りの翼と炎の翼が舞いあがる。
もう、言葉なんていらないかった。
「あれ……また動いた」
エクレアの言葉なんて気にならない。
もう、ここまできたら止められない。
お互い相手がどうなろうとしったこっちゃない!
「スゥノォォーーーーーークィーーーーーーーン!!!」
「ジョニィィーーーーーーロジャアーーーーーー!!!」
どっちの必殺技も平たく言えば体当たり。
その衝撃は逃げ場を失う事無く私達の身体に跳ねかえってくる!
ドッゴォォォォォォォン!!!
「キャーーーーーーーーー!!!」
「ギニャアーーーーーーー!!!」
豪快に対照線を描いて吹き飛び、転がりぶっ倒れる私とブラニー。
「ジョニー!」
「ブラウニー!」
私を呼ぶエクレアの声。
そしてもう一人の声。
その声はもちろん……
「母さん!」
私よりもボロボロになったくせしてブレンダは車椅子から立ちあがりブラニーに駆け寄ろうとする。
でも、ずっと座っているだけだったブレンダにそんな運動はできなかったらしく数歩すすんだだけで地面に転がる。
「母さん!」
私はまだ立ちあがれないってのに、ブラニーは痛みも疲れも忘れたのか。
地面に倒れたブレンダに駆けよって抱き起こす。
「母さん……母さんが立った……喋った……」
喋るという事もまだおぼつかないブレンダ。
それでも必死にその唇を動かす。
「ごめんねブラウニー……私あなたの声はずっと聞こえてたのに……どうしても勇気が出せなかった」
そう言ってブレンダはやっと身体を起こした私の方を見た。
「あなたがジョニーちゃんね、ふふっ。あなたの声も聞こえてたのよ。あの人に似て大雑把そうな性格」
「あ、ど、どうも」
こんな時にどういっていいかわからず。
こっちは知らないけど、向こうはこっちをしってるっていうおばちゃんに声をかけられたようなリアクション。
ブレンダはまだそんな歳ではないだろうけど。
「ブラウニー、あなたはジョニーちゃんを憎んじゃ駄目。だってあなたはちゃんとお父さんにも祝福されて生まれたんだから」
「え……?」
思わずブラニーが言葉を漏らす。
ところでさっきからブラニーじゃなくてブラウニーってブレンダが呼んでるのは何故だろう?
「どこから話したらいいのかわからないけど……あなたは私のお腹を痛めた子じゃないけど……でも、確かにあなたは私の子よ」
状況が掴めないけど……とりあえずタイムマシンを止めないと!
「感動の再会はいいんだけど、作った人ならこれをどうにかできない?このタイムマシン! このままじゃいろいろと大変!」
私の言葉にブレンダはハッと息を飲む。
「タイムマシン……もしかしてオデッセイの事? ……ここはもしかしてオデッセイの!」
状況がわからないのブレンダも同じだったみたいだ。
「そうそう、まさにソレ。なんとかならないのコレ」
さすがのエクレアも焦りがみえはじめている。
まぁ、タイムマシンというよりも宇宙やり直し装置だからなぁ。
「そうはいわれても……何かマニュアルみたいなのさえあれば」
言われてブラニーはマニュアルみたいなものを差し出す。
よし、こういう時はやくに立つ。
「凄い……理論を証明して……こうも完璧に構築してる」
ブラニーに身体を抱き起こされながら、床のパネルを開いてオデッセイをいじりはじめるブレンダ。
「このオデッセイは……グラントの頼みで作り始めて。でも、酷い……こんな無茶苦茶な……何で誰も止めなかったの?」
「あれ……このタイムマシンを使って私のお父さんとお母さんが出会う前の時代に戻るのが目的だったんじゃ?」
「いえ、私の目的にオデッセイはないわ。確かにこれを使ってって事は最初に考えたし、それが目的だった事もあったけ……グラントに……あなたを見せられて考えが変わったの」
何か……話しが見えないんだけど……?
私が聞いたのはブレンダがそういう目的の下にオデッセイを作ってシドウがそれにのっかってるとしか。
というか私のブレンダにもってた印象はとんでもないサイコ女で話しなんて通用しない人なんだとばかり。
「ごめんねブラウニー、確かに私はあなたを不順な動機で産んだわ。あの人の代わりになる存在。あの人の生まれる新しい子供に嫉妬しての感情から。でも、オデッセイ機動のあの日、あなたを一目見ようと来てくれたジョンとジェニーを見て思ったわ。あなたを見て怪訝にも思わず抱きしめるジョンとジェニー、この人達にはかなわないんだって。嫉妬の塊みたいな私が入り込む余地もないんだって。そんな愛なんて言葉でなんてかすんでしまう光の中で、ブラニーあなたを見て感じたの。私にもそんな掛け値無しの感情があると。子供を嫌う親なんて……道具にしか思わない親なんていないわ」
タイムマシンをいじくりまわしながら語るブレンダ、そして話しはその日にさしかかる。
「あの日、だからグラントにもそれをあげたくて。でも……機動は失敗。ジョンとジェニーは光りの中に消えてしまって……グラントの夢も……だから私は……私だけが幸せになるなんてできないって……でも、ブラウニーも巻き込む事もなかったのよね……そんな事は最初から気づいていたはずなのに……でも、ジョニーちゃんの事を思うと……」
話しを聞いて思った。
このブレンダもなんだかんだで被害者なんだ。
そして話しを聞いて思う事がもう一つ。
「……なんだか話しを察すると……どっちかというと私がブラニーを巻き込んでた……?」
なんだか不可効力ながら私のせいでブラニーが苦労したような……
いやいや、んでも私だって苦労したんだ。
とはいえブレンダの話しを聞く感じだと、この人もそんなに悪くいし。
すれ違いの果てにこんな事になったとしか……
なんだか沈黙がおとずれる。
白い床にうつぶして機材をいじくりまわすブレンダ、そのブレンダが拳を地面に叩きつける事によってその沈黙は破られた。
「駄目だわ、どんなに押さえ込んでもこの粒子の発散を押さえる事ができない!」
うわっ、するってえともう駄目じゃないか!
時間が巻き戻っちゃうのか、どういう感じになるんだか……
「あれ、思ったんだけど。この段階で時間の巻き戻りが起きたら。上のシドウとかは戻っちゃって発動できないんじゃない?」
あ、エクレアが変な事に気がついた。
んでも、確かにそうだなにげに重要な事だよなぁ?
「それは内側から粒子の網で電気信号の伝達を押さえるから。一番最初のここではその必要がないからその機能がないのよ」
なんだかよくわからんが、この一番下のコンニャク部分にはその機能がないのか……
半ば諦めた所でブラニーが外へ駆けだした。
「ジョニー、エクレア。あなた達も外へ!」
「「あえ?」」
その、のっぴきならない様子に思わず私とエクレアも外に出る。
「二人とも、アンダンテとボナペティエには乗った!?」
なんだか勢い良く言われてなんだか私達も緊張する。
「「は、はい!」」
「だったら離れていて! オブセッションシステム!」
離れた矢先、オデンの四角部分を包むようにニルギルスが羽を広げる。
羽が真横に伸びているさまはまるで羽をもがれた蝶のようだ。
「一体何をするのブラニー?」
「電気信号の発散がこのニルギルスのオブセッションシステムの能力、だったらそれを逆流すれば時間の逆流も押さえられるはず」
そんな単純な問題なんだろうか……?
ともかくここはブラニーにまかせるしかなさそうだけど……
「あ、あんま無茶は駄目だよ!」
エクレアも思わず口にするけど、発想事態が思いきり無茶だからな……
「いや、無茶よ。小規模な粒子崩壊が起きるはずだから。きっとこの空間はなくなるわ」
さらりととんでもない事を口にするブレンダ、それって駄目じゃん!
「いいえ、元よりこのオデッセイはそういう発想の下に作られてるの。それを無理やりやるんだから無事じゃすまないでしょうけど……でも、それはあなたのお父さんんとお母さんにした事と同じ、私はいいけどブラニーあなたは……」
「母さん、私はあなたに名前を呼んでもらえるように切磋琢磨してきました。正直な話、この宇宙なんてどうでもいいですけど。お母さんがまた失敗して寝てしまわれたら困ります」
「……困った子」
「……根ぼすけの母さんよりは」
ちょっと……ちょっと……この前のツヴァイとドライの姉妹じゃあるまいし。なんだこの展開。
「ジョニー、もっと別な形で出会えていたら私とあなたは友達に……」
ちょっと、なんだその死亡フラグは!
よせブラニー!
「なーんて言うわけないでしょう。やっぱりあなたとは馬が合いそうにありませんし」
ズコッ!
高飛車に言うブラニーに私は思わずずっこける
「私だってあんたが大嫌いだ」
「それで結構、あなたと馴れ合う気なんてサラサラありませんから」
私とブラニーのやり取りを聞いてブレンダがクスクスと笑い出す。
「ふふっ、やっぱりあの人の子ね。きっとその名前も二人の名前をくっつけたとかそういう由来なんでしょう?」
「あ、うん。そうらしいよ私もさっき初めてきいたけど」
「あの二人らしいわ! ジョニーなんて女の子の名前じゃないものね。私もできる事ならあなたともっとゆっくり話がしたかったけど」
そこまで話した時点でふと、気になっていた事を聞いてみる。
「そういえばなんでブラニーの事をブラウニーっていうの?」
「あ、それは私も気になってたんだ、ジョニーの名前をもじられてブラニーっていうだって言ってたような」
そう、私達はそう聞いている。
あくまで私の当て馬にされていた存在のブラニー。だからだと。
当のブラニーも知らない話を黙って聞いている。
そしてブレンダが漏らした。
「違うわ、あなたはジョニーの名前をもじったわけなんかじゃない。私の子供、私の可愛い妖精それがあなたの本当の名前の由ら……」
途端、光った。
目の前が白くなる。
同時に激しい衝撃が身体に伝わる。
機械越しで変な表現だけど、まるで暴風雨の台風の中に不意に放り出されたような。
激しい、光と衝撃の中で。
光の中心がまるでジューサーのように回転し、光の翼の中でぐるぐると回っていく。
酷く幻想的な……何か……物悲しい。
物凄く長い時間のようで、それはきっと一瞬の出来事。
ニルギルスの身体の前半分がガリガリと削り取られ、もう壊れてるってわかるのに。
動けるはずなんてないはずなのに。
それでも光の翼は放出をやめない。
それは、まさに奇跡のなせる現象だったのか。
神に背くような行為は、結局のところ神がかった力によって収束を迎えた。
すべての現象が終わった時に、前半分がなくなったニルギルスが力無く落下していった。
さなぎから目覚める蝶。
小公女という名の蝶は本懐をとげさらに抜け殻となったかのようだった。
彼女の世界が変わった代償がこんな形で支払われるなんて。
目の前には何もない。
本当になにもなくなってしまた。
涙があふれてくる。
私は、これほど悲しい光景を見た事がない。
Good night Unhappy Gigl.
Sing A Sad Song And Have A Good Dream.