振り向けば馬鹿がいる その4
「ケッケッケ、これはどうしたもんかね……ところでマヤ。アンタは行かないでよかったの?」
「私達三人全員行くわけにはいかないじゃないですか、ここを見届ける人が一人はいないと」
そういってマヤは肩をすくめてみせる。
本当は自分だって行きたいという事を押し殺しているのは明らか。
「マヤ……ものわかりがよすぎるのもどうかと思うぞ」
オデッセイから飛び出してきた機体を目の前にして、カンザキもまた飛び出していた。
マヤをなだめるように答えるカンザキに対してマヤは笑って言った。
「いいえ、二人が暴れて私がフォロー。それはこれからもずっと変わりませんから」
「うん、モモもいるしな」
「そうね、頼りにしてるよ」
モモのあどけない笑顔に感化されてマヤもまた微笑み返す。
ジョニーとエクレアの二人のように、この状況下でも笑える強さがここに集まる皆にあった。
「そうそう、フェイフェイもいるしね」
「うん、頼りに……」
マヤの言葉が止まった。
いるはずのない人の声。
その場にいた全員が水を打ったように静まり。
「「「「「「「「うぇ~~~~~~~!!!??」」」」」」」
しわぶきを切ったようにその場の全員が声をあげた。
そして、マヤよりも一際大きな声をあげるドロシー。
「ば、馬鹿! どこにいってたっちゃあ! 心配してたっちゃ! スットコドッコイ! といかフェイフェイどこだっちゃあ!?」
怒った口調ではあるが、涙でかすんだ声に混ざり。
嬉しさを隠しきれないほどの喜び様だった。
ドロシーの乗るロンドニアが周囲を見まわすと、ドロシーの目に飛び込んできたのは懐かしい面影だった。
それはフェイフェイの事ではなく。
「「プリンセスクラウン!!」」
そう、いつか目の前にひしめくフライの大群に破壊されたドロシー達の母船プリンセスクラウンがかつての姿を取り戻していたのだった。
雄雄しく宇宙をかけるプリンセスクラウンにこそ、フェイフェイは乗っていたのだ。
「ジョニーの兄ちゃんに修理を頼んだじゃん、こっちに来る時にもってきてくれて。やられた時にこっちに転送されちゃったのさ」
「……心配したのよ」
アルミがやっと声をあげる。
フェイフェイは笑顔で答える。
「ごめんね」
「「馬鹿」」
生気を失っていたドロシーとアルミの目に光りが戻る。
「さて、それじゃあ勝手に時間を巻き戻されたらたまらねぇっちゃ」
「……そうね、許せないわね」
「フェイフェイ達も暴れようか!」
気合を入れなおすドロシー達。
それでもロサとマテリアが率いるフライの圧倒的な有利はかわらない。
その自信からか二人は冷笑しながら言い放つ。
「それで、その数でどうしようというのかしら? ここまでのスペクタクルの前では低予算の作品は砂塵と消えてしまうものなのだよ?」
宇宙の黒を拒絶するような摩訶不思議な空間となったオデッセイを守るようにロサが指揮をとるかのように、そのロサの背後には絶対的な数を誇る一団がある。
ロサのその一言は、いつもの過剰表現な話し方ではなく。
ただ、単純にその自分達との戦力差を説明しているだけだった。
「大変です!一万は越えてますよ敵の数!!」
物量という圧倒的な力の差にムーが驚嘆の声をあげる。
常に表情を変えないカンザキもその言葉に眉をしかめる。
「なるほど……しかし、こういう時だからこそ……先輩」
「うむ、その通りだカンザキ君」
カンザキは眉をしかめたかと思うと口元を微笑ませ、いつのまにか自分達の周りにきていたマヤの父に向けて声をかけた。
「まったく……怪我あがりの私をどんだけこき使うのよ……」
マヤの父親はマチコのサザエーに勝手に乗り込んでいたのだ。
せまそうな機内で苦笑いするマチコ、そのサザエーの機体にはバーディクトとサグラーダが抱きかかえられている。
「はっはっは、そういうなマチコ君。それが大人の役割さ。可愛い娘達のためさ辛くはないだろう」
「その通り、可愛い妹達が頑張っているんだ。それに横槍いれんとする悪いやからや妹達を傷つけんとするはこらしめてやらんとな」
息投合をしているマヤパパとジャックに何気に困惑した様子でドロシーが声を漏らす。
「……もしかして私達も妹&娘扱いだっちゃ?」
「……いいじゃない、楽しそうで」
珍しくドロシーにフォローをいれるアルミ、その言葉にフェイフェイとマヤが続く。
「フェイフェイ思うんだけど、その二人に何を言っても無駄だよ。んでもフェイフェイはこうも思うんだけど、こんな状況でもその二人がいると何とかなると思えるんだよね」
「そうです、パパとジョニーのお兄ちゃんですもん」
その信じきられた言葉に、困るようにジャックが返した。
「いや、でも……さすがにこれは俺じゃどうしようもないな」
ジャックがはじめて気弱な声をあげると、これまでだんまりを続けていたマテリアが言葉を返した。
「はい、この状況は覆せません。それに内部に入った二人もオデッセイの機能を停止させるほどの能力をもった武装を持っているとは思えません。現状、あなたがたこの状況を打破する事はできないはずです。現状の混乱もこの後のタイムパラドックスを考えれば必要の無い抗争状態と考えます」
確かにあの中の空間以外を巻き戻してしまうというのなら、この戦闘行為に意味は無い。
しかし、それは同時に
「かといって、何もしなくちゃこれまで生きてきた事にも意味がないのよ。私はジョニーとエクレアがやってくれるって信じてる!」
マヤが吼えた。
だからこそ、なのだ。
「パパ、こんな時に言うんだよね」
「その通りだマヤ」
言ってヤマダ親子が口を揃えていった。
「「貴様等にそんな玩具は必要ない」」
その言葉に口引きをきるように、マテリアが残念そうに答えた。
「それでは仕方ありません、圧倒的な戦力差では哀れに思うのでしたくはなかったんですが……」
そういってメメントモリが手をあげて、下ろす。
その瞬間、いっせいにフライがマヤ達に襲いかかる。
しかし、それでもジャックは動じない。
「俺じゃ駄目だが、そんな時のために……」
「私がいるのよ!」
紫の光球とかしたラヴィス=カノンが迫ってきたフライの一団にむかって剣を振るうかのようになぎ払う。
丸い爆発が一筋の剣線となるように一団を切り裂き、その破壊力に人口知能しか持たないフライも考えをかえざるをえないのか動きを止める。
「一万?私とニーズを止めるには足りないわよ!」
言われてニーズの乗るサイコウォンドも白く光り出す。
「ジュリ、ちゃんと手加減しなよ!」
「「私たちを止めたけけ百万人は連れてこい!!」」
Bey Bey Space Girls.
See You Next Pranet!