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ワイルド・ワイルド・ガールズ  作者: 虹野サヴァ子
前編『太陽よりも激しい少女達』
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星の船は海図も持たずに その1

 時に人は盲目である。

 自分の思う考えが、ときに目を曇らせる

 真実が近くにあっても気がつけない。

 真実が近くにあっても思いがとどかない。

 何より見つけがたいもの。

 それは、

 

 ほんの些細な思い違い。

 





 星々の海を駆ける一隻の船。

 それが私達の船。


 船の名前はクロックス、メーカーのCMでは船の歴史に「名を刻む」って事でそんな名前らしい。

 私達は満場一致で『形が可愛かったから』という理由で買ったからあまりありがたみがないけど、船の名前にそのまま使ってる。

 おかげで停泊の時とかは「船体クロックス型、船名クロックス」と不可思議な呼ばれ方をしてる。


「ご飯できたよー」


 この呼び声は私のモノローグではない。

 素敵な声で素敵な台詞が船の下から聞こえてくる、わたしは振り回してた竹刀を納めるとスポーツタオルで汗をふく。

 そんな自分が微炭酸系飲料のようにさわやかに感じられるので大好きなのだ。

 おでこの汗を軽く服とそのまま声の聞こえてきた船の下へと降りていく。

 もちろん、道場を出るときの一礼も忘れてない。


 今日はハラペコだったからチョット忘れそうになったのは秘密だ、女の子には秘密が多いのだからここはご理解いただこう。

 下へと降りる螺旋階段の窓から覗く窓の外には超空間航路を抜けたらしく、どっかの星々がキラキラと輝いている。

 と、おもったら木星クラスの荒れ星しか見えなくなった。

 つまらないい事このうえない。

 私は操縦桿を握る愛しのクルーの一人に声をかける。


「ふいー、今どこらへん?」


「えーと、リーバンクリフ系銀河ポイント808ー77です」


 几帳面に答えてくれたガリ勉眼鏡の彼女、今では希少な純粋の黒髪の彼女の名前はマヤ。

 ちなみにフルネームはヤマダ・マヤ。

 上から読んでも『ヤマダマヤ』下から読んでも『ヤマダマヤ』素敵な名前すぎて涙が出てくる。


 ニンジャという特殊な少数一族の末裔である彼女、ニンジャという種族は類まれなクールな戦闘民族で凄まじい強さを誇り、慈悲は無いはずなのだが、この子の場合は戦闘よりも機械関係とか頭を使う事が得意という希少種中の希少種である。


 過去に一回だけマヤが戦う所をみたけど、やはり強かった。

 そのかわり疲労のあまりそこから一ヶ月寝込んだ。

 疲労というかあん時は特殊な刀を使ったとかなんとか言ってたけど、武器の携行は苦手らしい。

 本来ならばニホンという小国に伝わるカラテという古代格闘技を習得するらしいのだが、プロレスというやはり古代格闘技を使い、その格闘技の使い手をプロレスラーというらしいのだが、そのプロレスの中でも、彼女はルチャドールという戦士で女のニンジャはクノイチなのだという。


 まとめるとニンジャのプロレスラーでルチャドールのクノイチ?

 まとまってない気がするし、昔の事は難しくてわからない。

 まぁ、そんな子だ。

 そんな子の返事を実は私は理解できないでいた。


「あ~マヤ、番地で言われてもわかんない。具体的にどのへん?」


 そう、私は極端に方向オンチで地図表現でいわれても理解できないのだ。

 いや、理解はしてるんだけどつけないっつーかなんつーか……


「えーと、目的地まで一時間弱ですね」


 マヤは優しいので察してくれた。


「あいやさいさい」


 私の返事に反応するようにマヤは伸びをすると眼鏡をはずしてお腹を押さえながら私のあとについてきた。

 マヤは船を操縦する時とか本を読むとき、コンピューターを使うときでないと目がねをかけない。

 そもそも、マヤは目が悪いわけではないのだが「集中力があがる気がする」といってかけているだけなのだ。


 ちなみに船外活動用に可変式のロボットが三体積んである。

 私の機体のアンダンテ、マヤの機体である月凪、そしてもう一人の搭乗機体であるボナペティエ。

 まぁ、そこらへんは機会があれば後でもっと話すとしても今はご飯で頭がいっぱいだ。


「お腹と背中がくっつきそうです」


「あれ? 木星出てからマヤがずっと運転?」


「そうなんです。私ワープ運転苦手なのに!」


「そっか、私か食事当番の準備までエクレアに変わってもらえばよかったのに?」


 そういったらマヤが私をジト目で見てくる。

 あ、アレ? わたし、なんかおかしな事いったかな?


「エクレアは免許の書き換え更新であと三日は運転できません。それとそれと! この前ジョニーの運転でメインブースターを超空間にこすってJAF呼んだの忘れました?」


「あ……」


「あ……じゃないですよまったく! そのおかげで自動運転システム買うお金がエンジンの修理に消えちゃったんじゃないですか! 今日の運転で私、軽く二千キロカロリーくらい消費したのに!」


「は、ハンバーグ二食ぶんくらいじゃない。落ちつきなよ、だからご飯なんじゃない」


「キーー!」


 やはりクールな戦闘民族の面影はこの子には無い。


「うぃー、エクレア。ご飯なにー?」


「具無しチャーハンだよ!」


 とっても元気に耳を疑う料理名を言ったのはもう一人の愛しのクルーのエクレア。

 本名はエクレア。フルネームは本人もわからないらしい。

 多分、記憶喪失かなんかなんだと思う。

 付き合いは長いけど実はこの事をちゃんと聞いた事がないのだ。


 時期がくればそのうち自分から話してくれるだろうし、ここにいる三人とも言いたくない事を抱えてる。

 誰にでも秘密があるし、それでうまくいってるならわざわざ波風立てる事はないのだ。

 彼女は運転と射撃が得意で、身体中のいたるところに銃を隠しもっている。


 原理は不明だけどスカートからエクレアの体よりも大きなバズーカを出した事もある、私を含めて女の子には秘密が多いからしょうがないだろう。


「しかも炒めてないよ!!」


 さらに彼女は元気よくそう言い放つ。

 残念ながら、世間的にはそれをチャーハンとは言わずただのごはんと言うのをエクレアは知らないのだろうか。


「お、おかずは?」


「もちろんないよ!」


 おそるおそる聞いてみればやっぱり素敵な返事、駄目だコリャ。


「さ、三時間半も何やってたんですか!」


 マヤがいわゆる正当な意見というものを口にする。


「ん~と、角煮シチューをつくってた。とっても美味しそうにできたよ。ただ、できたんだけど」


 言いたい事はもうわかった。


「食べちゃったのね、美味しかった?」


「はい、美味しくいただきました。満腹です」


「残しておいてはくれなかったんですか?」


「あ~、その発想はなかったよ」


 私とマヤの「馬鹿」という声が船内に響き渡る。

 宇宙はおだやか、今日も今日とて順風満帆である。

 あ、そうそう。

 ちなみに私はジョニー。

 『ジョニー・ジョニー・マックレーン』私の事はまあ、おいおいね。


 そんな絶妙な個性を持った三人が、それぞれの目的のために、これまた絶妙なバランスで仕事を請負い続けてはや二年。

 今回の航海もそんな仕事だったりする。

 私達の仕事は俗に言うなんでも屋。

 私は歴史は詳しくないけど、なんでも人が宇宙に出てすぐからというとても長い歴史があるらしい。


 同じ職業の映画や漫画を見ると、そりゃ個人で事務所をかまえてハードボイルドに振舞ってるけれど現実はそう甘くはなく。

 大きな会社に雇用登録して仕事を回してもらうってのが現状。

 実力縦社会だから実績さえ残せば仕事はまわしてもらえるというわけ。

 仕事の幅は本当にピンキリで猫の世話から要人護衛、危険生物の駆除などなんでもござれ。

 幅広い知識とタフな身体がないと勤まらないように聞こえるけれど、これが結構どうとでもなるもので言う人に言わせれば「なんでも屋をやってるのは馬鹿ばかり」だそうだ。

 言ってろ、って感じ。


 んで、私達はっていうと所属事務所のブルーウォーターの中では上から数えて六十番目くらいの業績。

 うちのボスであるザ・ママがいう限りブルーウォーターの所属チームは二千四百組。

 私達がいかに優秀かわかってもらえると思えるのではなかろうか。


 私達の当面の目標はベスト五十位に入る事、まぁそんな感じで今回は結構キツイ仕事だったりするのだ。

 そして、さらに私とマヤが直面している問題はおちゃわんにこんもりと盛られた白いご飯をいかにして食すかという事だ。


「エクレアさ、何かふりかけとかさ、味というかアクセントになるものないのかな?」


 マヤが当然とも言える権利を主張する。


「え~と、ちょっと待って」


 そう言いながらエクレアが冷蔵庫の中身をぽいぽい投げながらおかずの物色を開始する。

 すっごい、ずさんに食品を扱っているがエクレアの作った料理はいつも絶品である。不思議でしょうがない。


「駄目だ~~~マヨネーズくらいしかない~~~」


 もう、私達のぶんまでご飯を食べたはずなのに至極残念そうに嘆くエクレア。

 きっとよさげなものがあればまだ食べる気だったんだろう。


「やったあ! じゃあそれで!!」


 そして私の隣のマヨラーの忍者が幸せたっぷりにそんな事を言う。

 今から私は運動したばかりで、ほいで今から動かなきゃならない私がそんなの食べたら吐くっつーの。

 私が顔面芸に近いほどのわかりやすい嫌な顔をしていると、船内の通信ブザーが鳴り響く。


「あ、ザ・ママからですよ」


 ソフトクリーム状にマヨネーズをご飯にかけるマヤがそう言った。


「YO! ギャルズ、目的地はそろそろかしら?」


 ザ・ママってのはあたしたちのボス。

 けっこういい歳のはずなんだけどサングラスでよくわからない、しかもB系でラッパー。何気にCDも出してるし、これがそこそこ売れてるってんだから世間はよくわからない……


「はい、もう少しでつきます」


「SAY、SAY、SAY、SAY。それじゃ任務の説明をあらためてするわ。準備はOK?」


「あいさー!」


 ザ・ママの映像カメラが遠景になるとザ・ママのデスクが動きちょっとしたステージが姿を表す。

 そしておもむろにミュージックスタート。


「今度の仕事はVERY COLD! 相手は巨大なDORAGON!

 そいつのカラーはWHITE!  吐く息ちょっとしたHUBUKI!

 ドラゴンが暴れてIRAI! こいつはちょっとしたJIKEN!

 相手は火力に弱そうJYAN!」


(ドゥ~ン ドゥ~ンドゥンドゥ~ン キュワキュキュキュキュワキャ!)


 外は大雪! 常冬の星! 銀幕の世界! 険しい雪道!

 寒さ耐え抜き! 仕事耐え抜き! そしてアフタースキーで息抜き!

 報酬の額は生抜き! そして貯金を忘れてメシ抜き!」


「SAY HO!」


「「「HO!!!」」」


「SAY HO!」


「「「HO!!!」」」


「SAY HO HO HO! そいじゃがんばってねー」


 飽きたのかネタが無くなったのか、ザ・ママはそう言い残して淡白に通信を切った。

 お金の使用配分をまちがえてこんな食生活をすることになったんだけど。そんなところで皮肉らなくてもいいのに。


「楽しいからいいんだけどさ、いつも観客をいじるは関心しないよね」


「楽しいけど合いの手も少ないですよね」


 どこかズレたところで突っ込むエクレアとマヤ、でも私もHO! 以外もたまには言いたいのは間違いない。

 とゆうかラップのダメだしされる社長っていろんな意味で駄目だとは思う。

 ラップはさておき私達は白銀の星へと到着した。

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