STAGE1-2
【】で表現されているのはゲームの流れをある程度示す為の情報です。遊戯王等で言うと、モンスターの攻撃力やプレイヤーのライフが表示されるのと同じものだと思って下さい。例外的に新たなカードが出て来た場合、登場人物の台詞の中に現れることもあります。
【ステージ1】
赤い髪の少女はデッキの上に手を置いた。
「先行はわたしだ! わたしのステージ、ドローっ!」
赤い髪の少女がカードを引くと同時に、日由理と赤い髪の少女の上方にある十個横並びの碁石のような丸ぽちの一つが緑色に点灯する。互いの丸ぽち四つが緑に輝いていた。日由理がそれを不思議そうに見つめていると、赤髪の少女は言った。
「上にある緑色の球体はマナの数を表している。マナは初期値として三つあって、ステージの最初のドローと同意に、お互いのマナがチャージされる。ステージが進むごとにマナのチャージ量は一つずつ増えて、最大で一度に5つまでマナがチャージされるようになるんだ」
「マナって何なんですか?」
「マナって言うのは、使い魔をサモンしたり、マジックを使用するのに必要な魔力の事だ。ま、見てれば分かるさ。いくぞ、って、あーっ!? これ、演習用のデッキだ!?」
「初心者の日由理には丁度いいじゃない」
シャイナが言うと、赤い髪の少女は、心からそれに同意し、気を取り直してから言った。
「このデッキにはシークレットスペルが入ってない。ついでに、オリジナルスペルも封印してやるよ」
日由理には赤い髪の少女が何を言っているのかさっぱり分からなかった。それを日由理が疑問として口に出す前に、赤い髪の少女は行動を開始していた。
少女が先ほど引いたカードを手放すと、それはひとりでに浮かび上がり、中空に並ぶカードの列に加わった。
「まずはファーストステップだ。とりあえずお前の魔力を確認してやろう」
魔力という言葉に反応して、赤い髪の少女の前に数値が浮かび上がる。
「魔力10000だと!!? おいおい、本当かよ……」
赤い髪の少女は、日由理の魔力の高さに度肝を抜かれた。彼女自身の魔力が7500であり、魔力10000という数値だけ見るならば、それは彼女の知る伝説的な人物に匹敵するものだった。
「なるほど、シャイナさんが目を付けたのも頷ける。少しは面白くなってきたな。いくぞ! わたしは手札からレベル1の使い魔、フレアバード2体をサモン!!」
赤い髪の少女のマナが二つ消えて、手札の2枚が日由理のほうに向かって反転したかと思うと、それらは燃え上がり、鳥の形をなして、赤い髪の少女の左右に降り立った。
【フレアバード 魔力3000 レベル1】×2
「わ、何か出て来た!?」
「あれは使い魔よ。マナを消費する事で、サモンステージにサモンする事が出来るわ」
「サーモンステージにサーモン?」
「あんはた鮭をどうにかしたいわけ? サーモンじゃなくてサモン! 召喚するっていう意味よ。マスターの左右にある魔法陣をサモンステージと言って、それぞれの魔法陣に一体ずつ、2体まで使い魔をサモンできるわ。そして、サモンステージの間にあるマスターが立つ場所をメインステージと言うわ。つまり、日由理が今立っている場所がメインステージね」
赤い髪の少女は、訥々と説明するシャイナとそれを受ける日由理を、足を踏み鳴らしながら待っていた。彼女は気が短い性質だった。
「説明はもういいだろう? そろそろ行くよ」
「日由理、来るわよ。あの子の名前はファーラと言って、炎属性のカードを扱うわ。炎属
性は攻撃力が高いから気をつけなさい」
「思いっきり知り合いじゃん!? さっき魔女とか何とか言ってたのに!」
「そんな事を気にしている暇はないわ」
シャイナの言葉で、日由理は緊張してファーラの動きに注意を払う。
「アタックステップとファイナルステップを飛ばしてステージエンドだ」
「え? 終わり?」
「ああ、終わりだ。先行の最初のステージは攻撃出来ないからな」
「なによぅ。後ろの人は攻撃してくるみたいに言ってたのに!」
「まぁそういう事だから、日由理のステージよ」
「流された……」
「自分のステージに入ったことを相手に分かるように宣言してカードを引きなさい。さっきファーラがしていたのと同じ様にね」
「えっと確か、わたしのステージ、ドロー!」
【日由理の手札6枚 マナ5個 ライフ40000】
日由理はデッキからカードを一枚引いた後、ちょっと恥かしくなって頬を染め、目を伏せつつ後ろのシャイナに向かって言った。
「これでよかったっけ?」
「上出来よ」
「ちょっと思ったんだけどさ、このカードすごく硬い…」
「マジカルステージで使われるカードは、リアナイトとい金属で出来ているからね」
「これ金属製なんだ!?」
「こっちの世界で言うところのプラチナのようなものね。リアナイトは魔力を増幅させてくれる金属で、マジカルステージには欠かせない物よ」
多少貴金属の知識があるものならば、プラチナと同等の金属と分かったところで驚くところだろうが、そんな知識がまったくない日由理は感心したように唸っただけだった。
「ここでステージの構成を説明するわね。ステージは三つのステップに分かれているわ。まずはファーストステップ、最初にドローとマナチャージが行われるわ。ここまでの行為はいかなる事があっても妨害する事は出来ないわ。この後に行動できるようになるの。ファースステップではフォロースペルの発動、カウンタールーンの発動、使い魔のサモンが出来るわ。まずは、使い魔をサモンしなさい」
「色んなカードがあって、どれが使い魔なのか……」
「枠の白いカードが使い魔よ」
「そっか! じゃあこの綺麗な天使さんにする!」
「ちょっと待ちなさい。その使い魔はレベル2よ。カードの使用は、フィールドのレベルと属性の合ったものしか使えないわ。つまり、日由理のフィールドのレベルは1で光属性を得ているから、レベル1の光属性のカードしか使えないわ。カードの右上に数字が付いているでしょう。それがレベルよ」
「この数字が1のやつしか使えないんだね。よ~し、じゃあこの可愛い天使さんと白い兎さんをサモンするよ!」
日由理の右に白い翼を持つショートブロンドで碧眼の幼い天使と、左に胴長でふさふさした尻尾を持った兎と鼬の合の子のような白い動物が現れた。
【白翼のニル 魔力1000 レベル1】
【ホワイトラビーナ 魔力0 レベル1】
ファーラは召喚された使い魔を見て、驚いてしまった。
「いきなり白翼のニルをサモンだと!? 何だ、作戦か?」
「可愛いから!」
「優先順位は可愛さ基準かよ……」
シャイナはまるで可愛い妹に対するような優しい目で日由理を見守っていた。日由理はマジカルステージを楽しみ始めていた。シャイナにはそれが何よりも嬉しかった。
「やる事が終わったら、アタックステップに移りなさい。いよいよ攻撃よ」
「ラジャーっ!」
日由理はシャイナに向かって、背筋を伸ばして敬礼した後、黙ってカードを見つめていた。どうすればいいのか分からないのだった。
「アタックステップでは、アタックスペルと使い魔で敵のマスターを攻撃できるわ」
「アタックスペルって?」
「手札の中に枠の赤いカードと緑色のカードがあるでしょう。赤い方がアタックスペルで、相手のマスターにダメージを与える魔法が使えるわ。そして、ダメージを与える以外の魔法をフォロースペルと言って、それが緑色の方よ。フォロースペルはファーストステップとファイナルステップでマナが続く限りいくらでも使えるけれど、アタックスペルはアタックステップで一度しか発動できないからね」
「じゃあ、赤くてレベル1のを使えばいいんだね!」
「そういうことよ」
「じゃあ、レベル1のディバインブラストを使うよ!」
日由理が手を前に突き出すと、その掌に輝きが生まれる。次の瞬間、白い光線がファーラに向かって走る。
「ディバインブラストの魔力は3000、レベル1のアタックスペルで合計魔力13000とは恐れ入る……」
ファーラは動かずに光線の直撃を受けた。小爆発が起こり、一瞬ファーラの姿が溢れる輝きに掻き消された。
「初心者だからな。この攻撃は受けといてやるよ」
【日由里の魔力13000】
【ファーラのライフ 40000→27000】
「次は使い魔で攻撃しなさい。使い魔は持っている魔力と同じダメージをマスターに与えることが出来るわ。白翼のニルなら1000のライフが削れるわよ」
「うん、分かった! ニル、攻撃だよ!」
ニルが両手を上げると、手の中に小さな光の玉が現れ、ニルはそれをファーラに向かってえいっと投げつける。
「その攻撃は通さん! フレアバードの結界!」
フレアバードが立ちはだかるようにファーラの前に出てきて、その前に赤い魔法陣の結界が展開される。ニルの放った光弾はそれに当たると砕けて消えた。それを見ていた日由理はそんな事が起こるとは思っていなかったので、驚いてしまった。
「防がれた!?」
「攻撃されたとき、使い魔に結界を展開させて守らせる事が出来るのよ。使い魔の魔力の分だけダメージを減算できるわ。今みたいに、結界を使った使い魔の魔力が、攻撃する使い魔の魔力以上の場合は防御されてしまうわ。それと、結界はマスターのアタックスペルに対しても使えるわよ」
「へぇ、使い魔って攻撃するだけじゃないんだねぇ」
「使い魔は主人を守護する忠実な僕なのよ」
「そっか~。でも、僕って言い方はなんか嫌だな。一緒に戦う仲間だよ」
日由理が言うと、シャイナは優しい微笑を浮かべた。シャイナの眩しいような微笑に当てられた日由理は、思わず顔を赤らめていた。
「アタックステップは終了よ。次はファイナルステップに移るわ。ファイナルステップで出来る事は、ファーストステップと同じよ。とりあえず、手札のフォロースペルを使ってみなさいよ」
「うん、緑色のやつだね。レベル1の緑色はこれしかないよ」
「それでいいわ」
カードが反転すると、ファーラは嫌な顔をした。
「手札増強かよ。いいカードだな……」
「フォロースペル【恵みの魔道書】は、レベル1だけれど二つのマナが必要よ。その代わりカードを2枚引くことができるわ」
「やったぁ、お得な魔法だねぇ」
その時、日由理は上を見て首を傾げた。
「あれ、上の丸ぽっちが全部真っ黒になってるよ」
「今のフォロースペルでマナを使い切ったからね。基本的には、使用するカードのレベルと同じ数だけマナが必要になるわ。勝つ為にはマナの数をしっかり把握して、計画的に魔法を使う事が必要よ」
「そっかぁ。じゃあ、次からは上の丸ぽっちもちゃんと見るよ」
「丸ぽっちじゃなくてマナよ。とりあえずもうやる事はないから、ステージエンドしなさい」
「わかった。わたしはこれでステージエンドするよ!」
【ステージ2】
「わたしのステージだ! ドローっ!」
【ファーラの手札5枚 マナ5個 ライフ27000】
【ファーラの使い魔】【フレアバード 魔力3000 レベル1】×2
「ステージが一つ進んだから、マナのチャージ量も一つ増えるぞ。それぞれに二つのマナがチャージされる。よし、わたしはダイレクトリンクする!」
ファーラは引いたカードをそのままリンクゾーンに置いた。ファーラの下にある赤い魔法陣の円が二重になる。
「これでフィールドレベル2だ! わたしは更にカードをドローっ!」
「え、何で2回も引くの!? ずるいよ!」
「ダイレクトリンクしたからだよ。引いたカードをそのままリンクする事をダイレクトリンクって言うんだが、そうするともう一度ドローできるんだ」
「じゃあ、わたしも次はダイレクトなんとかするよ!」
「ダイレクトリンクだって…。ステージを進行するぞ。わたしは手札のフォロースペル【炎命の供者】を発動! わたしのサモンステージにいる炎属性の使い魔一体をマジックソウルに送り、そのレベルと同じ数のマナを得る。このフォロースペルの発動にマナは必要ない」
「マジックソウルって?」
日由理が首を傾げて言うと、ステージ進行の腰を折られたファーラは少しいらついた。そうでなくても、さっきからシャイナから日由理への説明などで、やたらと時間を食っているのだ。ファーラにしてはよく我慢している方だった。
「お前な、さっきから自分が使ったカードがどこに行ったのか見ていなかったのか。役目を終えたカードは全部マジックソウルに送られるんだ! よく見てろ!」
ファーラの右側にいたフレアバードが赤い光の玉となり、それは右手の少し離れた場所にあった魔法陣に吸い込まれた。フレアバードのカードは、巨大化したまま魔法陣の上に表の状態で重ねられていた。
「それぞれの大外にある魔法陣がマジックソウルだ。役目を終えたカードは全部あそこに行くんだ」
「そうだったんだ。全然気付かなかったよ」
「気づけよ!」
ファーラは引いたカードを手放し、彼女の目の前に3枚のカードが並んだ。それを見ていたシャイナは楽しそうな微笑を浮かべて言った。
「そろそろファーラが本気を出してくるわ。気を引き締めなさい」
「う、うん。頑張るよ!」
「いくぞ! わたしは二つのマナを使い、レベル2のフレイムハウンドをサモン!」
ファーラの右手に燃え上がる大型の犬のような獣が現れる。
【フレイムハウンド 魔力6000 レベル2】
「アタックステップだ! 行け、フレアバード!」
フレアバードが赤い光弾と化して日由理に向かってくる。
「うわっ、来た!?」
「ホワイトラビーナの結界を使いなさい」
「え? でも、ホワイトラビーナの魔力は0だよ」
「大丈夫よ。わたしの言う通りにして」
「わかった。ホワイトラビーナの結界だよ!」
日由理がシャイナの言う通りにすると、ホワイトラビーナが前に出てきて魔法陣の結界を展開した。
「ホワイトラビーナは魔力0だけれど、スキルを持っているの。攻撃を受けるときだけ魔力が5000になるわ。フレアバードの魔力は3000よ。よって、攻撃は通らない」
フレアバードの突撃は結界に跳ね返された。
「兎ちゃん、偉い!」
「喜んでいる場合じゃないぞ。続けてフレイムハウンドで攻撃!」
ファーラの命令で炎を纏った獣が火の玉を吐き出す。
「それじゃあ、もう一回ホワイトラビーナの結界だよ!」
日由理が勢いよく言うと、またも初心者の強行にシャイナは慌てた。
「駄目よ日由理、結界はマジックフェイズ中に、使い魔一体につき一度しか使用できないの。守るならニルの結界を使うしかないわ」
「じゃあ、ニルの結界を使うよ!」
ニルが前に出てきて結界を展開する。ニルは火の玉を食らうと、炎の中で可愛らしい悲鳴をあげて消えた。
【日由理のライフ 40000→35000】
「やられた!?」
「そりゃやられるわよ。攻撃する使い魔よりも防御する使い魔の魔力が低い場合は、防御に使った使い魔はマジックソウルに送られて、マスターは自分の使い魔と相手の使い魔の魔力の差分のダメージを受けるわ。今の場合、結界を使ったニルの魔力は1000で攻撃してきたフレイムハウンドの魔力は6000だから、ニルはマジックソウルに送られて、日由理は5000のダメージを受けたのよ」
「…ほんとだ、ライフとかいうのが減ってる」
「ライフが先に0になった方が負けだからね」
「はう~っ! 可愛いニルちゃんがやられちゃったよぅ……」
日由理は突然叫んだかと思うと、急激に意気を殺して泣き始めた。それにシャイナはまた慌てさせられた。
「ちょっと、何も泣くことはないでしょう」
「だってぇ、可哀そうだよぅ……」
「マジックソウルに送られるのは、死ぬって言う事じゃないわ。役目を終えて舞台を降りるっていう認識が正しいから、悲しむ必要なんてないでしょ?」
「そっかぁ、それなら良かった!」
シャイナは手のかかる娘を得たような状況に溜息をついた。日由理の方はそんなシャイナの様子には気付かずに、悲しみから開放されてほっとしていた。
「おいおい、なにぼさっとしてるんだ。これからが本当の攻撃だ!」
ファーラは掌を前に突き出していった。
「カード反転! レベル2のアタックスペル、フレイムストライクを発動する!」
「レベル2のアタックスペル!?」
「こいつは強烈だよ! わたしの魔力を5500アップして攻撃する!」
シャイナは得意になっているファーラに向かって、嫌らしい笑みを浮かべて言った。
「ファーラの魔力は7500だから合計魔力は13000ね。何故かさっき日由理がレベル1のアタックスペルを使ったときと同じ合計魔力だわ」
「う、うるさいな! そいつの魔力が高すぎるんだよ!」
ファーラは少々出鼻を挫かれた後に、掌を上にかざした。彼女の頭上に炎が渦巻き、収束して巨大な火の玉が出来上がる。
「喰らえ! フレイムストライク!!」
ファーラは大きな火の玉を日由理に向かって投げつけた。
「うわっ、火が、火が来る!!」
慌てふためく日由理とは対照的に、シャイナが落ち着き払った様子で言う。
「このままでは13000のダメージを受けるわ」
「ど、どうしよう!?」
「手札の中にある青い枠のカードを使いなさい」
「わかった! この青い枠のカードを使うよ!」
「カウンタールーン、マジックバリアよ。魔法攻撃を受けるとき、ダメージ5000ポイントをガードするわ」
火の玉が日由理の前で炸裂し、辺りが炎で包まれた。
「ぎゃーっ!!? 燃えてるよ!!? 熱いよ、死んじゃうよ!!!」
【日由理のライフ 35000→27000】
「落ち着きなさい。これはマジックイリュージョンよ、つまり、魔法を介した幻だから、人体に影響はないわ」
じたばたしていた日由理は、シャイナに言われて恐怖の色を残しながらも少し落ち着いた。
「……本当だ、熱くない!? なにこれ、すごい!!」
「本来なら13000のダメージを受けるところだったけれど、カウンタールーンのお蔭でダメージは8000で済んだのよ」
「カウンタールーンって?」
「さっきも言ったけれど、枠の青いカードは全てカウンタールーンよ。これは相手の魔法や使い魔に対して使用することが出来るの。レベルと属性が存在しないから、いつでも使用できるわ。効果も様々で、強力なカウンタールーンにはマナや手札なんかのコストが必要になるものもあるけれどね。全てのカウンタールーンに共通して言える事は、相手の行動を妨害する効果であるという事ね」
「いつでも使えるんだったら、カウンタールーンっていうのを沢山入れておけば強いんじゃないの?」
「そんな事をしたら酷い事になるわよ。属性がないっていうことは、リンク出来ないって言う事よ。フィールドレベルが上げられない状況は即負けに繋がるわ」
「ふ~ん、そうなんだ。色々難しいんだねぇ」
「まあ、おいおい分かっていくわよ」
日由理はまるで他人事のようにあっけらかんとしていた。それを見ていたファーラは痺れを切らして言った。
「まったく、遅々として進まないじゃないか。このままじゃ日が暮れてもマジカルステージが終わらないぞ」
「初心者が相手なんだから、そうカリカリしないの。さあ、ステージを進めていいわよ」
シャイナに注意されたファーラは、自身の言動を反省し、頭をかきつつ言った。
「ファイナルステップを飛ばしてステージエンドする」
「よ~し、わたしのステージだよ! ドローっ!」
【日由理の手札4枚 マナ4個 ライフ27000】
【日由理の使い魔】【ホワイトラビーナ 魔力0 レベル1】
「よーし、ダイレクトなんとかっていうのを……」
日由理は引いたカードを見て動きが止まった。
「うっ、すごく美人さんだよ。どうしよう、これ置きたくない……」
日由理が悩んでいると、その姿があんまり一生懸命なので、シャイナは思わず笑って言った。
「良くあることよね。自分が本当に欲しいカードが来たときには、無理にダイレクトリンクしない方がいいわ。自分の首を絞める結果になることが多いからね」
「じゃあダイレクトリンクしない! 私は手札のカードでリンクするよ」
日由理がリンクゾーンにカードを置き、ファーラの足元の魔法陣と同様に、円が二重になる。その時にファーラは遅延するステージに苦々しい笑いを浮かべつつ言った。
「こいつの場合、欲しいカードの基準が怪しいけどな……」
「好きなカードを大切にするのは良いことよ。さあ、日由理、これで光属性でレベル2のカードまで使えるわ」
「やったね! じゃあ、この天使さんを出すよ! いでよ、白翼のメルティ!」
日由理の右のサモンステージに、背中に白い翼のある純白の服を着た乙女が舞い降りた。
【白翼のメルティ 魔力4000 レベル2】
「わっ、すごく綺麗! ニルのお姉さんって感じ!」
ファーラは感動してやまない日由理に呆れていた。
「お前、ニルがステージにいたにも関わらず、メルティをずっと手札にもっていたのか。白翼の使い方がまったく分かってないな……」
「まあ、仕方ないわ。まだ使い魔とお話もしていないしね」
日由理にはシャイナとファーラが何を言っているのか良く分からなかったが、それよりもメルティがステージに出た事が嬉しくて仕方がなかった。
「よ~し、アタックステップに入るよ! メルティ、攻撃だよ!」
メルティが両手を挙げると、掌の中に光が生まれた。
「その攻撃は受ける!」
メルティが光線を放ち、それがファーラに命中してライフを削る。
【ファーラのライフ 27000→23000】
「続けてアタックスペルを使うよ! レベル2のシャインバーストだよ!」
「シャインバーストの魔力は5000、日由理の魔力とあわせて15000よ」
「冗談じゃない。そんな鬼魔力を食らってたまるか! わたしはカウンタールーン、ブーストバリアを発動! さらに2体の使い魔で結界を展開!」
ファーラの前に2体の使い魔が出てきて、さらにその前方に光の壁が現れた。
「ブーストバリアは、魔力15000以上の魔法を受けた時に発動できる。8000のダメージをガードする!」
日由理が掌から放った光がファーラの目の前で炸裂する。ファーラの前にあった
光の壁は粉々に砕け、フレアバードが一声鳴いて消え去った。ファーラはまったくダメージを受けていなかった。
「防がれた!? 何で!?」
日由理は何が起こったのか理解できず目を白黒させていた。それを見かねたようにシャイナは言った。
「今のは、カウンタールンと使い魔の結界を同時に使って攻撃を完全防御したのよ。この場合、カウンタールーンの処理が優先されるわ。まずブーストバリアで日由理の15000あった魔力が8000防がれて、この時点で残りの魔力は7000ね。そして、ファーラは魔力3000と魔力6000の使い魔で結界を使ったわ。2体の使い魔の合計魔力は9000だから、日由理の残りの魔力7000では攻撃は通らないわ。そして、二体の使い魔で攻撃を防いだ場合、魔力が低い方の使い魔がマジックソウルに送られるわ。だからフレアバードが消えたのよ。ついでに言うと、二体の使い魔で結界を使ってもダメージを受けた場合は、二体ともマジックソウル送りになるからね」
「なんだか難しいよ……」
「そんなに難しいことは言ってないと思うけれどね」
「理解できたなら次に移って欲しいんだけどな」
ファーラはそろそろ本気を出そうとしていたところなので、日由理とシャイナの長話で待たされるのが歯がゆくて、我慢しきれずに言った。
「理解したとは言い難いけれど、ファイナルステップに移るわ」
日由理の変わりにシャイナが言った。
「う~ん、特にやる事はないよ。ステージエンドだよ」