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魔法少女と銀の法札  作者: 李音
STAGE4 翠湖の巫女
14/16

STAGE4-1

    日由里が固まって突っ立っていると、女王は席を勧めた。

「そう固くなる必要はないわ。まずはそこに座って一緒にお茶でも飲みましょう」

「は、はいぃっ!」

 日由里は不自然にひきつった返事をしてからテーブルの前に座った。他の面々も同じようにテーブルをかこんでいく。それから料理好きなファーラは、用意されていたティーカップに手早く紅茶を注いでいく。

「待たせたわね、エルティーナ」

「あなたの事だから、地球で遊んでいたのでしょう」

「少しは息抜きもしないとね」

 シャイナが当然のように言うと、女王エルティーナは怒るどころか、いつもの事だと言わんばかりに微笑を浮かべていた。それからエルティーナは不意に日由里のことを見つめて言った。

「わたしはエルティーナ、これでもこの国の女王なのよ」

「あ、あの、わたしは天野日由里です! 小学5年生です! えっと、なんていうかその……」

「おいおい、てんぱりすぎだぞ」

 何を話してよいのか分からずに、おどおどする日由里にファーラが言った。つい最近まで何の変哲もない小学生だった日由里が一国の女王を目の前にしては、こうなるのも仕方がないことだ。

 それからエルティーナは微笑をたたえたまま日由里に言った。

「期待しているわ、日由里」

「はい、頑張ります!」

 女王が何を期待しているのか日由里にはまるで分らなかったが、思わず言葉が口をついて出ていた。

「シェイド、シャイナ、わたしは(まつりごと)があるからこれで失礼するわ。日由里の事は貴方たちに任せます。早く一人前の魔導師になれるように指導して下さい」

「任せておけ」

 シェイドが言うと、エルティーナは部屋から出て行ってしまった。

「さてと、日由里の特訓を始めるか」

「え? 何の特訓?」

「もちろん、マジカルステージだ。君には他の魔導師達と会って戦ってもらおう」

「まずはフェンサリルに行きましょう」

「アクアのところか。いいだろう」

 シェイドのシャイナの話し合いの元で行き先が決定し、魔導師たちはフェンサリルの神殿に向かうのだった。


オルタナ城のすぐ近くに大きな湖があり、その湖の中心に浮かぶようにしてフェンサリルの神殿があった。

「うわ~、この橋下が透けてるよ~」

 岸から神殿まで続く一本の橋は欄干以外はクリスタルで出来ていた。橋の下に波打つコバルトブルーの水面が見え、透明度の高い水の中にはたくさんの魚が泳いでいた。

 日由里は上機嫌でスキップしながら長い橋を渡っていった。ふと見上げれば、ミクトランの空が瞳一杯に広がった。

「空、ちょっと緑色っぽいよねー」

「空が緑色になるのは、大気の中にあるマナの影響だ」

「マナって、マジカルステージでも使うやつだよね」

「マナには魔力の根源という意味がある。魔力の元となるマナが存在しているから、ミクトランでは魔法が発達したのだ」

「へー、青緑色の空も綺麗だね」

 日由里とシェイドが話をしているうちに、ガラスの橋を渡り切って神殿の前に着いた。その時になって日由里は人数が足りない事に気づいた。

「あれれ、リアンさんがいないよ?」

「リアンはクインセンテンスのメンテナンスをするからって、途中で別れたわよ。あの子はマジカルステージよりも機械いじりの方が好きだからね」

 シャイナが言った。日由里はちょっと残念だったが、気を取り直して神殿の中に入って行った。

 神殿の中に入った瞬間に、そこかしこから水の流れる音が聞こえてきた。日由里は神殿の中を見てその神秘的な情景に感動した。

「うわー!? 神殿の床もガラスだよ。下はもう湖の中だー」

 日由里は四つん這いになって向こう側に水中が見える床に顔を近づけた。

「お魚いっぱいだー。水族館みたい」

「そろそろ行くわよ。アクアが奥で待ってるからね」

「は~い」

 奥に向かって歩き出すと、日由里は周りの柱や壁までガラスで出来ている事に気づいた。そこから聞こえる耳触りの良い音について、日由里はシャイナに聞いた。

「ねー、壁の中から音がするよ」

「それは水の流れる音よ。この神殿には壁や柱の中に水管が通っていて。神殿全体を水が巡るようになっているの。これから会いに行くアクアは水の巫女で、水精の声を聴くから、水が出来るだけ近くにあった方がいいのよ」

「ふ~ん、水の巫女かー。きっと素敵な人なんだろうねー」

「それはすぐにわかる事よ」

 神殿の入り口から奥に続く回廊は急に狭くなり下に向かっていた。狭いと言っても、3人くらい並んで歩けるくらいの幅はあった。

 日由里はずっと下ばかり見て歩いていた。クリスタルの床から透けて見える水中が気になって仕方がないのだ。すると、とつぜん巨大な魚影が日由里の視界を横切った。

「うえ!? なんか今すごくおっきいお魚が通ったよ!」

「イルカじゃないかな」

 ファーラが言うと、日由里は更に仰天した。

「イルカ!? イルカって、湖にいるの!?」

「そんなに驚くことはないだろ。淡水性のイルカなら地球にだっているぞ」

「淡水に住むイルカの数は、ミクトランの方が比べ物にならないほど多いけれどね」

 シャイナが言うと、日由里はすっかり感心していた。

「へー、湖に住むイルカなんて初めて見たよ」

「着いたぞ」

 一番前を歩いていたシェイドが言った。一行の前にアーチ型の青い色の大きな扉が現れていた。シェイドがそれを押すと、扉は左右に分かれて開いていく。

 中に入った瞬間、日由里は息をのんだ。その部屋は湖の中にあり、出入り口の扉以外はすべてクリスタル製で、透き通った壁の向こう側に見える深く澄んだ水には様々な魚が泳いでいた。そして、水を通して注いでくる太陽の光は水面の動きに合わせて神秘的な模様を描き、この世のものとは思えない幻想的な空間を作り出していた。

「すごーい!! 綺麗!!」

 日由里は深い感動と共に、部屋の奥にある祭壇の前に立つ女性を認めた。日由里はこの素晴らしい空間を統べる者を早く見たくて、彼女の元に走った。祭壇の前に立つ長い蒼髪の女性は振り返ってアウィンブルーの瞳で日由里を見つめた。彼女はゆったりとした青白い半袖のローブに身を包み、ロングスカートのスリットの切れ目から滑らかな線の白い右足が太腿のあたりまで見えていた。左の手首には魔導師の証である青い宝石の嵌った銀の腕輪を付けている。背丈はシャイナほど高くはないが、すらっとしていて、胸の膨らみの方はシャイナよりもずっと豊かだった。彼女の微笑を浮かべる表情には見る者を安心させる深い優しさがあり、日由里は一目見ただけでその人が好きになった。

「この神殿が気に入って頂けたみたいですね」

「はい! とっても素敵だと思います!」

 青い髪の女性はにっこり笑って言った。

「わたしはアクアと言います。フェンサリルの神殿を守る水の巫女です」

「わたしは日由里と言います! 小学5年生です!」

 日由里がとりとめのない自己紹介を終えた後に、シェイドが言った。

「アクア、そういうわけだからマジカルステージを頼む」

「え!? どういうわけなんですか? 全然わかりませんよ、シェイドさん……」

「まあ、日由里の事を鍛えてやってほしいということだ。少しでも早く一人前の魔導師になってもらわなければならんからな。女王もそれを望んでいる」

「分かりました。それで、あなたはマジカルステージを始めてどれくらいになるの?」

「今までに3回やりました!」

 日由里は躊躇なく答えた。それを聞いたアクアは少し黙った後に言った。

「デッキを選んだ方がよさそうだね」

「いや、全力でやってくれ。その方が日由里の成長が早い」

「…本当にいいんですか?」

「かまわん」

 シェイドの言う事に、アクアはいくらか戸惑っていたが、やがて彼女は日由里に向かって言った。

「これからマジカルステージを始めるけど、どんなに辛いことがあっても挫けてはだめよ」

「だいじょーぶですよ! わたし頑張りますから!」

「そう。じゃあ、マジカルステージを始める前に、魔導師がマジカルステージで戦う意義を答えて下さい」

「え? えっと、全然わかんない……」

「分からないの? じゃあ、日由里ちゃん。これから魔導師としての心得を言うからしっかり覚えて下さい」

「はいー」

 アクアは優しげに微笑し、慈しみの深い目で日由里を見ながら言った。

「農夫が畑を耕し、大工が家を建てるように、魔導師は世界を清浄化するためにマジカルステージで戦うのです。この美しい世界を守るのが、わたしたちの仕事です」

「素敵な仕事ですね!」

「分かってもらえたところで、マジカルステージを始めますね」

「水族館ステージかー、燃えますね!」

「す、水族館? 確かにそういう趣はあるけれどね…」

 それからアクアが銀の腕輪が輝く左手を前にかざすと。それに付いている青い宝石が輝きだし、同時に左手の甲にデッキホルダーが現れて装着された。そして、これから戦う二人は互いに対峙した。

「オープン・ザ・マジカルステージ!!」

 少女たちの力強い声と共にクリスタルの床から光のリングが広がり、二人は光の幕が覆うドームに閉じ込められた。さらに、日由里の足元からは白い魔法陣、アクアの足元からは青い魔法陣が展開して広がった。

 これからマジカルステージが始まらんとするところで、ミルディアが言った。

「……アクアさんのデッキは…えぐい」

「お前、久々にしゃべったな。地球を離れてから今まで一言もしゃべってなかったよな」

「…必要なかったから」

 それを聞いたファーラは苦笑いを浮かべて言った。

「必要なくても会話の輪に入れよ。あまりにも人間味がないぞ」

「……」

「…まあ、確かにアクアさんのデッキはえぐいよなぁ。わたし何て今までに何度泣かされたことか」

「……同じく」

 その時になって、水晶壁の向こう側の水中にたくさんのイルカが集まってきた。

「皆が応援にきてくれたようですよ」

「うわー、イルカが沢山だー」

「友達なんです」

「みんなアクアさんの応援に来たんだねー」

「いえ、みんな日由里ちゃん頑張れって言っていますよ」

「え? そ、そーなんだー、ありがとー」

 アクアと仲良しのイルカたちが何で自分を応援するのか、日由里は変だなと思いながらもイルカたちに向かって手を振った。その様子を見ていたファーラは言った。

「イルカたちにもこのステージの絶望が分かってるんだな」

「……可哀そうな日由里」

 そして、アクアと日由里のステージが始まった。


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