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魔法少女と銀の法札  作者: 李音
STAGE3 オルタナの女王
13/16

STAGE3-5

   【ステージ4】

「わたしのステージ! ドローっ!!」

 日由里の力の入った声が宇宙空間そのものと化している船内に響いた。

   【日由里の手札6枚 マナ10個 ライフ3500】

(わたしの手札は6枚、全力でいく!)

 それから日由里はシャイナの方を見て言った。

「確かフィールドのレベルって、4まで上げられるんだよね?」

「ええ、そうよ。ただし、フィールドレベルを4にする場合は、ダイレクトリンクは出来ないわ。それとレベル4の状態は保持できずに、ステージエンド時に4枚目にリンクしたカードはマジックソウルに送られて、フィールドのレベルは3に戻るわよ」

「わかった、ありがと!」

 日由里は説明してくれたシャイナに礼を言った後に、今は敵であるリアンを見据えた。その表情は真剣だった。

「わたしはリンクしてフィールドのレベルを4に上げるよ!」

   【日由里のフィールドレベル4 属性光】

「フィールドレベル4!? ということは……」

 リアンは日由里の手札の一枚が反転すると、息をのんで恐れをなしたかのように一歩後退した。

「わたしはレベル4の使い魔をサモン! 無常の闇を払う龍よ! 輝きと共に現れよ!」

 日由里の前で反転したカードが激しい輝きを放ち、光が瞬く間に広がって巨大になり形を成した。

「出でよ!! 白翼神龍エリスニール!!!」

 巨大な白き翼を広げ、日由里の隣に勇壮な首の長い龍が降り立った。その頭の上には白翼のニルが乗っていて手綱を引いていた。

   【白翼神龍エリスニール 魔力11000 レベル4】

「うわぁ、かわいい! ニルかわいいっ!!」

 白い龍の頭の上にいるニルを見て、日由里は狂喜乱舞していた。それを目の当たりにしたファーラは呆れ顔で言った。

「あいつ、ニルが一緒になってるからエリスニールが出したかったんだな」

「まあ、理由はどうあれ、レベル4の使い魔が出てきたわ」

「一気に逆転できるか」

 日由里は右手を勢いよく横に振り払って言った。

「エリスニールのスキル発動だよ! この使い魔がサモンかエクストラサモンされた時に、マジックソウルにいるレベル2以下の白翼一体を手札に加えるよ!」

 マジックソウルの魔法陣から光輝くカードが飛び出して、日由里の頭上にある手札の中に加わった。

「今手札に加えたニルをサモン!」

反転したカードから小さな天使が飛び出して日由里の左側に着地した。やがて光が払拭されると、そこには小さな天使ニルがいた。

   【白翼のニル 魔力1000 レベル1】

「わたしはここで、エリスニールの二つ目のスキルを使うよ! サモンステージに存在する白翼一体をマジックソウルに送ることで、相手の使い魔一体を選択してマジックソウルに送ることが出来るよ! あんまりやりたくないけど、わたしはニルをソウルに送って、エリスニールのスキル発動!」

 ステージに現れたニルが再び光の玉となってマジックソウルの魔法陣に吸い込まれる。同時にエリスニールが広げた翼が輝きだした。

「レイブレイク!」

 エリスニールの翼から無数の光線が走り、それらはリアンのサモンステージに次々と降り注いで爆発し、森緑の導師メディアが消え去った。それと同時に日由里のステージにいるニルもソウルに送られていた。

「この瞬間、ニルのスキル発動! ニルがステージからマジックソウルに送られた時、マジックソウルに存在するレベル2以下の白翼を復活させるよ! 甦れ、白翼のメルティ!」

 魔力4000の白翼の乙女がマジックソウルから飛び出して日由里の隣に舞い降りてきた。リアンはいよいよ後がなくなってきた。

「魔力11000と4000の使い魔……」

「アタックステップに入って、使い魔たちでリアンさんを攻撃だよ! まずはエリスニールの攻撃っ!!」

「待っていましたよ、使い魔で攻撃してくる時を! 魔力を四つ支払って、カウンタールーン、【破壊の閃光】を発動します!」

 リアンが反転させたカードから目を覆わんばかりの光が溢れだし、日由里たちのステージを強烈な光の波動が襲った。

「破壊の閃光は、使い魔が攻撃してきた時に発動することができます。あなたのステージにいる使い魔はすべてマジックソウルに送られます!」

「ええ!? そんなっ!!?」

 せっかく召喚したエリスニールとメルティが、光の波動を受けて悲鳴を上げて消えて行った。

「日由里さんのライフはたったの3500しかありません。この勝負、わたしの勝ちですね!」

「まだアタックステップは終わっていないよ! わたしはマナを三つ支払って、カウンタールーンを発動!」

「このタイミングでカウンタールーンですって!?」

「【カウンターリバイブル】だよ! このカードはアタックステップでしか使えない。レベル3以下の使い魔を復活させるよ!」

「!!?」

「わたしが復活させるのは、白翼のニル!」

   【白翼のニル 魔力1000 レベル1】

「ここで白翼のニル!?」

「まだまだいくよ! カウンタールーン、【シャインアロー】を使うよ! ステージに存在する光属性の使い魔一体をマジックソウルに送って、相手の使い魔一体を除去するよ! 狙いはドリアード! 頼んだよニル!」

 ニルは全身から光を発して、光の矢となりドリアードに突進した。ドリアードは光の礫を身に受けて消え去る。

「またニルのスキルが発動する!?」

「その通り! ソウルにいったニルのスキルでレベル2のメルティを再び復活させるよ!」

 再び舞い降りる白き翼の乙女がリアンを見つめて微笑した。この時、リアンは日由里から底知れぬ何かを感じた。

「メルティはアタックステップ中に復活したから攻撃できるよ! 行って、メルティ」

 メルティが掌から放った光線がまっすぐにリアンに向かって光が弾けた。

   【白翼のメルティ 魔力4000 レベル2】

   【リアンのライフ 17000→13000】

「これが最後の攻撃だよ! わたしはレベル1のアタックスペル、【ディバインブラスト】を使うよ!」

 日由里が掌を上げると、それを中心にして白い魔方陣が広がり、さらにその上に光が収束してエネルギー弾が現れ、見る間に巨大化していった。

「ディバインブラストの魔力は3000、日由里さんの魔力と合わせると……」

 目の前に表示された数値を見て、リアンは驚愕した。

「魔力13000!?」

「いっけ~~~っ!! ジャストアタックだよ!」

「!!?」

 日由里が放った巨大な光の玉がリアンの頭上から落ちてきて、目のくらむような光がリアンのステージを包み込んだ。

「きゃあぁーーーっ!」

 リアンは幻と知りつつも、思わず叫んでしまっていた。

   【リアンのライフ13000→0】

 日由里の見せた思わぬコンボに、シャイナとファーラは目を奪われていた。

「日由里がまともにカードを使ったぞ!?」

「ニルの能力だけフル回転させたわね~」

「確かにニルの能力だけな。どこまでニルを愛してるんだ、あいつは」

 日由里は嬉しくて仕方がなくて小躍りしていた。

「やったー、ニルのお蔭でかったー、ばんざーい!」

 日由里は勝った事よりもニルのスキルをうまく使えた事の方が遥かに嬉しかった。一方、負けたリアンの方はその場に座り込んでいてショックを隠し切れなかった。

「落ち込むなよリアン姉、カウンタールーン使いがカウンタールーンのコンボで負けるとか、しょうもないけど姉さんのデッキじゃ仕方がない」

「全然慰める気ないですね……」

 一方、シャイナは落ち込んでいるリアンなどに見向きもせずに言った。

「日由里、これでわかったでしょう。カウンタールーンばっかり入れるとろくなことにならないわ」

「うん、よくわかったよ」

 日由里ははっきりと言った。それは素直さゆえの快活さで悪気はないのだが、リアンをさらに落ち込ませたのは言うまでもない。

「もういいですよ。どうせわたしなんて……」

「あう、ごめんなさい。その、リアンさんの事を悪く言うつもりはなかったんです」

 リアンは落ち込んでいたかと思うと、不意に微笑を浮かべて立ち上がった。

「大丈夫ですよ。わたしはもう魔道士じゃありませんから、マジカルステージにそれほど思い入れはないんです」

「ほえ、どうしてリアンさんは魔道士やめちゃったの?」

「それは、宇宙船を運転したり機械をいじったりしている方が、皆の役に立つってわかったからです」

 それからリアンは、自分のデッキから一枚のカードを抜き取って、日由里に差し出した。

「久しぶりにとても楽しいステージでしたよ。お礼にこれをさしあげます」

「いいんですか?」

「はい、わたしには必要のないものですから」

「ありがとうございます! 大切にします!」

 日由里はリアンからもらったカードを嬉しさで輝く瞳で見つめていた。

「ミクトランはもう目の前ですよ」

 宇宙船の運転席に戻ったリアンが言った。日由里の足元に、緑色の星が迫っていた。

「うわぁ~、あれがミクトラン!? 地球と違って緑色なんだね」

「それは、地球と大気の成分が微妙に違うのと、地表と海の比率が違う事に起因しています。地球は地表が四割程度ですが、ミクトランは地表が六割でその殆どが森なんです」

「ほえ~、自然がいっぱいなんだね。この星を初めて宇宙から見た人は、ミクトランは緑色だったって言ったのかな~。でも、ちょっと語呂が悪いね~」

「この星をここから初めて見た人は、この星は生命に満ちていると言ったわ。星の姿を見て純粋にそう感じたのでしょね」

 日由里の独り言を聞いて、シャイナが言った。

 宇宙船はどんどんミクトランに近づき、星の表面に地表の形がはっきりと見えてきた。その時に、日由里はミクトランのすぐ近くにある小惑星の姿に気づいた。

「あ、ミクトランの近くにちっちゃい緑色の星があるよ!」

「あれはミクトランの衛星マナリです。地球の月と同等の存在と言えます」

「でも、月よりも生きてるって感じがするよ」

「マナリの大気の成分はほとんどミクトランと同じですからね。地表はほとんど水に覆われていますが、わずかながら陸地もあって、生命も存在しています。そういう意味では月とは全然違いますね」

 リアンの説明を聞いて、日由里はマナリの姿を見つめて息をのんだ。月と同じような星に生き物が存在していると想像しただけでも心がときめいた。

 日由里以外の魔道士たちは、マナリの姿を黙然としてただ見つめていた。

「そろそろミクトランに突入します。皆さん席に着いて下さい」

 床からせりあがるように銀色の椅子が出てくると、それぞれがそれに座って大気圏突入への準備を整える。そして、ミクトランに突入する寸前に、宇宙船は衛星マナリの近くを通過した。その時に初めて、日由里はミクトランとマナリの距離の近さに驚かされた。

「ミクトランに突入します!」

 クインセンテンスが大気圏に突入し、日由里はそれに気を取られてすっかりマナリへの驚きを忘れてしまった。

 成層圏を超え薄緑色の雲を突き抜けて、クインセンテンスはほとんど瞬間的にミクトランの地表近くまで降下していた。そこからは今までと比べると、ごくゆるりとした速度で航行を始めた。

「ミクトランに入りましたよ。あと三分以内でオルタナに着きます」

 リアンから出た耳慣れない単語を聞いて、日由里は言った。

「オルタナって?」

 それに答えたのはシャイナだった。

「ミクトランにはいくつもの王国が存在するわ。オルタナ王国はその中の一つで、優秀な魔道士が数多く集まる国、そしてわたしたちの国よ」

 ほどなくしてクインセンテンスは、古風な家並の都市の上空を通り、都市の中央に位置する巨大な城の上空で停止した。城の中には巨大な滑走路を思わせるような石造りの広場があり、クインセンテンスはそこに向かってゆっくりと下降していった。

 クインセンテンスが城の中庭に着地すると、船の下腹部から出た光で地面に魔方陣が描かれ、日由里たちはそこに転送されて姿を現す。城の出入り口と思われる門の前で、黒いローブの男が腕を組んで待っていた。シャイナたちは日由里を置いてその男の元に集まった。ミクトランの魔道士たちが地球から来た日由里を迎える形になった。

「ミクトランにようこそ!」

 シャイナが笑顔で言うと、日由里はお辞儀をした後に改まった。

「地球から来た日由里です。よろしくおねがいします」

「わたしはオルタナ宮廷魔術師長のシェイドという者だ」

 漆黒のローブの男が名乗った。シェイドの目深に被ったフードのせいで顔が良く見えないが、微笑を浮かべる唇や、やや高い鼻立ち、頬に流れる黒い髪の鬢等から、美丈夫であることはうかがい知れた。

「君がシャイナの姉妹か」

 シェイドが言ったことに、日由里は首を傾げた。

「わたしはシャイナと姉妹なんかじゃないよ?」

「ああ、地球から来た君には意味がわからないか。この星では(えにし)の深い者を親や兄弟と見なす習慣があるのだ。だから君とシャイナを姉妹だと言ったのさ」

「どういうことー?」

「つまりだな、シャイナは地球に魔道士候補を探しに行き君と出会った。その一事はたまたまの一言で片付くような事ではないんだ。シャイナがミクトランから地球に行き、君と出会う確率など皆無と言っていいだろう。しかし、君たちは出会った。そこには何らかの力が働いていると言わざるを得ない。その答えが縁だ。君とシャイナはおそらく、過去世で姉妹、親子といった深い関係にあったのだろう。顔が似ているのも、そのせいかもしれないな」

 日由里にとってはあまりにも突飛な話ではあったが、意外と自然に受け止める事が出来た。それというのも、出会った頃からシャイナと一緒にいることが自然で、本当の姉のように慕っていたからだ。だから、シェイドの話を素直の信じることが出来た。

「じゃあ、お姉ちゃんって呼んだ方がいいのかなー」

「ちょっ、それは止めて、面と向かってそんな風に呼ばれたは恥ずかしいわよ」

 シャイナが顔を赤くしてい言うと周りから笑いが起こった。その笑いが落ち着くとシェイドが言った。

「まずは女王に会ってもらおう。あまり待たせるとどやされるからな」

 日由里はシェイドの後から歩き、ほかの少女たちはさらにその後ろを歩いて女王が待つ場所へと向かった。

 日由里の中では、女王というからにはきらびやかなドレスでも来て玉座に座っているようなイメージがあったが、実際に会ってみると全く違った。

 シェイドが案内した部屋はかなりの広さがあるものの、どう見てもただの客室で女王が謁見するような雰囲気はなかった。大理石に似た鉱石で出来たテーブルには、客人をもてなすためのお茶とお菓子まで用意されていた。

 女王はその部屋の大きな窓から空を眺めていた。その視線の先には、衛星マナリの星影があった。

 日由里たちが入ってくると、女王は振り返って新たなる魔道士を見つめた。女王の瞳は薄く緑の入った青色で、輝くような金色の髪を後ろで団子にして纏めあげ、白いマントに服は城の半袖の上着に短いスカートを白いシルクの帯で止めていた。女王とは思えない簡素な純白の衣服で、マントが無ければその辺の町娘と変わらない。だが、衣服が簡素である故に、肢体の艶かしさは一層強調されている。そして、自ら光を放つよう美しさは尋常ではなく、凛々しい姿からは他を圧倒する力を感じさせた。日由里は女王の姿を見て釘付けになった。そして、この女王はきらびやかな衣装などで飾る必要など無いということを理解した。

 すべてを包み隠さず有りのままに見せる。これこそが本当の指導者の姿であった。


オルタナの女王…終わり


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