第06話 主人とメイド?
長かった。
今回もきっと修正がいるでしょう。
気になることあったら何でもお聞きしてください。
その日の夜、寮の自室の隣の仁吾の部屋に来ていた。
「じゃあ、完全に南雲に騙されていたわけだ。ハッハッハ……!」
「笑い事じゃないよ……」
一通り説明した後に起こったのは、仁吾の爆笑だった。
「でも別に入ればよかったんじゃないのか? 考えればおいしいことだらけだろ。卒業後の事もバッチリだし、あの生徒会長と一緒にいられるわけなんだし、なんで断ったんだ?」
「確かに良いことは多いよ。でも魔法が使えるわけじゃないしね。そんなの申し訳ないから」
「それでもいいって話なんだろ? 決闘してまで断らなくても……」
「でもそれだけ僕の能力が人に知られる。」
刻季は決然としたように言った。
そして仁吾は気づいたみたいに
「そういえばそうだな……。でもお前生徒会の面前で使ったんじゃないのか?」
「うっ……。けどそうするしかなかったし、萌葱は生徒会のみんなは信用できるって言ってたし……」
「南雲がそう言ってたならそうかもしれないけどな。できる限り気をつけるべきだろ。刻季はどこか問題を好む傾向があるからよ。」
「仁吾ほどじゃないよ……」
そうかな、と仁吾はポリポリと頭を搔く。
「中学のときに問題を起こしてなぜか一緒に僕まで怒られていたのを忘れてないだろうな」
「まあ……過去は過去、だろ」
「そんな台詞で済まされるほど軽い問題ばっかじゃないでしょ……。あの小学生のときはそれなりの温厚派で知られていた萌葱が規則とかに厳しくなりだしたのは仁吾のせいだからな。本当に可愛いやつだったのに……」
純粋で無垢な子だったと刻季は記憶している。
「確かに俺が知ってるのは厳しい南雲だけだな。でも今でも可愛くないわけではないだろ」
「まあ……ね。容姿は抜群に可愛いよ。それこそ生徒会入っても良いくらいにね」
「その点は刻季も劣ってないだろ」
「冗談やめてよ。別に冴えない奴でいいから……。それくらい自分でわかってる」
謙遜しているようには見えない。
「別に冗談じゃねえけどな。お前がそう言うなら良いよ。どうせモテても南雲のモンなんだし」
「萌葱とは別になんでもないただの幼馴染だよ」
「ふ~ん」
仁吾は意味深な笑みを浮かべる。
「まぁとにかく一件落着したのか?」
「萌葱がうまく言っといてくれれば……たぶん、あるいは、」
「どちらにせよ明日になればわかるか。どうせ朝はいつものがあるだろ」
「見ない日はないからあるんじゃないの?んじゃ部屋に戻るよ。おやすみ」
「おう!おやすみ。明日が楽しみだな」
「変わってくれるか?」
「あの会長なら……構わない」
なんて軽口をたたきながら仁吾の部屋を出る。
相談のつもりで来たのだが相談にならなかった。
しかし気持ちはそれなりに晴れているようだった。
なんか愚痴を言いにきたみたいで情けない、と自嘲気味にそう思って隣にある自室のドアを開ける。
まだ6時を回った程度だが、今日はいろいろあったからシャワーを浴びて直ぐに布団に入ろうと意気込みながら……。
ドアの奥には何かいた。
いや何かでは失礼だろう。
華音がいた。
制服姿にエプロンをかけて。
顔には表情らしい表情がなかった。
今日は色々あった為、何かと思うことがあって彼女の顔に笑みは浮かんでいたが、実際はクールな人なのかもしれないな、と異常事態に瀕して刻季は冷静に分析していた。
やっと我に返る。
だが我に返ったところで目の前の異常が変わるわけではない。
……なんだ? 何が起こっているんだ?
何故僕の部屋に天原会長が?
ていうか何その格好!? 若妻なのか!? 若奥様なのか!?
、と刻季の頭の中に様々な疑問を駆け巡る。
思考が追いついていかない。
今日のことの疲れや華音に対する罪悪感に加え、目の前で起こっていることのせいで混乱に拍車がかかる。
彼女は無表情ながらも確たる意志を持ってこう言った。
「おかえりなさいませ、羽間様」
・・・・・・・・・・・へ?
あまりのことに唖然とする刻季。
その様子にキョトンと小首を傾げながらもう一度
「おかえりなさいませ、羽間様」
聞こえてないと思ったらしい。
二人しかいないこの空間で聞こえないなんてこと有り得ないのだが……
「え、ええ……。ただいまかえりました……」
色々な疑問が生まれるなか、やっと出てきた言葉は何故か普通の返事だった。
「はい、おかえりなさいませ。 ご飯にしますか? お風呂にしますか? それとも……」
そこで頬を赤らめて言う華音。
その表情は世界中の男を虜にすることができる力をきっと持っているだろう。
ホントになんなんだ!?
こんな表情をもらえるようなことを僕はしていないはずなのだが……
刻季の今日したこと
・生徒会に入ると思われていたのをあっけなく断った(原因は萌葱にもあると言っていいよね?)
・失礼にも決闘を申し込んだ(やむを得なかった事情有りと思われる)
・魔術が使えないと言っておいて似たような能力を使った(もしかして騙したことになるのか?)
・腹に拳を叩きこんだ(…………………………)
……思い返してみても洒落にならないことばかりやっていた。
特に最後のは酷い……
それなのにも関わらず目の間にいる女性は刻季に向かって素晴らしい表情を向けている。
(やばい、惚れそうだ。)
……と刻季が思ったかは定かではないが、そうなるのも仕方ないと思えるほど魅力的な表情だ。
華音は頬を赤らめたまま、刻季の返事を待っているようだった。
「あの……会長?」
「はい? ご飯の用意もお風呂の用意もしてありますよ。そして……」
そしての後が気になったが
「いや、それは一先ず置いておいてください」
「そう……、ですか?」
ちょこん、と首をかしげている。
「それではなんなのでしょうか?」
「では……。何故会長が俺の部屋にいるのですか?」
「それは、羽間様にご奉仕をしようと思いまして」
「そしてその羽間『様』ってのはなんなんです!?」
あまりにも聞き逃せない言葉だ。
「お仕えする方をその様に呼ぶのは間違っているでしょうか」
「お仕えする……?」
当然のように唖然となる。
もちろん「仕える」という意味が理解できないわけではないが、理解を拒んでいる感覚を脳に感じている。
「はい。私は決闘の敗者ですから」
とあっさり言い放つ。
「なぜ負けると仕えることになるんでしょうか……?」
「私は天原家ですから……」
と華音の顔に少しの影が差した。
「天原家は魔術師の家です。魔術師とは弱者が強者に仕えるとなっています」
確かに刻季も昔の魔術師はそのようにして家を大きくしていくと、家格を高めると聞いたことがあった。
たしか必修科目である『魔法史』で習った。
しかし、
「今はそんな時代でもないじゃないですか」
現代では魔術は誰にでも学べるところにある。
昔の魔術師の数百倍、数千倍の数がいるのだ。
そんなことをしなくても家は大きくなる上に、才能さえあれば人が集まる。
実際弟子などを取っている例もいくつもある。
それでも華音はそんな返事を予測していたかのように
「私の家は天原です」
「……」
天原家
12師団の一角にして魔術の歴史そのもの。
それこそ日本魔術史の最初から名前が出てくるほどの古い家だ。
その名前が出てくるとなかなか言い返せなくなるが知り合いに一人師団の家の出がいる。
「でも萌葱とは決闘をしてもその様なことにはなりませんでしたよ?」
萌葱とは物心がつく頃から戦いをしていた。
刻季が負けることはなかった。
南雲家も師団の家だ。
萌葱の父親の代で現在の師団の次席に就任している。
「南雲家は新しい血を入れることを積極的に行っています。そして現在の当主も寛容な方です。そのようなことになることは無いでしょう」
刻季は、確かに萌葱の父親がそんなことを気にしている素振りはなかったなぁ、とどこか他人ごとのように思っている。
「しかし天原は違います。記録によると現代まで20旅団以下の家格との婚姻がなされたことは一度もございません」
20旅団は師団の直の下位組織にあたる20の家だ。
成立は師団の成立から50年後だったと刻季は記憶していた。
要するに、根っからの古い家ということだ。
魔術師の血を薄めないように婚姻まで仕切っている。
そんなことまでする家柄で過去の事だと、過去にだけ行われていた事だと割りきれなかったようだ。
「たとえ羽間様がお仕えしないことをお許しなさると申されましても、私のお父様は許すことは無いでしょう。なので是非、私を傍に置いてください」
ここにきてようやく、どうやら自分はとんでもないことをしてしまったらしい、と刻季はようやく思い至った。
華音の意思は固いようだった。
この部屋に来てからの確たる意志を持った瞳は少しも色を損ねていない。
その瞳を見ながら刻季がしたことは
「あの、とりあえず仕えるとか仕えないとかは置いておいてください」
先延ばしだった。
「色々聞きたいことがあるんですが聞いても良いでしょうか?」
「はい、我が君。なんでもお答えしましょう。それと敬語をやめてください」
敬語の事は無視をして質問をすることにした。
「では遠慮なく……」
前置きをしっかりと置き
「その格好はなんなんですか!?」
制服姿にエプロンという男子高校生が彼女にやってもらいたいシチュエーショントップ10に入るであろう憧れの格好だ。
「これですか?」
と華音はエプロンの裾を掴んで言った。
刻季が首をコクコクと振ると珍しくすこし不安そうな表情を浮かべ
「似合ってないでしょうか?」
「いやめっちゃくちゃ似合ってますよ!!」
思わず叫んでしまったようだ。
そして華音はその答えに安心したように微笑んだ
「それは良かったです。ありがとうございます」
彼女の笑顔には魔力が込められているのではと推測出来るほど魅力的な笑顔だ。
「ってそうじゃなくて! なんでそんな格好してるんですか?」
「羽間様がお喜びになると思いまして……」
「確かに僕は今この降って湧いたようなこのシチュエーションにかなり喜んでますが……」
本音をぶちまけている刻季。
ありがたく状況を享受しているようだった。
「まあそれは置いておいて……」
しかも嬉しいからそのままにしておくようだった。
意外とちゃっかりとした少年なのかもしれない、と華音は分析していた。
「それから、ここ男子寮ですよ?」
刻季がそう言ってもキョトンとして、なにが?って様子だ。
「どうやって入ったんですか?」
「生徒会権限です」
「それ悪用しすぎですよね!?」
たしか刻季が生徒会に入ることを断った時も使っていた。
「ですが、なかなか入ってくださると仰らなかったので……」
「僕の意思は!?」
拗ねたように言う華音に刻季はつっこんだ。
もしかしたら彼はツッコミなのかもしれない。
「南雲さんから入ると聞かされていて、突然断られると意地になってしまうものです」
頬を膨らませて華音は憮然して言った。
萌葱は何と伝えたのだろうか、と気になっている。
「僕入るだなんて全く言ってないんですけどね……」
「そんなに生徒会に入るのが嫌でしたか?」
「決して嫌なわけではないですが、……むしろかなりの高待遇でぶっちゃけ入りたかったです」
「ならどうして……」
「僕魔法が使えませんから」
にこっと笑って言う刻季。
すると何故か華音は顔を赤らめた。
「あなた様の笑顔はどこかずるくて、凶悪ですね……」
「え? なんですか?」
刻季は華音がボソッと小さい声で言ったため聞こていないようだ。
「いえ、なんでもございません」
「そうですか……」
刻季もそこまで気になっていなかった。
「それでは何故私は羽間様に負けたのでしょうか?」
華音は赤らめた顔を元の無表情に戻すと言った。
「魔術が使えない羽間様にどうして私は完敗したのでしょうか?」
「答えなきゃダメですかね……?」
「もちろん、強く聞くことは出来ません。しかし仕えることになった以上主人の事は出来る限り知りたいと思っています」
それは真剣な願いだった。
「仕えるとか主人とかうんぬんかんぬんは置いてお教えします。ですが約束があります。他人にこの情報を教えないでください」
「他人とはどの辺りから他人に該当するのでしょうか?」
「先程あの場にいた方達なら大丈夫でしょう。萌葱も信用しているようでしたし、僕の代わりに説明してもらえると逆にありがたいくらいです」
「かしこまりました、我が君」
恭しく頭を下げる。
刻季は何かこの女性がやることは全て様になっている気がすると思っていた。
説明を始める。
ここまで踏み込んできた人は久しぶりだった。
「僕は魔術が使えません。しかしそれは魔力が無いということではないと昨日も言いましたよね?」
「はい。人より魔力所有値が高いぐらいでした」
「そうです。魔力の所有値が高いということは即ち、魔力をより多く身体に溜めることができます。そこに昨日はあなたの魔術で使用していた魔力を吸収し溜めました」
「魔力を吸収し溜める……?」
「僕は特異体質なんです。最高で5mほどの近さにある魔力を吸収することができます」
「もしかして魔術が突然消えていたのは……」
「失礼ながら僕が吸収しました」
「ですが今は何ともありませんが……?」
「魔力を吸収する範囲は自分である程度調整できます。だから現在は僕の0距離のところの魔力が吸われているということになります。それと僕が吸収出来る魔力は体外に無いとダメなんで一度魔術などを使用しないと吸収できません」
「色々と制約のあるモノなのですね」
しみじみとした感じで華音が言った。
なかなか順応能力が高い。
だがこの能力はそれだけで終わらない。
「そしてこの魔力を僕は使うことができます」
「ですが羽間様は魔術が使えないと……」
「魔術は使えません。いくら練習しても使えないままです。ですが魔力は使えます」
「魔力を使うと魔術を使うとはどう違うのでしょうか?」
確かにほとんど同じ意味の言葉だ。
「吸収した魔力を使う能力です」
「能力ですか……」
吸収よりも恐ろしい能力。
忌避された能力
「それは時間を止めることです」
「時間を止める能力……?」
「はい。自分にある総魔力量の分だけ止められます。そしてその間だけは僕以外の存在は何もすることができません。ただただ止まっています」
淡々とその様子を思い浮かべながら刻季は説明した。
「もしかして突然殴られたのは……」
「もちろん使いました。あの節はどうもすいませんでした」
殴ったことを思い出してペコリと頭を下げる刻季。
「しかし能力を使わない限り勝てないと思いましたから使いました。会長は本当に強いです。能力を使わなきゃあっけなくぼろ負けしていたでしょう」
「いえ、我が君。その能力も含めてこそ羽間様です。私が勝つなどというそんなおこがましいこと仰らないでください」
なんか本気で言ってるようだった。ほぼ心酔の域だ。
困りながら刻季は言った
「僕なんて碌でもない人間ですから。そんなこと言わないでください」
「羽間様が碌でも無いなんてことは万が一にもございません。冗談でもそんなこと仰らないでください。私悲しいです」
思わず同情したくなるくらい悲しさが伝わってきた。
僕の事なのに……、と刻季が刻季自身に同情しかけた。
刻季は埒があかなかったので話を進めることにした。
「と、とにかく! 僕はこの能力があるから生徒会に入ることはできません。せっかくお誘いいただきましたが……」
「もう生徒会は良いんです」
「……へ?」
刻季は情けない声を出した。
「役職上とは言え、私の下に羽間様を据えることはできません。まさか生徒会長をやめるわけにはいきませんし」
「そっちッスか!?」
「そっちッス!」
華音が砕けたセリフを初めて聞いた。
言った本人は照れて顔を赤らめている。
なんかギャップっていいね!!
と、刻季は声高に叫びたかったが、華音の手前我慢した。
「それでは質問は終わりでしょうか? 羽間様」
顔を赤くしながら華音は言った。
「あと二つほどいいですか?」
「はい。なんでもお聞きしてください。」
「その羽間『様』と言うのは何とかならないんですかね?」
2つも歳下に様呼ばわりは無いだろう。
「『羽間』様、ではお気に召しませんか?」
「気に入らないってわけではないんですよ。ですがやっぱりこう……、そうだ! 出来るだけ親しみを込めた呼び方のがいいんじゃないですかね?」
「親しみですか?」
華音はその言葉を聞いた瞬間ぷるぷると震えだした。
何かやらかしたかと刻季は不安がるが。
「私、嬉しいです! 主人となられる方にそこまで気を使っていただいて」
苦し紛れに言った言葉で思いのほか喜んでくれた純粋な華音は満面の笑みを浮かべて言った。
「えっ……あっはい! 喜んでもらえて嬉しいなぁ……」
目が完全に泳ぎながら言っている。
いつの間にか主人という単語を許容していることに刻季は気づいていない。
「嬉しいですがその前に羽間様、私への言葉づかいを何とかしてくださらないと困ります。これからは私の事を華音と呼び、敬語をやめてください」
「ええぇっ……、それはちょっと……」
「それでは呼び方は残念ですが、そのまま据え置きとさせていただきます」
厳しく言い放つ華音。なんか通販番組みたいではないだろうか。
「わかりました。……いやわかったよ。華音………………さん」
「『羽間様』」
睨まれた。
あの美女がこんな威圧を放てるのかと思うくらい。
萌葱も怖いか……、と刻季は思い至った。
しかしこれでは呼び方を変えないらしい。
恥ずかしさが頂点に登りながらも意を決して
「華音」
名前を呼んだ。
華音自身も恥ずかしくなりながらも
「はい、刻季様」
にっこりと……
笑ったのは良いのだが! 笑ったは良いのだが! 可愛いのだが!
「刻季『様』じゃなんにも変わって無いんじゃないかな?」
「『羽間』様から『刻季』様ではだいぶ変わっていると思いますが、親しみも込みますし」
根本的な解決になって無かった。
「ダメでしょうか……? わかりました。あまりに生意気すぎでした。反省します」
無表情だがどこか悲しそうにしながら言った。
しかし華音はその後も
「でしたら『旦那』様とお呼びさせていただいてもよろしいですか?」
爆弾を落とした。
エプロン着てもらい『旦那様』とは良い身分である。
今の時点で萌葱に一回、仁吾に一回、学園の生徒に数百回殺される心配があるのだ。
刻季の新しい友人にも華音のファンは多数いる。
だからなんとかそれだけは回避しようと刻季は頭を下げながら
「それだけは勘弁して……、刻季で構いませんから……」
華音はパッと顔を明るくして言った。
「はい! 我が君、刻季様」
結局根本的な解決には至らなかった。
しかしこの表情が今僕にだけ見れるなら良いかな、と刻季は思っていた。
殺されることは変わらない気がするが……。
「それで刻季様、もうひとつの質問は何なのでしょうか?」
刻季は今一番向きあいたくなくて目を瞑って逃れようとしていたものに触れることにする。
逃れられないと判断したのだろう。
そして声を張り……
「そのでかいボストンバックはなんなの!?」
見えていたのだ、しかし見たくなかった。
思いっきりバックの口は開いていて中には服やら化粧ポーチやらが顔を出して覗いている。
短くても1週間程度外で過ごせそうな量の日用品だろう。
またしてもキョトンとしている。
「それはお泊ま……」
刻季はそこで華音の話を区切った。
聞きたくない単語が聞こえてきそうな気がしたからだ。
半分以上聞こえているようなものだが
「華音は自宅から学園に通っているんだよね!?」
強引にそこまで聞きたくないことを聞く刻季。
不審に思いながらも丁寧に華音は答えた。
「ええ、私の家は都市学園内にありますから。……あの、それがなんなのでしょうか? 刻季様」
「帰る家が近くにあっていいなぁ! 僕なんかもう10日以上も帰ってないから、姉さんが今頃寂しがってるんじゃないのかなぁ! いやぁ羨ましい。僕も家が近くにあったら毎日そこに帰るよ!」
まるでわけのわからないことを言いながら、何とか華音を自宅に帰そうとしている刻季。
ただそんなのが通じるわけもなく。
「私も今日から当分帰れないんですね。少し寂しいです」
何処から帰れないんだ?とは聞けなかった。
答えははっきりしている。
あまり権力を使うことを良しとしなさそうな彼女が権限を使ってまで男子寮に入っていることが何よりの証拠だろう。
でも聞かなければいけない。
答えが未定から確定に変わってしまったとしても。
今日何度目だ思えるくらい意を決して刻季は聞いた。
「華音はこれから帰るんだよね?」
「何言ってるんですか? 刻季様。もちろんこれからのお世話をさせていただくに決まっているじゃないですか」
ものすごいくい気味で答えをかぶせてきた。
刻季が帰ると発するとほぼ同時に返ってきた。
少し声が弾んでいる為、表情は無いがどこかルンルンしているように見える。
やはり聞きたくなかった。
学園は国立の為お金はあるが、生徒に使えるのは限られていて学生寮はいくつもあるがそう大差はなく、すべてワンルームである。
このあとこの美女を返すのに3時間程かかって、華音が作った食事を食べる前に寝てしまった。
それにしても良く帰ってくれたな、と夢の中で刻季はおもった。
華音キャラ変わりすぎだろ、とかすいません。
好みのキャラにしすぎました。
今回で完璧にストックが無くなりました。
プロットはあるのですが、合ってないようなもんです(笑)
出来る限り早く更新したいと思います。
次回でやっと冒頭に戻ります。
ホントに長い一日だ。