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第05話 能力

読者様ありがとうございます。


それでは……


刻季いっきまーす!(笑)

あれから役員達と空明ヶ崎学園第5体育館に来ていた。

刻季は最初この学園の地図を見たとき驚愕した。

学園が東京都の約1/20を全て所有しているのだ。

その中に校舎や寮や医療機関、国道やモノレールの線路に空港、飲食店やショップやレジャースポット、そして政府や研究機関など。

ここにないものは、歴史的な建造物や海くらいのものだ。山はある。


学園都市、いや都市学園に近いのかもしれない。

ちなみに他の区の優遇学園はこの学園よりも規模が大きい。


学園生で庭付き3階建ての家なんてのがある人もいる。

古い名家の人たちは、その大抵の家が学園の一部を所有しているので寮住まいせず実家から通ったりもする。

萌葱もそのうちの一人だ。


空学は生徒数も尋常でなければ、日本規模の学校なのでここでなんでも済ませてしまえる。

その代わり極力学園外へ出ることは原則禁じられている。

そして彼らがいるここ第5体育館は学園が所持している12個の体育館の中の一つだ。

現在開いている体育館が第5の他に第11しか空いていなかったので、どちらかと言えば近い第5体育館へタクシーで来ていた。

近いと言っても20分程かかったが。


保美によると学園内の体育館は魔術の使用を想定して作られているので、壁や天井などは鋼鉄でできていてその上に詳しくはわからないそうだが強力な耐久魔法・防護魔法がかけられているそうだ。

これほど対策をたてているにもかかわらずまれに修復が必要になることがあるらしい。

今回もそうなるのであろうか、と役員のみんなは不安がっていた。

会長はそれほどまでに強いのか、と刻季は不安になるどころか楽しみになった。


別段戦いが好きなのではないが、強い人は単純に興味があると彼は言う。


タクシーの中で巽が必死になって説得していた。

こんなの入った後にやりにくくなるだけだ、魔術が使えないのにどうするつもりだ、等々。

もう巽の中で刻季が入ることは確定しているみたいだ。まだ戦う前なのに関わらず…。

失礼な、と刻季は少し思ったが言わないでおいた。


体育館の半ほどまで行くと、刻季は華音と向かい合う。

離れている役員たちの緊張感が伝わってくるが、華音は平然としている。

役員はきっと僕を心配しているんだろう、と刻季も気づいた。

萌葱も不安そうな面持ちを切らずに眺めている。



「二人ともいいですか?」

臨時審判の巽が確認する。

今二人の距離は決闘で一般的な初期距離の10m程度離れている。


「ええ、大丈夫です。羽間さん、よろしくお願い致します。」

離れている華音が優しい声音で言う。

決闘前なのに、仁吾とはえらい違いだ、と刻季は口元を緩ませる。

「こちらこそよろしくお願いします。」

俺は軽く頭を下げて応じる。


巽は確認が終わると一回深呼吸をし、落ち着きはらった。

そして二人を交互に見ると

「始め!」


決闘が始まった。


「行きます!」

華音が動き出す。

遠隔的な攻撃魔術は使わず、強化魔術と加速魔術を使用してこちらへ一気に近づく。

自分が魔力を使用してないので消耗の早い攻撃魔術を使わず、手短で、安全で、魔力の消費も少なく済む打撃で終わらせようとしたのだろう、と刻季は理解した。


ものの一瞬で華音が右足、左足とたった2歩進むと二人の間にあった距離は半分ほどになる。

彼女は体の動き方できっと身体の硬化魔術も使っている、と悟っていた。

打撃だと勝負は決しやすいがカウンターに気をつけなければならない。


その華音は刻季の近く3m程に来ると、途端に動きが遅くなる。

まるで重たい何かを背負っているような動きだ。

それは錯覚でしかないのだがそう比喩するのが一番しっくりきた。

先ほどより数段動きが鈍くなる。


何が起こったかわからない。わかってない。

あまりのことに反射的に刻季から距離を取るようにする。

華音はその時使用していた魔術、そして魔力が消えていることに気付き、

そして驚愕した。


魔術を消滅できる魔術。

魔力を消散できる魔術。


そのような類の魔術は、現在この世界では存在が確認されていない。

同じ威力の魔術同士をぶつけることによって似たようなことは可能だが、目の前にいる彼は魔術が使えないと言っていた。

そんな嘘をつくとも思えないうえ、魔術の使用動作もまるで確認できなかった。

しかし確かに華音の魔術は消えていた。使用した魔力ごと……


魔術自体昔からすると決して常識とは言い難い。

だが目の前の彼に比べると、非常識の度合いに開きがありすぎた。


そう思うと、そう思い始めると、目の前の存在に恐怖する。

決闘をすると決めてから、手を抜こうとなど全く思っていなかった。

確かに魔術が使えないとは聞いていたが、それでも決闘を申し込むからには何か他の手立てで勝利をとりに来ると思っていた。

だから彼に失礼のないように、入ってもらった後も諍いが残らないように、気絶程度におさえるように、それでもしっかりと闘おうとした。


そんな気遣いを微塵も必要としていなかった。

目の前の少年は決闘が始まると、年相応の笑みを浮かべていた。

つい先ほどの勧誘していた時の大人びた様子は残っていない。

本気で楽しんでいる。

生徒会長である華音を前にして……


この学園に今までそのような生徒が入ってきたことは無かった。

少なくとも華音が入学してからはいなかった。

それどころか決闘の申し込みも数えるほどの生徒からしか来なかった。

この学園での一番の規格外、それが―空明ヶ崎学園生徒会長、天原花音だった・・・


それ以上の規格外――”それ以上”で片づけられない程の……それではおこがましいほどの――と今対峙しているのだと身体中が警告を発している。

しかし、その危機を眼前に晒しながら、驚愕しながらもそれを隠さず華音は笑みを浮かべる。

刻季はそれを見て、更に無邪気に笑った。


「羽間さん、私は少し……いえ大分あなたのことを侮っていたようです。申し訳ございません。そして……」


彼女は息を溜めるようにしながらも笑っていた。

今まで見た表情で一番愛らしい笑顔だ。

「本気を出させていただきます!」


きっと会長は力を抑えに抑えて戦っていたのだろう、と刻季は思った。

役員は驚いている。このヒョロそうな生徒に本気を出すということはどうなるか分かっているようだ。

その上魔術も使えない。

下手すれば死ぬこともあるだろうと当然のように役員は思っていた。

幸継は早く終われ~とわかりやすい顔をしていた。

萌葱は別の点で不安になっているようだ。

しかしやめられない。


強者との戦いを……。

――あくまで相対的・・・な強者だ。

――絶対的・・・な強者は自分だ。

――だから負けない。


「会長に本気を出していただき光栄です。だから……」

意地悪そうな笑みを浮かべ、

この能力これは内緒ですよ?」

能力をしっかり使うことにする。



華音が動く。

先ほどに比べられない程、段違いの速さで近づく。近づいてくる。


刻季は能力の範囲を広げる。


華音が魔術の消滅と思っていた行為は似て非なるものだった。

実際には、魔術を強制解体・・・・・・・し、魔力を吸収・・・・・する。


相手の魔術を、魔力を自分のものにする。


そして自分で使う。


唯一自分で使える方法で……



華音は人間に出せる速度をとんでもなく超えて刻季の後ろを取る。

後ろから攻撃を加え一瞬で勝負を決しようとしている。


刻季はそれを見越していたような様子で、空気中にて浮遊している魔力(その場合、マナという)の吸収と華音の使用魔力の吸引を感じ、能力の使用条件が整ったことを把握した。


異能だ。

使う能力は魔法ではない。

異能だ。

能力を発動する。魔力の世界では散々忌み嫌われ、研究対象とされかけた、自分だけの能力。

僕だけのもの。

この能力は僕だけのものだ。


能力を発動させる。

途端に華音の動きが止まる。周りのみんなも止まっている。

もちろん驚いて止まっているのではない。

物理的に止まっている。


魔法の代わりに使える能力。


時を止める能力。


制限時間は今の自分の魔力の蓄積量だ。そう余裕はない。

相手はさすが会長だけあって魔法の使い方に無駄がない。

これは確かに本気だ。

予想より魔力の吸引が出来なかった。


しかしそれでもやることはやれる。

徐々に減っていく魔力に気付きながらも華音に近寄り拳を握る。

能力を解除しながらそのままそれを腹に叩き込む。

女性に対してなので優しめに、と一応言い訳はしておく。


ぐふっと衝撃で息を吐き、華音は膝をつく。苦しそうにせき込んでいる。

そして恐る恐る刻季の足元にあった視線を上げる。

見上げる華音の眼には、鎮痛の思いと驚愕――何が起こったのかわからないといった思いが書いてあるようだった。美貌が揺らいでいる。

周りも萌葱以外は状況の把握をしていない。

男性陣に限っては口をあんぐりと開けていた。きっと華音は畏敬の対象だったのだろう。



数十秒時間が流れる。

誰も口を開こうとしない。

無言に堪えかねて俺は、「え、ええと…」と声をもらす。

まだ誰にも動きも返事もない。

「あの、だいじょうぶですか?」

その声にやっと我に返ったかのように、眼に力が戻った華音は

「あ…、はい。心配いりません」

ようやく返事をした。


「い、一応僕の勝ちでいいですかね」

「はい。それは良いのですが、何が起こったのですか?」

言いにくいことをいきなり聞いてきた。刻季は視線をあちらこちらに逸らす。

そこで体に力が戻ったらしい華音は立ち上がり

「羽間さん、私は負けました。参りました。」

と深く頭を下げた。


役員みんながこちらに集まってきた。

みんなの視線が刻季に集まる。萌葱は彼を安心したような、しかしどこか非難するような目で見てくる。

甘んじて受けようとは思いながらも怖くて目を合わせられない。


「えーと、よくわかんないけど刻季君の勝ちってことなのかな……?」

巽が驚愕を隠さずに言った。

「ええ、たぶん……僕の勝ちだと思いますけど」

「それで、どうやって勝ったの?」

巽が疑問をぶつけてくる。他の役員も同じのようだ。


助けを求めて萌葱に目線をやると、怒ったように、フンっと無視をしてくれる。

要するに長い永い付き合いの幼馴染は助けてはくれないらしい。

この状況はもとはと言えば萌葱のせいじゃないのか……、疑問が湧いたが結局のところ自分のせいだ。

それだけのことをしてしまったのだから仕方がない。


その間も巽たちはこちらへ向ける疑問と困惑、興味をそらさない。

そこまで身長が低いわけではないが皆を上目づかいで見るような感じになっていく。


「あのですね……、これには事情がありまして……」

「事情とは?」

「それは……色々な……」

「色々とは?」

「そ、それは…。」

攻撃の手を緩めようとしない役員達。

気を使うだけの余裕は華音が負けてなくなったらしい。


あまりにも問いかけに困った刻季が次に取った行動は

「し、失礼します!」

逃走だった。

それはもうボルトも吃驚の逃げ足だった。

「羽間さん!?」

「刻季!?」

二人のそろった驚く声が聞こえる。

「あの馬鹿……!」


ついでに罵倒も後ろで微かに聞こえた。


次回華音がデレる予定です(笑)

はやーとかの意見は勘弁してください。


出来る限り早く更新したいですが、少し遅れるかもしれません。

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