第02話 人だかり
その中でもひと際輝いている人が見えた。
――天原華音生徒会長。
彼女が放つオーラのようなものは神々しいばかりに光って見えた。
それに彼女の周りには心なしか集まる人数が多い気がする。
実際、中には本気で告白している人も見える。
噂では年間の告白回数が1年の日数では追いつけないそうだ。
さすがにそのようなことは噂の域を出ないだろうが、しかしその噂が流れる気持ちもわかる気がした。
そして、魔術の名家に生まれ、学園内でもかなりの有力な実力者らしい。
それもそうだろう。
天原家と言えば数百年の歴史を誇る、日本の数ある魔術連盟のまとめ役である12師団の一角である。
12師団はそれこそ世界中に魔術が広がる以前から存在し、宗教徒との戦争に控え結成した連盟で日本の魔術歴史とは切り離せないと言われるほど、長い間日本の魔術界の頂に結成以来君臨し続けている。
勿論12家とも有名すぎるくらいなのだが、天原家は12師団トップである、50年に一度決められる主席に幾度となく選ばれていることから一番高名な家。
そんな名家中の名家のお嬢様である。
そして伝統こそないが、魔術優遇学園の生徒会長である。
その上とんでもなく美人だ。
もともと綺麗な原石を磨きに磨きあげて作った宝石のような練成された美しさが彼女にはある。
高校生にしてすでに、完成形のような存在だ。
僕は真横にいる仁吾に目をやると、天原会長を見ていた。
確かに綺麗だよなぁとあんまり興味なさげに欠伸をしながら
「仁吾なら会長とでも会える機会多いんじゃないの?」
仁吾の家柄も良い。
「そうだな。でも特別仲良いってわけでもないし、まず家格が違うからな。あっちは魔術派閥だったのに対しこっちは国家派閥に属していたわけだ。まったく別物なんだよ。ただ同じように魔術を使っていたってこと以外はな。最近は家同士がそれなりに仲良いみたいだからパーティーに誘われたりするけどな」
「ふーん、羨ましい限りだね」
僕はまるで羨ましくなさそうに言った。
その態度に大笑いする仁吾。
仁吾は笑ったまま高い身長を生かし人ごみを見下ろし
「それにしても本当にいつもいつでもすごい人気だよな」
「生徒会に入る条件でルックスって項目でもあるのかな」
軽く皮肉を込めた冗談を言った。
「あるんじゃないのか? 南雲も生徒会に入ったようだしな」
と今はここにいないが、友人にして僕の幼馴染の名前が出てくる。
「……確かに、萌葱が入ったとなるとその条件の信憑性がすごく高くなるよ」
「あいつもものすごい美人だろ。そんでもって現生徒会役員はみんなイケメンや美人ばっかりだ。なんか疑う要素すら見つからないんだが…」
仁吾が改めて人だかりの中を見ると、ため息をもらした。
「あれで全員魔術の実力者だろ?」
「まぁ優遇学園の生徒会に入るくらいだから相当なものだと思う」
「実力にルックスかぁ……。何か足りないモノあるのかな? ねーよな」
仁吾が軽く自問自答する。
そして思いついたかのように
「そういや、実力にルックスならお前も相当なもんだけどな」
「はぁ? 何を言ってるの? こんな根暗そうに見える奴のドコがルックスいいのさ」
「その長―い髪を切ったら大層男前……女前な顔が出てくることだろうよ」
「仁吾に言われると皮肉にしか聞こえないんだけど……」
なんか気になる単語があったみたいだけど
「ふーん……、まぁお前がそう言うならいいけどな」
「それをいうなら仁吾が生徒会に入っちゃいなよ」
「俺には無理だよ。事務仕事とかもありそうだし」
「無理そうな理由ってそれ!?」
「お前のが生徒会には合ってるって、融通も利くし人との調和が得意だろ? それに実力だって相当な―」
「魔術も使えないのにかな?」
仁吾の言葉は僕の柔らかい声音に遮られた。
「魔術も使えないのに、魔術優遇学園に入っちゃってこれからどうしようって感じだよ」
「……」
「魔力所有値だけが高くても魔術が使えないんじゃ宝の持ち腐れだなぁ」
「実力ってのは魔術だけの話じゃないだろ。しかも持ち腐れているわけではないじゃないか」
「だけどね」
一言一言区切るように、僕は大切な我が子に諭すように
「魔力っていうのはね、魔法に使うものなんだよ。それ以外に使うようなら魔術師でも魔法使いでもないんだ。」
「……」
「僕は魔法使いになりたかったよ。戦いの実力は二の次でいいからさ」
「まぁお前の気持ちもわかるけどよ…、そこまで言うなら一回くらい俺に勝たせてくれてもいいんじゃないのか?」
苦笑して言う仁吾に僕は
「仁吾は強いよ。本当に強い。学校でも有数の強さじゃないのかな? でも僕の能力は少しだけ異常だからさ。それに手加減したら君怒るじゃないか」
「当たり前だろ。真剣勝負に手加減なんて恥さらしも良いとこだ。」
「今の戦績は?」
「うっ……、156敗だ。次こそ勝つぞ!」
「めげずに向かってきてくれるのは仁吾と萌葱だけだから嬉しいよ。しっかし魔力使わないリアルファイトならたぶんボコボコにされてるね……」
「そんなの魔力世界じゃ有り得ない戦い方だろ。それで勝っても嬉しくないし面白くもない。」
敗績を着実に伸ばしているのに何故か仁吾は自慢げに胸を張った。
「まぁ実際、仁吾と戦うと恐怖する面もあるよ。すごい鬼気迫る感じで近づいてくるからね。」
「そうか? 別段意識してやってるわけではないが……」
「なんかいつも怨念籠っているな。『勝つぞぉ…、勝つぞぉ…』って声が聞こえてくる気すらしてくるよ」
「俺はどんだけ飢えてるんだぁ!」
仁吾は自分の勝利への執念に一抹の不安を抱く。
しかしケロっと手のひらを返し
「でもそっちのが少しでも勝率が上がるからいいか」
「そんなに勝ちたいのか……」
「おうよ! 俺の中学時代からの目標だ!」
「それはありがたいね。まぁ頑張って勝ってよ」
仁吾の目標と言う言葉に照れくさくなりながらも素直に嬉しそうだった。
そろそろ教室に向かおうと思い、最後に人ごみを見ると、たまたまなのだろうか天原会長と目が合った。
会長はにっこりと微笑みかけながらも、何故か意味深な視線を送ってきた。
(なんなのだろう)
何かと不思議に思っていると隣で仁吾が僕の肩を掴んでいた。
「そろそろ行こうぜ。遅れちまうよ」
「うん、そうだね。急ごうか」
仁吾に急かされてすっかりと意味深な視線を忘れる刻季。
この視線の意味がわかるのがもう少し後である。