表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔力世界の時操者(CHroNuS)  作者: 更科 甘味
三章 動き出す物語
32/33

第30話 魔力世界の帝国

第30話です!

いままでお付き合いくださってありがとうございます。


bibliomania様ありがとうございます。

凄く助かりました。


(誰か、教えてくれ。これはなんなんだ? 何故知らない人がこの家に?)

刻季の疑惑の念が更に渦巻く。


今日、日本に於いて犯罪は一般的に珍しいものだ。

それは内戦の終結に際し、国家が刑法をより厳しいものにしたからに他ならない。

これにより日本の治安は格段に良くなった。

内戦により崩れかけていた国内を早く復興することが出来たのは、国家がしっかりと纏めたからなのだろう。


戦争が生んだ国内の被害は甚大なもので、遺恨(主に魔術師と宗教徒の)は50年経った今でも無くなるどころか険悪さは立ち込め残り、それらを統治している国家は恨まれることも多いが権威を確立させるためとはいえ、刑を重くしたのは結果からみて評価されるべきことだ。

これ故、現在国内の犯罪は一般的には珍しいものだ。

そう、一般的には



弱体化されているとはいえ、いや、弱体化されているから日本の三すくみの状態が成り立ち、保っている。

魔術師や宗教徒のどちらか一方が崩壊すれば、もう一方は勢いづき、国内は忽ち国家の統治から離れ、どちらかが統治することになるだろう。

それを求め、魔術師と教徒は互いに侵し合う。

だから裏での犯罪は消えない。

国家は表を司る立場なので、それ以上の事は出来なかった。

完全に支配することは出来なかった。


いくら現時点で一番権力を持っていても、一番軍事力があっても、準従属化はできても、そこまでだった。



だが犯罪が表で減ったのは評価されるべきことだ。

盗みや侵害、そして殺人など、忌避される以外の何物でもない。


もちろん、不法侵入も……



_______________________



華音がリビングから出てくると、僕の元へ真っ直ぐに向かってきた。

そのままお馴染みのお辞儀をする。

いつもながら、綺麗な姿勢に惚れ惚れしたいところだったけど、今はそうはいかない。


「刻季様?」

どこか白々しく僕に問いかけているように聞こえた。

なにを悩んでいるの?とでも訊きたいように、言いたいように


もしそう問われたらどう答えるか。

そんなの決まってる。


中にいるのは誰?と聞くしかない。


それに華音が来ているのに、澪桜姉が騒がないのがおかしい。

華音だけじゃない。

澪桜姉曰く「愛の巣」に僕ら以外がいるのがおかしいんだ。

なのに声は聞こえない。

リビングには多数の人の魔力を感知できるのに、その中に澪桜姉もいるのに、マナはぶれずにそこにただ浮遊していた。


それからもう一つ気になることがある。

これだけの魔力を持っている人たちが、それを何故むき出しにして、晒しているのか、というこだ。


挑発なのか?

それとも……。


そこまで思考が行き渡ったところで、

「刻季様、どうなさいました?」

と相変わらず姿勢の良い華音の声。


訊いたからには応えていいんだよね?

華音が敵になるとは考え難いけど、今日の魔術研究では、洗脳魔術は技術的に可能とのことだから、それも可能性としてはなくはない。


あれだけの実力者達だ。

いくら華音でもさばき切れないだろう。


どうすればいい。

何が正しい。

僕自身が間違っているのか?




そんな風にまた悩んでいると華音はこれ一言で解決できそうな言葉を発する。

「さぁ、刻季様。みなさんがお待ちです」

「…………へ?」

「ですからみなさんがお部屋でお待ちですよ?」

「…………お部屋って?」

「リビングですが……」

「……なんでかな? っていうか誰なのかな?」

「誰と申されますと、我が君の配下という以外には答えようがありません。あ、あとお姉様もいらっしゃいますが……」

「澪桜姉も? あと配下ってなに? 僕そんなのいたつもりないけど……」

「私を始めとして、刻季様には何人もいらっしゃいます!!」

突然語気が強くなる華音。

何か気に障ったのかな?


「それはともかくいらっしゃってください」

そう言いながら、僕の腕を掴む華音。

そのまま引っ張ってリビングに連れて行かれる僕。


ここに、今入るの、僕、嫌なんだけど、なぁ…………

こんな怪しい場所、そうないだろうし


帰りたい。

あ、ここ家か……

出ていきたい。


そんな僕の内心は虚しく、そして等しく華音に、ドアを開けられた。



その中には、

新築の戸建て、25畳のリビングの中には、








人がめっちゃいた。


家の中じゃ一番広いこの部屋がむさくるしく感じるくらい密度が高かった。

新築のパーティーを今すぐ開けそうだ。


と、まぁそれはいいとして……



誰?


見渡すと知らない人ばかりだ。

皆が座っているので、顔が一人一人わかる。

けど知らない。

そんなのばっかりだ。


知っているのは萌葱、澪桜姉、あと音弥さんくらいだ。

あとは知らない。


その人たちは僕に興味の眼などを向けてくる。

それに対し僕が向けている表情はきっと『混乱』だろう。

これ以外に向けられる自信はない。

というかこんなこと今冷静に考えられている自分が嫌だ。


顔に映る困惑を早くどうにかしてほしい。



そんな混乱を知ってか知らずか、音弥さんの横に座っていた澪桜姉が僕の顔をみるなり、部屋を飛んで縦断してきた。

「うわーんっ! トーくぅぅんっ」

「うわっ、姉さん……っと」

僕に飛び込んでくるそれを僕の意思は勝手にふわっと受け止めた。


受け止めた麗しの姉君は、…………泣いていた。

涙目とかじゃなく、わりとぼろ泣きに近かった。


この野郎! 誰が僕の澪桜姉を泣かせたんだ!?

そう部屋中にいる者に睨みつけるようにすると、呆れと戸惑いがあった。


「トーくぅん。あのねっ、あのねっ」

「うん、どうしたの? 姉さん」

ぐすんぐすん言いながら、必死で話し始めようとする澪桜姉。

ホントになんでこんなに泣いているの?

ちらっと萌葱を見ると、やっぱり呆れの表情を返してきた。


「トー君っ。あのね、お姉ちゃんとトー君の……」

「僕と姉さんの?」

……?



「お姉ちゃんとトー君の愛の巣に、侵入許しちゃったよっ!」


…………………………………………………………………………

…………………………………………………………

…………………………………………


「それで、みなさん、どちら様でしょうか?」

「えぇー! トー君無視なのっ!? 放置プレイなのっ!?」


音弥さんと華音、萌葱がいることからなんとなく、想像がついてきた。

だけどそれは確信では無いから、あくまで予想を過ぎない。


「これが世に言う放置プレイなのねっ! お姉ちゃん興奮しちゃうよ!」


知りえているだけで3人の実力者がいて、他の人も魔力値の高さがうかがえる。

それはつまり……


「やばいトー君! トーくぅぅんっっ!!」



そういうことだろう。



「なぁんだ。あなたは純正じゃないのですか?」

不意に澪桜姉以外の誰か、女性が京都弁のような抑揚の声を発する。

そちらを見ると、藍色の着物を着た美形の女性がいた。

華音のような神聖的ではなく、萌葱のような溌剌さもなく、澪桜姉のような華やかさもないけど、落ち着いた美しさがあった。


それよりなんだって?

純正?


その女性の延長線上にいた音弥さんを見ると肩をすくめていた。

「まぁ、とりあえず、刻季君。こっちに来てくれないか?」

「あ、はい」

澪桜姉の事もあり、なんだか落ち着いていた僕は疑うことなく音弥さんの元へ行った。


ちょうどさっきまで澪桜姉がいたところへ座る。

となりには音弥さん、反対に萌葱がいた。

眼つきで、あんたも大変ね、といってるような気がした。

伝わってしまうのが幼馴染の利点(?)だ。


「それじゃ少しは刻季君も掴めてきたかな?」

「えっ? なにをですか?」

「僕らの事だよ」

「あ~……」


わかる。

わからないはずがないのかもしれない。

今日集会があると聞かされ(ここだとは思わなかったけど)知っている師団の面々がいる。


ここまで証拠があればわからないわけがない。



――これが結社なんだ



「みなさん、初めまして。羽間刻季と言います。若輩者ですが、活躍出来ればいいな、と思います。よろしくお願いします」

結社のメンバーに自己紹介をする。

周りのみんなは、僕より年上が多く見えた。

あたりまえか。


「まぁ、これでみんなってわけじゃないんだけど、概ね揃っているから、それぞれ自己紹介――と行きたいところだけど、少しこの後用事があるから、とりあえず家だけ教えるね」

音弥さんが、一番手前にいる人の塊に向かって指差す。

これでみんなじゃないの?


重角、木櫻、常泰、とどんどん聞きなれた名前を言ってくる音弥さん。

このような、なんてことない民家に集まるのがおかしいくらいのビッグネームな人達だった。

それもそのはず

彼らは師団だ。


完全に属しているとは言い難いものの、半分足を突っ込んでいるといったところだろうか。

親が師団ということは子も師団に属すことになるわけだし。


そしてみんなを見て思った。

美男美女だなぁ、と


ここで名前を全員覚えられない僕の記憶力を恨みたいところだけど、顔と|名字(家名)だけならなんとか覚えられそうだった。


「それで、こっちのが國末家で、あとは知っての通り南雲家と僕ら天原家ってわけだ」

と一通り紹介する音弥さん。

「……他には?」

「第三区に近いところは集まれたんだけど、すぐには来れなかったみたいだよ」

「そうですか……」


それもそうだろう。

日々仕事に追われているはずの師団が高々五日で会えるなんて土台無理な話だ。

来てないのは、仙道と皹村、あと瑞葉かな。


「でもみなさんの事紹介してくれてもいいんじゃないですか?」

なにを焦っているのかわからないけど、なんだか急ぎ気味に感じる音弥さん。


「そうしたいんだけど、僕たちにもやるべきことがあって、集まっていられるのも少しだけなんだよ」

「やるべきこと?」

「うん、今回の件の警備とかも、子供たちで取り仕切ってやることになっているのは、いつものことだし。親父達が会合に集中するためにね」

「そうなんですか」

と僕が納得していると


「ちょっと!」

と向かい側に座っていた、青みがかった髪色の女性がいきなり大声を出す。


「音弥さんもなんでそんなことすら説明してないのよ!? ウチら忙しいっていうのわかってるでしょ!?」

「ハハ、もちろんわかってるよ。忙しくしたのはウチの親父だしね」


と音弥さんに噛みついているのは…………

「あちらは鈴建灯莉あかりさんです」

と後ろに控える華音が説明してくれた。

ショートカットで活発そうな鈴建灯莉さんは音弥さんが進行の悪さに怒っているようだった。


「それとねえ! そんなヒョロそうな奴でウチらのトップが務まるのっ?」

半ば強引に話を切り替えると、僕の方へ視線がとんできた。

その懸念は確かな事だ。

現に僕自身ですら思っていることなんだから。


なのに

「大丈夫だよ、灯莉。きっと君じゃ勝てないから」

なんて挑発する音弥さん。

「ちょ、ちょっと音弥さん!?」

慌てて訂正させようとするが、それを遮られる。


ピクピクと青筋を立てながら好戦的な目を向けてくる鈴建さん。

「ふーん、そのお坊ちゃんがウチに……ねぇ」

「うん、確実に勝てない。勝ち目なんてないよ」

「音弥さん! そう煽らないでください!」

「そこの男の言うとおりだよ! トー君はそこのビッチなんかには負けないんだから!」

と澪桜姉まで話に突っ込んでくる。

萌葱は相変わらず気の毒そうにしていた。

「あんたも災難ね」と

余計な御世話だ!


「ビッチとは何!?」

「トー君に近づく女はビッチだって相場が決まっているんだよ! そんでトー君は望んでもいないのに勝手に惚れられちゃうんだよ! トー君にはお姉ちゃんだけでいいのに、知らない内にね!」

近づく女って、筆頭が何を言ってるのかな?

ここまで綺麗に棚上げされると清々しいよ!


「なにを言ってるのか知らないけど、坊ちゃんにウチが勝てないって本当なんだろうね?」

好戦的な目でそんなことを聞かれると、どこか戦うための言質をとっているように感じた。



――結果その直感は正しかったことを数分後知ることになる。



鈴建さんの問いかけに

「当たり前だよ!」(←澪桜姉)

「勝てないね」(←音弥さん)

「我が君には勝てないでしょう」(←華音)

の三人が律儀に返しやがりました。

なんで問題を生みたがるのかな……

そう思いながら、萌葱と同時にため息をついた。



「じゃあ、やりましょう。……楽しみだったのよ。音弥さんが勧めるくらいの人だからどんなもんなのか……と。それに華音も懐いているみたいだし」

「懐くというより従っているだけですが……」

「不健全だ!」

「なんなのそれ!?」

と澪桜姉まで反応する。


また余計なことを……


ギャーギャー言ってる澪桜姉は後で対処するとして、

それよりこっちが先だ


「あの……急いでいるんじゃないんですか?」

出来る限り控え目に言う僕。


せっかくの集まりだけど、混乱状態にある者多数で、他は我関せずと言った様子で見ている者、何故か僕を睨むように見つめる和服の女性――確か車谷家の人だと言っていた気がする――などそれぞれだったため、もう早くやるべきことやってきちゃいなって感じだったのだ。

落ち着かない空間なら閉じてしまってほしい。


別に集まれるのは今日だけじゃないし、ね。


しかし音弥さんは興味深げな表情を浮かべ

「でも刻季君の実力を知ってもらうのは大切なことだから……。少しなら余裕もあるしさ」

ならみんなの紹介がしてほしかった、とは言わない。

きっとめんどくさかったのだろう。

僕もこの人数なら放棄したくなる。

でも戦いたくない、とは言いたい。

僕の能力は結成が決まった時からメンバーには隠すつもりのあるものではないし、実際に戦って見てもらうのも良いことだろう。


でも、


「戦うのはいいですけど、どこでやるんですか?」


この窮屈な家のどこでやるのさ。

もしここで戦って血系魔術なんて使われたら家がボロボロになっちゃうよ。

血系魔術じゃなくても尋常じゃない実力者が魔術を使えば、たとえ簡略魔術でもぶっ壊れるだろう。


「強度の結界魔術を張れば大丈夫じゃな――あ、無理か……」


結界魔術は僕の能力の前では意味をなさない。

近づくだけで瓦解してしまうだろう。

それを把握しているだろう音弥さんだったので、説明の必要がなかった。


「何が無理なの?」

「うーん……。まぁ僕達のトップをやるだけの能力が彼にもあるんだよ」

「能力って寒暖魔術じゃないの?」

羽間の血系魔術を知っているようだ。

師団だから当然なのかもしれない。


「さーて……どうなんだろうねぇ」

挑発的な音弥さん。

しかしなんであなたが挑発するんですか……

わざわざ火に油を注ぐようなまねを


「まぁ場所なんてどこでもいいわよ。それより時間無いから早くしない?」

早くしたいなら決闘やめません?

と、わりと切実に願うも口には出せない。



「じゃあ、学園の体育館はどうでしょう?」

華音が提案する。


その一言で結構悩んだのにも関わらず即決定しました。



__________________________



学園の第5体育館。

図らずも華音と決闘したところで戦うことになった。

学園も魔術界ではそれなりの名所?ではあるけど、それでもこのビッグネーム勢揃いの前では少し霞んでいそうだ。

ドリームランドにハリウッド俳優がきたようなイメージならば、的を射ていると思う。


それはともかく、体育館。

なにかの縁でもあるんだろうか。それとも華音の提案だからかな。


相変わらずゴツい体育館の中で鈴建さんと向かい合う。

鈴建さんの雰囲気はのせにのせられて興奮したようだった。

師団家の一員というだけあって、戦い好きそういうところは血筋なのだろう。


風にとばされたようにふらっと、向かい合う僕達のところに華音がやってくる。

「刻季様、本気でやってくださいね。もし刻季様が傷ついた場合、私は灯莉さんを『ピー』したくなります」

「…………なに、とつぜん、怖いこと言ってるのかな?」

「これは本心です」

「ずいぶん猟奇的な本心だね!」

そしてまた、ふらっと戻っていく。


まぁ、相手が魔術師である以上、負けないけどね。


「華音も物騒なこと言ってくれたね!」

と火をつけられたようにする鈴建さん。

望まない形で爆弾を放り込む|天才(華音)。

相変わらず爆弾魔ボマーの名は健在のようだ。



「ウチもさっさと片付けたいし、一気にいくよ!」

そう言うと空気が変わる。

一瞬にして戦いの場に出されたような感覚。




ここは今、戦場になった。


相手は魔術師。僕は能力者。


さぁ、戦わないと僕が殺られる。


一気に解放だ。


相手の魔力を吸いとれ。


そして、使え、能力を。




「なんか、不気味な雰囲気に変わったね」

「そんなことないですよ」

失礼なことを言ってくれる。


「まぁいいや」

そういうと鈴建さんは言霊を唱え始める。


風神エンリルよ。汝は我の神にして、風を司る者なり」

「我に汝の力を貸し給え。汝の力は神の敵を破り、神に栄華を与えるだろう。さすれば信仰は長らく汝のものに、この地は神の統治へと変わるだろう。さぁ、力を貸し給え。我は神代として汝の信仰を代行する者なり」

言霊が唱えられると空気が変わる。

錯覚ではなく、たぶん本当に変わった。


良く見ると鈴建さんが掲げている手の先に空気が集まっている。

まるで風の渦が出来ているかのように


「これが鈴建の血系魔術『圧縮魔術』。ウチだけ坊ちゃんの|力(魔術)知ってるのも不公平だからね」

まだ鈴建さんは僕が寒暖魔術を使えると思っているらしい。

使えたらどれだけいいことか



鈴建さんの勘違いを訂正するために、僕は能力の範囲を広げ、そして歩き出す。

「これ、喰らうとただじゃ済まないよ?」

彼女は忠告するようにいう。


「大丈夫です。喰らいませんので……」

「ほーう。なら試してみよう」

「お手柔らかに」


鈴建さんは空気の束を掴むと

「いっけえええぇぇぇぇーー!!」

と思い切り投げてきた。


僕は範囲を更に広げ、最大限の能力ちからで対抗する。

こうしないと、衝撃でとばされそうだ。

能力の範囲に魔力の息がかかったモノは届かないが、魔力を失った風は届く。

これは音弥さんとの戦いでわかったことだ。

仁吾や萌葱とじゃ相手が違う。


僕の能力の壁と鈴建さんの風の束がぶつかり合う。


壁は際限なくぶつかる風を止め、僕に魔力を流し込む。

やっぱりすさまじい魔力量だ。

師団だけある魔力だった。

圧縮された空気が、衝撃となって僕にあたってくるが、耐えられない程じゃない。

嵐がちょっと強めの風に感じるくらいには弱まっている。


さぁ魔力は溜まった。

能力を使う時だ。


合理的とはいえない魔力量だったけど、一騎討ちだったら別段おかしくはないだろう。

仁吾もこんなおかしい魔力の使い方するのが好きだし。



能力を発動する。

この能力に名前を付けるなら時空の神から『クロノス』だろうか。

こんなところに魔法使いの希望が入ってしまっている。

まぁ、そんなこと今はどうでもいいけど。



発動。


時間が止まる。

カラーからモノクロに変わるように

ステレオからミュートに変わるように


この世界で僕だけが異質になるように



……早いところ、この空間から出よう。

こんなところにずっといると鬱な考えをとめどなく溢れだしちゃいそうだ。



ていうかまた殴らないとイケナイのかな?

もう流石に嫌だ!

嫌な風評までつきそうだし、別に僕に女性を甚振って喜ぶ性癖もない。


華音の時は融通が効かなそうだったから、そうしたんであっていつも萌葱とやる時はそうはならない。

最近はやってないけど、あのやりかたで締めよう。


こうやると悔しがるんだ。ふふ。


…………………………………………


あくまで僕にそんな性癖はないので……




さぁ、この空間で僕は異質で異端で、支配者だ。

誰も、何も動いてないこの空間を歩き回ることくらい容易い。


僕は手のひらを手刀のようにして、鈴建さんのところまで歩いていく。

向かう途中、風の壁に阻まれる感覚があったけど、なんとか隙間を縫って進む。

そして目の前に立つ。

動いていない鈴建さんは、彫刻のように綺麗だった。

戦っている時の勢いをそのまま表しているようすに見える。

いや見えるのではなく、事実戦っている間なのだから。

ここにいるとついそれを忘れそうになってしまう。


まぁいいや。

僕は手刀を首に付けると同時に時間を動かす。


空間は色を取り戻す。

風がぶつかっていた音の余韻も聞こえる。


だけど鈴建さんはその場から動くことはなかった。

やっぱり正しかった。

萌葱もこうするとすぐに降参するしね。


「なんでそこに…………!?」

「すいません、僕寒暖魔術使えないんです」

「だからってなんで!?」

「というか魔術自体使えません」

「!?」


「でも僕だけが使える異能みたいなものがあるんですよ。それを使ってここまで来ました」

「異能……?」

「はい。魔術の家に生まれながらなんだ……って感じですよね。僕もそう思います」

そんなことないよ~っ、という澪桜姉の声が微かに聞こえる。

今は相手にできないので、しばらく放っておくけど


「魔術は使えません。ですが、もし僕が敵だったら殺されてもおかしくないと思います。ですから、これで僕を仲間だと認めてもらえませんか? 僕をトップだと思うのは難しいと思いますが、仲間だと思うのはそれより簡単だと思うので……。そこから始めませんか?」

トップと言っても結局は仲間ありきのトップだ。

独りでトップに立っても、それはトップではない。


「どうでしょうか?」

手刀を引っ込めながら僕は訊いた。


「…………わかったよ」

「えっ?」

「わかったって言ってるんだ、坊ちゃん。いや、頭首殿」

「あ…………」


「何を呆けてるんだよ。ウチは負けたんだし当然だろう?」

「はぁ……、まぁ……」

「これからウチは頭首だと認める。頭首であり仲間だ」

鈴建さんが溌剌そうな声を出す。


頭首であり仲間。

その言葉に少しじわっと来た。

魔術が使えないけど、どこか魔法使いの一員になれた気がして。


こみ上げる気持ちを胸に感じながら

「鈴建さん、ありがとうございます。僕嬉しいです!」

「あー、……ウチのことは灯莉でいい」

「そうですか? それでは灯莉さんよろしくお願いします!」

「あぁ。よろしく、頭首殿」

「僕のことも刻季でいいですよ」

「そうか、刻季君、よろしく」

「はい!」


そう話していると音弥さん達がこちらに寄って来て

「刻季君の能力はみんなに話しておくとして。刻季君に結社の名前を教えないとね」

「名前……。もう決まってるんですか?」

「つい最近だけどね」

そう言いながら音弥さんは


「『魔力世界の帝国エンパイアオブトリック』へようこそ。これからお願い致します。我が帝国の皇帝陛下」

と僕に向かって頭を下げた。

華音に似て姿勢はとてもよかった。兄妹だなぁ……


「ってそんな……! 頭なんて下げないでください、音弥さん! しかも皇帝ってなんですか!?」

「帝国の王は皇帝でしょ?」

「そういう意味じゃないですよ! なんで僕が皇帝に……!」

「結社の頭首である刻季君が『魔力世界の帝国』の皇帝になるのは当然だよね!」

めちゃくちゃいい笑顔でそう言った。


「皇帝……。刻季様にふさわしい肩書です」

「華音は僕の事、どういう目で見ているのかな!?」

「我が主として見てますけど……」

「僕は一高校生だ!」

天原兄弟って天然なのかな?

ていうか今回は天然であってほしい。


「トー君が皇帝で、わたしは女王だね!」

「澪桜姉は僕のお姉さんだよ!」

「姉さん女房だね!」

「またそれかっ!」

天然一人追加。


「あ、あたしは……」

「萌葱までのらなくていいよ!」

これも天然なのか……



僕は決闘での能力使用とツッコミ疲れで、焦燥しきっていた。


最終的にコメディに落ち着くまりょくろです(笑)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ