第29話 英傑集結
1日と開けずに更新したのは久しぶりですね。
頑張りました。
ようやく物語がすすんでいることを実感できます。
その後5日間ほどゆったりと暮らせた。
もちろん、その間も華音はいつものように惨事を引き連れてくるように注目を集めさせて、それを見た萌葱に思いっきりアッパーを喰らい、その治療の為に澪桜姉が僕の服を脱がせて色々大変なことになったが
語るに足らないイベントだっただろう。
そこに至るまでの数日が濃すぎて、それからの事態はなんでも乗り越えられそうな気分でいられたために、語るに足らないと思えたのだろう。
それが不幸なのか幸福なのかはわからない。
ただ、その経験は手に入れるべき大切なものだった。
これのおかげでこれからの事件は難なく乗り越えられそうだった。
他人に聞かせると、お前最近大変だよな、といいそうな、ここ数日だったが、最初のおかげでいまいちインパクトにかけていて、それゆえに身を任せればなんとかなるということも理解した。
こう、なんていうのか。
ノリにノルことが大事、っていうのか、なんなのか。
流れを掴む。
これが、濃い人達と付き合える術なのかもしれない。
そんな悟りを開いた僕は今、姉さんにネクタイを直してもらっている。
「もうっ、あなたったらぁ、いつまでもわたしがいないとダメなのねっ」
デレデレと餅のように蕩けた澪桜姉の表情は、ホントに幸せそうだった。
あれから結局流されるように僕は澪桜姉と新居に引っ越していた。
寮からそう離れていないところに大きく構えた2階建ての家。
これを即決で、しかも現金一括でポンと買ってきたらしい。
澪桜姉と僕は一緒に引っ越し作業が終えて、家の中をじっくり見て回った。
部屋数は2人で住むにはかなり多く、しかも立派なものばかりだった。
引っ越す前にこういうところは見ておくもんだろう、というのはごもっともな意見ではあるが、澪桜姉が勝手に買って来てしまったので仕方ないだろう。
それこそ衝動買いのように。
部屋を見て回る間、僕は澪桜姉に
「これじゃ部屋数多くないかな?」
と言うと、澪桜姉はニンマリとしてこう返した。
「どんどん増えるから大丈夫」
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なにが?
なにが増えるの?
もちろん怖くて聞けなかった。
なんとなくだが予想は、部屋で下宿させてみるとか?
と自分の中で決着をつける。
家に他の人がいるというのは、あまり賛成できないけど、澪桜姉の名義の家だし、仕方ないよね、うん。
そしてちなみに、お父さんに澪桜姉の話を電話で伝えた時。
『もう、お父さんは干渉できないらしいから、自分の貞操は自分で守るんだ』
だそうだ。
まったく、僕が澪桜姉を襲うとでもおもっているのかな?
はは、いくら澪桜姉が美人だからといって、実の姉にそんなことできないよ。
いや、もちろん。澪桜姉がお嫁さんとかだったら、良かったなぁ、とか思っていた時期も有ったけど、それは子供ながらにそう思っていただけだし……、うん。
そんな有り得ない未来のことを考えさせられたことも思いだしつつ、僕は上機嫌な澪桜姉の前で、ネクタイの調整をされている。
まるで新婚みたいだ。
とかはもう思わない。
これは中等からそうだったからだ。
それのせいでネクタイを結ぶのが、あまり得意じゃなかったりするのは秘密だ。
誰しも苦手なことはある。
「トー君、結社の集まりって今日だよね?」
唐突に澪桜姉が話し始める。
あたかも日常会話をしているように
「そうだよ。でも急になんで師団を集めることになったんだろう。ニュースでもその話で持ちきりだし、音弥さんに聞いてもわからないし……」
そう、今回の結社集会(初の)は師団結集という話に便乗してまとまった話だった。
師団の家の者があつまる結社では、それぞれ集めるのは容易でない。
北は東北、南は九州に集まる師団の家なので、簡単に集めることが出来ないのだ。
華音の兄である音弥さんもそれについて悩んでいた。
それが今回、天原の号令で集まることになった。
もちろん、音彦さんの考えでは、師団の長だけで良いのだと思うけれど、儀礼的なことも含めて、家の者は全員伴わなければいけない。
初めての結集は早くとも2カ月後って聞いていたので、少しだけ驚いたけど、それでも早ければ早いほど良かったのかもしれない。
このまま、澪桜姉と華音達を会わせないわけにいかないし(これまでに面識がない。少し怖くて話もしていない)、僕のため、ひいては澪桜姉の為の『羽間』家権威向上は早い方がいい。
そのため、僕も集めることにたいして、異論はなかった。
そういった経緯で結社の集会が決定した。
これこそ棚からぼた餅なのだろうか
ぼた餅ならいいが、嫌なものでも落ちてこなければいい。
そんなことを思いながら僕を尻目に、集会決定の意を僕の名で音弥さんは、内密に発布した。
これのおかげで、僕の名前も結社の方々に知られることになっただろう。
まだ12家全家が出てくるかわからないけど、それでもみんなと切磋琢磨に仲良く結社を大きく、していけたらいいと思いながら、そこからの数日過ごしていた。
「音弥さん?」
「うん、天原音弥さん」
あれ、それすらも伝えてなかったっけ?
あまりに怖くて、先延ばしにし過ぎたのかもしれない。
「この結社結成の発案者ね。たぶん天原家の嫡男でとても優秀な人だよ。それで妹の華音はうちの学園の生徒会長もやってて、彼女も優秀だと思うよ」
「華音? 彼女? 随分親しい呼び方するんだね、トー君」
「え? なに? ちょ、ちょっと苦しいよ、澪桜姉」
「その女とどういう関係なの?」
「どういう関係って、生徒と会長って関係だよ」
「生徒と会長!? なんていかがわしい響きなの! ……もしかして、トー君。その彼女浮気相手だね?」
いかがわしくないよ!
そうツッコミたかったけど、その言葉を呑み込まざるを得なかった。
華音との関係を認めたわけではないけど、彼女いわく、僕たちは主従の関係らしいし……
本命もいないのに、浮気するなんて器用な真似は出来ないけど、澪桜姉が間違って聞いたら、そう思うかもしれない。
そんな風に考えているのがバレたのか、先程こめていた力の倍くらいで首を絞めてかかってきた。
「トーくぅん? 新婚ほやほやのくせにいい御身分だねぇ~」
剣呑さだけで人が切れそうな眼つきをしている。
「さぁ、白状して、トー君。今話せば罪は軽いよ」
「話さないと……?」
してもいない罪に対する罰を測ろうと思い澪桜姉に聞いた。
「えーとねぇ。まず死ん「まず、そこから!?」
危なく全部聞いてしまうところだった。ふー……あぶねー。
聞いていたら、とんでもないことになっていた気がするよ。
ナイス機転ですね!
僕は遅刻しそうになる時間になるまで、澪桜姉にこんこんと華音のことを伝えると
「その女の事は、あとでじっくりねっとり話しましょうね。トー君っ!」
と、とてもいい笑顔で言ってきた。
やべー、これ以上どうすればいいの?
今日この人たち会うんだよね?
出来る限りクッションになりえるように伝えたつもりなのに……。
その想いは届かなかった。
なんで会う前から姉さんギスギスしまくってるんだ……。
この空間にいることによる精神的苦痛にあわせて、肉体的にもきつかったので、手を振り上げて僕は学園に向かおうとした。
「じゃあ、澪桜姉。また後でね。いってきまぁ~ぁ~」
「ちょっと待って!」
ぐいっと腕を引っ張られる。
おかげで変な声が出ちゃった。
「さっきの話、トー君がお姉ちゃんに『外国風のいってきます』をしてくれたら一時的に許します」
「『外国風のいってきます』?」
そして一時的にですか?
ちゃっかり根本的に解決を先送りにしているんですね……
問題が80年後くらいにこないかなぁ
「うん、もっと言えば『欧米風』だねっ」
「あ~」
なんとなくわかってきた。
ようするにアメリカンコメディ番組を真似すればいいんだろう。
コホン
一度咳き込む。
のどを整えると、澪桜姉はワクワクとした表情を向けてきている。
それじゃ、やろう。
こういうアドリブは結構得意だ。
「じゃあ、ハニー行ってくるよ。ハハ、君に会えないのは寂しいけど、帰ってきた時の君の事を思い出してなんとか頑張ってくるよ。じゃあね、愛してるよ」
チュッ
僕は澪桜姉の頬にキスをした。
澪桜姉はポーっと恍惚とした眼を見せていた。
そして興奮した様子で
「行ってらっしゃい、ダーリン! それと今夜は寝かさないよっ!」
「ハハ、先にくたばっちまうなよ? 寝れないのはハニー、君になると思うよ」
「もしかしたら、お腹にいる愛しのベイビーちゃんかもしれないけどねっ」
「ハハ、冗談きついね。まったくウチの子猫ちゃんは」
マジで冗談キツイ!
そしてこんな話にノっている僕自身が一番キツイ!
耐えきれず
「じゃあね、いってくるよ!」
とだけ言って、まわれ右。
スタスタと歩き始める。
後ろで
「今日から10カ月後が楽しみだね~!」
と叫んでいる。
超恥ずかしい……。
そこから一刻も早く立ち去ろうと考えた僕だった。
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学園についた。
散々僕を振り回してきた、あの生徒会長は門の前には姿を表しておらず、その横にいるはずの麗しき幼馴染の姿もなかった。
今日が師団の結集日だからなのだろうか
未だに好かれている気がしない生徒会を尻目に僕は急いで教室に向かった。
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教室には、いつも門の前にどっしりと構えているはずの竜也が今回は、すでに教室にいた。
生粋の華音ファンである竜也にとって、華音がいなければ、あそこに居座る必要もないんだろう。
そして彼は会えない(見れない)ことからの苛立ちからか、顔を歪ませて不機嫌さをアピールしているようだった。
今近づくのは、ちょっと嫌だったので、いつも通り仁吾のところへ向かった。
「仁吾っ」
「おっと、刻季か?」
振り向く仁吾は、少し疲れているみたいだった。
「どうしたの?」
「ん? なにがだ?」
「いや、疲れてる感じがしたから」
と言うと、仁吾は頭をポリポリと掻いて
「師団が集まるってのに、国家が何もやらないわけにいかないだろ?」
「あ、そっか」
そうだった。
師団集結に関してやることが増えるのは、魔術師だけじゃない。
むしろ、調停をしている国家側の方が多いのかもしれない。
トラブルが起きないように、事前に色々なところを周っている。
それは碓氷家も同じなんだろう。
同じ第3区内にあることから、今回はいつもより忙しそうだった。
他区が忙しくないかと言えば、そうではないんだけど
疲れている仁を見てたら、気の毒に思い、提案した。
「少し寝たら?」
「ああ、そうしようかな。なんとか学園に来れたからここで出来る限り休みたかったんだ」
「ホント、大変だね」
「いや、しょうがねぇよ。ん、じゃあ良いところで起こしてくれるか?」
その言葉を最後に仁吾は机に突っ伏した。
すぐに寝息をたてて、寝始めていることがわかる。
こんなに大変な思いをしている仁吾を不憫に思うが、師団結集ともなると、トラブルは避けられない事が多い。
それは師団内のいざこざもいくつかあるが、大半は教徒の妨害だ。
毎回と言っていいくらい、教徒達が攻めてくることがある。
噂では、宗教徒の現トップである『武崎家』が、命令をしているらしいが、足取りが掴めないそうだ。
まぁ、トップがそんなことに関わるなんてことが知られれば、教徒は国家から瓦解させられかねないので、裏からやっていると見るしかないんだけど
もし僕が教徒だとしたら、そこを狙うのは当然なので、気持ちはわかる。
魔術師のトップであるところの『師団』をつぶせば、この国の魔術師は秩序を無くし、バラバラになることは、ほとんど確実である。
そうなれば教徒は、あとは煮るなり焼くなり好きに出来る。
現在は3すくみの状態だが、魔術師がいなくなれば、国家との1対1になる。
国家の方が、国内では力を持っているが、隣り合わせている中国では、剣術師(中国では教徒とは呼ばないで、同じ系列でこう呼ぶ。世界でもこちらが主流である)の数が世界一多く、そこに援軍を求めれば、日本は教徒のモノになるだろう。
魔術師の崩壊が、日本国家の崩壊にもつながる。
それを防ぐために、国家側は躍起になり、師団に警備やらを勧めるのだが、それら全てを断っている。
魔術師のトップとして、それを受け入れるわけにいかないのだ。
まぁ、それのせいで、こうして目の前で仁吾が死んだように寝ているんだけど……
とりあえず、授業が始めるまで、ゆっくり寝かせてあげようと思った。
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竜也の不機嫌顔は一日中治らなかった。
彼のエネルギーは華音で構成されているんだろうか?
と疑問に思ったが、答えがみつからなそうなので、それ以上の思考はやめた。
そして、萌葱は学園に一度も顔を出さなかった。
彼女も第3区内ということで忙しいのだろうか。
華音は言わずもがな、だけど……
阪野さんが、少し悲しそうにしていたことを後で伝えてあげよう。
今現在、仁吾と帰宅中。
仁吾は起こしても起きず、先生も気の毒そうな目で見ていて起こさなかったので、ひたすら寝ていることになった。
一度、昼食時間に起きたけど、ご飯を食べたら、すぐに寝始めた。
大変だなぁ、と他人事のように思っていた。
「今日は家見てく?」
と僕は言った。
引っ越してから、仁吾に新居を見せてないのだ。
時間も少し有りそうだったので、誘ってみた次第だ。
「いや、やめとく……」
「なんで?」
「だって、澪桜さんいるんだろ?」
「まぁ、どうなんだろ? 一応引っ越してからは毎日お出迎えしてくれていることから、いてくれていると思うけど……」
一回も欠かさずにだ。
「じゃあ、やめとく……」
「そう? 姉さんも会いたがっていると思うよ?」
「それはないだろ……」
悲痛な声が、仁吾の口から流れ出た。
やっぱ疲れているからかな?
「そっか、じゃあまた今度だね」
「澪桜さんにもよろしく言っておいてくれ」
「わかった。仁吾も頑張ってね」
「お前こそ頑張れよ」
「え? なんで?」
「だってお前、今日結社の初集会だろ?」
「うん、そうだけど」
それがなんだろう。
「別に音弥さんからは、なんも言われてないし、きっと帰ってからで用意は大丈夫だと思うよ?」
どこでやるのかすら、聞いていない。
「お前、本当に頭首なのか?」
「たぶん……。ていうか僕が頭首になった理由は、『羽間』の為、姉さんの為だけど、音弥さんが僕に頼んだ理由は、師団との違いを作りたかったかららしいよ」
師団家の子息達が集まっても、それは師団と違いが何もない。
いずれ師団のようになっていくことはだれの目にも明白だろう。
誰の目って言っても、知っている人は少ないけど……
「ふーん、だから師団じゃない『羽間』のお前を据えたのか」
「たぶんね。詳しくは今日わかるんじゃないかな」
「だろうな」
仁吾がニカッと白い歯で笑ってくる。
「それにしても、お前のシスコンは治らねえな」
「そうかな? 別に嫌なことじゃないけど……」
その言葉、萌葱に何度も言われて慣れました。
「まぁいいや、じゃあな、シスコンさん」
「じゃあね、仁吾」
そういって、お互いの家に向かった。
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そこから数分。
寮より近いということはないけど、それなりの距離にある自宅に到着。
したのだけれど……
いつもいるはずの澪桜姉がお出迎えしていなかった。
珍しい。まだ帰ってないのかな?
「どうしたんだろ? ……まぁいいや。とりあえず家に入ろう」
受け取っていた鍵を使い、ドアを開ける。
鍵が閉まっているので、家にいないと思いきや
玄関に大小様々な大量の靴があった。
女物から男物。
ヒールにブーツ。
フォーマルからカジュアル。
中には草履なんかもあった。
え? なにこれ?
これだけの靴が入ってしまう玄関の広さに今さらながら驚くけど、それ以上に知らない靴に驚いた。
嫌な予感しかしない。
逃げるか
隠れるか
でもどこへ?
戦うか
相手が魔力をつかってなかったら?
そんな疑問と結論を次々と頭で出していく。
僕から自立しているような感覚だった。
冷や汗が流れる。
これは誰の仕業だ?
澪桜姉の靴もある。
捕まったのか?
簡単に捕まるとは思えないが、これだけの人数相手ならわからない。
万が一にもそういったことが有り得るかもしれない。
もしリビングにいるなら、僕が帰ってきたことに気づいているはずだ。
それなのに、なんの反応もない。
そこまで僕の脳が働いたところで
「刻季様?」
リビングからのドアから顔をのぞかせている、華音がいた。
いや、華音だけでない。
部屋の中に尋常でない魔力量の人たちの気配を感じた。
これはなんの悪夢なんだ?
しかし、結社のメンバーどうしよう。
キャラはある程度決まっているんですが、名前が……
ちなみに結社の名称は決まっています。