第27話 ♀
海外の話もちゃんと書きたいです。
優遇学園の留学生とかね。
日本の内戦と海外情勢
そんなのが書くことが出来ればいいです。
それにしても澪桜さん書くと楽しいけど大変です。
でも澪桜さん好評だと思うので頑張ります。
……好評だよね?
世界の中で日本の魔術界は十指には確実に属しているといえる。
魔術や剣術が確立してからというもの、世界中ではかなり争いがあった。
魔術師と宗教徒の数だけ戦争があったといっても過言ではないほどだ。
それでも、約百年前まで大きな戦争になることはほとんどなかった。
日本のような島国ならともかく、大陸内では国家間の戦争が当然のようにあった。
それは国家の政府が動かして起きる戦争はもちろん、水面下では魔術師と宗教徒が小競り合いをしていた。
例えば、魔術発祥の地とされるフランスでの内戦は魔術師と宗教徒の戦いだったとされるし、ロシア国家がロシア全域を完全に(魔術師と宗教徒も含め)統治するに至ったことも、日本国内を国家が治めるということになったのと近い魔術師と宗教徒のいざこざが原因だ。
イギリスのフランスからの独立も発端は魔術師と宗教徒の戦争があり、アメリカの独立も当然背景にはそれがある。
だが、大きな戦争というのは人類の歴史にはなかった。
それが崩れたのが百年前のことである。
――剣魔大戦勃発
それを日本では魔術や剣術が広まる前、一般的には世界大戦と呼ばれた。
当時でも魔術最強国家であったイギリスと、剣術発祥の地であり、剣術最強国家の中国との戦いが世界に広がり、大戦となった。
主要な国家では、中立を示していたロシア以外では、全ての国の魔術師と宗教徒が参戦したと言っても良いほど、大規模な戦争だった。
ヨーロッパの国はほとんど魔術サイドに属し、アジア諸国は大抵剣術サイドに属した。
日本は魔術師が参戦することはなかったが宗教徒は軒並み参戦した。
世界では異例のアメリカはユーラシア覇権の為に国家として参戦することになった。
そこまで広がった戦争
結果は決着つかず
その後、ロシアのモスクワで平和条約が為され、戦争は曖昧な形で終わった。
現在は一応ではあるが均衡を保っているといえるが、何かの節にそれが崩れることはいくらでも考えられる。
大戦以降、アメリカは世界最強の名をほしいままにし、今もユーラシアに目を光らせている。
事実上世界トップの国だ。
それでも魔術研究に関しては、日本はアメリカに引けを取らない。
現在魔術界トップの国であるイギリス、それに発祥のフランスの次に、魔術研究は進んでいる。
日本は古来より地形的に封鎖的な面があったので、日本独自に魔術も剣術も進歩したのだ。
それが世界とも一線を画すことになった。
その日本、の中でも研究の最先端に進むのが、東京都内、もっといえば魔術優遇第三区の中にある『第三区日本魔術研究機構』だ。
そこでは世界最新鋭の研究はもちろん、古来より日本の血筋に纏う魔術である血系魔術の研究も行っている。
日本魔術と名は付いているが、決して日本の魔術だけでなく海外の魔術に関しても、国内では一番研究が進んでいる。
研究が進んだところで、新しい魔術でも発見したり発明しなければ、魔術の実力は上がらないが……
それでも機構で研究員を務めるというのは大変名誉なことであり、いくら優遇学園を卒業したからと言ってできることでも、家柄がいいから出来ることでもない。
日本、いや世界でもトップレベルに位置する魔術の学がなければそこには配属はされない。
第六区間全てに日本魔術研究機構があるが、その中で最も研究が進んでいる第三区の機構は、それこそ針の穴のように通るのが難しいところなのだ。
簡単に言うと
南雲萌葱は、そこには勤めるに至らない。
魔術的なセンスも同年代でずば抜けており、家柄も師団家ということで文句なくいい。
それでも、現在の時点では、足りない。
全く足りない。
研究に必要なのは、学術的な面はもちろん。
発見に愛されていることが大事だ。
極端な話、今までやってきた研究を今現在やってもほとんど意味がないということだ。
もちろん、過去の研究を再研究したことにより、見つかることもあるのかもしれない。
現に魔術や剣術というモノが世界に流布されて、再研究が必要になった例はいくつもある。
しかし、それは新発見には勝らない。
それに愛されるということは、研究者にとっての必需であり、名誉なのだ。
萌葱にはそれがない。
何故なら師団だからだ。
結局のところ、師団という良家に生まれると、良くも悪くも縛りがある。
それは血系魔術しかり、しがらみもだ。
継承魔術は古い家では血系魔術と呼ばれもする。
古い家は、古いモノから逃げられない。
それゆえに現状に甘え、耐えるしかない。
だから萌葱はそうはいかない。
萌葱の性格的な面からみても、革新という言葉があまり似合わないのは、わかることだろう。
師団の家に生まれ、師団の家で育つ現在。
それは幸せなことであり、同時に不幸なことでもあるのかもしれない。
それに対し、羽間澪桜。
澪桜は裏切り者の一家とされる『羽間』の一員で、血筋から見ても革新的な存在だ。
弟にそれがあるのかと言われれば、頷くことはままならないが、澪桜自身は色濃く『羽間』の血を受け継いでいる。
それは血系魔術が澪桜に出ているということでわかるだろう。
『羽間』の革命に参加したわけでもないし、それがあった時産まれてはいなかったが、やはり血は血だろう。
古い家は、古いモノから逃げられない。
それは、性格的な面からみても、そうなのかもしれない。
『羽間』の血を色濃く受け継いだ澪桜。
その革新的な澪桜。
刻季が現在研究対象とされていないのは、彼女のおかげだ。
何故なら彼女は『第三区日本魔術研究機構』の研究員だからである。
刻季への研究志願が多発してきたころ、ちょうど刻季は14歳だった。澪桜は18歳。
刻季はその時、中等に通っており、澪桜は高等に通っていた。
優遇学園は魔術的な実力が優れていたり、魔力値が高い者に推薦が来るが、澪桜の通っていた高等学園は魔術の学力的に高い者が推薦で入学していた。
澪桜は入学する前、優遇学園と両方から推薦が来ていたが、国家からの志望により、優遇学園を蹴るはめになった。
だが、澪桜としてはどちらでもよかったらしく、そのまま学園でみるみる成績を伸ばしていった。
その時すでに、研究者の中でも天才と呼ばれていた澪桜は卒業後には家に戻り刻季の世話をするか、刻季のお世話がてら、家の近所の学院に通い学力を伸ばすか迷っていた。もちろん澪桜は刻季のお世話中心に考えている。
その指針を崩す羽目になったのが、研究者達の欲求である。
澪桜は高等在籍中に第三区の機構から研究者としての志願が来ていた。
来た時は、刻季と少しでも一緒に居たいからと、かなりの倍率を誇るものだったが、あっさり断った。
しかし、その時から、急激に刻季への研究欲が日本中の研究者達から向けられた。
刻季はもちろん断ったが、たびたび強引にさらわれかけた。
そのたびに、刻季は能力を使ったり、澪桜や萌葱から守ってもらうことになった。
それが最高潮に激化してきた頃
澪桜はある決断をした。
それは、機構の研究者となることだ。
機構の研究者となり、刻季への研究を機構が管理するとすれば研究者達の欲は治まり、刻季への欲求の熱意が減ると思ったのだ。
結果澪桜の狙いはドンピシャであたり、刻季への行為もほとんどなくなった。
稀に以前のようなこともあるが、それでも自力でねじ伏せられるようなものだった。
機構は第六区全てにあるが、機構が研究するといえば、それは最高の結果がもたらされるし、同時に他の研究機関が手出しできなくなるということの表れでもある。
裏側の非合法的な研究機関はともかく、表立って研究している機関は、これで刻季に手出しが出来なくなった。
姉のおかげで刻季は守られたのだ。
そうして現在も機構に勤めている。
昨日も、もちろん機構で研究作業をしていたが、刻季との電話の後、まるで仕事にならなく。
その上、同僚の男性共は憧れていたため少しショックだった。
男がいるのか……と
それは弟。
それが羽間澪桜という姉なのだ。
常に刻季の近くが調子よく、刻季のために生きているといっても過言ではない。
だから機構で泣こうが、プロポーズ(?)をされてデレデレしているところを見られようが、澪桜にとっては問題ではない。
もっといえば、機構の男はどうでもいいそうだ。
きっと道端を這うダンゴむし程度にしか見てないのだろう。
たびたび、異性からのお誘いがあるが、全てポイ捨てするかの如く断り、断られた男は撃沈しているが、同性からの誘いにはある程度のっているので、機構ではうまくやれているといってもいいのだろう。……たぶん。
今日もお誘いがあったが、刻季のところに行くために蹴散らした。
相手が弟だと知った同僚はどんな顔をしていたのだろうか。
『難攻不落の城』という渾名が復活する日も近いのかもしれない。
それが澪桜にとって、これ以上ない誉れだということが救いようのないところだ。
まことにどうしようもないあねである。
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『今日からお世話になります』
そう言ったの?
実家から勤務先に通っている澪桜姉は確かにここから通えば近いが、それでお父さんとお母さんが許すのかな?
それとも許されなくても来ているのかな?
きっと後者だろう。
お母さんはともかくお父さんが許すはずがない。
「姉さん。お父さん達にはちゃんと連絡した?」
「連絡したよ?」
「なんてかな?」
「『トー君のところにこれから住む』って」
「そ、そーなんだぁ……アハハ……。……お父さん、それ聞いてなんだって?」
そう訊くと澪桜姉は表情を幾分か凛々し耳元に手を持ってきた。
「『バカかっ! そんなの許すわ……、ガチャ』だって」
「……それは、どうなのかな?」
「『許すわ』って言ってるから大丈夫だよっ、トー君!」
それはきっと『許すわけない』と言いたかったのだろう。
お父さんに同情してしまう。
僕の表情を見て、先手を取るかの如く澪桜姉は畏まり三つ指ついて
「これからよろしくお願いします。同棲は初めての経験なので、至らないこともあるかもしれないけど、姉弟仲良くやっていけたらいいと思います。今後は心身共にお世話していくから、お姉ちゃん初めてだけどたぶん良い気持ちになれると思うよ!」
という。
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ツッコミどころが多すぎる……
姉弟って書いて夫婦と読むんだっけ?
それは知らない用法だねっ。
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しかし先手を取られた形になっているのでそんなこと強く言えない。
姉弟で住むことが同棲、とか
心身共にお世話する、とか
お姉ちゃん初めて、とか
一つも聞いてないっ!
とは言わない。
というか言えない状態だった。
要するに呆れていたのだ。
それもものすごく。
体中の至るところから呆気が溢れてきている。
ようやく出た言葉が
「ここ男子寮だよ?」
と思い出したように零れた。
そう。一泊くらいなら隠せるが、ずっとここに住むとなると話は別だ。
僕は今日だけなら澪桜姉と過ごしたいとかも思っていたけど、一緒に住むのはちょっと厳しい気がする。
というか無理ですっ。
入りたい物好きなどいないだろうけど、基本的には女子禁制だ。
特例として、というより、特例を作って華音は入ってきたけど、あれは生徒会長の権限を悪用したからだ。
正攻法でもなんでもない。
きっと華音はどれだけ手順を踏んでも無理だとわかっているから権限を使ったのだろう。
それが異例であり、合法的ではお世辞にも言い難い。
結論。
とにかく無理です。
しかし、僕の口をついて出た言葉を聞いた澪桜姉は首を傾げキョトンとした。
「あれ? そうなの? でも姉弟なら大丈夫じゃないかな?」
夫婦とは聞こえない聞こえない。あーあー、姉弟姉弟。
「姉弟でも女はダメだよ!」
と僕が言うと、何故かデレっとした顔をし
「女なんて……。早くも俺の女って感じなの?トー君」
「…………」
「でも姉弟だから当然だよね。あっ、厳密には姉弟じゃなくて婚約者同士?許嫁?かな。……フフフ、許嫁っていい響きだね! トー君の近くで発するとよりいい言葉に聞こえるよ! これがトー君効果だねっ」
もう対処法が分からない……。
澪桜姉は言い終えると、トーくぅん、トーくぅん、と言いながら抱きついてくる。
あー、柔らかいなぁ。許嫁の身体は……。うん、これには抗っちゃいけないよね。澪桜姉にも悪し、何より本能に反するもん……。
と堕ちかけたところで思考が復活する。
それじゃ何一つ解決していない。
理性を振り絞り澪桜姉の肩を掴み引き離す。
すると、澪桜姉はとても悲壮した美顔を見せるが、それに気を取られるのは後でも良い。
今はちゃんと理性で行動しなければいけない。
本能にはもう少し眠っていてもらわなきゃ
「澪桜姉、よーく聞いて」
と促すと悲しそうな顔をこくりとたてに振った。
「ここは男子寮だから女子は入っちゃダメなの。だからホントは澪桜姉が今ここにいるのもダメなことなんだよ?」
僕はそう諭すように言う。
なんだかんだ澪桜姉との行為に耽っていた僕の言うことじゃないかもだけど……
澪桜姉が泊まるのいいかも、とか思っていた僕が言うことじゃないけど……
――すると、
「でもトー君……」
と一層悲しそうな面持ちをして俯く。
この澪桜姉もそれはそれは魅力的だけど、それに溺れたらどうしようもない。
それじゃ元の木阿弥だ。
ここは心を鬼にして
「ダメだよ、澪桜姉。いくら夫婦――違った。姉弟でも男子寮に一緒に住むっていうのは……。僕だって姉さんと一緒に住みたいな、とは思うけど、でも規則は守らないと、大人なんだからさ」
我ながらかなりの正論だ。
澪桜姉ももう19歳だ。
実家に住んでいるといってもほぼ独り立ちしているような大人だから、こういう言葉はズビシッとくるだろう。
しかし、澪桜姉のが伝染ったみたいに夫婦って言っちゃったよ……。
澪桜姉は、予想通りズビシッと来ているのか、さらに俯きの角度を下げた。
なんだか悪いことをしているのかと良心の呵責に苛まれるようだ。
自分のことは置いておいて都合よく言い過ぎたのかもしれない。
肩を掴んでいた手を優しく腕の方に動かし、顔を覗き込んだ。
「姉さ――」
と呼びかけた僕の声は澪桜姉が顔を上げたことにより、途切れた。
「トー君、じゃあこの知らない女の臭いはなんなのかな?」
「――えっ!?」
知らない牝の臭い?
僕動物なんて連れてきたかな?
それとも勝手に入って来ちゃったとか?
これからはちゃんと戸締りしないとね!
うん、色々持っていかれたら困るもん。
まったく、猫かな?犬かな?
それとも鳥とか?
もし鳥ならなんか和やかになれるし、別にいいかなぁ~
被害も浅そうだし……
被害っていってもきっと、米粒程度だろうし、それならなんか微笑ましいよね。
――トー君
むしろ来てほしいくらいだなぁ。
それが青い鳥なら完璧だよね!
うわっ、もしかしたら幸せになれるかも……
――トー君!
なんか夢がある話だ。
僕の知らない内に青い鳥が幸せを置いていってくれるなんて
少し子供っぽいけどそういうの信じるのって大事だよね。
童心を忘れないって大事だ。
ってまだ、言うほど年とって無いけどさ。
「トー君!!」
「はい!」
想像に耽っていようとしていた僕の意識を澪桜姉の呼びかけで戻された。
「現実逃避しようとしても無駄だよ、トー君。お姉ちゃんがトー君に近づく牝犬の臭いに気付かないわけないでしょ?」
うん?
牝犬?
やっぱり犬だったのか……
まったくぅ、部屋の主がいない間に、入ってくるなんて言語道だ――
「だからそんなことしても現状は変わらないよ、トー君」
冷たい澪桜姉の声が響く。
冬かと錯覚してしまうくらい冷え切っている。
これだけで謝りたくなっちゃいそうだ。
想像通り、予想を遥か上回る形で澪桜姉は気付いていた。
澪桜姉が言っているのは、きっと華音のことだ。
この部屋にする女性の匂いなんて僕の知る限り華音しかいない。
天原華音
僕の下僕を自称し、これまでの話の根源。
澪桜姉ともいずれ会わなきゃいけないだろうし、ここで話しておくのもいいかもしれない。
澪桜姉と今度会ったら話そうと思っていた事だし
という僕の浅はかな考えは改めざるを得なかった。
何故なら、今目の前にいる姉は、絶対零度の空気を醸し出しているのだ。
五感が簡単に寒さにやられてしまいそうになる。
これは……、この寒さはきっとそういうことだ。
――血系魔術
天原の継承魔術、天空魔術もしかり
南雲の継承魔術、形態魔術もしかり
古い12師団のような家には、必ずある。
それは20旅団もそうだ。
都落ちしたに近い『羽間』もそれを持っている。
両親達と僕の決定的な違い。
澪桜姉と僕の決定的な違い。
それは似ていないことでも無い。
髪の色でも無い。
決定的なのは、魔術が使えるか使えないか、ということだ。
魔術の家系に名を刻むに値しない。
それが僕だ。
ホント、嫌になる。