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魔力世界の時操者(CHroNuS)  作者: 更科 甘味
二章 帰結ない物語
25/33

第23話 空間と住人



今回から文体をガラリと変えて、刻季視点に移ります。

これまでの話も随時編集していきますので、ご了承ください。


気にいってくれるとありがたいです。




華音が僕のことを考えてくれているのをなんとなく汲み取れた。

色々巻き込むことが多い華音。

だけど、結局根本的には、生徒の為に、僕の為になるようにしてくれているんだろう。


今回の事もそうだ。


優遇学園に入った以上、魔力・魔術的な側面から逃れることは出来ない。

実技試験では、団体ではあるが、戦わなければいけないのだ。

だから、同じ団体になるだろう人たちに、魔術は使えないことは当然、それに能力があることは知っていてもらわないと、事は進まない。


出来うることなら、優遇学園になんて入りたくなかったし、魔術からも離れることが出来ればと思っていたんだけど、それはもうどうしようもないことだし、望んでも手に入れられなかった現在だ。

実際萌葱や仁吾と通うことを楽しみにしていたところもあったから、別にそこまで嫌ってほどでもないし、中等も魔術的な側面が含まれる学校に通っていた。

それでもなんとかなったので団体の事はそこまで心配してなかったけど……。


でも華音の心配は尤もなことだ。

中等で魔術をやっていたといっても、本格的といえるレベルに達していたかと言われれば、必ずしもそうじゃないし、それに加えてここは魔術優遇学園だ。

魔術が出来なければ、簡単に、捨てられるように退学となるだろう。

優秀な魔術学園で、無能とわかったら、国家は捨てるのを厭わない。



団体でのことは、遅かれ早かれ、ちゃんとしなければならなかったので、いい機会だと思おう。

中等も、萌葱と仁吾の尽力があってこそなんとかやれてきた。

この学園でも、協力は不可欠だ。

萌葱は渋々、仁吾は好意的に、協力してくれると、僕に言ってくれているけど、団体には絶対5人はいなければいけない。

そこで頼むことになるのは、竜也と阪野さんしか現段階ではいない。


もちろん、能力を使うことなんて嫌だし、知られる人数も最低限に抑えたい。

だからきっと、これは最低限の内なのだろう。



随分と騒々しくなったこの空間で、僕は話を切り出した。

「竜也、阪野さん。それに萌葱、仁吾、華音」

一通り名前を呼ぶと、みんながこっちを向いた。

「僕はこれから能力を使う。だけど、これは黙っていてもらえるかな?」

竜也、阪野さんには、ある程度の事情を把握してもらうために、あとの3人には念のために言った。


その言葉に、3人は当然とばかりに頷いた。

竜也と阪野さんは、何故?という目をしてくる。

「僕の能力は、異質だからね。誰にも知られたくないっていう欲求もあるけど、それ以上に知られ過ぎたら、何をされるかわかんないっていうのが大きいかな」

「何されるかわかんないって……?」

竜也が、まだ全く理解していないような声を漏らす。


あまり言いたくない過去だけど……

「僕はね、昔研究対象になりかけたことがあるんだ」

「……研究対象?」

不穏な単語に反応する竜也と阪野さん。

華音にも話していなかったので、彼女もどことなくボケっとした状態になっていた。

萌葱と仁吾は、刻季のことを古くから知っている身だから気まずそうな顔をしていた。


「……うん。異能っていうのは、忌避の対象にもされるけど、それ以上にヒトの興味を惹く。それはわかるかな?」

「……まぁ、なんとなく」

「その興味が高まれば、調べたいって思うらしいんだ。……アイツらは」

「アイツら?」

「魔術の研究機関の人たちだよ」



この世界には、魔術に対する研究機関が戦争終結の50年ほど前からいくつも作られた。

魔術を、魔術師サイドが公開したからだ。

それまでこの世に存在していた、エネルギー理論や物理学は、魔術の前になんの意味もなかった。


魔術師という媒体と、魔力というエネルギーのみで、成り立つ魔術。

これにはどの学者も惹かれた。


国家も、それに協力する形で、堂々と魔術について研究するようになり、いつしか国内外問わず、魔術の研究機関は増加していった。もちろん、教徒の使う剣術に対する研究も行われたが、魔術に比べて、機関は少ない。

外国のほうが研究は進歩していると聞く。

進歩したところで、実力は上がらないけど……

過去からずっと使われてきた魔術を研究したところで、技術の発達が望めるとは思えない。

望めないが、研究者たちは、それで満足なのだ。

自分たちが使うわけではなく、自分たちが満足できるまで、調べて調べて調べ尽くせば、それでいいのだ。


僕の能力に対しても、結局その程度の情熱しかないんだろう。

その程度の情熱を埋めるために、欲求を満足させるために、犠牲になるなんて気持ち悪い。

怖気だつにも程がある。



そんな陰鬱なことを考えていると

「それで、刻季様。どうなったのですか?」

心配そうな顔をして、華音が聞いてきた。


思考で止まっていた脳を会話に向けるために、僕は華音の方を向き、結果だけを話すことにした。

「えーと、ね。さっきも言った通り、なりかけた、だけだからね」

「なりかけたってことは、全く研究されなかったのですか?」

「全くってわけじゃないんだけど、調べ尽くされてるってことはないと思うよ」

「それってどこまで……?」

「詳しくはわからないし、わかりたくもないけど、能力を使えるってことぐらいかな」

「根本じゃないですか!?」

華音が驚き、声を張る。


僕はその声にこそ、吃驚したが、落ち着かせるように

「使える、ってわかっていても、条件も詳細もわからないんだから、そこまで危惧することじゃないよ」

「……そうですか?」

「うん。だから大丈夫だと思う。これが多くの人に知られたら、どうしようもないけど、今のところは、その研究機関のトップを含めた少数しか知らないと思うし」


僕の存在はとても貴重だったのか、研究機関のトップが直々に僕のことを調べようとした。


僕の言葉に、華音は納得いくようないかないような無表情を浮かべた後、迷惑を掛けないようにと思ったのか、わかりました、とだけ言った。

なんか従順な華音は貴重だね

とかなんとか思いながら、竜也達の方に目を向ける。


竜也は華音の僕への態度に、少しムカついているように見える。

いやいや、こんなの珍しいくらいなんだから!

阪野さんは僕の話を聞いて、未知のことに、どう対応していいのかわからないようだった。

萌葱達は、先程のまま。

そんな表情しないで欲しいのに……



竜也の視線が痛いので、僕は話をクラスメイト中心に進めた。

「というわけで、出来る限り、というか絶対能力について話さないでほしいんだ」

「わかったよ」

「もちろんです!」

憮然とした竜也と拳を胸の前に持ってきた阪野さんからほぼ同時に返事をもらう。

生物的に両極端にいそうな2人だなぁ


「私からもお願い致します。陸奥くん、阪野さん」

華音が僕の横で、竜也たちに向けてお辞儀をする。

「いやぁ~、会長の頼みなら絶対聞きますから、安心してください!」

「私の頼み……?」

華音に言われ、竜也はデレっと返した。

華音の頼みというよりは僕の頼みなんだけど、聞いてくれるなら、なんでもいい。


「あの、羽間君。それで能力は……?」

ふいに阪野さんが言った。


「あー、忘れてた。見せた方がいい?」

「どっちでもいいですけど、これからチームを組むなら見ときたいです」

ふむ。確かにそうかも。

しかし阪野さんから、チームを組むって言い出したのは、驚きだ。

2週間程度の付き合いだけど、少し信頼してくれているのかもしれない。

だったら僕も信頼しなくちゃ……


僕は多量の魔力を必要とするので魔術を受けなければならない。

直接の魔術の譲渡でも構わないけど、魔術を分解するところも見てもらった方がいいだろう

だから華音に頼もうと

「華音」

とだけ呼ぶと、華音はそれだけで理解したように

「はい」

と返す。


ここからが本番だ


__________________________



「みなさん、念のため少しだけ、離れていてもらえますか?」

危険が及ばないように華音は皆を遠ざけると右手に魔術を展開させる。


簡単で単純な、火炎魔術だ。


誰でも、というか、魔力をもつものは誰でも、僕以外は、難なくこなせる基礎的な魔術だ。

優遇学園で使えない生徒など当然他にはいないだろう。


火の玉が華音の手のひらを包み込んでいる。

火は酸素を吸い、魔力を消費し、ひたすら燃え上がる。


華音との距離は2mほどなので、全力なんて出さなくとも、一気に魔術を分解できるところだ。

一気に能力を展開させる。

もちろん、分解と吸収の能力だ。


範囲が華音のところまでたどり着くと、途端に火は水を掛けられたように消えた。

その状況に、竜也と阪野さんの顔に驚愕が浮かぶのが視界に映る。

しかしこれで終わらない。

能力の本領はここからだ。


使いたくないという気持ちは今でもあるが、ここで甘えていても仕方がない。

信頼してくれる以上、こちらもそれに値する信頼で返さなければならない。

出来る限り無心になって


――僕は能力を発動する。


その瞬間、僕は異質へと変化する。

ここにいるとつい錯覚してしまうが、世界が止まったのではなく、僕が勝手に世界の枠組みを外れて動いているだけなのだろう。

世界から疎外された感覚。



華音の発動した魔術のクラスが低いからそこまでこの空間は保たないだろう。

なんとなく体内の魔力量がわかる身体が、怖くて便利だ。

……嫌気がさす。



しかしとりあえず能力の証明は必要なので、悪戯で、竜也達の後ろに立つ。

このままここに立っていても、使ったとは誰も思わないし……


到達して、僕は竜也の肩に手を置く。

そこで能力を解除した。


途端に色彩が戻るような

今まで色付けされていなかった、モノクロの絵に、色を塗りたくったような

そんな感覚が僕の手のひらに、僕の眼の中に入り込んできた。



「…………」

竜也たちが僕の姿を探している。

肩に置かれた手には気付いてないみたいだ。

目の前から突然消えたので、それで驚いているのもわかる。


「ここだよ!」

「うわっ!」

悪戯で脅かすと竜也はビックリして叫んだ。

そして恐る恐る後ろを見ると


「……なんだ刻季か」

「なんだってなに!?」

なんでそっちでは驚かないの!?


「……って刻季!?」

「驚くの遅いよ!」

反応がワンテンポ予想より遅い!


「羽間君!? どうしてそこに?」

阪野さんは、しっかりと驚いてくれている。

それに若干の喜びを感じるが、それは表に出さずに

「後ろに回り込んじゃった……テヘっ」

表に出ちゃった。

「てへっ……じゃねえよ! ビックリしただろうが!」

「ごめん、ごめん。こうでもしないと、わかんないと思ったからさ」

竜也には悪いけど、少し楽しかった。


………………………………………………………


そして僕は元の位置――華音の隣に戻ると

「……これが、僕の力だよ」

使ったことによる嫌悪感がどっと押し寄せてくる。

これにはあまり慣れない。慣れたくもないけど


「止まったって実感は無いけど、でも信じるしかねえな」

それはそうだろう。

時間が止まったというより、異質な空間で僕が勝手に動いていただけだから。


「受け入れられないのも、よくわかるけど、まぁホントなんだよね」

「わかってるよ。別に受け入れられないわけじゃなくて、実感がないだけなんだ」

「そっか……」

受け入れられないわけじゃないと聞いて、ちょっとだけやった甲斐があった。


「阪野さんは?」

未だにおどおどが収まらない阪野さんに、落ち着くような口調を出来る限り装って聞いた。

「だ、大丈夫です!」

大丈夫って何がだろう?

今のどこか挙動不審な態度のことだろうか


「凄い能力ですね」

「そんなことないよ。別にこれで得をしたことなんて、そうそうないからね」

「それでも凄いですよ」

「そうですよ、刻季様」

華音が阪野さんに追従するように言ってきた。


「華音まで……」

「私もそう思います。……こう何度も拝見出来て感激です」

「やめてよ……」

本気で嫌だ。

出来れば使いたくないのに、嬉しそうな顔をしてそんなこと言わないで……


そして華音は、恍惚とした無表情そのままに、相変わらずの威力の爆弾をおとしてくださりやがりました。

「ところで刻季様。止まっている間に、キスでもしていただけましたか?」

「……へ?」

ナニイッテルノ?


途端に部屋の温度が上がる……ような感覚を感じる。


熱いほうを見てみると、竜也と……萌葱まで、熱を発していた。

竜也はわかるけど、……なんで萌葱まで?


「そ、そ、そんなことするわけないじゃんっ!」

「「刻季ーーー!!!」」

竜也と萌葱の声が重なる。

本気で逃げたいくらいの怖さだ。

主に萌葱から


「お前そんなことを、会長にしたのか!? 羨ま……いや、妬ま……いや、酷いぞ!!」

「あんたね! ひとにはやっていいことと悪いことがあるのよ! あんたのやったのは悪いこと!!」

「誤解だから! そんなこと少しも考えてない」

華音の話を信じすぎじゃない!?

竜也はまだしも、萌葱まで信じないのはショックだよ!


「「本当だろうね」」

2人が鬼気迫るように僕に聞いてくる。

……なんでこんな目にあってるの?

理不尽にもほどがある。


「本当だから! そんなことするはずないじゃん!」

と弁解すると、萌葱たちは急に醒めたようになった。

「まぁ、そうだよな」

「まぁ、そうよね」


……………………………………


……信じてくれて大変喜ばしいです。


憮然とした気持ちになるが、危機が去ったのでよしとしよう。



そして華音はそれでも無表情だった。

これだけひっかきまわしても、どこ吹く風やらといった様子で、見つめているだけだった。

……と思いきや


「してくださらなかったんですか……?」

と悲しそうな声を出して華音は言った。

なんで残念そうなのかな


「しないよ!」

まぁ否定しかない。

実際してないし、しようとも思ってないしね。


「そんな……」

悲痛な面持ちに変わる無表情な女性。

見ているこっちまで悲しくなってくるオマケ付きだった。



これ以上相手にすると大変なので、マシな竜也達のほうを見ると竜也が再び切り出した。

「この能力使えば、いろんなところ覗き放題だな」

「変態だ!」

変態がいる!


「変態とは失礼だな! 別に俺は会長以外興味ねえよ!」

と思わず告白してしまっているが

「ごめんなさい。私は刻季様以外興味ないので……」

当然フラれる。


「刻季ーーー!!」

「何!?」

「お前この野郎……、お前ーーー!!」

「理不尽だっ」

なんで僕が怒られるのか、わかるけど、わからない。

元凶は華音なのに……


「ですから刻季様……ポッ」

「あたしも、刻季以外興味ないよ!!」

「なんの話なの!?」

照れている華音に、どこからか、萌葱が対抗心を露わにする。



「まったく、いつも通り大惨事だな」

あまりに騒がしすぎて、呆れたような仁吾の声に気付く者はいなかった。




どうでしたか?

話が進みにくいですが、刻季の心情が詠めてくれると嬉しいです


しかし、話が進まない……

次くらいにあの姉を出したいんですけどね

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