第21話 黙認非公式
今回も身の無い話ですいません。
もっと魔術や剣の話などしたいのですが、流れが……
強引に変えて、入れちゃおうかと思っても、この先がぼろぼろになること間違いなしなので勘弁してください。
人だかりの中には案の定、竜也がいた。
彼の中では、入学してから、当たり前のことであり、それを欠かしたこともない。
天原華音のファン。
非公式の華音ファンクラブにも所属していると聞く。
会員は学園内にも外にも、どちらにも存在し、そこらのアイドルより多いとまで聞く。
師団の家の娘ということもあり、ネームバリューもばっちりだ。
竜也はわりと浅い所にいるそうなのだが、ディープなのも少なからずいるらしい。
これは刻季が竜也に、華音と出会う前に聞いた話だが、非公式のファンクラブにこんな不文律が存在するらしい。
『告白は許す。しかし付き合う者は許さない』
これを刻季は聞いた時、身震いもしたが、笑って流せていた。
今聞いていたらどうなることだろう。
竜也に『主従関係はどうかな?』とかみっともなく聞いていたかもしれない。
昨日は、周りに常時実力者がいたことと、情報の伝達に時間がかかった為、華音のファンに襲われることは無かったが、これからはそういう点も視野に含めた方がいいのかもしれない。
華音には今朝、出来る限り学園内では近づかないで、と厳命しておいたので、今後の不安は少しだけ軽くなった。(華音の出来る限りレベルがどれだけのものかは知らないが)
しかし、昨日の教室のこともあり、すでに情報が回っていてもおかしくない。
というか竜也が情報を回していても、なんらおかしくない状況だ。
だから本日、竜也の誤解?解くことが出来れば、ファンクラブの方は一先ず安心できるレベルにまで警戒は落ちるだろう。
敵が増えるか、現状維持かは、今日の行動にかかっていた。
いつも通り、そこまでの興味のない、生徒会周囲の人ごみを避けるように、横切る刻季と仁吾。
ちらりと中心を見ると、華音がこちらを凝視していた。
というか華音以外もこちらを凝視していた。
生徒会役員が萌葱を含め、こちらを睨んでいた。
華音だけは優しい眼だったが、他は結構洒落にならないくらいの怖いのもいた。
幸継のは、眼力だけで、人を失神させるくらいの効果は有りそうな、眼つきだ。
巽、保美、柚穂は、ジト目程度だったが、それでも、睨まれるようなことをしている、刻季には、それなりの恐怖を与えた。
萌葱は……、これがデフォルトでもいいかな。
恐らく、ここを無視していくな、とでも言いたいのだろう。
無視しないわけにはいかない刻季にとっては、今は無視に値する対象であった。
あまり協力的になることを期待してはいけない、生徒会の面々だった。
萌葱の言っていた『信用できる人たち』というのは、刻季には該当しないらしい。
萌葱は人を見る目に長けていると、刻季も思っているし、それは正しいだろう。
しかし、萌葱視点から見た者と、刻季視点から見たのでは、やはり結果に違いが出ることを悟った。
悟る以前に、萌葱すら睨んでいる、というのは由々しき事態だ。
そんな事態、だからといって、刻季は萌葱に対して強く言うことが出来ず、萌葱の機嫌を取ることしかできない男なのだが、
刻季は、全てを視界から、切り離すがごとく、生徒会役員からの眼を全て知らないふりをして、下駄箱に向かった。
昨日以上に非難の目が厳しかったのは、きっと気のせいではないだろう。
華音の噂でも聞いたに違いない。
そう決めつけることしか刻季には出来なかった。
決闘で勝つだけならともかく、会長を奴隷(なんども言うが、刻季は認めていない)にしているなど、生徒会としては、見過ごすことのできないことだろう。
だからといって、会長の手前、なにかすることも出来ない、もどかしい気持ちになっているのは、想像に難くない。
今は、炎のように、燃え上がっている気持ちも時間が経てば、治まるはずだと望みを託し、鎮火するのを待つ。
待機以外には、萌葱に頼むなどの方法もあるが、まだ生徒会内では下っ端であり、発言権も少ないだろうし、あったとしても、刻季のこの頼みは聞いてはくれないはずだ。
萌葱も刻季と一緒で黙認はしているが、いいようには思っていない気はしている。
というわけで、刻季は時間が解決してくれることを祈った。
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教室。
中等の頃より立派な教室で、日本を代表する優遇学園の一室である。
一室でもテロリストからの攻撃を許さないといったような、完璧な防護魔術などがかけられていた。
もちろん、そんな魔術、刻季には関係なく消滅させることが出来るのだが、刻季は猟奇的な性格をしているわけでもなければ、やったところで、不利益しか生まない行為はしない。
利益を生むからといって、したい行動ではないのも事実だ。
萌葱なんかは形態魔術を使えば、根本から崩せるかもしれないが、彼女もそんなこと望んでもいないだろう。
前回少し危なかったようだが、机だけにとどめたようだ。
非公式のファンクラブに所属する竜也はまだ教室には来ていなかった。
果歩は、いるみたいだが、本を読んでいて刻季達が来たことに気づいていなかった。
萌葱は言うまでもない。
他のクラスメイトは、刻季の方をチラチラ見ては眼を逸らす、という行動を繰り返しているが、見てくるだけで実害はないため、放って置いた。
目立つのも無理はない。
昨日の生徒会長との絡みは、詳しく知らなくても、予想がつきそうな単語ばかり発していた気がする。
しかし今日は大丈夫だった。
何が大丈夫かと聞かれると、単純に華音の説得を朝のうちに終えた、と言える。
要するに、華音に、これからは出来る限り学園内で騒ぎを起こさないで、と厳命してあるのだ。
それに対し、別に問題を起こすことは華音の本意でもないので、快く了承してくれた。
あとは今日、口八丁手八丁な言葉で、竜也を、クラス中を納得させれば、ミッションコンプリートだ。
別に騙すわけではない、認識を改めさせるのだ、とは刻季の弁であり、それがどこまで正しいのか定かではないが、仁吾も成功を祈ってくれている。
成功すれば、また穏やかな学園生活を送れることだろう。
……その機会は、昼休みまで持ち越された。
竜也とはもちろん会ったが、目が合う程度で、話す時間までは取れなかったのだ。
一方的に、睨み、なにやら如何わしい言葉を吐いていたが、気にしても、反発しても負けるとわかっているので、流しておいた。
果歩のビクビクした姿は、どこか保護欲をくすぐるような魅力があったが、それも手だしをしてはいけない。
いつものように、机を集め、食事をとる。竜也はおとなしく来た。
華音がしきりに弁当を持ってこさせたがったが、それは固辞した。
これ以上敵意を増長させてはならない。
「そういえば、刻季も、昨日は災難だったよなぁ」
集まったところで仁吾が話しだす。予定通りだ。
朝の内に、昨日のアレは、少し強引だが、ドッキリということにしといた。
それに仁吾も快く協力を申し出てくれたのだ。
「いや、ホントだよね。僕も困っちゃったなぁ。本気で困ったなぁ」
それに乗る形で、困ったことをしきりにアピールし始める刻季。
今回の作戦はこうだ。(作戦と呼べるほど綿密なものではないが)
・まず昨日は困ったとしきりにアピールする。
・それに反応した竜也、もしくは萌葱が、何が困ったのかを聞いてくるのを待つ。
(上記は、仁吾が受け持つ場合がある)
・聞いてきたら、一昨日生徒会に誘われて断ったから、そういうドッキリをしかけたと伝える。
・そこでドッキリだと信じたら、個人的に会えてよかったね、と伝え終わりだ。
簡単な手順だが、懸案事項もいくつかある。
まずは事情を全て知っている萌葱の事だ。
しかし、根は刻季のことを心配してくれているので、おそらく味方になってくれるだろう。
そして、竜也の出方もわからないというのも、難易度を上げている。
これが、数年付き合った人ならともかく、まだ10日ばかりという短い付き合いなので、予想がつきにくいのだ。
しかしこれは勢いでなんとかすると決めた。
刻季は現在、作戦を遂行中であり、困ったアピールを続けていた。
そろそろ、誰かが反応してくれないと、仁吾に頼むしかなくなる。
そう思った時
「何が困っただ! てめぇ、会長と知り合えたのにも関わらず、困ったとか贅沢なこと言ってんじゃねぇ!」
いきなりブチ切れである。
反応が良すぎて困っちゃう、……なんて冗談を言っている場合ではない。
作戦失敗
その言葉が頭に浮かぶが、まだ修正可能だ。
出足から、いきなり作戦通りにいかなかったが、ここからどうにか、修正をかければなんとかなる、刻季はそう信じて続けた。
仁吾もそれを読み取ったのか、手伝ってくれそうである。
「い、いや竜也。実は昨日ね、あれはドッキリだったんだよ」
「そ、そうだよな、刻季。ホント大変だったな」
慌てながらも、話を戻す、刻季達。
萌葱がなにやら不審な目をするが、今は見てないことにする。
きっと萌葱にも伝わるはずだと信じて……
「……ドッキリ?」
気になる単語の登場で、一時怒りを忘れる竜也。
ここから一気に畳みかけることにした刻季。
「そうそう、僕昨日生徒会に誘われたんだけど、それ断っちゃってさ。意趣返しくらっちゃった」
なおも萌葱は刻季に目を向けるが、刻季は竜也だけを見ている。
果歩はふむふむそうなのか、と可愛らしく頷いている。
クラスの癒しキャラとしてピッタリだ。
「俺もあの後聞いた時驚いたよ。意外とお茶目な生徒会なんだな。少し南雲が羨ましいよ」
なんて思っても見ないことを言っているが、今は仁吾の軽口がとても助かる。
萌葱を話に引き込んだのは、感心できないが話の流れ的に仕方のないことだろう。
「昨日のってドッキリなのか? いやドッキリだとしても羨ましいことには変わりはないが……」
「そう、なんだよ。ね、仁吾!」
「おう、そうだな」
「ねぇ、刻季、碓氷」
良い感じになってきたところで萌葱が話に入ってくる。
「な、なにかな?」
「なんなの? これ」
「な、なんなのって?」
恐る恐る聞く刻季。
実際は無視を決め込みたいのだが、そうはいかない。
「だから、この茶番劇は何?」
「茶番……?」
竜也が反応する。
「いやいや、なにさ! 萌葱だって知ってるでしょ?」
慌てて萌葱に撤回を要求する。
「何を?」
返事は冷めたモノだった。
それでも諦めずに刻季は、要求し続けた。
「だから、萌葱も昨日の話の全容は知ってるじゃん」
「……全容って何よ?」
これは、刻季の味方をしないという所信表明ではなく、本気でしたいことがわからない、といった様子だった。
まだ見込みはあった。
「おいおい、なんだよ、刻季」
竜也が不審そうな顔をしている。
しかし、今は萌葱を味方につけることが先決だった。
味方につければ、この戦は勝ち戦へと変わる。
「昨日のドッキリの事は萌葱も知ってるじゃん」
幸い、刻季と萌葱は隣に座っているので、話もしやすかった。
ゆえに密約を取り交わすこともできた。
「ドッキリ……?」
未だに全く話の予想がついていないらしい萌葱に、刻季はあることを思い出した。
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先日、入学してまだ一週間ほどしかたっていない時、学園内の話をしていた刻季と萌葱。
「時間ができたら、『ドリームランド』行ってみたいなぁ」
「『ドリームランド』って国内最大の来園者数を誇る?」
「そう」
どこか期待する様な目で萌葱は刻季を見ながら言った。
ドリームランド
そこはその名の通り、夢の島、夢の国と呼ばれ、優遇学園内にありながら、国内最大の来園者数を叩きだしたテーマパークだ。
興味本位で優遇学園に訪れて、そのままドリームランドに向かう、というのは今や日本人のレジャーとなっていた。
家族連れから、カップル、友人など、様々な形で訪れるお客を歓迎し、夢のような気分を味わってもらう夢の国だ。
優遇学園が出来た当時、ドリームランド以外にも、いくつかの遊園地はあったのだが、ドリームランドの人気の前にひれ伏し撤退した。
それ以降は優遇学園内に遊園地は作られることなく、ドリームランドの独占状態だった。
もちろん現在も
この遊園地に興味を示すのは、女子高生として当然のことなのだが、それが誰と行きたいという方まで、鈍い刻季にわかるはずがない。
だからこんな返事の返し方になる。
「そっか、友達できたら行ってみなよっ。そんで面白かったら僕にも教えて。仁吾と行ってみようかな」
わりと最低の返し方だった。
ついでに目の前にいる人を誘わずにいるということまでひどかった。
もちろん刻季にそんなこと気付かないが
萌葱は急に元気をなくしたみたいにため息をつき
「……そうだね」
「…………?」
哀愁漂うといった表現がぴったりの萌葱に、刻季は不思議に思った。
が、理由が分からない以上手出しが出来なかった。
この男と15年間一緒にいるというのは、想像以上に大変なことかもしれない。
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詳細は覚えていないが、なんとなく萌葱が『ドリームランド』に行きたがっていることは、この刻季にもわかった。
そのいきたい相手がわからないだけなのだ。
今は果歩もいることだし、2人で行けばいいと思っているのだが、今果歩は関係なく、萌葱を連れていくには、刻季が誘うしか方法はなかった。
もので釣るというのは、あまりしたいことではなかったが、背に腹は代えられない。
刻季の誠意が伝われば、きっと萌葱も話に何となくではあるが、乗ってくれるだろう。
「萌葱さ、ドリームランド行きたがってたよね」
小声で萌葱に意思を確認する。
「う、うん。……それが?」
突然話が変わって、驚きながら返す萌葱。
「僕と、で良ければ一緒に行けないかな? もちろん奢るから」
「えっ……、それって……」
「うん、僕と一緒に行ってほしいんだ」
「そ、そう?」
「だめかな?」
「だ、だめじゃない!」
声が大きくなり、竜也が気になるが、すぐに萌葱も気づき、声を小さくする。
「そう? じゃあ詳しいことは後にして、今は……」
「わかった。楽しみにしてる」
「うん、僕も楽しみにしてるから、今は……」
「なんとなく、話にのればいいのね?」
「ありがと」
「いいわよ。でもちゃんと後で話を聞かせてね」
素晴らしい幼馴染の機転の利かせ方だ。
生涯のほとんどという長い付き合いだが、これからもこういう付き合いをしていきたいと刻季は本気で思った。
「なに2人で話してるんだ?」
「「ううん、なんでもないよ!」」
そろそろしびれを切らしたとみえる竜也が聞くと、2人は声を揃えて返した。
仁吾は味方につけたとわかって、お役御免なのか、ニヤニヤと刻季に向けて、いやらしい笑みを浮かべていた。
「それで会長の話だけど、刻季の言うとおりよ!」
萌葱がそう告げる、それだけで場の空気が変わる。
「言うとおりって?」
「うっ……、だからドッキリのことよ!」
萌葱は少し答えづらそうに言った。
嘘をついているというのも理由の内だろうが、基本的に何も知らない状態なので、返事に困っている感じだ。
刻季は心の中で『申し訳ない』と何度も唱えた。
「じゃあ刻季は被害者ってことか?」
「そうよ!」
「それで仕掛け人が、会長と生徒会?」
「うっ……、そうよ!」
「ふーん」
燃え上がっていた怒りの火が、先程よりかなり治まっている。
これは萌葱のおかげであり、萌葱の人徳がなせる業だろう。
「それなら、まぁ、それでも羨ましくてしょうがないけど、しょうがないな」
渋々萌葱の話に同意する。
実際の生徒会役員からの意見というのはそれだけで価値があるものらしいことが今証明された。
だからといって生徒会に今さら入ることを、志望もしなければ、歓迎もされないだろう。
「まぁ、あれで、会長に名前を覚えていただけていたら、それだけで儲けもんだな」
さっきまで、怒涛の勢いで怒っていたと思えば、もうプラスに考えている、このポジティブな性格は刻季も見習うべきだろう。
とはいえ、危機は去った。
仁吾と萌葱の協力で
割とあっけなく。
「いやぁ~、相変わらず美人だったな~。いつもは遠くから見ているだけだけど、あんなに近くで見たの初めてだし、名前も呼ばれちゃったし……、あ……」
竜也はもう呑気にしていた。
一応の解決なのか?とみなが思った。
が……
しかしここで終わらないのが刻季だ。
こんな解決は、刻季らしくない。特にここ最近の
と大げさに言うが、単純なことだ。
教室はざわついていた。
話に、というか説得に夢中で気付かなかった。
「失礼します。南雲さん、刻季様、碓氷くん、陸奥くん、そして……そちらのあなた、お話がありますので、良かったら生徒会室で食事の続きをしませんか?」
後ろに華音がいた。
果歩だけは結構前から気付いていたのか、ビクビクしていた。
仁吾も気づいていなかった。
竜也も萌葱も、もちろん刻季も気づいていなかった。
そして驚く。
『出来る限り近づかないで』というのは忘れてしまったのかと、それとも問題発生かと
結果からいえば、忘れたのでも、問題発生でもなかった。
だからといって気まぐれというわけでもなかった。
今になって教室のざわつきが耳にしっかり届く。
先程から届いていたとしても対処ができたかと聞かれれば、当然出来ないと答えるが、それにしても不意をつきすぎではないか?
そう刻季は思った。
完璧に油断していた。
油断どころか、警戒対象にもなっていなかった。
一同は固まっている。
萌葱の名前を出したのは、華音の気づかいだったのだろうが、そんなこと、今は関係なかった。
また問題を起こす華音。
刻季は、慣れてしまっている自分に恐れを抱いた。
華音が返事を待っている間、教室のざわつきだけが耳に響いていた。
萌葱の遊園地話は、無理やりいれました。
萌葱の話を少しやりたかったんで、予定にはありませんでしたが、お付き合いいただければ嬉しいです。
しかしキャラ紹介ってどうやってつくるのでしょう(笑)
そろそろまとめたいんですが……