第19話 メイドとは服に宿るものに有らず
またタイトル意味不明だし、本文ともそんなに関係ないのですが、まあ気にしないでください。
すこし遅れてしまいました。
出来る限り早く更新できるように頑張りたいです。
刻季の事を考えない自称従者が、メイド服でそこにいた。
そう、何故かメイド服で。
無表情とメイド服の意外な映え方に驚くが、そこは気にせずとも、今後何の支障もでないので掘り下げないことにする。
というより、今はそれよりもすべきことがある。
現状出来ることは『何故いるんだ?』と聞くことである。
有無も言わさず追い出す、というのもあるが、これは出来そうにないので却下。
とりあえず、前者を選ぶことにする。
刻季はとんだ藪蛇にならないか不安になるが、ここ最近の出来事で精神力が強くなってきているので、それも回避できる気がしていた。
それほど濃い二日間だった。
求めていない従者が手に入り、自分の願望の為になる地位も手に入り、人脈もそれに準じて手に入れ(あまり頼りにならないのもいるが)
そして今まで以上に友情も堅くなった。
時間にして48時間も経っていないが、体感では、それの数倍以上経っている気すらする。
これまでの15年程度の人生でも、それなりに経験豊富な方だと自負している刻季だったが、その経験が霞むほど、二日間の経験が濃かった。
もちろん、そんなことは有り得ない。
有り得ないが、そう錯覚するほど色々なことがあった。
思いだして涙が出そうになる、しかしこの二日間はまだ終わっていない。
これも、刻季自身まるで求めていないが、締めのイベントが残っていた。
この一連の問題の発端であり、問題の生産者とも言える生徒会長。
この少女、実のところ、優遇学園生徒会長というかなり責任あるはずの立場なのだが、刻季はその立場を悪用しているところしか見たことが無い。
毎朝恒例の生徒会集会(非公式な名称だが)では生徒からの要望を聞いて、叶えられる範囲で叶えたり、学園内の統制も生徒会長ということで、その点でもかなりの地位を持たされ、与えられる仕事を遵守しているらしいが、刻季は華音と知り合う前は、ただ『美人の生徒会長』としか思っていなかったため、そんな仕事をしているすがたを見ていない。
そして知り合ってからは生徒会という立場を、華音にとっては有効的に、刻季にとっては悪行的に、使用している(されている)状態だ。
たぶん今回の事を聞いても『生徒会権限です』というだろう。
とはいえ、話を進めなければ、話は進まない。
今回の問題は何かと身構えながら華音に声を掛ける。
「……どうして、いるのかな?」
恐る恐るといった表現がぴったりくるくらい警戒している。
「嫌ですね、刻季様。聞かなくてもおわかりにならないですか?」
「ならないよ!」
そんな超能力持っていない、とも言い切れない自分が怖い刻季。
だが人の心情を読める能力など持っていない。
「私は刻季様のお気持ちがわかりますよ」
「えっ……?」
当然です、と胸の前に拳を握っている華音。
藪蛇になること間違いないが、聞いてみたい気になる刻季だった。
「聞きたいですか?」
興味津津になっていることがばれたのか、探るような目で華音が言う。
「まぁ少し……聞きたいかな」
欲に負けて聞いてしまう刻季。
「それでは、少し恥ずかしいですが、刻季様のお気持ちを代弁させていただきます」
照れながら言う華音は、それでもやはり自信満々といった様子だった。
ゴクリと唾を飲む刻季。……そんな緊張するとこなのだろうか?
では、と華音は喉を鳴らし、声を整えてから言った
「『華音に会いたくてたまらなかったよ~』ですね」
「なんだそれ!」
思わずつっこんでしまう。
ちなみに華音の声は微妙に似ていた。
「違うのですか?」
「違うよ! むしろ逆だよ!」
「私は刻季様に会いたいと思われたと考え、ここに来たのに……」
「随分都合の良い思考判断だねっ」
一体どんな思考能力をしているのか一度しっかり確かめてみたいところである。
「それじゃ私が、夜道を刻季様の為に暗い中、会いに来たのは無駄だったってことでしょうか……?」
先程までの楽しそうな様子はなく、悲壮感漂うといった状態に華音はなっていた。
これを見ると、甘くなる刻季。
お人好しモードが自然発生的に発動してしまい、それに抗うことは出来ない。
そして結局
「いや、うそうそうそ! 会いたかったんだ、華音に!」
「本当ですか!?」
表情が一変して輝かしくなる華音。まぁ無表情だが……
刻季も将来色々苦労しそうである。
「良かったです。私も刻季様に会いたいと思っておりましたから……」
「良かったなぁ、華音と同じ気持ちだったなんて」
「ふふ、以心伝心ですね」
むしろ以心乱心というようなものなのだが、お人好しモードの刻季には、そんなこと言えない、そんなこと言わない。
「気持ちが聞けたついでに聞いていいかな?」
「はい、なんでしょう?」
「その服、なにかな……?」
「ああ、これですか」
メイドとは、メイド服を着ればなるものではない。
メイドとは、魂に宿るものである。
とは、刻季も思わないが、着ているのはもちろん気になる。
それも存外似合っているのだ。
どこか、華音に着せるために用意したように思えた。
刻季は答えを待っていると華音からすぐに返ってきた。
「これはメイド服というものです」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………?」
「それだけ!? 説明終わり!?」
メイド服だということは来た時から気付いている。
何故着ているのかを聞きたいのだ。
「なんでメイド服を着ているのかな?」
「それは、私が刻季様のメイドだからです」
「勘弁してくれ!」
自信満々に華音が言った。
「本当は昨日、こちらにお邪魔する時には着ていたかったのですが、家の者に頼んでも間に合いませんでして……、そして今日、衣装が出来たと聞いたので受け取った次第です」
「そんな裏事情いらないよ!」
このメイド服、1日で出来たのか、ハイクオリティーだな、と刻季は思った。
「メイドがメイド服を着て、ご主人様にご奉仕するのは当然の事だと思いますが……」
きょとん、としている華音。
それを諌めるように刻季は言う。
「まずいいかな?」
「はい、なんでしょうか?」
「僕は華音を、メイドとして雇用してなどいないし、ご奉仕されるのも少し遠慮したいところなんだけど」
「雇用だなんて、そんな軽々しい関係性ではありません!」
久しぶりに声を大にしたと思えば、諌めている刻季を、更に諌めている。
「私は雇われて、刻季様に仕えているのではなく。自ら刻季様の元に、居たいと思っている所存でございます。それを雇用だなんて、他人行儀で、薄い関係にしないでください」
声量はいつも通りに戻ったが、声色は変わっていない。
「私が他人に興味を持つことは元より少なかったので、現在の生徒会のメンバーは金城君、南雲さんを除き、立候補をして、自発的に行うと言ってくれた方々です。金城君は同じ学年で、同じクラスで学級委員を毎年一緒にやっていたので、頼みました。そして南雲さんも師団の一家ということで繋がりもあったので頼みました。南雲さんも最初は渋っていましたが、面識もあったので何とか了解を得ることが出来ました」
「う、うん」
突然始まった話に、自分が関係しているとは思えない刻季はとりあえず相槌を打つ。
「そして一年生が一人では南雲さんも不安でしょうし、一年次入学時の検査表を見ていたら、刻季様の名前があったということです。そこから南雲さんに誘うことを提案しましたら、即了解をいただきました」
どうやら萌葱が刻季を入れることに反対していたというのは出鱈目だったらしい。
むしろ推薦する勢いだったようだ。
刻季は、今女子寮でのほほん、としているだろう幼馴染に向かって内心で愚痴をこぼした。
「そのあと、すぐにあなた様を呼び寄せることになり、それでも興味があるというよりは消化試合に望むような気持ちで会うことになりました。そして生徒会室であった刻季様は、お世辞にも強さが見えず、そしてその気持ちを代弁するかのごとく、すぐに魔術が使えないことを知らされました」
「うん、まぁ、強くもないよ」
刻季は自分自身の力を知り過ぎというほど知っているが、強いと思うことはない。
よっぽど世界に影響を与える魔術や剣術の方が、有能で、有用出来る。
刻季は魔力を無効にできるという能力をたまたま持って生まれただけなのだ。
時間を止める能力も生活への活用法もまるでない。
魔術師などと戦う場合がなければ、使わない能力だ。
だから、刻季は自分の能力を好んでつかってはいない。
使わざるを得ない状況に陥った時、使って被害を最小限に治めるために使うのだ。
その能力をこの学園内で、仁吾・萌葱を除き最初に引きだしたメイド服の少女は、異能者の言葉に首を振った。
「あなた様は、強うございます。それは紛れもないことです」
「そうかな?」
否定するのも憚れるくらい何度も首を振るので肯定的に答えておく刻季。
「魔術が使えない刻季様を、何故あの南雲さんが推薦するまでに至ったのか、とても気になりました。そこでたぶん始めてあなた様に興味を持ち始めたのでしょう。今にして思えばそうだと思います」
「そうなんだ」
これも頷いておく。
「そして断られた時に、どうにか入ってもらおうと生徒会権限を使いました。何故あのようなことをしたのかは、未だにわかりません。興味を持ったとはいえ、強制的に協力させるつもりはなかったのにも関わらずに。ひょっとしたらここで離れたらダメという自己暗示にでもかかっていたのかもしれません」
久しぶりに笑いながら華音は言う、刻季にはあまり笑えないが。
「でしたら、その暗示はとても優秀ですね。それのおかげで、刻季様との巡り合わせが成り立ちました」
「は、ははっ……」
苦笑しか返せない刻季だったが、それでも華音は幸せそうに笑っている。
「そのあと、決闘することになり、まるで負けるつもりはありませんでした。魔術が使えない人に負けるなんて、天原としても私としてもあり得ませんでした。刻季様の余裕にも気づいてはいましたが、それ以上に慢心していました。負けるはずないと」
それも当然だろう。
優遇学園に通いながら、魔術が使えないなど、馬鹿にしているにも程がある。
「戦い始めて、天原の魔術は室内ということで効果が浅く、使いにくかったので、使用しませんでした。しかし、そんなのはハンデとしか思っていませんでしたし、無かったところで負けることなど考えてもいませんでした」
「しかしその余裕もすぐに崩された」
声は少し真剣味を帯びている。
「最初に強化魔術を掛けていたところは近づいたところで、魔術の痕跡ごとかき消されていて、まさか刻季様の影響で消えてしまったとは、どうしても頭が受け入れられませんでした。それが一番可能性の高い説でもです。受け入れられなかった。……それでもあなた様は笑顔で、生徒会長と対峙しているにも関わらず、構えもしなかった。それに恐怖し、そして……」
「歓喜した」
恐怖と歓喜とは対する意味ではないのだろうかと刻季は思ったが、華音はそんな矛盾に気づいていなくて、矛盾と思ってもいない様子でいる。
「あなた様の笑顔を見て、ここでようやくあなた様に負ける、ということがわかりました。しかしこの歓喜と恐怖を出来る限り長い間感じていたかった、出来る限り強く感じていたかった。ですから私は、魔術のリミットを外しました。侮っていたあなた様に申し訳が無くなり本気を出しました。それでも完膚なきまでに負けてしまった。攻撃をくらったこと自体、久しぶりの事でした。決闘の申し込みが少ないうえ、授業でもまずくらいません。それをあなた様はいとも簡単に一撃くらわせてくださいました」
攻撃をくらったことを嬉しそうに言う華音。
「その後刻季様に仕えると決めたのは、攻撃をくらったからというわけではありません。きっと刻季様と出会ってからの一連の流れで、どこか惹かれていたのでしょう。特にあなた様のあの笑顔を見た時の歓喜をこれからも感じていたかった。恐怖を忌避しながらも感じたかった。だからです多分……刻季様に仕えようと思ったのは」
「そっか……」
何度も言うようだが刻季は認めてはいない。
しかしここまで詳細に話してきて、それを否定するほど酷いつもりではなかった。
「自分と対峙した相手は、大抵決闘中は苦痛を顔に浮かべるか、必死に戦おうとしてくださいます。それもとても素敵なことです。本気をだして戦い合うというのはどこか情けなく、それでも立派なことですから……。ですが刻季様は最後まで余裕綽々としていました。まるで負けるつもりもなく、まるで本気を出す様子もなく」
どこかうっとりとした眼で言う華音。
もう表情には何も浮かんではいなかったが、刻季はなんとなく感情が読めていた。
「その時、あなた様のことを、私は『王』とも『神』とも思いました」
それは大層、偉そうな呼び方だった。
刻季は『王』でもないし、もちろん『神』なんかではない。
王になれる器でもなければ、王になりたいと望んでもいない。
また神も然りだ。
「『王』に仕えるのは、民の義務ですし、『神』を崇めるのも、民として当然のことです。周りの方々はそこまで思っていないでしょうか、私は刻季様を『王』『神』として仕え、崇めています」
「それにしては、色々面倒なことを起こしてくれているけど」
華音と出会ってから、大変なことだらけだ。
棚ぼたで地位も手に入れたが、それ以外は大抵望んではいないものだった。
生徒会もメイドもだ。
「それは、刻季様に私が仕えるということを、みんなに知らしめるためです」
「また余計な事だねっ!」
それは刻季にとって二重で困ることである。
仕えることを周りに知られることも、刻季が認めたと思われるだろう。
望んでいないのに、上の立場につかされて、まるで兄弟を押しのけて家督を継いだような気分になった。
「仕方ありません。刻季様に本気で仕えるということになれば『天原』も『羽間』も関係ありません。もちろん『生徒会長』も『一年次の生徒』も、です。だからより多くの方に知ってもらうことが大事だったのです。『これから、私は刻季様の下につく』という宣誓をしたのです」
下につくという言い方は、どこか不良のように思えた。
ある意味、華音は刻季にとって不良なのだが。
「もうしたことは戻ってこないから、これからはやめてよね」
したことは諦めて受け入れることにして、今後の火種を減らそうと試みる。
「はい、これ以上は方々に伝える必要がありませんので、必要以上にするつもりはありません」
「それを聞いて少し安心したよ」
ため息をつく刻季。二日間で一体どれほどのため息をついているのだろうか。
主に華音絡みなのが、嫌なところだ。
そこで華音は姿勢を先程以上に正した。
話が途切れて、華音の本題にはいるのだろうか
正座をいつまで続けているのだろうか、気になるところだが、聞けないくらい真剣な顔をしていた。
そして口を開いた。
「我が結社の頭首に就任していただきありがとうございます。兄の名代としても御礼申し上げます。これからは私を手足のように扱い、結社を動かしていってください。私はあなた様の秘書としても活動します。あなた様の意向に従わない者がいたら、処罰の対象にし、刑を執行します」
いままでにないほどの真剣な表情で告げた言葉は、圧政も良いところの発言だった。
それでは、華音すら処罰の対象なのではないのかな、と刻季も思った。
頭首だからと言ってそこまで、自分が力をふるうつもりはない。
権力は『羽間』の、ひいては姉のおまけだと思っているからだ。
華音の気持ちは嬉しかったが、程度も限度もあるので言った。
「ありがとう、華音。その気持ちはすごく嬉しいし、助かることもあるんだけど、僕の意向はそこまで聞かなくていいし、むしろいき過ぎたら止めてほしいんだ」
「何を仰っているのですか、我が君。部下が主の願いや要求を叶えるのは当然ではないですか」
「たかが、頭首なんだから、結社の意向はみんなで決めることにしようよ。それはお兄さんにも伝えといて。……まああの人はそのつもりだよね」
要するに華音が、一人で刻季の為に働こうとしているだけなのだ。
「ですが、あなた様は我が頭首であります。そのような温いことはやめてください」
「温いことって……」
自分に熱湯レベルを求められても応えられるつもりはない。
むしろ温いどころか冷水レベルになるかもしれないのだ。
「じゃあ、華音に命令」
「はい、なんでしょうか?」
ここで初めて華音に対して、権力を行使する。
あくまで、従者に対するものでなく、頭首として、結社の構成員に言うように。
華音はそれでも嬉しそうだった。
「結社の意向は合議で決めます。それに異存を言わないように」
「それは……!」
「華音が求めた命令だよ? 聞かないなら、結社の頭首も断る。そんな絶対王政じゃあるまいし、今は民主的な側面がないと結社も維持できない。そんな先のない結社なんてお断りだよ」
「…………」
「どうするの?」
「…………わかりました」
渋々肯定を示す華音。
「ようやく、私の上に立つ立場が整いましたのに、そんな簡単に諦められては困ります」
唇を突き出す華音は、憮然としながら言った。
「まぁ、僕も華音の事をある程度許容するから、華音も少しは許してよ」
それは刻季にとって、華音の存在を認める言葉で、刻季が今まで許していなかったことを許す言葉でもあった。
それでも華音はどこか憮然としたまま(無表情なのだが)だった。
「じゃあ、この話はおしまい! それじゃ華音、遅いし送っていくから着替えて」
自然とついてでた言葉だったのだが、華音は驚いた様子を見せた。
「そんな……、刻季様。今日もここに残ってはいけないのですか?」
「何言ってるの? ダメに決まってるじゃん」
それは当然のことだ。
年頃の少年少女が同じ部屋に泊まるなの有り得ない。
泊まるというが刻季の部屋だが。
「ですが、お夜伽をさせて…………」
「ちょっと待ったぁ~~~!!」
なんかいらん単語が入っていた。
本当に何の前触れもなく、突然爆発する爆弾のようだ。
「女性がそう言うことを言ってはいけないと思います」
貞操観念がしっかりしている刻季は、華音を諌めた。
しかし華音も引かなかった。
「いいえ、今日という今日は残ります。お泊りセットなるものをちゃんと用意していますし、昨晩部屋を色々覗いて、おそろいのパジャマとコップ、歯ブラシなどを用意しましたから」
「何やってんのかな!」
それじゃメイド服の意味がない、とも言わない刻季。
少しそう思っているということもあり得るが。
というか観点はそこではない。
「今日は何があっても残らせてもらいます。帰りもメイド服なんて恥ずかしいですし」
「来る時もメイド服だったの!?」
また衝撃の事実発覚だ。
気を休める暇がない。
「周りから、変なものを見るような目と、少しいやらしそうなものを見るような目で見られ、イラっともきました。刻季様以外にあんな眼で見られるなんて……、不覚でした」
「僕はそんな目で見るつもりないよ!」
「え? 刻季様、お気づきではありませんでしたか?」
「なにが!? 僕そんな眼で見てるの!?」
「(……ポッ)」
「やめて~! 突然そんなしおらしくなるの」
刻季も見ていないと断言できないのが辛いところだ。
「まぁ冗談はともかくとして……」
口調をころりとかえ、照れていた表情もころりとかえ、華音が言った。
「質の悪い冗談だよ!」
つっこむが気にとめた様子なく、華音は続けた。
「ここには今日は、残らせていただきます。そう兄上にも話しましたし、喜んで見送ってくれました」
「あの人は!」
余計な事ばかりする人だ。
兄妹そろって。
「昨日は引きましたが、今日は引きません。結社のトップに対する警護ともお考えください」
それは間違いではないだろう。
師団と宗教徒と国家を敵にまわした結社。
詳細は知られてないが、これからは危険が降りかかるようになるだろう。
刻季は魔術が使えない以上、穴がある。
むしろ穴だらけだ。
その穴に華音も気づいているのだろう。
だから昨日に比べて引こうとしない。
昨日は3時間で引いたのにも関わらず、今回は引く隙すら見つからない。
それも刻季のためを思ってのことなのだろう。
だから刻季は
「じゃあ、ここに残っても良いけど、僕は仁吾のところに泊まるね」
「それはダメです! あの人は『碓氷』ではないですか。いずれ敵になる人に協力していただくなどあり得ません」
「同じ部屋に泊まる方が有り得ないし、仁吾にはちゃんと話してあるから」
「何故ですか!?」
どちらに対しての疑問だろうか、
わからなかったので、律儀にどちらに対しても答えた。
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「そんなことが……」
華音に先程のことをかいつまんで話すと、ぼうっとしたような返事が返ってきた。
「国家と共存するというのは、兄上の考えと違いますが……」
「わかっているよ。だけど、国家と共存しながらも、魔術師の地位の向上は目指せるでしょ?」
むしろ国家と協力した方が、魔術師の向上は図りやすいだろう。
敵対するより取り込むほうが、勢力があがるのは必然だ。
「確かにそうですね。……わかりました。私は刻季様の考えに同調させていただきます」
「ありがとう。これから大変になるかもだけど、よろしくね」
「刻季様の頼みを大変とは思いません。むしろ仰ってくださって嬉しいです」
頼まれて喜ぶという気持ちは少なからず刻季にもわかる。
頼られるというのは、存外嬉しいことなのだ。
「それじゃ、僕は仁吾の部屋に行くね。部屋の物は好きに使っていいから」
「はい、何かありましたら、すぐに呼んでください。駆けつけますから」
「まぁ結成してすぐっていうのもないでしょ?」
「警護の関係だけではありません。下のお世話と……」
「ストォーップ!」
暴発し放題の女だ。
大変な使いづらい爆弾を抱えてしまった刻季だった。
ちなみにこの後仁吾に詮索されたが、明日になればわかると、言葉を濁した。
華音嫌いな人多いですね。
なんだか寂しいです。