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魔力世界の時操者(CHroNuS)  作者: 更科 甘味
二章 帰結ない物語
20/33

第18話 国家サイド


なんか最近めちゃくちゃアクセス数が増えてます。

本来なら喜ぶところなんですが、駄文だと理解している私には少々怖いところです(笑)


今回はいつもよりシリアスなところもあります。





仁吾の部屋は相変わらず男臭い匂いが全開だった。

この匂いの発信源は間違いなく仁吾だろう。

仁吾が刻季の部屋に遊びに来て、時間が経って帰ると、同じ匂いがしていることが多々ある。

この男臭さ、個人的には嫌う人もいるだろうが、刻季は羨ましいのだ。


常々思う、自分には男らしさがないんだと

だから自分の呼び方を『俺』に変えてみたこともあったのだが、慣れない上に、それを聞いていた萌葱に爆笑されるという顛末を招いた。


だが萌葱の気持ちもわかる。

確かその時は中等部2年生の頃だったのだが、14歳の今日まで『僕』と呼んでいるのに、突然不器用にも程があるくらいの勢いで『お、お、俺は……』なんて聞いたら笑ってしまうのも当然だろう。

その日から、似合わない事と、無理なことはやらないことを心の中で誓った。



と、まあ、刻季が憧れる男臭の仁吾の部屋。


あれからすぐに自室の隣の部屋である、仁吾の部屋に向かった。

話したいこともあったし、聞きたいこともあったのだ。

その仁吾はいつも通り刻季を迎えてくれた。

中等の1年から仁吾には公私ともに世話になっていた。

きっとこれからも世話になることだろう。

こちらからお世話することも多いが


とりあえず聞きたいことがあったので、ベッドに腰をおろして、刻季は訊いた。

聞きたいこととはクラスのその後と竜也のその後である。

「えーと、僕たち……主に僕だけど、華音に連れられていなくなったよね。あのあとどうなってた?」

「どうって、何がだ?」

刻季のどこか伝わりにくい言葉に首を傾げる仁吾。

刻季も聞きたがってはいるのだが、決定的な答えを聞きたくないから、どこか言葉を濁しがちになっている。


でもどうせ避けては通れない道なので、決心した。

「華音から連れていかれて、クラスの状況は? 竜也の状況は?」

仁吾が悪いわけではないが問い詰めるような形になってしまった。

それに仁吾は

「あ~」

とにやけながら返した。

刻季が困っていることに気がついたのだ。


そして意地悪そうな顔をしながらこう言うのだ。

「明日行けばわかるだろ」

「えー!! なにそれ、一番怖い答えだよ!」

「聞いたからって何が変わるわけじゃないだろ」

「僕の心構えが変わるよ!」

「んなもん、気合いで何とかしろ」

と相変わらずにやけながら言う仁吾。


「気合いなんかで何とかなるわけないじゃん!」

「俺なら何とかする」

「気合いの絶対値が違う!」

不遜な態度で仁吾が言う、『超気合い説』を一蹴するように刻季はつっこんだ。

ちなみに『超気合い説』というのは、なんてことはない、ただ物事は気合いで何とかなるという仁吾の持論である。


見た目で判断する気はないが、刻季と仁吾とでは役者が違う。

片や、痩せ形の長髪女顔

片や、気合いというものを体現したようなおとこの中の漢。

と結局見た目で判断しているところもあるが、中身もそうだ。


片や、流されやすい薄弱なところが多い男

片や、決めたことはやりきる男

ほぼ対面にいる者たち、どちらに気合い成分が多く含まれているかは明白だ。


だから刻季に、仁吾と同じ生き方は出来ない。

もちろん仁吾も刻季と同じ生き方など出来ないが、もともと仁吾はそれを望んでいない。

気合いでなんとかなるという仁吾が羨ましく感じるが、刻季は望んでも叶わないものより、望めば少し叶う方を選んだ、つまり、クラスの状況を聞くことだ。


「少しでいいから教えてよ」

「うーん、まぁ良いけど、たぶん刻季も気づいているだろ?」

「予想はしている」

悪い方にだ。


「クラスは刻季の噂でもちきり、たぶん他クラスもだが……、まあそれはいいや。竜也は…………ハハッ」

「笑って誤魔化さないでよ!」

随分不吉な笑い声に聞こえる。


仁吾は刻季の憤慨に、悪い悪い、と何も悪くなさそうに謝って、続けた。

「まぁ刻季の思うとおりだと思うぞ。要するに嫉妬に狂ってた」

「やっぱり……?」

「具体的に言えば、『殺す殺す……』とぶつぶつ言い続けてた。それに阪野はその声が聞こえるたびに怯えてた」

「怖い!」

なんだその呪いの言葉は


「ちなみに俺も結構引くモノがあった。というかどん引きだった」

「誰でもそうなるよ! なにそれ、僕殺されるの?」

「覚悟はしておいた方がいいかもな」

「やだよ! 死ぬ覚悟じゃなくて、殺される覚悟なんて!」

「そう俺に言っても仕方ないだろ」

「そうだけど……」

興奮して結構声を張っていた。

落ち着くために深呼吸を繰り返す。


「明日は気をつけた方がいいな。特に夜道とかは対処のしようがないからな」

「冷静に分析してないでよ!」

結局落ち着けない。

仁吾も面白い遊びを見つけたような様子で、意地悪そうな笑みを崩さないというのも一つの理由だ。


「どちらにせよ、明日になればわかるさ」

「確かにそうなんだけどさぁ……、確かにそうなんだけど、そうは割り切れないでしょ」

「果たして刻季は無事に明後日を迎えられるのか」

「モノローグやめて!」

不謹慎な事を呟く仁吾。


「他人事だと思って……」

恨めしく仁吾を睨みつける刻季に、仁吾は豪快に笑った。


____________________


「んで、他にもなんかあるのか?」

一通り刻季を虐めてから満足したのか、話を切り替えた。

刻季も怒り疲れたのか、一つ大きく嘆息してから、話を切り出した。


「うん、ていうか、まぁ、これからが、本題かな」

「だろうな」

仁吾も予想していたようで、刻季の話を待った。


「今日の事なんだけど……、あの後、仁吾も知ってる通り、華音の家に行ったんだ」

「ああ、それか」

仁吾は適当な合いの手を打つ。


「それが、どうしたんだ?」

「そこで、華音のお父さんとお兄さんに会ったんだけど、お父さんは予想通り」

「会長の事は反対だったのか?」

「うん」

刻季が頷くと、まあそうか、と仁吾は当然のことのように、理解した。

というか元々反対されていると聞いてから訪れたから、それは当然である。


仁吾に、それで?と促されると刻季は続けた。

「なんやかんやの内に、お兄さんと決闘する羽目になって……」

「またか!? お前もホントにここ最近大変だな」

「大変なのは、仁吾と会ってからもそうだから、慣れているといっちゃ慣れているけど」

「おいおい、そりゃねえよ」

と仁吾はいうが、実際仁吾と会う前は、萌葱もとても純粋で良い子だったのが、規律に厳しくなった。

別に純粋と規律正しいというのは相反しないが、萌葱は昔から、真面目であったが、刻季の事も真面目と思っていたので、そこでつっかかることもなかった。


しかし仁吾と出会ってから、萌葱は変わった。

というより、萌葱の刻季に対する、認識が変わった。

認識が変わり、態度が変わった。

態度が変わり、性格が変わった。


このような順序で、萌葱は厳しくなった。

それはもちろん、仁吾に対してもあるのだが、大抵は刻季に対してが多い。

そうなるのは、きっと刻季に戻ってほしいと思っているからなのだろう。

過去を知っているから戻ってほしい。

子供の純粋さを取り戻すことは、過去に戻っているが、退化とは言わないだろう。

むしろ成長という。

それが刻季にも分かっているため、刻季も萌葱に悪感情は抱かないし、むしろ自分が10割悪いと思っている。

仁吾に巻き込まれての形がほとんどだが、言い訳はしない。小言は言うが


仁吾の純粋さは、退化でも成長でも無く、子供のままというだけだろう。

高等1年で未だに、悪戯をして怒られる2人。

成長していない2人。


むしろ知恵がついた分悪くなっている。

純粋さが悪だと、よくいうがこういうことなのだろうか



閑話休題



仁吾の呆れた声に、余計呆れる刻季。

あれだけ色々やっておいて否定出来る材料があるのか、と


とはいえここを掘り下げても、話は進まない。

まあいいや、とため息をつき、話を進める。


「それで、決闘は勝ったんだけど、もっと困ったことがあって……」

「また刻季に仕えるとか?」

「いや、それよりも大規模、そして……」

「そして?」

ベッドに座っていた刻季は幾分か姿勢を正していった。



『仁吾に申し訳ない』



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



そこから沈黙が続く空間。

刻季はひょっとしたら自分が時間を止めているのではないか、と錯覚した。


しかしそれは違うとすぐにその考えを取り下げた。


あの空間は異質で、美しい沈黙が隣にある。


いや、違う。違った。


異質なのは自分であって、あの空間自体は異質ではない。

それどころか、空間は刻季の知らないところで、刻季以外も知らないところでいつも通り動いている。

つまり誰も知らないところで時間は動いているのだ。

刻季だけが異物。

能力を使っていた後は、あの美しく卑しい沈黙が横たわる後には、いつも通常だ。



ここにある沈黙は単純に、純粋に居心地が悪い。

きっと仁吾が機械だったら、動作音がずっと流れていて、静かではあるが、沈黙ではないだろう、などと嫌なことを考えてすぐに取り下げた。

その間も仁吾は思考する機械のように、動作音なく、ひたすら考えに耽っていた。


しかし、その時間も『超気合い説』主義者の仁吾には長く続かず、あー!と大声を出し、頭を掻き毟った。

その行動に驚き、仁吾の方を見ていると、仁吾はその手をすぐに止め、そして刻季の顔を、ボサボサになった髪のまま、見て言った。


「わっかんねぇ! なんで俺に申し訳ないんだ!?」

ただ単純に疑問を出したわけだったら、あれほどの時間考えることもないだろう。

考えすぎかもしれないが、僕の為かもね、と刻季は思っていた。


きっと自分の辛そうな顔を見て、少しでも負担を減らすために、自分で思いつこうとしたのだろう、と

仁吾に対して申し訳ない話をしようとしていたのに、何故逆に心配かけているのか、わからなかったが、仁吾はそういう奴なのだ。

良くも悪くも子供のまま大きくなった、純粋な子供。

頭と体は大人だが、精神は子供。

そういう奴。



仁吾の思考は、刻季の思っている通りだった。

お人好し

仁吾はこうだから、刻季から離れるように萌葱から注意を受けないのだろう。

それも、仁吾の為でなく、刻季の為であることは、いうまでもないが、結果的に仁吾の為にもなっている。

いくら刻季と悪戯をしても、刻季からは引き離さない。

澪桜は悪戯とか関係なく、年がら年中引き離そうとしているが。



ともあれ、仁吾の言葉に驚きながらも、安心したような刻季は話した。

「実は結社に誘われて頭首になった」

「あ? 結社? 頭首? 随分突然だな」

苛立ったような仁吾の声。

それも刻季の為であることはなんとなく、わかるので別段気にせずにいる。


「それで、その結社がなんで悪いんだ? 確かに天原からの発なら警戒すべきだけどな……、だからといって、別に俺には……」

「天原発じゃない。たぶん、これは仁吾にも、近いうちに情報が入ると思うけど、天原家からじゃないんだ。むしろ天原は反対といったほうがいいかもしれない」

「……どういうことだ?」

訝しむ仁吾の顔が刻季の視界に映る。


「味方というか、構成員は師団で、敵は教徒と師団の長、それから……国家」

「――ッ!」

仁吾が息を飲む。

一言で理解したとは思えない説明だったが、驚くには足る説明だったようだ。


「……師団ってことは、あれか? 師団家出身ってことか?」

「というか、師団の跡継ぎって感じかな」

刻季の言葉にまた息を飲む。


それもそうだ。

将来魔術師の先頭に立つような存在の結社なのだ。

時間が経てば、師団よりも力をもつことは必至である。

というより、時間が経てば、師団ととってかわる組織だ。

それが、師団を敵とし、教徒を敵とし、そして国家すらも、敵とする。


そんな話を聞かせれば驚くのも無理はない。

仁吾の家は完全に国家サイドの魔術一家だ。


ここで碓氷うすい家の紹介、というか説明が必要となるだろう。


碓氷家は過去から続く魔術師の名家である。

しかし、師団や旅団、それに準じる組織に属しているわけではない。

家柄的には申し分ないのだが、属する側が違う。

碓氷は魔術師として、宗教徒と戦うのではなく、魔術師として、国家に仕えた。


約50年前まで続いた、魔術師と宗教徒の戦争の影にはいつも、国家というものがあった。

表向き、国は国家が治めていた。

しかしその国家ですら抑えられない連中がいた。

それが魔術師と宗教徒だ。


双方ともに、これも表向きだが、国家に従っていた。

しかし裏では、国家の代表者を暗殺し、自分たちの有利な者を代わりに据え置いたり、などと、国家からすれば、悪行が目立った。

それゆえに国家も一つの抑圧策で、防護策をとった。

それが取りいれである。


魔術師や宗教徒を国家に取り入れ、双方の好き勝手にはさせないようにさせた。


その内の国家側の魔術師の代表が、要するに碓氷家だったというわけだった。

碓氷家は国家の取り入れ策により、一番早く国家に見初められ、そして、今後の国家側の取り入れられた魔術師の中でも一番大きな規模の家だった。

過去の資料にこんな話もあるくらいだった。


師団を作る時期がもう少し早ければ、あれほど有望な人材(碓氷家)を逃すことはなかったのに


碓氷は師団の結成にも一役買っている。

碓氷が魔術師から抜け出たことでした穴埋めが結社だったのだ。

それもこれまでにない規模の結社の結成が求められた。

これにより師団が結成した。


碓氷がやめたことにより、師団が誕生した。

それは魔術師にとって幸福なことであり、国家・宗教徒からすれば、不幸なことでしかなかった。


しかし碓氷は現在も魔術師からはそれほど嫌われた存在ではない。

むしろ、割と友好的に扱われているところがあるのは、師団の結成とも関係しているのだろう。

それから、約50年前、国家に完璧に服属することが決定した時、魔術師に対する条約の緩和というのも、碓氷が懇願したためになったということもある。



過去から現在に至るまで、碓氷は国家に属している。

もちろん仁吾も現在碓氷として国家側に位置する立場の存在だ。


ここまで話せば刻季の申し訳なさの気持ちもわかるだろう。

刻季は明らかに、国家が敵だと宣言した。

国家に属する人間に対して


それは友人であっても、どれだけ仲が良くても覆せない事だった。


仁吾に黙っていることはできなかった。

罪悪感というのもあったが、それ以上に裏切り続けることが出来なかったのだ。

黙っていれば、少しだけ新結社に対して有利に動いたかもしれない。

しかし、いずれは知られることだし、何よりそれはしたくなかった。

仁吾は友人だから、大事にしたい。

それに仁吾は純粋だから知った時の悩み方は尋常でないだろう。


今ですら、刻季の目の前で悩んでいるのだ。

自分の知らないところでこうなっていたとは考えるのもつらくなる。


その仁吾は苦渋を浮かべながらこう言った。

「つまり、国家の敵となるのか?」

この一言を出すのにどれだけ苦しんだか刻季にもわかった。

もう結社の目的もほとんどわかっているのだろう。


だから、刻季は出来るだけ、出来る限り、目の前の友人に向けて真摯に届くように、頷いた。

もう一度、仁吾の目の前で敵だと伝えた。


そこで仁吾は少し吹っ切れたように、そうか、とだけ告げた。

また刻季が頷く。

そして仁吾も頷く。


仁吾は頷いたまま少し俯いて動かなくなった。

それでも口は動くようで

「わかった」

といった。


「ごめん」

「謝るな。別に悪いわけじゃない」

「ごめん」

俯いている仁吾に追撃する様で心苦しかったが、謝ることしか出来なかった。


二度目の謝罪をした後仁吾は顔を上げて言った。

「あのな、碓氷としては、もちろん、もちろん大反対もいいとこなんだけどな。でもこういうのはいずれあることだったんだよ」

「……どういうこと?」

疑問に駆られる。


「50年も経ってるんだ、いつまでも平穏なままでいられるとは思っていなかった。国家に対する不満は魔術師・宗教徒、共に多いだろうし、お互い今まで争い合っていたのに、突然休戦させられて、一緒の場にいなきゃいけないことも増えたんだ」

当然だろ、と仁吾は言った。

「俺が悩んでいたのは、刻季お前の事なんだ。国家の敵になると確定している組織のトップにお前がいるっていうのは……辛いことだよ」

そういった仁吾の目元には悲壮感が漂っている。


「でも否定も出来ない、そしてもちろん応援もできない。このどっちつかずの状態が辛い。俺はバカだからどうしていいのかわからない」

「仁吾……」

仁吾はバカなどでは無い。

ただ単純に純粋なのだ。

良くも悪くも…………


「どうしたらいい? ……俺はどうしたらいいんだ?」

つらそうな眼を見て、刻季自身も余計に辛くなる。

思えば仁吾がこんな表情を見せたのは久しぶりのことだった。


弱みを見せない漢の中の漢。

それが仁吾のポジションだ。

『超気合い説』をも可能にする、仁吾の精神。

今は見る影もなく弱っている。



そこで刻季は苦渋の決断ではあったが、もともと考えていたことを仁吾に話した。

もう見ていられなかった。

こんな仁吾を、いつも生命力あふれる仁吾が弱っている姿を


「仁吾、僕は結局『羽間』の為に国家に敵対するんだ。結局自分の為に、国家じんごに敵対するんだ。綺麗事に聞こえるかもしれない、というか綺麗事なのかもしれないけど、僕は敵対しても裏切りたくない。……仁吾を、裏切りたくない」

ありのままの気持ちを告げる刻季。

言っていくごとに辛くなっていくが気持ちは止まらない。


「裏切りたくないけど、自分の為に敵対しなきゃならない。だから仁吾も好きにやってほしいんだ。いつもの仁吾のように、気合いでなんとかしてほしい。仁吾に対する最大の望みは結社への協力だけど、それが出来ないことなんて百も承知だよ。だから仁吾は仁吾がいいと思ったことをやってほしい。結果離れることになろうとも、裏切ることになるよりずっといいよ」

「刻季……」

仁吾の目に少しだけ生気が戻っていく。


「結局自分の為のわがままだけど、僕は出来る限り共存の道を選びたいんだ。でもそれが簡単にいくとは思わないし、なにより、他の結社のメンバーがどう出るかわからない。頭首なのにね」

と痛々しい苦笑を浮かべる刻季。

それをみて徐々に仁吾に力が戻っていった。

いつも刻季が辛そうにすると慰めたり、力を与えていた時の癖だろうか。


「刻季」

仁吾が刻季の話を断ち切ると、言った。

「お前の気持ちは分かった。それでお前も俺の気持ちを分かっているだろう」

刻季はどこか呆然自失としながら頷いた。


「だから、この場合の最善策をとろう」

「最善策?」

とはなんだろう、と思っていたら、すぐに説明が来た。


「俺もお前も共存の道を取りたい。そしてお前らの敵になるだろう、国家おれらもそれを望んでいる」

確かに国家は現状が一番だと思っている。


そしてようやく苦悩から脱却したような不遜な笑みを浮かべてこう言った。

「だったらそうしよう」

「……え?」

「それが、最善だろ? 今の2人にとって、『羽間』と『国家』にとっても」

「……まぁ」

確かにそうなのだが簡単にいくわけない。

結社には国家に恨みを持つ人が大半だろうし、国家もそんな連中を見逃しておくとは限らない。


「でもそんなの……」

うまくいくわけない、と続けるはずの刻季の言葉は自然と切れた。

なぜなら、仁吾の顔がいつものように、いつも以上に清々しそうなところがあったのだ。

それも高低差があってのことなのだろうか


「だからやろう。そうするために、俺は動く」

いつものように決めたことはやりきる仁吾の言葉だった。

「刻季はどうする? ……って聞いてもやらせるがな。悪戯は一人でやっても面白くないんだ」

そして大きく笑った。

さきほどの悲しみに暮れた表情など今は浮かんでこない。


その顔をみて、その笑い声を聞いて安心した刻季は言った。

「まったく、萌葱に怒られても知らないからね」

その声も痛々しさからはかけ離れたところにあった。


「そんなの……」

仁吾は溜めるようにしている。

それに続く言葉は刻季にも分かった。


「「気合いで何とかしろ」でしょ?」

やはりそうだった。

結局のところ『超気合い説』なんとかする。

そしていつもなんとかなるのが仁吾なのだ。

今回もそうなら、それはとても幸せなことだろう。


2人声が揃い大笑いする。

あまり笑えなかったこの2日分を溜めていたように刻季も大きく笑っている。



そこで本日の会談は幕を閉じた。

詳しいことは後日話すと決めて。


____________________



自室に戻ると久々に色々なことから解放されたせいか、ほどよい疲れとなって押し寄せてきた。

まだ、そこまで遅い時間では無いが、シャワーを浴びて、すぐに寝ようと思った。


部屋にタオルや着替えがあるので、取りに行く。


そこにはもうすでにタオルとパジャマが見えるところに置いてあった。

まるで刻季の帰りを待っていたかのように、

しかし待っていたのはタオルでもパジャマでもない。


こんな時に刻季の部屋に来るのは一人しかいない。


刻季の都合を考えない、自称、刻季に仕える少女。

別名メイドや、奴隷、酷い時だと、性奴隷などもある。


要するに



――華音だ。


「お帰りなさいませ、ご主人様」

なにこのデジャヴ、と刻季が思ったかどうかは定かではないが、思うのも無理はない。

つい昨晩見たばかりの姿勢だ。


しかし一つだけ違うところがある。

それは華音の服装が制服でなく


メイド服だったところだ。


全く問題ばかり生み出す女だった。


問題を持ってくるだけでなく、問題を生みだすことまでする。


それが



天原華音だ




まったく華音は怪しからん!(笑)


今回も長くて疲れました。

しかも見直ししている暇もなかったので、だいぶ書きなぐった感じになっています。


風邪の時より、酷いんじゃないですかね……(笑)

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