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魔力世界の時操者(CHroNuS)  作者: 更科 甘味
二章 帰結ない物語
19/33

第17話 強制プロポーズ

今回は一言だけ、


すいません(笑)


ではどうぞ。



話し始めて状況の変化をうまく出来たのではないかという刻季の思いは明後日の方へ飛んでいき、刻季自慢の麗しい姉の求めるところは先程から寸分の狂いなく、そこにあった。


ドキドキとしながら澪桜は刻季の言葉を待つ。

「あのさ、姉さん。もし、ね! もし、僕が魔術結社に入るとしたら、どうする?」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


『…………へ?』


「だから……、もし、僕が魔術系の組織に入るとしたら姉さんならどうする……?」

刻季は『もし』という言葉を、会話の緩和剤として使おうという試みなのだが、姉の求める会話自体刻季とは、開始地点から違っているので、澪桜としては何を言っているかすら理解できない。


『……………………』

「姉さん? どうしたの……?」

『……………………』

「おーい、姉さーんっ」

途端に返事が無くなって不安になり、何度も呼びかけてみるが返事がない。



それからも刻季の何回か、ねぇさーん、と健気に呼ぶ声に一向に返事がある気配がない。

刻季も不思議に思い、携帯電話を見て、通話を確認するが、ちゃんと姉との通話は繋がっているということは表示されていた。

今まで電話を姉からは一度も切られたことが無いので、見たのも一応の確認という意味であったのだが、先程の一方的な会話からもわかる通り、無言電話を楽しむ変態的な趣味もない。

むしろ、刻季との電話の刻季は積極的に、積極的すぎに、刻季に話しかけてくる。


その姉が無言になるとは、相当の事が起こったことを意味しており、刻季は姉の電話先になにか、あらぬことがあったのかと不安になった。

「姉さん……っ。姉さんだいじょ……」

『トー君! そこに座りなさい!』

「…………へ?」

今度は刻季が言葉を失う番だった。


「いや、あの、座っているけど……」

『正座っ!』

「……えと、なんで?」

『いいからっ!』

まさか電話で正座させられると思っていなかった刻季だったが、このままでは姉は許さないだろうから、口だけは乗っておくことにした。


「……正座したよ」

『ちゃんとしなさい!』

何故わかるのだろう。

それはわからないが、姉には正座してないとわかるらしい。


これ以上は面倒なのでここで話を止めるわけにはいかずに、とりあえず正座をした。

「……しました」

『それじゃ、トー君! どうしてなのかな!?』

「…………? 何の話かな?」

『わたしがなんで怒っているかわかる!?』

もちろん、わかるわけがない。

刻季としては話を始めようと思ったら、何故か怒っていたからだ。


「……すいません、皆目見当がつきません……」

『トー君っ!』

「はいっ!」

憤慨したように怒鳴る澪桜。

その迫力にビビり、正座しながら竦み上がる刻季。


『お姉ちゃんはね、トー君の事をこの世で一番に想っているよ。もちろんそれはトー君も同じだと思う。でもね、想っているからって……、恋人だからって許されることと許されないことがあることはトー君もわかるよね?』

突然優しい声音で諭すように言う澪桜。


「いや別に恋人じゃ……」

『お姉ちゃんが話している時は黙って聞く!』

「はいっ」

刻季は電話に向かってペコペコ謝っている。

とてもシュールな光景だ。


『トー君がそうやって焦らしプレイを楽しむのも、お姉ちゃんにとっては寂しいけど、付き合うのも吝かじゃないよ。でも伝えるべき大事なことは、そうやって遊びながらじゃダメでしょ? ……お姉ちゃんの言いたいことはわかったね?』

「なんとなく……」

言っていることはわかるが、彼女が何を伝えたいのかがさっぱりわからないという状態だ。


『ホントはお姉ちゃん、電話なんてロマンチックじゃない状況も嫌なんだけど、トー君にはトー君なりの伝え方があるだろうから…………。じゃあトー君、姿勢を戻していいよ』

「う、うん。わかった」

正座なんて慣れないことをして、足がしびれかかっていた時だったので、助かった。

これ実は、姉が少しだけ罰を与えようと、しびれそうで、しびれない、少しだけしびれるように時間を計算してやっていた。

怖い姉だ。刻季はそれも気づかないが……


『はい、じゃあトー君。お話を始めてください』

いつも通り優しい姉に戻り、話を促された為、刻季は安心して姉の勧誘をすすめようとし始めた。(2度目)

「姉さん、怒らないで聞いてね」

『まさか。今は嬉し号泣しちゃう状況になるところだけど、怒るなんて滅相もない』

先程の怒りはなんだったのか。それと嬉し号泣とは随分と器用なことだ。


「じゃあ……言うね」

『うん!』

姉の声が上ずっている。

何か楽しみなことでもあるのだろうか、といつもなら微笑ましくなるところだが、これから話すことで状況が一変するかもしれないので、油断は出来ない。



この2人勘違いの連続である。

状況を確認すると、一方は姉を結社に勧誘しようとドキドキしていて、もう一方はプロポーズされると思いドキドキしている。

同じドキドキなのに、まるで感情の違う動悸だ。



刻季は決心して言った。

「あのね、姉さん。実は僕、今度新結社を結成するんだけど、その組織に姉さんも誘いたいんだ!」

『こちらこそお願いします』

「……えっ?」

『……え゛っ!?』

なんか軽く言質がとれちゃった。


「ほんと!? ほんとなんだね、姉さん!」

刻季はそれはそれはもう、欲しがっていたおもちゃを買ってもらった子供のように喜びを体で表していた。

それに慌てたのは澪桜だ。


『ちょ、ちょっと待ってトー君! なに、その結社って!?』

「結社は結社だよ。魔術結社。さっきも話したでしょ? もしかしたら少しだけ姉さんが苦手な人がいるかもしれないけど……」

もちろん、澪桜は刻季の話なんて怒っていたので聞いていない。

『ごめん、トー君が何言ってるかわからないよ、お姉ちゃん。トー君語の解読特一級免許の資格取得しているのに……』

「もぉ~話聞いてなかったの?」

『だってプロポーズじゃ……』

「つべこべ言わない!」

『はいっ!』

刻季の怒る声は姉にそっくりだった。

声が女みたいなのだ。顔もそれなりに……そして髪も長い。


「姉さん正座しなさい」

『……えっ?』

先程のやりとりを繰り返している。


『でもお姉ちゃんお仕事中……』

「はやく!」

『はいっ!』

実はこの2人そっくりではないのか?


澪桜が正座をすると、同僚から変な眼で見られることになった。


「それで澪桜姉みおねえ。なんで僕の話を聞かないでOKなんてしたのかな? 僕がそれで嬉しいと思う?」

『思わないけど……』

「じゃあなんで? いい、澪桜姉? 世の中には悪い人がいっぱいいるんだよ。それなのに二つ返事でOKなんてしちゃったら何されるかわかんないよ」

『プロポーズのはずが……』

澪桜の悲痛の想いが声に出る。


それを耳聡く聞いていた刻季は憤慨した。

「お姉ちゃん! プロポーズなんて尚更ダメだよ! そんな軽々しく返事するもんじゃないし、僕お姉ちゃんには結婚してほしくない!」

かなり素がでて、呼び方が変わり、シスコン全開の台詞を吐いている。


それに勘違いする奴がまたいた。

『えっ……トー君は結婚してほしくないの……?』

「いやに決まっているよ!」

『な、なんで!? トー君はお姉ちゃんの事嫌いなの!?』

「僕は大好きだけど、それは関係ないでしょ!」

『関係ないってなんで!? 愛情と結婚は別なの!?』

「愛情と結婚の話は今してないでしょ!」

『そ、そんな……、トー君、わたしのこと散々弄んだ挙句捨てるんだ!?』

「なにいってんの、澪桜姉! お姉ちゃんこそ、僕の誘いを軽々しく請けて、喜んだところで捨てるんでしょ!?」

『誘いって、結婚する気もないのにそうやって望みを繋がないでよ!』

「澪桜姉こそ嫌なら最初から断ってよ!」

こじれにこじれている。

勘違いが勘違いを生み、そこから勘違いが発生している悪循環だ。


『うわーん、トー君のばかー! もう大嫌ーい! …………うそ、大好きー! わーん』

正座しながらボロ泣きしている澪桜は、さっきの刻季よりもよっぽどシュールだった。

同僚の眼が……もうこれは言うまでもないか。


『小さい時から何度も『結婚しようね』って言ってくれたのに~、わーん』

もう号泣の域だった。もちろん嬉し号泣ではないが

この姉は昔から他の男との会話は最低限にすませ、それも『このゴミ虫が』とか思いながら話していたため動揺など皆無だったが、刻季との喧嘩ではよく泣いていた。


姉が泣き始めてようやく我に返った刻季は慌てた。

「ね、姉さんっ。ごめんね」

喧嘩すると折れていたのはいつも刻季だった。

姉の涙に弱いと言ったら、少し危ないが、それに近いものがあった。


『やだー、トー君なんて許さないもん。わーん』

もう周りの眼など何も気にしないで泣いている。

刻季は泣きやんでもらうために譲歩をした。

攻守が二転三転している。


「じゃあどうしたら許してくれる?」

『ホントに許してほしい?』

「うん、もちろん!」

『じゃあ、『愛しているよ、澪桜。結婚してくれ』っていつも以上に渋い声で言って』

とんでもない羞恥プレイを強要してきた。


『あと『具体的には18歳の僕の誕生日に』って……それも渋い声で』

姉には刻季の声は渋い声に聞こえているらしい。


「それやったら、許してくれる?」

声を振り絞り刻季。

『お姉ちゃんも鬼じゃないから、許してあげるけど、言わないと許さない』

刻季は、姉はもう許しているけど、引くに引けないから、刻季にやらせることで許すという名目がほしいのだろう、と思って冗談交じりでやろうと決めた。

そうしないと話が全く進まない。


澪桜は未だに正座をしながら、刻季の言葉をドキドキと待っていた。


「あ、愛しているよ、澪桜姉『澪桜』……うっ。あ、愛しているよ、澪桜。結婚してくれ『具体的には18歳の僕の誕生日の時に』……具体的には、僕の18歳の誕生日に」

後半は完璧言わせられている刻季。

しかしこれは危ない契約をしてしまっただろう。

結婚を”人生の墓場”というのなら刻季の死亡までのカウントダウンは残り約3年といったところだろう。

ホントに死ななければいいのだが、あの、『澪桜姉』なら殺しかねないのが……



『こちらこそ、お願いします。これからは婚約者として姉さん女房として頑張りますので……あなた……ポッ』

「うん、よろしくね。お姉ちゃん」

あーあ、やっちゃった。


『それで、トー君。お話って何なんですか?』

結果はどうであれ、話は進むことになったのでオーライとは言えないが、犠牲フライといったところだろうか。


「うん、それでね。今度大きな魔術結社を作ろうと思っているんだけど、姉さんも入ってくれないかなって」

『トー君そんな積極的に活動する子だったっけ?』

「いや、僕は、何故か頭首させられるけど、結成にはそんな関わっていないんだ」

『じゃあなんでなの?』

「頼まれちゃってね。あと姉さんの為にも」

ここで華音の名前を出さなかったのは僥倖といえるのか、後に面倒事を回しただけなのか


『わたしのために……?』

「うん」

実際は姉の為に『羽間』の家格を高めるためなのだが、そんな差異は無いと思っている刻季。

着実に姉を堕としていっている。天然だろうか。


『じゃあ、わたしも参加します』

「ホント!?」

『夫だけに、危ない目にあわせるわけにいかないもん。それに、それならトー君とも一緒にいられること多くなるし』

「ありがとう、お姉ちゃん」

もう結婚とか夫とかの単語に反応しては負けだと思った。


刻季は久しぶりに何かに成功する様な感覚を感じた。

ここ最近は華音に巻き込まれ、音弥に巻き込まれてと受動的に、流れるようにこなしていたが、ようやく自分から関わったからだろうか、関わろうとしたからだろうか。


『でも、お姉ちゃんも仕事があるし、結婚費用をためなければお父さんとお母さんに反対されちゃうかもしれないから、何時も一緒にいることは出来ないけど、出来るだけトー君の為に頑張りたいな』

「ホントに助かるよ、姉さん。でも入る前に少し嫌なことがあってもなんとか我慢してくれるかな?」

『トー君と一緒に居られることを考えたら、そんなの全然だよ! 入学式からお姉ちゃんの電話を無視してくれたことに比べれば楽勝だよ!』

「別に無視したくて無視したんじゃないけど……。それじゃよろしくね、姉さん」

親に刻季離れを強要させられている澪桜だが、難しいと考え、澪桜からの刻季への電話は出ないように言われたのだ。

しかしそれもこれから無駄になるだろう。


同じ結社なんて親は許してくれるだろうか。

実際兄弟姉妹、親子で同じ結社に入ることは、そこまで珍しくない。というか当然の事でもある。


昔から魔術師は血に頼る面もあるからだ。

宗教徒という強大な相手を敵としていたので、血族が集まり、戦ったのはそこまで古い事ではない。

その風習が残っているため、今でも魔術師は見えない信頼より、目に見えるしんらいを選ぶことが多い。

もちろん、兄弟で裏切りがあったという話はあるし、本家と分家が争い権利の移行があったという話もある。


それでも他人より信用しやすい為、それに元々魔術師は数が少なかったこともあり、血に頼らなければいけなかった。


そういった理由により魔術結社には血族が集まる。集める。

音弥・華音兄妹しかり、澪桜・刻季姉弟しかりだ。

きっと刻季が姉を求めたのは、刻季の中にも魔術師の血が流れているからなんだろう。

『羽間』という濃い血が……


思考がまた"負”の方へ向かっていたので首をブルブルふり断ち切った。

「それじゃ、また連絡するね」

『うん、明日・・ね。それじゃお姉ちゃん正座から戻っていいかな?』

「まだ正座だったの!?」

『だってトー君の命令だったし、なんか命令してる時のトー君かっこよかったし……』


刻季は想像した。

今仕事中だと言った澪桜なのに、電話先にとめどもなくしゃべったり、焦らしプレイを耐えたり(耐えられなかったが……、それと刻季は焦らしプレイだと認めてはいないが)、プロポーズしろと泣いたり、そしてまた仲直りしてイチャイチャして……。



これクビにならねえか?

……と


というか痴話げんかをしていたカップルにしか見えなかったが



『それじゃお姉ちゃんは、正座からなおって仕事を始めるね!』

「う、うん」

『バイバイ!トー君。またね・・・

「うん、またね・・・。姉さん」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


なかなか電話が切れない。

どうしたのだろうか?と思ったらまだ姉から切っていなかった。

「姉さん、切ってよ」


刻季のその声にデレデレした声で

『えー、トー君から切ってよ~』

「姉さんから切ってよ」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


またイチャイチャしやがって……


相手は姉だが、



『もうトー君ったら甘えんぼさんなんだから。でもそんなトー君も可愛い!』

「照れるからやめてよ、姉さん」

『照れちゃったの? トー君照れちゃったの? も~、か~わ~い~い~』

「もう! 恥ずかしいから切るね!」

『あっ、ちょっとまってトー君。最後にまた『愛してるよ、澪桜』って言って』

気にいったみたいだ。

それを刻季はお遊びととって、姉は本気ととっているという大きな違いがある。


「最後だよっ」

『うん、うん!』


刻季は顔を真っ赤にしながら

「愛しているよ、澪桜」

言い切った。

『キャー! トー君。わたしもトー君の事愛しているよ!』


刻季は恥ずかしくて死にそうだったので

「もう切るよ、澪桜姉! ばいばい」

『ばいばい、トー君。愛してるよ』



ブチッ……プープー



随分時間のかかった勧誘。

知らない内に姉にプロポーズするはめになったが、勧誘は大成功といったところだろう。



……脱力して、刻季は仁吾の部屋に向かった。



ちなみに澪桜はこのあと、恍惚とした表情を浮かべて仕事にならなかった。

姉とのラブコメじゃねえか!

とお思いでしょう。


私も思いました(笑)


次は少し仁吾とお話しようと思います。


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