第15話 いや、これは、ちょっと……
こんばんは、みなさん。
そしてすいません、みなさん……。
最後まで読めばおわかりになると思いますが、ちょっととんでもない奴作っちゃいました。
だってこの手が! この手が止まらねえんだ!
というわけで嫌にならずに読んでいただければ……
これで離れる読者様がいたらどうしよう……(笑)
密会談?を終え刻季は萌葱と共に寮へ向かっていた。
密会談と言うほどではないが話した内容は特定以外には秘密である。
だいたい夕方も過ぎたころだったので、萌葱は必要ないと固辞していたが、刻季は送っていくと断固引かないので仕方なくといった様子で受け入れていた。
萌葱もまんざらでない表情をしていたが。
その際華音も刻季を送ると言って聞かなかったのだが、それでは萌葱を送った後結局華音を送る羽目になる、というか刻季ならするので、拒否した。
そんな話し合いをしている時も音弥は如才なく笑っているだけだった。
天原今代当主であら音彦はもちろん見送りになんか来ていなかった。
呼んどいて失礼な人だなとは、刻季は思わなかった。
あの人の中ではそれが当たり前なのだ。
生まれてから天原当主となるべく育てられた存在。
音弥・華音兄妹と違い一人息子だと聞いた。
当然継ぐ権利があるのは、本家では音彦一人と、分家筋に何人かいるくらいだろう。
分家筋と言っても音彦に比べれば継承順位など有って無いようなものである。
その『天原』当主音彦が『羽間』と会うことが異例なのだ。
もしそれが他の師団家に知られたとしても――知られてないことなどないと思っているが――『天原』が会いたいと思うわけがない、願うわけがないと考え、そうなると消去法的に『羽間』が会うことを望んだ、と他の師団家は考えるだろう。それでも何故会ったのかという他家の疑問が湧くのは避けられないが……
それは音彦にとっても変わらず、決して彼は自分から会いたいと言ったことは認めないだろう。
『羽間』への興味があることは師団にとってのタブーであり、それが師団にとってのプライドでもある。
しかし興味があることは仕方ない、何しろ『羽間』は叛逆者なのだから。
そんな単純でもないと思うが、タブーほど身体が求めるものはないという者もいるだろう。
それは仮令、師団の家の長でも一般的な魔術師でも宗教徒でも、そのどちらでもない一般人でも違いはない。
そんなタブーに触れられる機会が偶然に偶然を重ねて生じた。
『羽間』の弟の方が天原も土地を貸している、というか天原家もそこに置いている魔術優遇第三区空明ヶ崎学園が入学することになった。
これには刻季も知らない多少の思惑も絡んでいた。
『国家』・『師団』・『羽間』の仲立ち策だ。
未だに『羽間』への警戒心が残る師団、旅団に少しでも警戒心を緩めるようにとった対策だった。
国家の所有する優遇学園に入学させることによって、『羽間』は『国家』に属するものだ、と『師団』に対して明らかにしたのだ。
そしてそれは直接的ではないが『国家』の下にある魔術師――師団と共にあるモノだ、ということに暗に匂わせている。
それを表すことによって『師団』の下に『羽間』があることをも表していた。
『国家』としても『羽間』の力を警戒していたため、このような軟い解決法を取ることになったのだ。
国家が求めれば、師団・旅団と羽間の仲を取り持つことは強制的に行うことは出来る。
ただ「師団は羽間を許せ」と申せば、それを師団は受け入れなければいけない。
しかし魔術師・宗教徒・国家の三すくみの状態でそれをやれば、国家が崩されかねない。
国家は一番力を持っているといっても、宗教徒と魔術師を合わせた場合の方が断トツ力を持っているのだ。
もちろん宗教徒と魔術師の仲の悪さは表向きでも裏向きでも知られていることなので、そこが結び付くことはあまり考えられないことなのだが、万が一ということもある上、『国家』はこの三すくみの状態を維持したかった。
天下三分の計というわけではないが、デリケートな問題だらけの日本でこれ以上争いを増やすことは決して得策とはいえなかったからだ。
それになにより50年前の同盟は『羽間』の叛逆が原因で立案・調印にまで至った。
それゆえに長年望んでいた同盟がなり国家としては『羽間』を警戒はするが、嫌な感情などあるはずもなかった。
その『羽間』と『師団』の仲を取り持つのも機会さえあればやっておきたいことだったのだろう。
出来る限りのちに遺恨を残さないように……との無理難題な要求も含めて。
絶妙なバランスのもとに成り立っている今の関係は裏を返せば、どこかが崩れると日本が崩壊することを意味している。
すぐさま世界の餌食へとなるだろう。
そうなっては、魔術と教徒が手を組もうと後の祭だ。
ともあれそういった諸々の思惑が重なって羽間刻季の入学が決まった。
もちろん刻季はそんなこと知る由もないのだが……。
師団の家でも『羽間』の叛逆があってから短くて1代ほど、長ければ3代進んでいる家もある。
天原では当然音弥・華音はその時生まれてなどいなかったし、音彦ですら生まれていなかった。
50年という短くも長い年月は遺恨を残したまま進んでいた。
それを取り除こうと国家が動き、さらに偶然が重なり、天原当代の娘である華音の口から『羽間』と関わりがあると聞いた時音彦は会うしかないと思った。
過去に事件を起こした『羽間』の曾孫ではあるが見てみたかったのだ。
娘が刻季に仕えていると聞いて、聞き捨てならなかったというのも事実なのだが、それ以上にタブーへの興味を持ってしまった。
師団に許されざる行為、師団が求めるはずのない興味
そういった全てを忘れ、華音に会わせることを要求した。
その要求はずいぶんと親バカみたいなものになってしまったが、そう思わなかったこともないので訂正はしないでおいたこともあった。
師団の他の家は『天原』が許されないことをするわけがないだろうとある意味高をくくっているところがあるので、それを隠れ蓑に刻季と会った。
幸い師団は音彦の欲求に気付くことは無くすむだろう、と彼は思っている。
これも刻季の気付くことのないことだ。
そんな事を音彦が思っているとは知らず、刻季と萌葱は長年連れ添った夫婦並みに息と歩調を合わせ帰宅している。
萌葱の実家は刻季の実家と同じCクラスのC地区に属する埼玉県周辺にあった。
そして両家はご近所で、南雲家当主である萌葱の父親も師団がなんだ、羽間がなんだと気にするような性格をしていない随分とラフな人なので、両親同士が仲良くなり必然的に萌葱と刻季も生まれた時から一緒にいることが多かった。
刻季にとって人生は萌葱と共にあった。
同じ幼年部に属し、小中高と同じならそれも当然だ。
仁吾も中学校から魔術学園に通い一緒にいる時間は長い方だが、家族や萌葱との付き合いに比べたら文字通り桁違いになる。
刻季がこの学園に渋々ながら(強制的ではあるが)通っているのは萌葱がいたことが一番の要因となっているのかもしれない。
そしてそれは萌葱にも言えることだろう。
その2人は実家から出て通わなければとてもではないが通える距離では無かったので、当然のように寮の部屋を支給された。
もちろん刻季は男子寮・萌葱は女子寮だが、そこでも割とご近所である。
今年で16周年のご近所付き合いをしている二人なら歩幅を合わせることなど思考せずとも自然と行える事だった。
「萌葱、さっき華音の父さんと何話してたの?」
ふいに気になって刻季は疑問を漏らした。
「うーん、普通の事だよ? 師団の家同士だし、天原と南雲は家が割と近い方だから音彦さんとも何回も会ったことあるし、いつも通り話しただけ」
「ふぅん……、やっぱ萌葱は師団なんだね」
「当たり前でしょ。そんなの刻季が一番知ってるじゃない」
にっこりと笑いながら返す萌葱。
その笑顔はいつも大人っぽい彼女にはあまりに似つかない歳相応の、信頼した人にしか見せない警戒心のまるでないまっさらなそれだった。
これまでいつ見ても変わらない美しく可愛いその笑顔を見ると刻季はドキッと胸の鼓動を早めた。
「い、いや、偶に忘れそうになるんだよね。あんまりにも身近すぎるもんだからさ」
長い髪を揺らして表情が読み取られないようにそっぽを向く刻季。
「まぁ確かにそれなら仕方ないかもね。それよりあんたさ、音彦さんに気に入られているの?」
突然声音を少しだけ真剣にして萌葱がいった。
なぜそんな事を言うのか皆目見当がつかなかったので、えっ? と刻季が聞き返すと萌葱は声音を変えずに言った。
「いや、二人で話している時はもちろん、師団の話とか、南雲の現況とかを話してたんだけど……」
「元凶? なんか南雲悪いことしたの?」
「ばかっ、現況よ、現況。現在の状況」
ああ、と納得する刻季は全く緊張感のない頬の緩んだ表情をしていた。
「でも今日一番最初に刻季と会長と部屋に入った時は、音彦さんあたしと会話することはおろか、挨拶すら交わさなかった」
「まぁ確かに少し同じ師団所属にしちゃ失礼だけど、そんなもんじゃないの?」
緩んだ状態で問いかけに応答する。
「いや、そんなこと有り得ない。別にそれが嫌だったとか、だから威光を振りかざすとかそんなことはしたくないんだけど、あたしの父さんは次席なの、そうなると家格も今代では必然的に天原よりも上ってことになるのよ」
一回区切って深呼吸をして続けた。
「その家の娘に対して、あの伝統を重んじる天原が挨拶すらなしなんて有り得ないのよ。それは今までいつ会ってもしてくれた事だから覚えてる。だから音彦さんは刻季の事を気にいったのかなって思って……」
音彦が萌葱に挨拶する余裕が無かったのは『羽間』ということで警戒していたからに過ぎないのだが、年がら年中一緒にいる『南雲』と『羽間』にはそれに気づく術が無かった。
「うーん、気に入ったってことはないと思うよ。むしろ逆かな」
それでも嫌そうな表情一つも浮かべず刻季は言う。
もともとそこまで歓迎されると思っていないのだ――たとえ招待したのが天原であっても。
「逆って……、そんななんとも思ってないみたいな顔で言わないでよ」
という萌葱だったが少し安心したような顔になっている。
「それと、さ」
また何かを思い出したのか萌葱が刻季の方を向く。
今日はいつも以上におしゃべりだった。
「あんた、あの人誘っても良かったの? 別にあたしは来るって言うなら歓迎するけど、でもさ」
あの人とは刻季の姉の事だろう。
まだ心配しているのだ、誰をとは言わないが。
「うん、だって結社結成にあたって僕の望むことは『羽間』の復興が第一だからね。それは姉さんの為でもあるし、僕の為でもある。もちろん母さんや父さん、お爺ちゃんお婆ちゃんの為でもあるけどやっぱり一番は姉さんかな。だからそれは姉さんと叶えたいし、たぶん知らずに結成しててバレたら何されるかわかんないし……」
後のほうになっていくにつれて徐々に声が小さくなっていった。
「まぁあの人なら、『トー君、お姉ちゃんをそうやって仲間はずれにして……わかってるね?』って言って刻季の事を縛りつけるぐらいのことはしそうだけど……」
その言葉に刻季は何を思い出したのか怯えてブルブルと震えだした。
萌葱は送ってもらっている身だが、心配になり立場を変えようかと少し悩んだ。
しかし刻季の手前それを言うことは憚れた。
というか、これ以上余計なことでダメージを負わせたくなかったのだ。
たった一言刻季の姉の真似をしただけで、刻季は小動物のように震え上がっている。
萌葱もその人のことは知っていたので、なんとなく冗談だと笑い飛ばせず、それからは先程より刻季の方に体を寄せて震えを緩和させることに努めた。
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萌葱を心配されながら送り、すぐにUターンをして寮の自室に帰ってきた。
もう震えは止まっているが、これから震えなくなるかどうかは刻季次第だ。
どう転んでも後で仁吾の部屋に遊びに行こうと思いながら、刻季はスクールバッグから携帯電話を取り出してアドレス帳のハの段から下へカーソルを動かした。
アクティブな祖父の名前や刻季を甘やかし度では姉と張れる母、そして刻季が生まれてから母に疎んじられがちの父の名を通り過ぎて姉のところで決定ボタンを押した。
夕方とはいえ、姉ならいつも忙しくしているので出るかな?と神に出ないように祈りながら通話ボタンに指を掛けて、
ひと思いに押した。
仕事などで電源は切っていないのかどうかも確認する間もなく、プルと音が一度なった瞬間に……
出た。
刻季が通話ボタンを押してから、ものの1秒程度でだ。
そういえば刻季はここ数日の事で忘れてしまっていたらしい。
姉とは何たるかを……
「もしも……」
『トー君!? わぁ……10日と9時間34分56秒ぶりのトー君の声だぁ。 それでどうしてよ!トー君。今までなんにも連絡くれないで! トー君が今どうしているかな、って想い悩んじゃってたらこんな時間過ぎちゃったよ! ……いや……でもいいの、それでもいいの。わたしは待てる女だから……、トー君がどんなに遠くに言っちゃっても、わたし一生待ちますからね、あなた。わたしのこと少しでも頭の片隅に置いてくれているだけで、わたしは幸せだから……。……それでどうしたの?トー君も澪桜お姉ちゃんの声が聞きたくなっちゃった? ならわたしと同じタイミングだったね。わたしもトー君の声聞きたいって思っていたから……、やっぱり相性抜群だね! でもわたしはいつでもトー君の声聞きたいって思っているからタイミングなんて関係ないか。でもそれはトー君も一緒だよね! ……そう言えばなんか声から女の匂いがしたよ、トー君! ……いくらわたしと離れているからって他の女に浮気はやめてほしいな。トー君の傍にいていい女はわたしとかろうじて萌葱ちゃんを許すだけなんだからね。あんまり他の女の顔すら見てほしくないんだからね! でもモテるトー君もかっこいいしかわいいから、ほんのちょびっとだけ許してあげてもいいけど、本気になったらだめよ! 浮気はわたしに縛られた後に自害する覚悟があるなら、手がたまたま触れちゃうくらいだったら許すけど……。とにかく一刻も早くトー君に会いたいから偶には妻の顔見に帰って来てよ! ……まぁそれは今度会った時にでもはなすとして、何かお姉ちゃんにお話でもあるの? トー君のお話ならなんでも聞いてあげるしなんでも叶えてあげるよ! どんなプレイでも対応できるし! もちろんトー君以外のゴミ豚野郎には死んで灰になっても触らせてもあげないけど、トー君に対してなら’’スク水、メイド、チャイナ、セーラー服、ブルマ、スパッツ、ナース、女医、OL、CA、女教師、和服、魔女、巫女、チアガール、バニー、忍者、SM、ウェディングetc.’’が対応可能だよ! ウェディングは少し恥ずかしいけど、トー君が望むなら、明日にでも披露宴で見せることが出来るよ。家にわたしの買ったウェディングドレスがあるから見るだけならすぐに見せられるけど、どうせなら幸せな2人の門出を皆にも見せたいなぁ。どうしよっかぁ? でもトー君まだ15歳だから、そんなすぐには出来ないよね。最低あと3年待たなきゃ……。あっ姉弟なんて気にしないで。日本の法律なんて笊も同然だから、抜け道なんていくらでもあるよ。だからトー君は何も気にしないで大丈夫! お姉ちゃんにすべて任せなさい! 現在の事実婚状態も嫌ではないんだけど、でもやっぱりそーゆーところはちゃんとしないとね! でないと元20旅団としての『羽間』の名折れだもんね。そーゆーとこ気にするトー君のことが大好きだよ! もう大好きすぎて今も卒倒しそうなところ堪えているんだよ、トー君! ……もうっ! お姉ちゃんをここまでキュンキュンさせてどうするの!? でもそれもいいわ、トー君。さぁキュン死にする前に、いつも通りプロポーズの言葉を! サン、ハイ!』
澪桜お姉ちゃん、そう名乗った彼女は以前、萌葱との会話で『嫉妬深い』と言われていたが、訂正しよう。
『嫉妬深い』などでは言葉が足りない、束縛なんて可愛いモノでもない。
対比してみると
天原華音――彼女は刻季至上主義にここ数日でなった入門者。
羽間澪桜――刻季と同じ名字を冠する者であり、刻季の姉。彼女こそ刻季至上主義経験年数=刻季の年齢という超上級者なのだった。
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「…………」
『ねぇ……トー君? お姉ちゃんは早くしないと待てなくなっちゃうよ?』
と、いうわけで、初期段階からプロットをかなり練りに練って作ったキャラ――
羽間姉こと澪桜姉登場です。
書いてたらあまりにも楽しくなっちゃって、止め時が分からなくなっちゃいました。
このキャラは、刻季にデレすぎてるキャラということで出したのですが……、なんかヤンデレ化してね?
書きまくってたらいつの間にか……
でも気にいってくれるとありがたいです。
これから華音と絡ませるのが楽しみになりました(笑)
それにしても文字数の約7分の1は澪桜姉の台詞ってどういうことですか……