第11話 天原父兄
遅れてすいません
旅行行ってて、でも旅先で更新しようとおもったら思いっきり風を引きまして……
実は現在も真っ只中ですので駄文が更に駄文になっていますが、お許しください
「手前が天原の当主だ。卿が羽間か?」
なんてことはない華音の父親から放たれた最初の言葉は、羽間刻季にとって重たいものだった。
天原家現当主である天原音彦は萌葱の父親のように師団の要職にこそついていないものの、天原という家格の高い家の当主とあるだけあって日本では知らない人はいないだろうし、世界でも魔術の世界ではやはり著名な人の一人だ。
本来なら、刻季が直接相対することの出来ない人物で碓氷家の跡取りである仁吾もそうそう会えないだろう。
まして、刻季は羽間の一員である。
望んだところで会うことは叶わないだろう。
それがこんな形で実現した。
羽間と天原が会うなど一昔前なら考えられないことだ。
尤も刻季はそんなこと望んでもいなかったのだがそんなことを言っても仕様がない。
今目の前にいるのだ。
地位の差を改めて問うような音彦の発言に苛立ちを感じるが、それを表に出すこともできないので取り繕った。
「はい、初めまして。羽間刻季と申します」
「うむ」
刻季の挨拶に鷹揚に頷く音彦の眼は明らかに値踏みをするようなそれだった。
「手前は面倒なものと、前置きが長いものは苦手でな。早速だが話をはじめさせてもらおう」
「はい」
「卿と華音のことはすでに華音から聞いている」
果たして華音がどんな風に伝えているかわからないが……
「結論から話すと手前はその関係を認めていない」
「父上!」
華音が珍しく声を大きくする。
これでなんとなくだが二人の関係性を理解する刻季。
「華音は手前が18年間手塩にかけて大切に育てた娘だ。それをたかだか16の若造にもっていかれるなど、そう簡単に納得できるものではないだろう」
「…………」
「主従の関係なんて過去の時代の遺物でしかない。もちろん天原にも手前にも従者というものがいるが、強制的に結んだ関係ではない」
「…………」
「卿は過去にやっていたという前時代の先例を利用し華音との契約を結んだ。その先例とは文字通り現代では行われていないことだ。決闘をして勝利をすることなんて華音の調子しだいでよくあることではないのか?」
「そんなことありません。現に私は身内以外には負けたことがないことを父上もご存じでしょう」
「弱点をしっかりつけばわからないだろう。確かに華音、卿は強いが、強いが故に慢心しがちになることもあるに違いない」
「いえ父上、確かに刻季様と決闘を始める時油断していたのは事実です。ですが最終的には力を出し切り、そして完敗でした」
「有り得ない。卿は12師団の一員なのだぞ。それを『羽間』に……」
「羽間であろうとなんだろうと私には関係ありません。私がお仕えするのは、刻季様であって羽間ではありませんから」
完全に刻季をおいて論議しあう華音と音彦。
「それに私はただ負けたからといってお仕えするほど甘いつもりはございません。そこまで慣習に忠実でもありません」
「では何故だ?」
「刻季様についていけばいいと私の直感が申したのです」
そんなインスピレーションで……と刻季は思ったが白熱している二人の間に入ることが出来そうになかった。
「直感ごときでそのような事を信じるのか?」
「はい。実際刻季様はそれに足る存在だと私は思います」
自信満々に答える華音。
一体刻季の何をそんなに気に入ったのだろうか。
「……わかった。ひとまず卿の直感とやらを置いておく。卿が聡明であるのは手前が一番わかっているつもりだ。信じることにした理由もあるのだろう」
「では父上……」
「だがそこの若造のことを認めたわけではない」
音彦が言い放つ。
「羽間のような家系の者に仕えるなど、天原では許されないことだ。それに卿にはいくつもの婚姻話もあがっている。羽間と関わっていると知ればどうなるかなど火を見るより明らかだろう」
「私は刻季様以外の方と結婚するつもりはございません」
刻季としては華音と結婚するつもりはない。
「卿は結婚まで考えているのか……?」
よろけそうになりながら音彦は訊いた。
「そこまでおこがましいことは考えていませんが、結婚すればより綿密に刻季様にお世話させていただけると思っているだけです。どちらにせよ、私は結婚など認めていません」
毅然として言い切る。
刻季はどこか他人事のように傍観していたが横から
「あんた、結婚ってなに?」
萌葱がこっそりと刻季に近づいて聞いた。
「いや、知らない……」
実際刻季は華音が仕えることも認めていない上、プロポーズなんかした覚えがない。
「ふぅん……。まぁいいわ」
納得したのかは定かではないが、とりあえず話を打ち切る萌葱。
そうこうしているうちにも華音と音彦の話は進んでいく。
「卿は師団なのだぞ。継ぐかどうかはわからないがそのような勝手が許されると思っているのか?」
「それを勝手だと私は思っておりません」
「師団だからといい、政略結婚こそ古いことだと思っています。それに第一兄上がいることですし、天原は安泰でしょう」
「だからといって、卿がそこの羽間に仕えていい理由にはならないだろう」
「そうですが、そうすることを否定する理由はありません」
どちらも一歩も引かない状態が続く。
ふいに音彦が
「羽間」
刻季を呼ぶ。
今まで忘れられていたと思っていた刻季は突然声をかけられて驚く。
「は、はい」
「卿のことを手前は認められないがどうやら娘は卿の事を信用しているらしい。このまま話していても決着することはないだろう」
「え、ええ、そうみたいですね」
「だからな。出来れば卿のことを信用することになったその時の状況を再現してほしいのだ」
「はぁ……」
曖昧に頷く刻季。
「わかるな?」
何がわかるな、だろうか?
刻季は何もわかっていないようだが……
「要するに、もう一度華音と決闘してほしいのだ」
「へ?」
情けない声を出す。
「もう一度決闘をすれば、少しは華音も意見を変えるだろう。それか手前の意見が変わるだろう。だから羽間、卿と華音は決闘をしろ」
「ちょ、ちょっと待ってください……」
別に刻季は華音に仕えてほしいなど思ったこともなければ認めてもいない、そう言おうとした。
がその前に華音が
「父上。私は仕える者として刻季様と拳を交えることをすでに禁じています。ですから決闘をすることは私と刻季様では出来ません」
刻季としては結果的に決闘を避けられそうなので華音の意見に乗ることにした。
もう流石に女性を殴るのは勘弁してほしい、との刻季の切実な願いだ。
「そうです。僕と華音ではもう決闘は出来ません」
「それでは、どうすればいいのだ? 手前が認めることはもう出来なくなるのだぞ」
もちろん、認めてほしいなど刻季は微塵も思っていない。
むしろ刻季も認めていない。
「卿たちのことを認めなければ、手前はこれから華音の婚姻話を勝手に進めて、華音を当分家から出さないようにするつもりだ」
「父上!」
焦って華音が諌めようと声を張る。
そこで今まで傍観していた華音の兄らしき人がふいに口を開いた。
「華音と決闘できないなら、僕としようか?」
「兄上?」
「音弥?」
二人の声がかぶる。
「華音としては、仕えているそこの羽間君に不敬を働くことは出来ないってことでしょ? なら僕ならなんの問題もなく決闘できるよ」
飄々とした様子で言う音弥。
「確かに卿なら問題もなく戦うことができるな。そうだろ華音」
「え、ええ。出来れば兄上にも刻季様と戦ってほしくないとはおもっていますがこうなっては仕方ないでしょう」
刻季にはどんどん外堀をうめられている音が聞こえた。
早く止めないとまた、と数日でまきこまれ体質に認定できるほどに成長?した刻季は危機感を覚えた。
「あ、あの!」
「ん? 話なら後で聞くからとりあえず庭にでも向かおう」
先程まで刻季から少し離れていた音弥がいつのまにか刻季の手をとっていた。
「さぁ早く早く!」
「ちょっと! お兄さん!?」
「お義兄さんなんて気が早いな~」
「あんたもそれかよ!」
華音と同じボケをかます音弥。
「全く刻季様ったら」
顔を赤らめた歩く無表情の華音はこの前と同じ表情をしている。
「はぁー……。全く刻季にも同情出来るわ……」
萌葱の声を最後に一行は庭に向かった。
読み返してみても短いうえに酷いですが勘弁してください。
ちょっと重たい話を書こう書こうと努力しようとはするのですが、どうにも書いてるうちに鬱になって書きなおしてしまいます。
次回は華音兄こと音弥との戦いからです。
しかしそんなにバトルパートっぽくなく終わるかもしれません(笑)