第09話 お願い
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9000pvと1500ユニークという、たくさんの方に見ていただいて嬉しい限りです。
ですがこれおもしろいんですかね……?(笑)
「申し訳ありません、南雲さん。いくら生徒会役員であるあなたでも『我が君』を傷つけることは許すことはできません。私は刻季様にお仕えする身として刻季様に危害を加える者からお守りすることを義務付けていますので、どうか」
華音の落とした爆弾は色々終わったと思う刻季のみならず、注目をしている全員に驚愕といった形の被害を与えた。
一人何に驚いているのかわかっていない加害者の華音は、またしても沈黙が横たわるこの教室に疑問を抱いていた。
「我が君……、刻季様……、お仕えする……、お守りする……」
萌葱が華音の言った衝撃な単語を一つ一つ呪いのように呟いている。
いまだ刻季に向かっていった拳は彼の眼前で華音によって止められていた。
だがそこに込められた力は先刻ほどのモノではなく、ただ拳を降ろすことを負けることと同義だと勘違いしている子供のように下げるに下げられなくなっていた。
萌葱はこれを下げたら刻季との繋がりを失ってしまうのかもしれないとお門違いのことを思っていたが、それだけ華音の言ったことが今までの『萌葱と刻季の繋がり』より大きく聴こえたからだ。
そんな萌葱の様子に気づかず、刻季は先程から爆弾を卸市場のたたき売りか何かと勘違いしているような華音を見て、ここ二日で何度目か数えるのも億劫になるぐらいの回数のため息をついた。
そしてそこでちらりと周りを見た。
華音が来たことに動揺して自己紹介の終わった後はただただ華音を見つめる為だけに作成されたロボットのようになっていた竜也は蕩けていた表情を驚きへと切り替えていた。
仁吾はやっぱり苦笑していたが、刻季には表情の節々から驚きが見え隠れしているのがわかった。
果歩に関しては華音が来てから驚きの表情を一寸たりとも動かしてなかった。
刻季はもう一度大きくため息をつき、とりあえず一番混乱の度合いの酷い目の前の幼馴染を呼び掛けた。
「萌葱」
「…………」
返事がない。
原因である一連の騒動を起こしておきながらなにがあったかは理解こそしていない華音は刻季のやりたいことをなんとなく把握したらしく掴んでいた萌葱の拳を離した。
腕がだらりと支えが無くなり床に向きを変える。
離した途端に萌葱は、あっ……、と声を漏らした。
そこで正気に戻った萌葱が寂しそうな顔をして、刻季を睨みつけた。
「あの、萌葱さん……?」
睨みで竦み上がりながらも恐る恐る萌葱の返事を待った。
「刻季」
毅然とした声を出す萌葱。
「は、はい!」
「あんた、会長とどんな関係なの?」
「えーと、ただの生徒と生徒会長の関係としか……」
「嘘いいなさい! 生徒会長が一人の生徒に『様』呼ばわりするはずないでしょ!」
尤もなことを言う萌葱。本日何度目の指摘なのだろうか。
確かにそうなのだが、刻季にもやむにやまれない事情が有ったと主張したい。
「そうですよ、刻季様。私達の関係はただの生徒と会長なんかの関係では無いではないですか」
また余計なことを言う華音。
しかも顔を赤らめて
「ちょっ……、会長! 誤解を招くようなことを言わないでください!」
「会長とお呼びになるのはやめてくださいと言ったはずです」
「いいから誤解を解いてください!」
「いくら刻季様からの命令とはいえ、呼び方と言葉づかいを直していただかないと聞くことはできません」
ぷいっと可愛く首をそらす。
そんなことをしたら、今度こそ萌葱がどうなるかわかったもんじゃなかったが、今は誤解を解く方が先だった。
なんか殺気が教室中に蔓延しているように黒ずんでいた。
茶色の綺麗な髪の毛は今や逆立っていた。
なんらかの魔術を使っているのだろうか床が揺れ、ゴゴゴゴゴ、と音がしている気すらする。
早いとここの状況を打破しないと、刻季どころか教室の生徒全員の命が危なくなりそうだ。
そう思い、
「華音、なんとか誤解を解いて」
蚊の鳴くような声で言った。
だが教室は静けさの中にあったので、聞こえないクラスメイトはいなかった。
「はい」
久しぶりに笑顔を見せた華音は萌葱の方へ向いた。
「本当の事を仰ってください。天原会長」
萌葱が華音に促す。
「はい、南雲さん」
言葉を一言一言大事に放つように言った。
「私と刻季様はご主人様と従者? メイド? 奴隷? などの関係に当たります」
今日一の爆弾だった。
「華音ーーーっ!!」
「はい?」
相も変わらず自分の落とした爆弾の威力を理解していないらしい。
キョトンとしている華音は呼ばれたことで新しいご命令をいただけるのかと心待ちしていた。
果歩は、あわわわわ、と奴隷と言う単語に必要以上に反応していた。
「刻季ぃーーーっ!!!」
刻季は魔力の流れを感じた。
「わわ、待って待って萌葱! 教室がー! 机がーー!!」
近くにあった机|(刻季のを含め複数)が全てのつなぎ目を無くしたように音をたてて部品と化した。
そしてその部品は形を変え、人を殴るのに適しているような人の身長ほどある巨大な拳の形態になる。
南雲家にのみ伝わる形態魔術だ。
変化させた物質の質量の分だけ自由自在に物体を操ることができる。
生物以外に有効な魔術で範囲こそあるが、生命さえなければなんでも形が変わる、南雲家先祖代々使用してきた魔術。
刻季と華音の周りに巨大な拳がいくつもできた。
光が差す隙間さえ少なくなり逃げ道は無く囲まれる。
このままいればボコボコに殴られてしまうだろう。
そう判断した刻季は、能力を使って巨大な拳から魔力を吸収した。
吸収した途端に、拳はくしゃり、と弱弱しく崩れて横たわった。
拳だったものは、多少の面影は残っているが指の位置が分からなくなるくらいにただの物体へと変化した。
刻季たちと周りを遮るものは無くなり明るくなる。
その光を見て安心した瞬間、萌葱がまたしても近づいて殴りかかってきた。
「刻季ーーーー!!」
しかしやはりその拳は華音によって止められた。
「南雲さん、我が君の害になるような事をなさるおつもりなら私が相手になりますよ」
「会長はどいてください!! こいつを更生させないといけないんです!」
「我が君以上に清廉潔白な方はいないでしょう。更生なんて必要ありません」
「メイドだ奴隷だ言ってる人のどこが潔白なんですかっ!?」
二人がやんややんややってる間に竜也が鬼気迫るといった形容が正しいだろう歩き方で刻季に近づいてきた。
「刻季っ! お前生徒会長と何やってるんだ!? ずる……いや、人として見損なったぞ!! なんでお前ばっかり羨まし……いや、お前に倫理観というものはないのか!?」
思考がダダ漏れだった。
竜也の瞳には4割の怒りと4割の嫉妬と2割の羨望が混ざっていた。
やはり羨ましいのか……。
「メイドや奴隷はご主人様の趣味なんです」
そこら中に爆弾をばら撒いている華音が、もう止める気にならないほど自然と爆発を促していた。
「なっ……! 刻季そうなの!?」
怒りと恥ずかしさで顔を赤くする萌葱。
「俺もメイドは好きな方だけど奴隷はやりすぎだな。もっと健全な方がいいぞ」
仁吾はにやけながら言った。
思わぬところから伏兵がでてきた。
「仁吾ーーー!! なんで!?」
裏切りを受けて愕然とする。
仁吾の表情には『面白いから』と書いてあるようだった。
「俺はメイドが大好きだ!!」
もう取り繕うこともやめた竜也からも遠距離口撃をくらう。
「わわ、わたしはそーゆーのよくないと思いますっ」
一番まともな果歩からも言われる。
「うっ……」
戒めなのだろうが、傷だらけの刻季の精神には一番のダメージがあった。
「刻季どうなのっ!?」
「ははっ、メイドに奴隷ねぇ」
「羨ましいぞ!! 羨ましすぎるぞ 刻季、俺にもご奉仕してくれるように頼んでくれっ!」
「私の身も心も刻季様のモノですので」
「ふ、不健全ですぅ……」
各々好き勝手なことを言ってくれている。
教室の中も『メイド』や『奴隷』やらの単語が飛び交っている。
「もう、やめてくれーーーっ!!」
刻季のせつな願いは空へと放たれた。
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あのままでは収拾の兆しすら見えなかったので、落ち込んでいる刻季を華音が連れだって生徒会室まで来ていた。
刻季・華音以外にも仁吾と萌葱がいる。
果歩は遠慮し、竜也は厄介だったので強制的に遠慮させた。
刻季は着いて華音の出してくれたコーヒーを飲み、落ち着くと昨晩の話をし始めた。
華音が話に加わると面倒なことになりそうだったので、とりあえず口を出さないでもらうことにした。
「――というわけなんだ」
全部語り終わると華音が口を開いた。
「刻季様、今の話の中に何回『不本意ながら』と使えばよろしいんですか?」
「いや……だって本意じゃないし……」
それが本音だった。
「とにかく、刻季。それで全部話し終わったの?」
また二人で話し始めてしまいそうになったのを危惧して萌葱が言った。
「うん。とりあえず、こんなもんだと思う」
「ほぉ~、あのシチューは会長の手作りだったのか? どおりで何かおかしいと思ったよ」
罪悪感に押しつぶされそうになりながら刻季は
「騙すつもりは無かったんだけど……」
「刻季様、食べていただけたんですか」
「ええ、美味しかったです」
「それは何よりです。腕によりをかけて作ってよかったです。でも今度は私と二人で食べていただけるとありがたいです」
少し不満げに言った。
「じゃあ今度一緒に食べましょう」
「はい、よろしくお願い致します」
恭しく頭を下げる華音。
また取り残されている萌葱があわてて
「会長、刻季の話に間違いはありませんでしたか?」
まだ疑わしいといった眼を向けて言った。
華音は、そうですね……、と考えて
「そういえば、ベッドでの情事が入って無かったですね」
今度は虚言のボムだった。
「じょっ……、刻季ぃ!!」
「いやいやちょっと待って! 会長! 嘘はやめてくださいよ!!」
慌てて訂正させる刻季。
「そんな……、一夜だけの関係だったのですね……。そうですか……。でも私は大丈夫です。あなた様と一回でもそのようになれた、という思い出だけで生きていきます。もし子供が産まれたら一文字いただいてもよろしいですか?」
思わず同情してしまいたくなるほどとてつもなく可哀想な眼で見つめる華音。
「ご主人様に責任を取れだなんてそんなこと言わないので安心してください」
「刻季ーーーーーー!!!」
鼓膜が破れそうになるほどの大声だった。
「あんた、学園の会長に何してんのよ!! 信じられない! あんたはそんな奴じゃないと思ってたのに……! せめて責任はとりなさいよ!」
完璧な華音の演技に完璧に信じてしまっている萌葱。
「ご、誤解だって! 会長、ホントにやめてください! 萌葱は信じやすい子なんですから」
その言葉に、無表情でお茶目を薄く塗ったような美貌を見せて
「先程から刻季様の言葉づかいが悪かったですから、お仕置きです」
それはさながら、若い王にたいして説教する宰相のようだった。
「その言葉づかい直さないと……わかりますね?」
これまでの華音のやってきたことが思い出されていろいろ怖くなった。
「はい……」
「ぜひお願いします。あなたは私の主人なのですから」
毅然とした態度で華音は言った。
もう逆らうまいと決めた刻季だった。
「それで、なんで俺らは授業中にここに来てるんすかね」
確かに仁吾の言うとおりだった。
もうとっくに昼休み明けの授業が始まっている時間帯だ。
「もちろん、生徒会権限です」
「あんた、またそれかよぉーー!」
さも当たり前のことだといった様子の華音に刻季がツッコミをいれた。
「この学園の生徒会の権限ってのはどれだけ強力なんだ……」
「聞きたいですか?」
「いや! いい! 怖くなってきた」
「そうですか……」
あからさまに落ち込んでいる華音はもうほおっておいた。
どんな藪蛇がでるかわかったもんじゃない。
「……あたし、生徒会にいるのが嫌になってきた」
ぼそっと萌葱が呟いた。
そう思うのも仕方ないだろう。
あれだけ品行方正を地でいくような会長がこんな状態になっているからだ。
「……まぁとりあえず、なんで会長はウチのクラスに来たんすか?」
さっきまでずっと笑っていた仁吾が空気を改めるように言った。
「そうでした……。碓氷くんありがとうございます。そして刻季様……」
華音が仁吾を見てから刻季の方へ向き直り姿勢を正した。
「はい、えーと、なんかお願いがあるって聞いた気がするけど……」
遠い過去の話を思い出すように刻季が言うと
「はい。私が刻季様にお願いを申すことなどおこがましいにも程が有りますが、聞いていただけると嬉しく思います」
長い前置きだ、と刻季は思った。
「とりあえず言ってよ」
「畏まりました。あの実はですね…………。私の父に会っていただきたいのです」
言いにくそうにした後に華音は漸く言った。
「「「お父さん!?」」」
全員の言葉がきれいに揃う。
「はい」
とだけ華音は返した。
「なんで会長のお父様に刻季が?」
萌葱が華音の説明を待たずして、早く話し始めることを要求した。
催促を気にした様子もなく華音は
「昨日一度目の帰宅のあと、父にその話をしたら、渋々ながらお送りしていただけたのですが。そのあと無理やり帰されたことを知るとものすごく怒りまして……、それで『その若造を連れてこい!!』と思い切り怒鳴られまして……。それで『明日出来ればお連れします』と……」
「…………」
「あの……、刻季様? どうなさったのですか?」
「行けるわけないでしょ!!」
心配そうに華音が言うと刻季は声を張った。
「もうガチギレじゃん! お父様には失礼だけどそんな状態で行ったら何されるかわかったもんじゃないよ!」
「やだ、刻季様ったら、『お義父様』だなんて……」
表情は変わらず、顔だけ赤らめて華音が言う。
「そこにくいつくなよ! ……それに『渋々』って、昨日は行かないとお父様に許されないって言ってたよね!?」
「それは嘘です」
「悪びれもせず言うなよ!」
無表情で淡々と刻季の言うことにくいついていく華音に、刻季はひたすらつっこんだ。
結果……
「はぁ……はぁ……」
ぜぇぜぇ息が上がっていた。
「……あの、刻季様?」
「はぁはぁ……、ふぅ……。……えっと仮に僕が華音の家に行ったとしたら、何をすればいいの?」
話を進めなければどうしようもないので、刻季は息を取り戻して訊いた。
「有ったことをありのまま説明していただければ父も理解してくださると思います」
「それは華音の説明じゃダメなの?」
「私は自分の都合のいいように説明しましたから」
「ホンットにいい性格してるなぁ!」
全く悪びれる様子もなく言う華音。
「それで?」
「えっ?」
唐突に訊く刻季に質問の意味がわからない華音は訊き返した。
「だから、何時に行けば良いの?」
「え……、来てくださるんですか?」
「行かなきゃしょうがないんでしょ……」
つまらなそうに言う刻季。
「本当によろしいのですか?」
「いいよ」
「……えっと、放課後時間が空いていればすぐにでも……大丈夫でしょうか?」
「わかった」
即決で返す刻季。
あまりにもあっけなく了承をもらい肩すかしをくらっていると
「あの……会長」
萌葱から話しかけられた。
「なんでしょうか? 南雲さん」
「私も一緒にお邪魔しちゃダメですか?」
「南雲さんもですか?」
「あっ、ダメならもちろんいいんですよ」
何か慌てて言いたいことをぼかすように言う萌葱に少し疑問を抱いたが、別段気にすることでもないので
「うちで良ければ、別によろしいですが……」
「ホントですか!? ありがとうございますっ!」
突然手を握り喜びを表現する萌葱。
刻季も気になったので
「ねぇ、なんで萌葱も?」
「な、なんだっていいでしょ!」
「でも師団どうしの接触は避けた方がいいんじゃなかったかな?」
「あっ……」
いくら同じ組織とはいえ礼儀を重んじるのが魔術師なので、あまりイレギュラーなことはしない方がいい。
その上南雲家と天原家となると、師団の中でも手を組まれると力を持ちすぎるため少しの接触でも気使いが必要だ。
「大丈夫ですよ、南雲さん。私達は当主でもなければ実際同じ生徒会に所属している身ですから、いまさら接触がどうとか関係ないでしょう」
「そ、そうですよね! ほらみなさい、刻季!」
鬼の首でも取ったように言う萌葱。
「あんなに入るの嫌がってたくせに……」
「うるさいなっ!」
図星をつかれてつい手が出そうになる萌葱だったが、またしても刻季に届く前に華音によって止められた。
「刻季様への攻撃は許しません」
ただそれだけを告げる華音の迫力はおよそ女子高生に出せるそれでは無かった。
刻季はいじめっ子から母親に守ってもらう子供のようであまり気分が良くなかったが、痛みを伴わなかったので良しとした。
仁吾が萌葱に近づくとぼそっと
「家に行くなんて婚約者みたいで困ったんだろ」
にやけながら言った。
萌葱は顔を真っ赤にして今まで刻季を殴れなかった鬱憤をはらすように思い切り刻季への分も力を込めて仁吾を殴った。
「な、なんてこというのよ! これは刻季の分もよ……」
「理不尽だ……」
確かに理不尽だったがタイミングが悪かった仁吾も悪い。
刻季はなんで仁吾が殴られたかわからなかったがとりあえず黙祷した。
「では放課後に教室までお迎えいたします。刻季様、南雲さん」
華音の声が生徒会室に響いた。
ラブコメ書くのって楽しいです。
もっとバトル要素入れたいんですがなかなか入れるタイミングがなくて困っています。