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魔力世界の時操者(CHroNuS)  作者: 更科 甘味
一章 始まりの物語
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第08話 始まりの物語の初め

タイトルこそ格好のつけたものになっていますが……(笑)

――これまでの事は物語の始まりでしかない。



昼休み、教室内で食事をとろうとすると、席に数人集まってきた。

一人目は碓氷仁吾。

刻季の中学からの友達である。


二人目は南雲萌葱。

刻季の幼馴染で、生徒会に所属している。


三人目は陸奥竜也むつりゅうや

学園に入って知り合った同じクラスの友達だ。


四人目は阪野果歩さかのかほ

萌葱と仲良くなったことから、仲良くなったクラスメイトだ。


いきなり二人も新しいのが出てきて驚くのもわかるが、入学して10日程度経てば新しい友達ができるのも高校生の嗜みとしては当然のことだろう。

最近はもっぱら刻季を含め5人で食事やら班行動やらをしている。

ちなみに朝の萌葱の不機嫌さはいつの間にか直っていた。


刻季の席を中心に群がるとまず竜也が口を開いた。

「天原会長、朝から綺麗だったなぁ。あんな綺麗な人が同じ学園にいるってだけでテンション上がるぜ―!」

初っ端からテンション全開の彼は、長身短髪で若々しさがにじみ出ているような男だ。


刻季は竜也に入学してすぐに声を掛けられた。

なんでも野獣の仁吾と美人の萌葱といつも一緒にいて仲が良さそうに見えたことから、少し?不思議に思って話しかけたそうだ。

声を掛けた人こそ竜也だけだったが、入学当初は色々と注目を集めた。

だが、仁吾は言うまでもないが、師団次席の愛娘である萌葱もやはり声を掛けづらいのだ。

そしてこの長髪の根暗そうな男も……。


だが竜也の場合興味が上回ったらしい。

初めこそたどたどしい話し方だったがすぐに打ち解けて仁吾も含めてつるむようになった。

この3人に加え、萌葱と彼女の友達となった果歩とも自然と一緒にいるようになり気づけばグループのような形になっていた。


「ホントに綺麗でした。どんな産まれ方すればあのような美人になれるのでしょう……」

こう言う果歩だが、実に愛らしい容姿をしている。

目鼻立ちがぱっちりしている童顔で成熟している美人とはお世辞にも言い難いが、無邪気さが多く残る表情には魅力があふれている。


「大丈夫よ。果歩も可愛いから」

ウインクして返す萌葱。

「そんなっ。わたしなんて萌葱ちゃんにそんなこと言ってもらえる権利ありませんっ」

「なんの権利よ、それ……」

自分の魅力を当たり前のように理解していない果歩に呆れる萌葱。


「ねえねえ 刻季もそう思うでしょ?」

「うん。阪野さんも可愛いと思うよ」

「そんな……。ありがとうございます、羽間君まで。お二人ともお世辞が上手ですね」

そこまで自分を否定して楽しいのか、と思えたがもちろんそんな態度はおくびにも出さない刻季だった。


「ああ……。会長とお近づきになりたい」

「じゃあ南雲に頼んでみろよ。もしかしたら紹介してくれるかもしれないぞ」

ぼそっと言う竜也の言葉に無責任な仁吾。


「そうかその手があったか! 南雲! いや南雲様、ぜひこの卑しいわたくしめにしょ『断る!』――ってまだなんも言ってないだろ!」

「あんたみたいなの全員につきあってたら、きりが無くなるから絶対いや。それに会長が陸奥なんて相手にするわけないでしょ」

憮然として言い放つ萌葱。


「わからないだろ! もしかしたらいつの日か会長が俺のところに来て『あの雨の日、子猫を助けていたあなたに惹かれていました』って告白してくれるかもしれないだろ」

「あんた実際猫助けたの?」

「助けてないけど……」

「「「「だめじゃん!!」」」」

竜也以外の言葉が揃う。

あのおとなしめな果歩まで言葉遣いが変わっている。


こんな会話をしながら昼食を楽しんでいた時だった。

途端に空気がざわつく。

なにか廊下から波になって教室に来てはいけないモノが向かって来ているような感覚だった。


刻季は背中がぞわっとするような寒気を感じ、直感で困ったモノ・・・・・が来ると理解した。

理解が早かったのは実に感心できることだが、その理解をこの後に活かせなかったのは悔まれるだろう。

いかんせん、こういう感覚に対する経験が浅いため仕方のないことなのかもしれない。

経験でどうにかなるかは分からないが


その困ったモノは人の波と動揺を伴い1-Cに到着したもようだ。

すでにクラスメイト全員が廊下との境にあるドアに視線が注いでいたが、そのモノはドアの前で躊躇していた。

あれほど賑わっていた教室の中にはいまや、沈黙しか残っていなかった。

もう一つの境である窓から見える生徒達も首を一様に横に向けてモノを見ている。


ここまで引っ張ったが、実際にはドアの曇りガラスから長い黒髪が刻季にはチラチラと見えていた。

お察しの良い方も良くない方もここまでくればわかるだろう。


モノはやがて決心したかのように、首をコクンと振ってドアに手を掛けた。

ひと思いにガラリとドアの開く音が教室に響く。


そのモノは黒く綺麗な長い髪をたなびかせて教室に入ってくる。

刻季の姿を確認するとホッとしたように顔を見えない程度に緩め、決して刻季以外見ず、文字通り一目散に目的へと向かった。

刻季は弁当と箸を持ち、者がいる横を向くというあまり行儀の良い格好とは言えない状態で迎えた。


刻季の目の前に着いた者は恭しく頭を下げながらこんなことを言うのだ。


「我が君、刻季様。お願いしたいことがあります」


1-C+αの驚愕を以って彼女――天原華音生徒会長を迎えることになった。


「か、会長……」

萌葱の口から驚愕を文字にしたような震えがこぼれる。

そこでようやく刻季以外の存在がいたということに気付いたかのように萌葱の方へ振り返り

「南雲さん。こんにちは。刻季様のご友人の皆様方もはじめまして。天原華音と申します」

先程、刻季にしたように頭を下げた。


会長が頭を下げているという事実に、仁吾は苦笑し、萌葱・果歩は驚き、竜也なんかは震えている。

「こんにちは、天原会長。だけど俺はじめましてではないっすよ」

「……? もしかして碓氷家の方ですか?」

表情をつくらず考えて答えを返した。


「はい、碓氷仁吾っす。たぶん去年の天原家でのパーティ以来だと思うんですが……」

「昨年のパーティですか? あの日は人が多くてひっきりなしにお声を掛けられていたので……。申し訳ありません」

「いやいやいいっすよ。こっちもお呼ばれしたパーティで楽しめましたから」

「そうですか。それはなによりです」

ふたりで会話をしてしまっている。


ふたりで空気を作っているのをずるいと思ったのかなんなのか、竜也は憧れの会長を目の前にしているという状況を享受しながら会話に入ることを試みた。

「あ、ああ、天原会長」

震えが言葉に籠っている。

っていうかどもっている。


「はい、なんでしょうか?」

華音が竜也の方を向いた。

「は、は、はじめまして会長。お、俺、陸奥竜也って言います。むっちゃんでも、竜也でも、竜くんでもお好きに呼んでください!」

「はじめまして、陸奥くん」

竜也は自分で作った選択肢になかったが一番無難な答えだったそれを聞き肩を落とした。


刻季は華音が来たという事実に驚きはしたものの、みんなよりいち早くそれから回復していた。

回復したその頭で、華音が初めに言ったことを何故か忘れてくれているとわかり、安堵の息をもらす。

特に竜也に忘れられているのは大きかった。


華音のファンである竜也に聞かせられないことがたくさんありすぎる。

というか華音との出会いから全て言えない気がすると、刻季は思った。

仲良くなってから毎日一緒に食事を摂っている刻季と竜也だが、刻季は竜也が華音の話をしなかった日を知らない。

だから許可したわけではないが、許容している華音との関係を知られるわけにはいかない。

このままいけばあと数分で授業が始まるため、みんなには忘れたままでいてもらうことにする。

そう刻季は頭で決定づけた。


――しかし……。



萌葱がしっかりと覚えていやがった――数分後の刻季談。



驚きから回復した萌葱が言った。

「会長! その刻季様って何なんです!?」

「萌葱さん。突然どうなさったのですか?」

「だから刻季様ってのは!?」

「……?」

キョトンと首を傾げる華音。

何を指摘されているのかわかっていない様子だ。


「刻季っ!」

標的を刻季に変えた。

「さ、さあ? な、なんだろうねぇ」

とぼけるが汗が止まらない。


「とぼけても無駄! 何年一緒にいるとおもってんのよ? あんたの嘘なんて見抜けないとでも思ってるの!?」

ヒステリック一歩手前の状態の萌葱。

その後ろには果歩がビクビクと隠れている。

怖いならそっちいなきゃいいのに、と刻季は冷静に思った。


「さぁ、白状しなさい。今ならある程度で許してあげるから、ほら」

「その、ある程度ってのは……?」

「鳩尾」

「急所じゃないかぁ!」

きっぱりと告げる萌葱に恐れながらも声を張る刻季。


「なによ。もっと『程度』を上げてほしいの?」

「いやぁ……」

「嫌なら今すぐ正直に言いなさい。嘘を言うなら……」

笑って言うが眼が全く笑っていない。

綺麗な深緑色の眼がただただ淡々と言葉の続きであるだろう、『わかってるわね』とだけ告げる役目をおっている。


刻季は助けを求めて仁吾と華音と竜也を流すように見た。

しかし、仁吾は肩をすくめて明らかに事の経過を楽しんでいて、華音はキョトンとしているままで、竜也はその華音の方を見て目すら合わせずにいた。

男友達二人に心の中で''おぼえていろよ~''と言い、自分ひとりだけでの解決を目指すことにした。


刻季は冷静に分析し始めた。

このまま正直にいって鳩尾パンチだけで済むはずがない。

だったら危ない道になるが誤魔化す方が被害が少なくなるだろう。


萌葱のパンチはくらうと一日は痛みが引かない。

もちろん経験談だ。

刻季自身がそれを引き出したことはそれこそ数えるくらいしかないが、仁吾に付き合ってくらった回数は優に歴代の天皇の数を超える程だろう。


小学生の時なんか自分以外の男に触れるのも怖がるくらいだったのに今ではとんでもなく成長してしまったなぁと刻季は感慨深げに嘆きのため息をもらす。

ともあれ誤魔化し回避への道を進むことに決めた。


「萌葱の言ってることがよくわかんないよ」

言った途端に殺気が萌葱からわきあがる。

自分とて魔術は使えないモノの魔術師と名乗る身としてオーラという言葉は使いたくなかったが、殺意のオーラとしか呼べないものが萌葱の背後から漂っていた。

そのオーラだけで人が斬れそうだった。


ここからは引き返すことも、選択肢を間違えることもできない。

間違えたその日には刻季の血まみれの姿を見ることになるだろう。

なんとかその状況から避けるため奮い立たせる。


「刻季、いい? あたしね。嘘が大嫌いなの。刻季なら。わかってるよね?」

一言一言区切り諭すように言う萌葱。

「だからね。嘘つくとつい手が出ちゃうな」

「どんな嘘発見機なんだ!」

「大丈夫よ。嘘つかなきゃ可愛いモノよ。この萌葱ちゃん嘘発見機は」

ウインクする萌葱。

やはり眼は笑っておらず、殺気もそのままだった。


やはり萌葱は何かあったと確信している。

言質が取りたいだけみたいだ。

「えーと、やっぱり萌葱の言いたいことがわからない。どうしたの急に、さ」

言葉を選びながら言う刻季。間違えたら血まみれだぞ。

「ふーん、優しくしてあげても嘘をつくんだ? 誤魔化すんだ?」

悪戯した子供に誘導尋問をかけているような怖さがあった。


「じゃあ質問を変えてあげる。ちなみにこれが最後の質問だから……ね」

言外に最期・・と告げている萌葱。

「昨日天原会長と何があったの?」

まるで浮気をした男への聞き方だった。

それはとことん刻季への核心を突いた質問だった。


だから精一杯誤魔化した。

「萌葱も一緒に居たから知ってるでしょ? なんでそんなことを」

会長を置いてけぼりにして会長の話をしている。

華音はいまだに起こっていることまるで理解していなかった。


「昨日生徒会に誘われて……それで終わりだよ」

「ホントにその答えでいいのね?」

最後の審判を下そうとしている。


「うん。会長とはあのままだよ。だからなんで来たのかもわからないよ。萌葱に用事じゃないの?」

目の前に華音がいるのに酷い言い草だとは思ったが命が懸かっている。

「え? そうなのかなぁ……」

萌葱も疑心暗鬼になっている。

攻め時はここだ。



と思ったがこの後思わぬところから爆弾を落とされることになる。


もちろん、華音だ。



「やですわね、刻季様。私の事は『華音』とお呼びしてくださいと仰ったではないですか」



……終わった。


たった一言で今までの苦労を全て水泡に帰された。


しかも指摘するとこそこかよぉぉぉぉと最期のツッコミを刻季は心の中でした。

もう萌葱のほうを見られない。

その方角から熱を感じた。

なんか熱を発しちゃってます。


「……刻季?」

皮膚の表面では熱く感じるものの、耳に届く声は冷え切ったモノだった。

「やだなぁ、刻季は。嘘は嫌いだって言ったのにね。なんか途中信じちゃいそうになったよ。なかなか御上手になったんですね?」

耳にどんどんと冷たい声が届く。


「もう、ホントにお茶目なのは相変わらずね。もっと落ち着いて優先順位を考えてほしかったなぁ。どうなるかなんてわかっているはずなのにねぇ」

「萌葱、待って!!」

「待つ? 待つって何を待つの? まさか言い訳でもさせてくれだなんて、浮気した夫みたいなこと言うつもりなの? ねぇ、答えてよ」


「えーと……」

「なんなの? 言ってごらん?」

あくまで子供に諭すように言う萌葱。

刻季はもう駄目だとわかっていたので、最期に茶目っ気を出すことにした。


「浮気した夫ってなんか恥ずかしいね」

演技だが照れている演技をしてみる。


一歩踏み出す萌葱。

「ふーん……」


徐々に距離が縮まっていく。

「遺言は……」


やがて手の届く位置に萌葱は到達した。

「それだけ?」



「刻季のバカーーーーーーーーーーーーー!!!」

拳と同時に発せられた最後の一言は年相応に可愛いモノだった。

若干照れていることが分かる。

しかし拳と同時に見せられても恐怖しか感じなかった。


顔面めがけてとんでくる拳。

最期の一瞬はゆっくり感じられるものだった。

徐々に近づく拳。

どんどん大きく見えてくる。

もう次の瞬間には俺はいないのか、と感慨深く思っていた。


のだが……。


届く直前に拳は刻季の目の前で止められた。

もちろん萌葱が自発的に止めたわけではなかった。

じゃあ何故?と刻季は思ったが、その解はすぐに解けた。


いつの間にか刻季の横に侍従のように着いていた華音の右手によって止められていた。


そして無表情ながら声を高らかに上げた。

「申し訳ありません、南雲さん。いくら生徒会役員であるあなたでも『我が君』を傷つけることは許すことはできません。私は刻季様にお仕えする身として刻季様に危害を加える者からお守りすることを義務付けていますので、どうか」


彼女が落とした爆弾はさっきよりも更にドでかいそれだった。


新キャラ気に入っていただけるとありがたいです。

ちなみに刻季の名字は最初、『羽間』ではなく『陸奥』でした。

むつときって言いにくいので変えました。


もしかしたら陸奥が主人公だったかも(笑)


次話は華音のお願いの話になります。

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