"Raison d'être"
窓の外は明るい
此の部屋から出る事は、如何なる手段でも出来ないようだったが、外に広がる真っ白な世界は、其の清純さを主張するかの様に汚れ無い光で部屋に差込み続けて居た
此の陽射しが絶え間ないものである為、睡眠が取れて居ない
壁に在る時計の針を信じるならば、既に100時間近くが経過して居る
頭の中が常にざわざわする
気が狂いそうだった
此の部屋は、『自殺しないと出られない部屋』らしい
一緒に部屋に入った幼馴染の男の子は、耐えられなくなって自死した
部屋に、そんな事をする為の道具は無い
壁や床中に頭を打ち付け続けた結果、彼は開始から30時間後にようやく死亡したのだ
頭の腫れ上がって割れた死躰は、今でも窓辺に干乾びて転がって居る
互い違いになった彼の眼球を、暖かな陽射しが乾かして居る
総てだ
此れが此の世界の、今在る総てだ
空腹だった
自殺した彼とは違って
事ここに至ってもなお、僕は死ぬのが怖かった
部屋から出る為に、少しは抵抗を試みた
『過剰に生への執着が有るタイプでは無い』と自分の事を思っていたが、現実にこうした状況になると、どうやら僕は生きたいらしかった
反面、状況に救いが無さ過ぎた
20時間置きに、僕の腕には引っ掻き傷が増えた
始めは皮膚を破る程度のものだっだが、次にはめくれ上がる程になり、今では肉を毟るようなものになって居る
『もう死にたい』と云う心のあらわれでも在ったし、生きる為、正気を保つ為のものでも在った
硝子窓を叩き過ぎて、指の骨も何本か折れて居た
正気を保つ為に、独り言を話しながら部屋を歩き回る
必然的に、何度も死躰が視界に入る
段々と解ってきたが、此の部屋には虫すらが居ないらしい
死躰は少しずつ
誰にも食まれる事が無いままに、腐敗し、甘い匂いを放ち始めて居た
死骸に甘さを感じる程には、僕は飢え切って居た
名前も忘れてしまった男の子の、皮膚に指を触れる
ぶよぶよとした感触が鶏肉の皮みたいだった




