6)行方
今回は追っている軍の人たちの話し
軍の支部に戻ったユンギリー大佐は、指名手配犯に使用する魔法探知機でリザリーの行方を探った。
魔法探知機は、一メートル四方の蓋のない大きな箱でできている。
一見低い机の上にある箱庭のようなものに見える。
箱の底にはこの国の地図が描かれており、中にある手のひら程度の箱に追跡対象者の所有物や体の一部を置くことで、箱に施されている魔術で地図の上を動いて現在地を追える仕組みだった。
ユンギリー大佐は、リザリーの家からすでに没収した服の一部を箱に入れた。
だが、箱は最初に置かれた場所からピクリとも動かなかった。
「くそっ!まだあの男の魔術が生きているのか!忌々しい!!いつ効力を失う?!」
後ろに控えていた若い男が答えた。
「リザリー嬢には二つの魔法が掛けられています。
一つは保護魔法で、魔力供給さえ行えば持続力がありますから厄介です。
ですが、もう一つ掛けられていた拒絶魔法は特殊で、特定の人間、者などに対して効力を発揮しますので施した人間が要となると同時に、いなくなると効力を失います。」
「拒絶魔法はすでに効力はないが、保護魔法は魔力の供給さえされてしまえば、いつ解けるか分からないということか?」
「はい、ですがリザリー嬢は魔力を使用できることを知らないはずなので、時間の問題だと思います。もし、逃げるときに魔力の供給がされたとしても、もって3日。」
「3日か・・・待てんな。人海戦術で見つけるしかない。」
ユンギリー大佐は、似顔絵写真を各方面へ送った。軍内部では指名手配として、表向きには貴族の令嬢が行方不明になったとして・・・情報操作を行うように指示を行った。
指示が終わると、リザリーの母親がいる病院へ向かったが、すでにリザリーの母親はどこにもいなくなっていた。
病院に待機していた護衛者にユンギリー大佐は怒鳴り散らした。
「どういうことだ!お前たちはなんのための護衛だ?!」
「はっ!オリーデンス侯爵がいらっしゃり、奥方様をお連れいたしました。」
「オリーデンスだと?!」
オリーデンス侯爵家はこの国の有力貴族の一つ、軍でも簡単に手出しはできない貴族だった。
「あの女狐め!」
ユンギリー大佐は、病院から出ると竜車に戻った。中には若い男が待機していた。
「・・・そのご様子だと無駄足だったようですね。」
「親子そろってむかつく奴らだ。あの女狐、オリーデンスに逃げ込みやがった」
「オリーデンス侯爵ですか、ではすでに海外の別荘地にでも匿われているでしょう。」
「だろうな」
「・・・探されるのですか?」
「あたりまえだ!」
「奥方を捜索するのは、クライアンス殿の思う壺ですよ」
「・・・なに?!」
「奥方には、なんにも力はありませんよ。交友関係が広いだけです。重要なのは娘のリザリー嬢ただ一人。2人バラバラに逃げた時点で、捜索の人員を割くつもりだったのでしょう。
・・・娘一人に的を絞るべきです。」
ユンギリー大佐は若い男を睨み付けながら思案していた。
「・・・っ」
そして忌々しげな顔をして無言でユンギリー大佐は若い男とは逆側の窓を向いた。
その後、竜車の中では一言も声を発せずに軍の支部に着いた。