48)ご挨拶は基本から
目が覚めると、いままで感じたことの無いぬくもりを感じてリザリーはガバリと体を起した。
グレイアス連合王国の直轄地である城の一室でリザリーは今すごしていた。
部屋は与えられたものだが、横を見るとなぜか逞しい胸板を曝け出しているリカルドが寝ていた。
しかも此方を見上げながら。
「リザリーおはよう。」
「・・・オハヨウゴザイマス」
なんで一緒に寝てるんだろう?無駄に色気を出してるし。
思わず真正面を向いて、腕を組んで考え込んでしまった。
「はぁー冷静だなリザリーは、そこは普通もっと焦る所じゃない?」
「いえ、体に違和感が無いので何も無かったんだなと思って」
「違和感って・・・」
はぁ、とため息をつきながらリカルドは起き上がりリザリーの寝台から出た。
見ると下はちゃんとズボンをはいており、近くにある椅子に上着も置かれていた。
「で、なんで私のベットに居たんですか?」
上着を着て身だしなみを整えているリカルドの服装は軍服だった。
「ん?挨拶挨拶」
違和感を感じ得ないが、これ以上追求してもリカルドは答えてくれない様子を感じリザリーはそれ以上の追求を諦めた。
「はぁ。今日は祖父と祖母へちゃんと挨拶しに行くんですから、疲れさせないでください。」
そう、葬儀に祖父母だと皆に始めて紹介された二人は後日挨拶することになっていた。そのため葬儀では本当に顔を合わせただけだった。しかも、その場所でリカルドにプロポーズされてしまうし。
今日はなんて顔で会えばいいのだろうか。
「知ってる。だから一緒に行こうと思ってね」
「だから・・・」
まぁいいやと呟いてリザリーはのろのろとクローゼットの部屋へ行った。
その様子を笑顔で見つめながら、リカルドは部屋を見回した。
リカルドと朝食を済まして、用意された馬車に乗り込み城を後にした。
見える街中は皆妙齢の人たちばかり、子供や老人がまったくと言っていいほどいなかった。
リザリーの祖父母はすでにこちら側に住んでいる人たちで寿命はすでに100歳を超えているそうだ。
年齢にも驚きだった。
二階建てのアパートメントといっても白い木造の明らかに格式高い印象のある家の一つがリザリーの祖父母が住む部屋だった。
馬車を降りて、部屋のナンバープレートを確認してから、リザリーは扉をノックした。
はいはい、という返事とともに中から祖母が出てきた。
「いらっしゃい。リザリー」
暖かな笑みで迎えられリザリーは気恥ずかしげに俯きながらお邪魔しますと小さな声で答えた。
「ふふふ、リカルド公爵様もどうぞ」
祖母は後ろにいたリカルドにも気づいて笑いながら部屋へと案内した。
中は、白を基調とした木目の壁とシンプルなのに重厚な飾り棚や、家具ばかりが並んでいた。廊下を抜けて応接室に入ると、窓の向こうには、アパートメントに住む人たちが使える共同の中庭が見えた。
「まだ、自己紹介がまだだったわよね、私はあなたのおばあちゃん、ミレンダよ。あなたがくるのをお祖父さんも首を長くしてまっていたんですよ。あなたー!!リザリーがきたわよ!!」
そう言いながらパタパタと小走りに祖母は祖父を呼びに行った。
リカルドは、緊張しているリザリーの肩に触れた。
触れた瞬間ビクリと揺らして振り返った。
その不安そうな表情にリカルドは安心させるように微笑みながら、大丈夫だよと言った。
しばらくすると、祖母が祖父を連れて部屋に入ってきた。
「ようこそ、リザリー。おじいちゃんのコルツエじゃよ。」
優しい笑みをたたえながら、リザリーの祖父コルツエはリザリーを抱きしめた。
コルツエの髪の毛もオレンジがかった金髪にオレンジの瞳だった、祖母ミレンダは水色の髪の毛で茶色の瞳をしていて、もう70過ぎだと言う年齢だと言うのに、40代くらいにしか見えなかった。
どうみても、リザリーの黒髪が生まれてくるようには見えない。未だにリザリーの髪の毛はオレンジがかった金髪のままだ、それは混乱を避けるためという理由だった。
「一生会えないと思っていたよ。あの馬鹿息子が、軍の暗部に所属してからね。」
「あなた。」
祖母のミレンダは悲しそうに微笑みながら夫であるコルツエの肩にふれた。
「あの馬鹿息子は・・・親不孝者だったが、こんな可愛い孫を残してくれたからまぁーよしとするかな。」
「えぇ、そうよ。ふふふ、こんな素敵な婚約者もいることですし。」
ミレンダの言葉にリザリーは顔を紅くした。
あからさまにわざと咳払いをしてコルツエは、じっと横目でリカルドを見ながら言った。
「まぁー孫のリザリーを守って、リネウス国まで連れてきてくれたのは感謝していますよ。公爵様。ですがね。」
「あなた!立ちっぱなしもなんですし、座りましょ。リザリー、貴方が来るって思っておいしいケーキを用意していたの!!」
うれしそうにミレンダは手を叩きながら、コルツエの言葉をさえぎりリザリーとリカルドをソファーに座らせて台所へと消えていった。
リカルドは苦笑しながら、リザリーの横に座り。コルツエの無言の圧力を感じていた。
「ご挨拶が送れてすみません。コルツエ殿。私は」
「いや、貴方の噂はかねがね知っていますよ。とても優秀だと伺っています。」
リカルドの言葉をさえぎるようにコルツエは言葉を重ねてきた。その様子にリザリーは冷や汗をかいていた。
ー なんだろう。これって結構修羅場じゃない?でも、そうだよね。昨日あったばかりの孫がいきなりプロポースされて、しかも次の日に相手の男性を連れてきたりしたら。
どうしてら良いのかわからず、リザリーはリカルドとコルツエの会話を黙って聞きながら、早くミレンダが戻ってくるのをまだかと思って待った。
二人は、無難な会話をしつつコルツエがちくちくと何か言っていた。
「公爵様は今年おいくつになられましたかな」
「26になりました。まだまだ若輩もので至らない点が多いですが。」
「いやいや、その年で陸軍中将まで上り詰めた方が何をおっしゃいますか。忙しい時期に、こんな所まで足を運んでいただき、光栄ですよ。」
ニコニコ笑いながらも、笑っていない二人にリザリーは、やっと戻ってきたミレンダを見た。
「あらあら、あなた。リザリーが困っていてよ」
カチャカチャと茶器を並べながら、二人の間に割って入ったミレンダは、あっという間に二人の雰囲気を壊した。
リカルドは微笑みながら礼を言うと、ミレンダはまぁ~と頬を染めながらちょっとリカルドに見惚れていた。
その様子をまたコルツエが不機嫌そうに見ているのが、リザリーにはおかしく思わず笑いがこぼれてしまった。
「あらあら、あなたがあまりにも子供っぽいことするからリザリーに笑われていてよ?」
「なっ!わしのどこが!!」
「そういう所じゃない。」
くすくす笑いながらミレンダはコルツエの横に腰を落ち着けた。
「では、改めて。リカルド・ヘルツォーク・リネウス・グルスです。今日リザリー嬢と一緒にうかがったのは、彼女との婚約を認めていただくために来ました。」
「ならん!!」
コルツエは立ち上がりながら叫んだ。
「あなた・・・・」
ミレンダは呆れ顔で立ち上がった夫の顔を見つめた。
リザリーは話の展開に付いていけづに、ただ黙って二人を見るしかなかった。
「リザリーはまだ17歳じゃ!!しかもお前は26だぞ!9歳も年が離れているんだぞ!!」
「あらあら、そのぐらいリザリーが二十歳過ぎちゃえばきにならないわよ~」
「何言ってるミレンダ!!」
「年の差カップルっていいじゃない~私あこがれるわ~年上の男性となんて。きゃっ♪」
「ミ・・ミレンダ?」
おばあちゃん妄想が大暴走中です。
ミレンダとコルツエは同い年です。