44)こっち側
リザリーも目覚めたばかりで疲れてるでしょうから、今日はここまでにしましょう、と言ったのはカイゼリンだった。
ウリウス王もそれに従い、解散するように言い、リザリー達が入ってきた扉からウリウス王は数人を連れて出て行った。
カイゼリンが立ち上がると、残りの立っていた人達が奥の扉を開けて部屋を後にした、カイゼリンは部屋を出る前にリカルドに向かっていった。
「私の愛しい娘をちゃんと部屋まで連れて行ってね。捕らわれの姫君を助けた騎士様なんだから、・・・・何があっても最後まで守り抜いて」
「はい」
リカルドは、力のこもった声で返した。
その声に満足したのか、カイゼリンは微笑を返し去っていった。
リカルドはリザリーを抱き上げ、カイゼリン達が出ていった扉へを進んだ。
リザリーは突然抱き上げられ、驚き涙が止まった。
「休める部屋へ行くだけだよ」
優しくリザリーに微笑みかけ、リカルドは部屋を後にした。
廊下に出るとそこは、白を基調とした廊下。
ほぼ大理石で柱、床、壁が作られたような場所だった。
リカルドの肩越しに、今しがた出た部屋を見るが、そこには扉は無く変わりに、部屋へ入ったときに見た扉の文様と同じものが彫られた壁があるだけだった。
「こっちは、天上界の人々が住む区域なんだ。ここは他国からは絶対に感知できない場所で、君にとっては一番安全な場所だよ」
リズムよく足音が響く廊下で、リカルドは歩きながら説明した。
リザリーはその足音を聞きながら、心地よい心音によって眠りについた。
「リザリー?」
リカルドが声をかけるが返事は無く、寝息だけが返ってきた。
その様子に笑みをこぼしながら、リカルドは用意した部屋へとリザリーを移動させた。
目覚めるとシフォン素材の天蓋が見えた。
なんか、凄いファンシーな・・・と思い起き上がると部屋の内装も白を基調とした大理石チックなシンプルなものだった。
「どこ、ここ?」
そして自分が着ている服が、いつのまにか可愛らしい白い肩に絞りの入ったパジャマ・・・・・
- 私着替えた記憶ないんだけど?
胸を触るが、下着は付いていない。
誰に着替えさせられたんだろうか?
- んー昨日は・・・あー、私の出生の話をされてそれからパニクって泣いてそれから・・・それから・・・・
徐々に記憶が戻り、リザリーはリカルドに抱きかかえられてそのまま寝てしまったことに気づいた。
ばちっと凄い音をさせながらリザリーは両手で両頬を叩いた。
「ゆ・・・夢じゃない・・・」
かぁぁぁぁああと頬に熱が集まり、リザリーは一人きょろきょろした。
かなりの不審者っプリを発揮している中、扉のノック音で動きをやっと止めた。
カチャリと扉が開き出てきたのは、リカルドだった。
リカルドはリザリーが起き上がっているのをみてほっと息をついて中に入ってきた。
「おはよう、リザリー」
「リカルド」
リカルドは持ってきていたトレーをサイドテーブルに置いた。
トレーにはパンとスープと水差しとコップが置かれていた。
リカルドはベットの端に座りリザリーの頬に触れた。
「気分はどう?」
「な、なんとか」
頬に触れる、自分の手とは違う感触にリザリーは内心あわあわしながらも、受け答えが出来た。
「食事を一応持ってきたんだ、食べれるかい?」
「ぜひ!」
だから、はやくその手をどけて欲しい。とは言わなかったが、リザリーは思わず力強く言ってしまった自分に顔が熱くなった。
その様子にリカルドはクスクス笑いながら、やっと頬から手を離し、リザリーを介抱しながらベットの端に座らせた。
そんなにじろじろ見ないで欲しい。
「ここは、昨日の王宮と雰囲気が違うけど、王宮にいるんだよね?」
「王宮だけど、ちょっと違うな。ここは、地図に載らない空白地帯。グレイアス連合王国が管轄している地区アンダーノース。天上界の魔力が弱い人たちのための避暑地、今はちょうど避暑の時期で人が溢れかえって人が沢山居るよ」
「ぇ、魔力が弱い人達がくるの?」
「弱いって言っても、下界の人たちから言ったら十分強いだけどね。ただ天上界は魔力に溢れているせいか気候の温暖差が激しいんだ、だから一定量より魔力が弱い人たちは下界へ避難してくるんだよ。」
「へー」
「ココは、下界の人達がうっかり天上界の人たちと出会わないようにするために区切りを引いている、いわば国境にある砦といったところかな?」
「砦?そうには見えないけど」
「あぁ、だってリネウス国の後宮がその境界線上に立っているからね、だからこそおいそれと近づけないだろう?」
「なるほど」
もぐもぐと口に食べ物を運びながらふと、気きづたい。おいそれと近づけない場所になぜ自分がいるのか。
しかもリカルドは、ここはグレイアス連合王国国が管轄していると言っていた。
「・・・なんで、リネウス国の王宮じゃなくてこっちにいるの?」
リカルドは困ったように視線をずらしてから口を開いた。
「・・・リザリー、君はカイゼリンの魔力を受け継いでるって言っただろ?それがちょっと、向こうに居ると問題になるんだ、まーこっちに居ても問題になるんだけども」
「?」
「カイゼリンの魔力は、男たちを魅了する魔力でね。神話にも書いてあった通り男の理性を奪ってしまうんだ。」
リカルドの言葉にリザリーはびっくりして、おもいっきし飲んでいたコップをサイドテーブルにガンと落としてしまった、幸い落ちた高さはそんなになかったため、コップは倒れることも無く水が少しはねる程度だった。
「ぇえ?!ちょっとまって・・・ぇ、じゃー私もその魔力があるの?」
「今は完全には魔力が戻ってきてないせいか、それとも完全に魔力が目覚めていないせいか、わからないけど今の所でてはいないよ。ただ確実にリザリーにもその魅了する力はあるね。だから魔力の弱い人達がいるエリアだともろに危ない、むしろこっち側の人たちのほうが耐久性があるから安全なんだ」
リザリーは、はぁと頷きながら自分の手をニギニギしてみたりかいで見たりしたが、別に何か変わった様子はなかった。その様子にリカルドは噴出しながら、懐から装飾の施された分厚い首輪を取り出した。
「急遽作ったのものだから、ちょっとごついけど。これは魔力を制御するものなんだ。邪魔かもしれないけどマシな物ができるまでの間我慢して欲しい。」
首用のコルセットとまではいかないが、なんだが邪魔な装飾にリザリーは受け取ったまま固まった、なぜなら首輪には切れ目がなかったのだ。
「あー、そっか付け方がわからないか」
固まっているリザリーにリカルドは気づき、渡した首輪を持ちリザリーの首に近づけた。
すると首輪は引き込まれるようにスーッとリザリーの首に近づき、そのまま首に嵌った。何が起きたのかわからないリザリーは、ただ首に冷たい冷気が通ったような感じしかなかった。
「出来たよ。」
リカルドに言われて、首に触れると首輪がしっかりと嵌っていた。