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始まりはいつも突然に  作者: siro
第二章
43/50

43)奇跡の娘

リザリーはふらつく足元にめまいを起しながら椅子に寄りかかった。

クローンとカイザーは言っていた。しかも質の悪い・・・。自分は何者なのだろうか?父と母の子ではなかったのか?

グルグルと出口の出ない思考ばかりが走ってばかり。


「リザリー」

気遣わしげな声が聞こえるが、聞こえているだけで何も反応できなかった。

顔を覗き込み、肩を掴まれているように思えた。だがリザリーはうまく反応できなかった。


「リザリー、俺を見てくれ」

紅茶色の瞳と視線が絡まった。

まるで心の中を見透かされているような感覚とともに、引き込まれた。


「リカルド・・・」

ほっとしたように、リカルドは笑みを浮かべた。

「勝手に結論づけないでくれ、話を聞いてくれ。何があっても俺が側にいるから」

リザリーは戸惑いながらも頷いた。


「カイザーの言葉なんて気にしないで頂戴」

ぐずぐずの声で心配そうにカイゼリンが言った。


「カイゼリン・・・」

リザリーは、ただ頷くしかなかった。

重たい空気の中、リザリーは何か言わなくてはと思い口を開いた。

「私は・・・誰かのクローンなんですか?父と母の子じゃないんですか?」


その問いに答えたのは、大叔父様ヴァルキスだった。

「結論から言うと、君はちゃんと両親から生まれている。問題なのは君の母君から生まれたということだ」


「母?」


ウリウス王が頷き、続きを話し始めた。

「君は最高神の花嫁を攫ったスノップ国の話を知っているかい?」

リザリーは頷いた。


「あれには描かれていない話が一つあるんだ。その場所にガリエス国の人間がいたこと、そしてそいつは最高神の花嫁の体の一部を奪って、最高神の怒りに触れる前にスノップ国の姫と一緒に自国へと逃亡しているんだ、その後姫は自国に戻り、二度と魔力の強いものが生まれなくなった国のために、花嫁の体の一部でクローンを作り上げ、クローンに子供を生ませようとしたんだ。それと同じくガリエス国は花嫁自身を手に入れるために研究を始めた」


「花嫁って・・」

リザリーはカイゼリンを見た。

カイゼリンは苦笑しながら頷いて口を開いた。

「私よ」

リザリーはカイゼリンが頷くのを見て、横に居るリカルドを見た、リカルドも同じように頷いた。

本人にうなづかれるなんてと思いながら、神話に出てきた人が目の前にいるというなんとも不思議な感覚に戸惑った。

ほわほわとした印象しか持って居なかったが、何の苦労もせず生きてきたように見えたカイゼリンは、神話を読むだけでも結構壮絶な人生を歩んでいた。


ウリウス王は咳をして続きを話し始めた。

「そう、花嫁はカイゼリンだ。もちろん、最高神カイザーは気づいたよ。あるはずもない場所にカイゼリンの魔力を感じたり、カイゼリンを呼び寄せようとする魔力を感じたからね、その度にその研究所を壊していたんだけど、向こうも馬鹿じゃない、試行錯誤したみたいでね場所がわからなくなってしまったんだ、それを調査・破壊を任務していたのが君の父上、ボルドーの本当の仕事だったんだ。君の父上は優秀だった。スノップ国の研究所全てを見つけて破壊してくれたからね。最後に見つけた場所ではもうカイゼリンのクローンを作れるほど残っていなかったらしく、最後の実験体が君の母君だったんだ。」


「ぇ」


「そして、唯一実験で生き残った人でもある。このときにはカイゼリンの遺伝子を生きている女性の体の遺伝子に埋め込み書き換えると言うことをしていたそうだ、君の母君は拒絶反応もなく、でも遺伝子は書き換えを行わず保持しているような状態で未覚醒だったらしい。ボルドーは君の母君を助けて、まーそのまま恋に落ちて結婚してしまったんだが。その間に出来た子が君リザリー嬢なんだ。

ただ、そこで問題だったのが君の髪の毛」


「?」

髪の毛?と思いリザリーは自身の髪の毛を掴んで見た髪の毛は未だに染めた色のままだった。ここに集まっている人たちと同じ、オレンジがかった金髪。


「君の地毛は黒だろ?ボルドーも我が王家の一員、我が王家は皆特徴的なオレンジがかった金髪で生まれてくる。これはカイザーの血が濃いため同じ髪色で生まれてくるんだ、血が薄い場合は母方の髪質を受け継ぐんだ、もちろんボルドー、君の父君も金髪。」

「ぇ・・・うそ・・・だって父は黒髪」

そして母は赤毛だった。


「我が王家の金髪は目立つからね、潜入時には皆髪の毛を染めるんだ、君の父君は黒髪に染めていただけなんだよ。ただ我が王家でも時々、母親の髪質を受け継がずに黒髪の子が生まれてくる事がある、それはカイゼリンの血が色濃く出た場合のみ。でも、その子供には魔力がなく、皆10歳になるかならないかくらいまでしか命が持たないんだ。」


「ぇ・・・なぜ?」


「それは、私が欠陥品だからよ」

カイゼリンは抑揚の無い声で言った。大叔父様ヴァルキスが母上と痛ましそうに呼んでいた。

何かまずい事を聞いてしまったようで、リザリーは不安げにカイゼリンを見つめた。


「ふふふ、気にしないで。私にはいろいろ不備があってね。私の魔力を受け継げる子供ができないらしいの」

リザリーを安心させるようにカイゼリンは微笑んでいった。


ウリウス王は、淡々と続けた。

「だからこそ、カイゼリンの血を色濃く受け継いだ子は魔力が無い。だけど、君は魔力を持っていた。それを意味することがわかるかい?」


リザリーはわからず首を振った。


「カイゼリンの体から奪った体の一部には魔力も一緒に着いている、君の母君に埋め込まれた遺伝子にも魔力が宿っていたんだ、それは子に受け継がれ、そしてカイザーの遺伝子を持つ我が王家の末裔の血によって完成し覚醒してしまった。もっともカイゼリンに近いカイゼリンの魔力を受け継いだ人間を作ってしまったんだ。」


リザリーは唖然とした、自分の魔力といっても未だに自覚は無いが、それはカイゼリンの魔力と同質ということは神様と同じ魔力をもっていることになるのではないだろうか?。

だが、それがなぜスノップの国の人たちに狙われていたのだろうか?この年になるまで軍関係者と顔を合わせた記憶が無いリザリーには不思議でならなかった。


「なぜ、それが狙われる理由になるんですか。その話だと父の正体はばれていなかったのでは?ガリエス国に狙われたのはわかります、クラウスの半身だったから、でも。」


「それは、君が利用できるほどの価値があるからだ」


「利用・・・カイゼリンの魔力を持っているからですか?」


「それもあるが、まず君の利用価値は沢山ある、まず一つ目に魔力は軍事利用できる。二つ目に君は女性だ、力の強い男との間に子供を作らせより強い子供を作ろうとするだろう。三つ目、君は生きた成功例だ、さまざまな実験の元、君のクローンを作るだろう。四つ目、カイゼリンを呼び出すための格好の術具にもなる。」

ウリウス王は言いながら指で数えていった。


「術具?」


「君の魔力はカイゼリンと同質、それはある意味引き寄せる力もあるということなんだ。」

だからこそカイザーは君を消そうとしているという言葉をウリウス王は飲み込んだ。カイゼリンとリカルドに目線で制されたのだ。


リザリーは何も言えず両手を握り締め、俯いた。

自分の出生にも驚きだが、父の正体も母の人生もはじめて知った。二人は恋愛結婚だとは聞いていたが、まさかそんな出来事があったなんて。

左側にリカルドが進み出た、右肩に暖かいぬくもりを感じた。

リカルドは何も言わず、ただ側にいてくれた。




「考え方次第だと思うのよね。」

カイゼリンは重い空気を取り払うかのように口を開いた。


「だってそうじゃない?あなたのお母様の体に私の遺伝子と魔力があって、その人が生んだ子供に遺伝子と魔力が受け継がれただけであって、まるで代理出産みたいな感じじゃない?だから、私にとってはあなたは娘みたいなものよ」

カイゼリンは微笑みながら言った。


「私としては嬉しいわ、だって私の髪質を受け継いだ子が生まれて。しかも、10才しか生きられないと思っていたのに10歳を超えても生きている。」


カイゼリンは、本当に嬉しそうにリザリーを見つめた。

慈愛のこもった瞳で見つめられ、目が熱くなり見つめ返すことが出来なくなった。リザリーはただ嗚咽を漏らすことしかできず、リカルドに抱き寄せられていることにも気づかず顔を覆うしかなかった。


リザリーの出生の秘密をやっとこさ出せました。



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