40)開幕 ~ それは真実の扉 ~
リザリーの顔の火照りもおさまり、取り留めなく今まであったことを話した。リカルドの腕は治療済みであることや、リザリーが三日間も寝込んでいたこと、戦争は終結し今会談を行っていることを話していると、静かなノックと共に同じ服を着た女性たちが入ってきた。
その服が城に使える侍女達だと気づいたときには、リカルドは隣の部屋で待っているといって出て行ってしまった。
あれよあれよというまに、今まで着た事のない貴族が着るドレスを着せられお化粧までされて部屋を出された。
部屋には、リカルドが待っていてくれた。
だが、先ほどは気づかなかったがリカルドの着ている服は明らかに上等な貴族の服、紺を基調とした色合いに、リザリーはふとリカルドが青ばかり着ている気がした。
そんなことを考えてるリザリーにリカルドは腕を差し出した。
「お姫様では参りましょうか」
どこへいくのだろうか?と疑問に思いつつ、リカルドの腕に手を乗せて歩き始めた。
小部屋から出るとそこは、大理石の床で出来た豪華な廊下。一目見てお城だと思うようなものだった。
「本当なら病み上がりの状態では行かせたくないんだけど、時間がないだ。ごめんね。」
リザリーは頷きながら、不安げにリカルドを見上げた。
「ここは、気づいてるかもしれないけど、リネウス国の王城シグナス。これからある人達に会って貰う。君が知りたいこともその人達が詳しく知っている」
「知りたいこと・・・」
リザリーは足が重くなった。
知りたい、でも知りたくない、知ってしまえば自分の価値観全てが狂いそうで怖かった。
なぜ、そう思うのか・・・きっと神が住まう天上界に住んでいると言ったブルーフェアリーと出会ってしまったから。
リカルドは豪華な扉の前で足を止めた。
その扉には、蔦が絡みつき鬣をもった聖獣とドラゴンを模した形の彫刻が扉全体に彫られていた。
「ここは、天上の間、グレイアス」
「天上の間?」
「そう、ここは王家ゆかりある者と、許可された者しか入れないだ」
王家ゆかりある者?とリザリーが疑問に思っている間に、リカルドは扉に手を触れた。
扉の彫刻が一瞬光ったように見えたと同時に、扉は静かに開いた。
そこは、豪華な装飾がほどこされた部屋、天上には地図が描かれ城やドラゴン、森や聖獣が描かれている。床は文様が描かれた大理石、光を反射し室内を一層輝かしく見せていた。
その部屋の中央にテーブルと、その周りの椅子に人が3人座っており、その後ろに控えるように10人ほど人が立っていた。
皆、オレンジがかった金髪に、蒼系の服を纏っている。
だがそこに一人だけ違う色彩が混じっていた。その人は黒髪の女性、ブルーフェアリー。
「ブルーフェアリー!?」
ブルーフェアリーは、今まで着ていた蒼いドレス姿ではなく淡い金色のシフォンドレスに身を包み、髪の毛も綺麗に結われてお姫様のように椅子に腰掛けていた。
そして羽が消え去っていた。
「おはよう、お姫様」
笑いながら、ブルーフェアリーはリザリーをに両手を差し出し、抱きしめた。
どういうことなのかさっぱり解らないまま、リザリーはブルーフェアリーに抱きしめられたまま、頭を撫でられた。
でも、ブルーフェアリーも無事で安堵しリザリーはブルーフェアリーに成されるがまま頭を撫でられ続けた。
「母上、開放してあげたらどうですか?リザリー嬢がお困りですよ」
「そうね、ヴァルキス」
戸惑いながらリザリーはブルーフェアリーを母上と呼んだ男性を見た。
その人はリカルドによく似た面影で瞳は黒に近い茶色の瞳の40代位の男性だった、どうみてもブルーフェアリーを母と呼ぶような年齢ではなかった。驚いて凝視しているリザリーに男性は苦笑しながら席に着くように促した。
リカルドはリザリーが座った椅子の後ろに控えるように立っている。
「びっくりしてしまうよね。まずは自己紹介からはじめようか」
リザリーは戸惑いながら頷いた。
「では、叔父上私から」
そう言って手を上げた男性は、席に着いている若い20代くらいの男性だった。瞳の色は薄い水色だった。
「初めまして、そしてようこそ、リネウス国へリザリー・ファイネス・クライスアンス。私はウリウス・ケーニス・リネウス・グルス。この国では国王の地位を頂いてる。よろしく」
笑顔で言ってきた男、ウリウス王に、リザリーはびっくりして思わず背筋を伸ばしてしまった。
- 国王?!今国王っていった?!!
「ふふふ、驚かせてしまったね。そして後ろに並んで立っている者が我が王家ノースクロスの一員だ。」
初めて聞くノースクロスという名を聞きながらリザリーは後ろに控えている人たちを見た、確かに王家といわれれば皆同じ髪色なのがわかった、だが皆瞳の色はバラバラで蒼や茶色の瞳のものばかりで色合いも違っていた。
「ウリウス、ノースクロスと言ってもリザリーには伝わらない」
リカルドがため息をつきながら言った。
「おっと、そうだったな。ノースクロスというのは我が王家で、血を濃く受け継ぎ天上人と同じような魔力を持つ強いものしか名乗れない称号であり、この”天上の間”に入ることが許される者でもある」
とりあえず、リザリーはVIPな人たちと居るという事は理解した。だが、あまりの事態に頭は真っ白な状態だった。
緊張状態のリザリーに申し訳なさそうにウリウス王は微笑んだ。
「突然こんな所に呼ばれて緊張してる中申し訳ないが、君には選んでもらわなくてはならないことがあるんだ。」
リザリーはその言葉に不安げに辺りを見た。
リカルドはただ無言にリザリーの肩に手を置いた、そのぬくもりにホッとしながらリザリーはウリウス王に向かい合った。
その様子をウリウス王は内心苦笑しながら言葉を紡いだ。
「君は真実を知る勇気があるかい?」