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始まりはいつも突然に  作者: siro
第一章

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4)プリズム

カスタリアの駅を降りると、かすかに潮風の香りが漂った。

カスタリアは、海と山がすぐ近くにあるために、海の近くは観光地として、山の中は避暑地として栄えていた。

駅からでると夕暮れだというのにまだ町は活気づいていて、すぐに観光名所として発展している商店街にもまだ観光客や学生が沢山いた。


リザリーは早速服を買いに出た。

怪しまれないように、学校帰りの学生のように何件か服屋をみて買っていった。

こげ茶色のズボン、紺色のブラウス、大きな黒地のリュックサック、モスグリーンのトレンチコート、編み上げのブーツ。

保存食用に、飴玉とお土産用で売られていた干し肉、水、固いパンを買い込んで、買ったばかりのリュックサックに詰め込んでいった。


その頃になると、日も傾き薄暗くなっていた。

商店街から離れ、人が通らない裏通りへと移動した。

今着ている服の上から、買ったばかりの服を着ていき、スカートとジャケットを脱ぎ、学生鞄と一緒にリュックサックに詰め込んだ。靴は買い物袋に詰めて、公共のゴミ箱に捨てた。


「さて、とりあえず海側に向かって西に進むかな」

商店街から離れ海の方向に歩いていくと乗り降り自由な観光者用の乗合馬車を見つけた、早足程度のスピードで走っているので、軽く走れば簡単に乗り込めるものだ。

この馬車は、カスタリアの端にある港と駅までを往復している馬車だった。観光用なので屋根は赤い色で縁には花やリボンで飾られている、中は大人が四人横に並べるほどの広さで椅子は派手な赤い色で塗られている。

少し混雑している程度なので、顔を覚えられる必要がなく、リザリーは馬車の後ろの景色を眺めていてどこで降りるか考えていた。


―このまま、港にいって船に乗り込むのもいいかもしれない。


そんなことを考えているとき、ふと目の前の光景に見覚えがあった、右手には広い海が広がり左手には山へ続く坂道が続いている、ふと山のほうをみると風見鶏が見えた。


~ 逃げ出したときは、この別荘に来ればいい。


父の声が聞こえた気がした。

急いでリザリーは馬車から降りると、風見鶏に向かって歩き始めた。

焦らず、のんびりと歩きながら、周りの気配に気をつけながら歩き進めた。

舗装されたレンガ道の坂を上ると住宅地と別荘が織り交ざった中級階級の住宅地になっていた、その先にすすむと家がなくなり林が多くなり、上級階級の別荘地になっていることが伺えた。

辺りは暗くなりもう風見鶏は見えなくなっていた、だがリザリーはかすかに残る記憶を頼りに進んでいった。道はすでに舗装されたレンガ道ではなくなり、馬車が通った後がのこる舗装されていない道へと変わっていった。



腕時計をみると、夜の八時になっていた。

―いつもなら、家で夕飯を食べている時間だわ。

見覚えのある生垣をくぐると、小さい頃に父親と来たことのある別荘だった。


~ 鍵は大きな木の穴の中に隠してある。


辺りを伺いながら、裏口の隣に生えている大きな木の幹にあいている穴の中に手を突っ込むと硬いものを見つけた。

取り出すと、手にずっしりとした重さを与える鍵だ、取っての部分には睡蓮のような花の彫刻がされ、紙が巻かれていた。

紙には一言「プリズム」とだけ書かれていた。


―プリズム・・・・。

―確か、書斎にプリズムがあったはず。


裏口の扉を見つけた鍵で開けて中に入った。

中は定期的に掃除に入っているようで、ホコリはかすかに溜まっている程度で足跡が残るほどではなかった。

慎重に中に進んで、2階にある書斎に入った。

左手に窓、右側の壁から真正面まで本棚が続いている、正面の棚の一部はインテリアとして地球儀や、望遠鏡が置かれていた、その中に多面体の水晶が置いてある、これがプリズム・・・。


昔、なぜかこの別荘地に父と二人だけで立ち寄ったことがあった、そのときに見せられたのがこのプリズム。日の光に当てると虹色のように光が溢れ出したのが印象的だった。


プリズムをそっと手に取ると、敷物に目がいった。

手にとってみると紙で出来ていて、裏返すと手書きの地図だった。

海を表すような波情の記号が下に書かれ、その上には鶏のような形と双葉のような形とチューリップのような形の絵があり、その周りをうねうねと線が引かれていた。

まるで、子供がかいたイラズら書きのような絵だった。


そして、紙の端にはたった一言“行け”


―・・・・これは、お父様が描いた絵だわ。




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