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始まりはいつも突然に  作者: siro
第一章
38/50

38)バベルの塔

大砲から放たれた光線は、リネウス国の領土へ突き破り裸眼では確認できない場所にある神殿へと向かっていた。

だが、その神殿の手前で光線は弾け、消えた。


その様子は、戦場でも見て取れた。


大きな文様が空中に浮かび上がり、光線を消し去ったのだ。

文様は、蔦が絡みつき鬣をもった聖獣とドラゴンを模した形、それは最高神の印を意味すもの。


ガリエス国とスノップ国の者たちは息を呑んだ。

その文様は決して魔術では再現できない形、見るとしたら絵本や古文書にしか載っていないものだ。

それを、リネウス国の領土でみた、それはすなわちリネウス国は神に連なる王国。


軍人ならば知らないものは居ない、特に魔法を極めたものならば誰でも知っている。リネウス国の始祖と言われている男は最高神の二番目の息子ヴァルキス。

その男は、自分の血筋が残り続ける限り、かの王国を守ると誓っている。

最高神の息子もまた神、ヴァルキスは今も国を守り続けている。






クラウスは唖然としながら、空を見ていた。

スノップ国が最高神の花嫁を攫ってから、密かに作られた兵器は門を壊すことも出来なかった、あまりにも違いすぎる力の差、これが神の力なのかと。

そして、横に見える折り重なった二人にも目をやった。


手に入れようとした自身の半身は、気に入らない男の腕の中に包まっていた。


「俺の半身だ」


呟いた言葉は、風に流され消されていく。

堕ちた剣を拾おうと柄を掴むが手から滑り落ち、無機質な鉄の音を響かせた。

右手を見ると血で汚れている、右肩から血の匂いがしてみると黒い軍服が一層黒ずんだ染みをつくっていた。そこは、リザリーに撃たれた肩、いつの間にか傷口が開いていたようだった。

うまく動かない右手に舌打ちをして、クラウスは左手で腰に刺さっていた短剣を抜いた。


二人は微動だにしない、クラウスはリカルドの首めがけて短剣を振り落とした。


だが、短剣の刃はリカルドの首には届かずクラウスの腕ごと宙へまった。

「うわぁぁああああ!!!」


ぼたぼたと落ちる血を止めようと握り締めながら、顔を上げるとそこには剣を握り締めリカルドが立っていた。

「なっ!!なぜ?!」

クラウスは愕然としながら、見上げた。


「俺も王家の一員なんでね、毒には耐性があるんだ。特に、魔力に反応する毒にはね。」

リカルドの顔は未だに青ざめているが、瞳は力がこもっていた。


「馬鹿な!!!魔力を糧に毒は体に充満するはず!!」

「ならば、魔力を止めてしまえばいい」

「そ、そんなことが・・・」

できるはずがない、そう呟いた言葉はリカルドが振るった剣によって失った。

「ぐぁ・・」

クラウスは、リカルドの剣を避けるように端へと後退していく。


魔力を使おうとして、補助装置ごと腕を切られ使い物にならなくなっていることに気づいた。

 - くそっこんなときに!!!

もともとある魔力が残っているはずだがそれも湧き出てこない。


「なけなしの魔力も出ないだろう」


リカルドの言葉にクラウスは息があがる。


「知っているか、半身は半身を殺してはならない」


「はっ・・・」

それは書物で読んだことがある言葉、クラウスはさほど気にしてはいなかったその言葉。

「半身と言えどタダの他人・・・」

何を言っている、と続くはずだった言葉は汗が顎を伝う感覚に飲み込んでしまった。


「半身は、魔力・魂の半身。半身を殺すということは自身を殺すということ、殺せば魔力は減り呪いが掛かる。」


静かな靴音をさせながらリカルドはクラウスとの距離を縮める。


「ば、ばかな・・・」

視線は、倒れているリザリーとリカルドを交互にみていた。

後ずさりながらクラウスは踵が固いものに当たったのに気づいた。


「終わりだ」

リカルドは冷たく言葉を放った。


キラリと光が舞い、宙に鮮血が舞う。


クラウスの体は塔から舞うように堕ちていく。


リカルドはただ、視界から消えるまでその様子をスローモーションのように眺めていた。









リカルドはふらつく体を叱咤し、リザリーへと駆け寄った。


肌に触れると冷たい。

駄目だったか・・そう思ったとき、かすかに口から漏れる空気で生きていることが知れる。

安堵のため息が出る。

が、事は一刻もあらそう事態。早くリザリーに解毒薬を飲ませなければ、このままでは本当に死んでしまう。



フワリと自分とリザリーを覆う影にリカルドは顔を上げた。


「・・・カイゼリン」


そこには、金色のウサギのぬいぐるみを抱きかかえたブルーフェアリーが立っていた。

微笑みながら手をかざすとバサリいう音と共に金色の竜が現れた。


「大丈夫、魔力を吸い取られたおかげで仮死状態になってるだけ」


突如現れた金の竜にブルーフェアリーは乗り、手を差し伸べた。リカルドはためらわずにリザリーを抱きしめ、一緒に竜の背へと乗り込んだ。


竜が塔から飛び立つと、リネウス国から一斉に塔に向かって魔法攻撃が始まった。

リカルドの耳飾がなり、解毒薬を用意しとくという言葉が聞こえた。



天高く飛ぶ竜の背の上でリカルドは塔が崩れ落ちていくのを眺めた。

ブルーフェアリーもその様子を見ながら呟いた。

「まるでバベルの塔みたい」


「バベルの塔ですか?」


「そう、神に復讐しようとして人間が立てた塔、神は塔を壊すの。そんなお話だったかな」


「どちらにしろ、神に楯突こうなんて、ガリエス国も馬鹿なことを」


「まるで他人事ね、リカルド。他の人間からしたら貴方も十分、神にみえるでしょうに」


リカルドは、その言葉に小さく笑い、竜の背に倒れた。


バベルの塔をWikipediaで調べたら、崩れてないんですね。

塔が崩れるのはタロットの塔の方とか。

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