32)one more chance
あの後のリカルドのお話。
リネウス国、国境の陸軍施設の一室にリカルドは長い額縁の前の椅子に座っていた。
額縁の中の絵は、リネウス国の再建を表していると言われる絵が描かれている。天上界より降り立った一人の男は最高神の息子の一人であり、滅びかけていたリネウス国の皇女と婚姻を結びリネウス国を再建した男、その男を国民は神の系統になったリネウス国王家の始祖と崇めていた。
絵画は、じっと見つめているリカルドの前で光り輝き、魔鏡へと変化した。
そこに映る人物は、皆それぞれ違う場所にいる、この魔鏡は違う場所にいる複数の人間と通信ができるようになっている特別なものだった。
鏡には5人の男が映っていた、その中の一人が口を開いた。
「・・・無様だなリカルド」
「・・・」
リカルドは魔鏡に映る人物に指摘されたことをただ受け止めた。
自身の左腕は包帯が巻かれ、固定され三角巾で肩にかけられている。クラウスに切断された腕は、幸か不幸か綺麗に切断されたおかげで魔力による治療で繋げることは出来ていた、だがただ繋げているだけで細胞は破損しているため、動かすことができなかった。
- 一週間、絶対安静 -
医者は無常にも告げた言葉だった、今安静になどしていられる状況でない中の言葉にリカルドは冷たい刃物でえぐられたような感覚だった。
守るべき者を守れず、自国に戻った自分にただ拳を握り締める。
「ふん、それで始祖再来など笑わせる」
「・・・返す言葉もありません。」
リカルドは頭を下げた。
「たった一人の女も守れないなど」
「父上!!おやめください、向こうは魔道具と機械を使用してきたのです。いくらリカルドの魔力が強くとも、機械と・・」
「いいのです!!大叔父様!!」
リカルドは、声を上げて擁護する大叔父様とよぶものを止めた。大叔父はオレンジがかった金髪、瞳は黒に近い茶色の瞳をした40代くらいの男で、リカルドに面影が似ていた。
「カイザーも大叔父様も言い争いをするときではありませんよ。」
リネウス国の王が口を開いた。
「そうだったな、ウリウス。」
大叔父様と呼ばれた男は、リネウス国の王ウリウスに謝った。
ウリウスはオレンジがかった金髪に碧眼の30代くらいの若い王だ。
「・・・やはり、俺がでるか?」
「それでは意味がありませんよ、カイザー。今回なんのために動かないように言われてるかわすれたんですか?せっかく天上界の話を寝物語にまでなったというのに、ここで貴方がでてきたらこの150年の努力が水の泡です。ちゃんとカイゼリンにも保険をかけてあるんですから、少しは大人しくしていてください。で、ウリウス王、そちらの準備はどうですか?」
カイザーと呼ばれている男の後ろに控えていた男は、呆れた口調で言い放ち、ウリウス王に聞いた。
「こちらはすでに警告をスノップとガリウス国にだしました。まー今の状況を考えるとすでに火蓋は切って落とされた感じですが、本国にはまだ手を出されていません。出撃準備はできてるようですが。ただ、ボルドーの死因がわが国のせいになっているのと、リザリー嬢のお母様が亡くなられ、その原因もわが国だという噂を広められている状況です。」
ウリウス王の言葉にリカルドは顔を上げた。
「なくなった?」
「あぁ、どうやら自殺らしい。捕まる前に自身の首を切ったそうだ。”スノップ国のものにはならない”と言い残して」
「・・・」
リカルドは拳を握り締めた。
- 守れなかった、彼女も彼女の家族も。
大叔父は、顔を歪ませて額に手を当て、ため息をつきながら言葉を吐いた。
「成功例を産み落とした女性だから、軍も欲しがっていたんだろう。問題は噂か・・・メディアに働きかけてうまくスノップ国がやったことを流せればいいが、ガリウス国も手を組んでいるのが痛いな。」
「それは私にお任せあれ、あやつらの悪事を暴いて見せましょ。」
いままで黙っていた男が口を開いた。
「頼む大元帥、あと門の警備も強化を頼む。」
「畏まりました。国王」
大元帥は深く刻まれた皺に笑みを浮かべながら白髪になった髭をなでた。
「リカルド、君は後方支援にまわり。その腕では前線で使い物にならないだろう」
「いえ、前線に立ちます。」
リカルドはウリウス王を見た。その瞳は意思を曲げない力強くさを見せていた。
「・・・リカルド、君の気持ちはわかる。だが足手まといだ。」
「カイゼリンとリザリー嬢は門に砲撃されるとき前線に出されるはずです。今はどこの牢に閉じ込められているかわかりませんが。力を利用するためには、閉じ込めている牢から引き出すより、前線にだして使用したほうが何十倍も威力が出る。その時に前線にいなければ意味がありません!後方では間に合わない!!!」
「リカルド・・・」
ウリウス王と大元帥はため息をつきながらリカルドの言葉を聞いた。
その言葉を聞いていたカイザーは口を開いた。
「・・・その傷、一時的に使えるように元にもどしてやろうか?」
「「カイザー?!」」
「父上?!」
無言でリカルドはカイザーの言葉を聞いた、カイザーの視線から外さぬようにじっと見つめた。カイザーの蒼い瞳は威圧的な力を秘めていた、少しでも気を抜けば目線を反らしてしまいたくなるような力強さ。
「貴様が望めば力も貸してやろう」
「・・・・条件はなんですか」
リカルドの回答にカイザーは口角を上げた。
「良くわかっているな。お前の手でリザリーを連れ戻し、殺せ」
周りの者たちは息を呑み、リカルドは思わず立ち上がってカイザーを見た。
大叔父は席を立ち声を荒げた。
「何を言ってるんですか!?助けるという話をしているのに、殺せと命じるのですか?!しかもリカルドに!!なぜ!!」
「今回、あの娘がうまれたからこそ、カイゼリンが攫われたのだ。あの娘が居る限りカイゼリンの枷になり、あの娘が居る限り下界に召還されてしまう。それは阻止しなくてはならない。一番簡単で的確な方法だ。」
「・・・できません。」
「情でも移ったか」
「彼女は、真実の半分をやっと知ったばっかりです!!しかも、彼女は被害者だ!!彼女は何も悪くないではないですか!!悪かったのはリザリーを産み落とさせたスノップ国のやつらでリザリーが責任をとる必要はない!!!彼女は巻き込まれたんです!!!」
「やはり、情が移ったか。そういう所はヴァルキスに似ているな。あれは本来あってはならない存在。あれはカイゼリンのクローンのようなもの、あれが生きている限り、カイゼリンと下界への繋がりが濃くなるのだよ。生きていても違う国に狙われるだろう、そしてあの娘が産み落とした子も同じように、ならば今のうちに芽を摘み落とすに限る。」
「ならば、二度と悪用されぬように守ります!!」
「はっ!!軍人だというのに非現実的なことを言うな、守だと?常に守ることなど不可能だ、何処かに閉じ込めるのならまだしもな?それともお前は何処かにあの娘を閉じ込めるのか?」
「・・・」
「ふん。まぁいい。あと4日だけまってやる。それまでは好きにしろ」
そう言って、カイザーは魔鏡から消えた。
「はぁ、リカルド。大丈夫か?」
「大叔父様、ウリウス王・・・俺は。」
リカルドは、力尽きたように椅子に崩れ落ちた。
「お前がそこまで情熱的とはな~。むしろ感心したよ。リカルド、あそこでお前が是と答えて、カイザーから力を借りていたらお前の職を解いてたところだ。」こっちは肝が冷えたがなっと笑いながら大元帥は言った。
「気にするな、リカルド。俺はお前の味方だよ。」
ウリウス王は苦笑しながら言った。
「まぁ、カイザーはカイゼリンが絡むと容赦ないですからね。とりあえず4日はまってくれるようですから、それまでに成果を見せればいいのですよ。リカルドは、リザリー嬢を大切に思われているようですしね。」
カイザーの後ろに控えていた男は、魔鏡に進み出て笑いながら言った。
「絶対に助け出します。」
「ふふふ、君にはがんばってもらわないとね。ということで、私から個人的に補助魔法をしますよ。」
そう言って、男が何事か呟くとリカルドの左腕が熱くなった。
「腕を動かしてみてください。ただの接着としての連結ではなく、神経系の細胞もつなげました。新しい細胞なので過度な負担をかければすぐに切れてしまうので注意してください」
そういわれて、リカルドは自身の腕を動かしてみた。先ほどまで鈍い感覚でしかなく動かすのもままならなかった左腕はいまでは普通のように動いた。
「あ、ありがとうございます」
では、と言って男も魔鏡から姿を消した。
「さて、ここまでお膳立てされてしまっては、君を最前線に立たせないわけには行かないな」
苦笑しながらウリウス王は言った。
すみません。と言いながらリカルドは頭を下げた。
解りにくいかもしれないですが、秘密とネタバレがちらほら混ぜている状態です。




