30)驕る者
「ダリエス!!!貴様!!!」
クラウスは怒りで顔を紅くしてダリエスの胸倉を掴んだ。
「ふっ、そんなあられもない姿でどうした?」
クラウスの格好は、シャツの前は肌蹴、肩には紅い血が染み込んでいた、傷は魔法でなんとか塞いではいるものの無理をすれば開くような状態。
それを解っていて、ダリエスはクラウスの紅く染まった肩を掴んだ。
「っつ!!」
「口の利き方に気をつけろ、クラウス。お前は王位継承権は、まだ4位のまま。」
その言葉に、クラウスはダリエスの手を叩き落し距離を置いた。
「ふざけるな!俺の半身をどこかに飛ばしやがって!!契約さえ済めば俺は第二位だ!!」
「だが、まだ俺が第二位だ。」
手をはたきながらダリエスは冷めた目でクラウスを見た。
ダリエスとは異母兄弟、お互い正妃の子ではなく違う側室同士の子だった。正妃の子は第一位継承権を持つが、体が弱くいつ病状が悪化してもおかしくない状態だが父王に気に入られているおかげで手出しができなかった。だからか自然と第二位の位置を他の兄弟は狙っていた。
「よくも・・・邪魔してくれたな!!」
肩の傷はダリエスに強く握られたせいで、開いてしまいシャツのしみが広がっていった。
「貴様のような奴に渡すと思うか?お前は技術さえ提供していればいいものを。」
「ふん、これは父上も認めてくださったことだ!!貴様は魔力があるが、技術力は並の奴らとかわらないではないか!!俺のほうが貴様より数千倍も優れている!!あとは魔力を手に入れるだけだ!!」
「餓鬼のお前がいきがるな」
「貴様のしたことは父上に報告してやる。俺の邪魔をしやがって」
「それなら、お前の手を煩わせる必要はない、カイゼリンのところに飛ばしたからな」
「なっ!?」
「お前が半身と契約して魔力を手に入れなくとも、軍はすでにあの娘の魔力を手に入れたも同然、父上はあの娘の魔力を欲していた、それをお前が手に入れられるから同意したのであって、俺が手に入れたとしてもなんら問題は無い、むしろ俺の評価が上がる」
そう言ってダリエスは、リザリーが必死に空けようとしていた扉をなんなく開けて出て行った。
扉が閉まる瞬間クラウスに向かって笑いながら言った。
「あぁ、この異空間。なかなかの出来栄えだったな、俺には通用しなかったがな。」
「・・・・・くそ!!!」
クラウスは顔を歪ませて閉じた扉を睨みつけた。
この屋敷はクラウスが術を構築して作った異空間にあった。扉の先には本来のクラウスが住んでいる部屋へと続いている。
その部屋もクラウスが術によって容易に入れないようにしていたが、ダリエスはゴリ押しで術を破壊し侵入してきたのだ。
「あの馬鹿力が!!魔力量だけのゴリ押ししか能が無いくせに・・・・くそっ想定外だ・・・カイゼリンの居る所に送っただと!?地下の迷宮牢に送りやがって・・・」
イライラしながら、クラウスは親指の爪を噛んだ。
地下の迷宮牢、それは昔からカイゼリンを捕まえるためだけに何十年とかけて作られた牢、簡単に近づくことも連れ出すこともできない。しかも牢に行くまでの道のりはどんな魔法も無効化されてしまう。つまり牢にたどり着いたとしてもクラウスはリザリーと契約すらできない。
あそこの牢は、閉じ込めているものの魔力を吸い取り軍の魔道具へと供給されている。
契約できるチャンスは、たった一回のみ・・・牢を開き人質としてカイゼリンを見せる時のみ、それは同時に最大出力の魔力攻撃を行う。
「くそっ!ここまでは順調だったのに・・・。俺の力はこんなものじゃない・・こんなものじゃないんだ!!」