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始まりはいつも突然に  作者: siro
第一章
27/50

27)滑り堕ちた先には、青空と赤い・・・

血なまぐさい表現があります。

ご注意ください。

リザリーは顔を上げて、気まずそうに顔を背けた。

その様子に笑みを浮かべながらリカルドはハンカチでリザリーの涙を拭いた。


「自分で出来ます」


子供のように世話を焼かれ、リザリーは恥ずかしくてたまらなく言ったが、無視されそのまま拭かれた。


「リザリー嬢、俺を信じて」


そう言うと、リカルドはリザリーの手にハンカチを握らせそのまま手の甲にキスを落とした。

手の甲に当たる生暖かい感触にリザリーは頬に熱が集まるのを感じた。


「グルス陸軍中将ゲネハートンタッツ、やめてください。」


リザリーの言葉に悲しそうな笑みをしながら、リカルドは顔を上げた。


「今まで通り、リカルド呼んではくれないかい?」


「身分が違います。匿って頂いて、しかも国にまで連れて行ってくださることには感謝しています。ですが、それ以上は超えませんし、ご迷惑をかけられません。分は弁えています。」


その言葉にリカルドは完全に線引きをされてしまった事にちくりと胸が痛んだ。


リザリーは何も考えないようにしていた。感情の赴くままわめき散らして縋っても事態は何も変わらない、第三者的な立場でどう動いたほうが良いか考えていかなけれならなかった。

それは、幼い頃から父親に叩き込まれた考えだった。

この船の中の軍人には明らかにリザリーの存在を疎ましく思っているものが居る。そんな中で気安くリカルドの名を呼べば自分の立場が良くない方向に行くのは明らかだった。

軍人とはいえ人なのだから。


決して目線を合わせようとしないリザリーにリカルドは諦めて手を離した。



手のぬくもりが消え、リザリーは俯いた。



そのとき、ドカンっという爆発音と共に床が大きく傾いた。

「きゃぁ!」

リカルドはとっさにリザリーを抱きしめ、そのまま物と一緒に壁にぶつかった。


「くっ!!」


すぐに船は元の水平に戻ったが、机や椅子は倒れ壁に流されていた。


「な、なに?!」

リザリーはリカルドに抱きしめられたまま。恐怖で身をすくめた。


「どうやら見つかったらしいね。国境を越える前に来るとは思っていたけど、ちょっと予想より早かったな。」


そう呟いてリカルドは窓の外を覗いた。

白い雲の隙間から騎乗してくる竜の姿を確認すると、リカルドはリザリーを抱きしめたまま部屋の隅に連れて行った

壁と床の隙間に手を這わせ木目の一部を押すと床が少し浮かび、そのまま剥がした。そこには鉄の扉のようなものが存在していた。


「リザリー嬢、少し窮屈かもしれないがココにいてくれ」

そう言って、床下の鉄の扉を開くと暗い空間が姿を現した。

リザリーはただうなずくしかなかった、外では戦闘が始まってるらしく爆発音が先ほどからし始めていたのだ。


リカルドに降ろしてもらうと、ちょうど人が一人寝れるくらい横幅とリザリーの頭すれすれくらいの高さのある空間が存在した、扉には両手を挙げてやっと届くか届かないくらいの位の深さだ。確実に一人では出れない。


「大丈夫。」


そう言ってリカルドはペンライトを渡して、扉を閉じ床を元に戻した。

そして部屋を出て急いで現状の把握に司令室へと戻った。








「居る!居るぞ!あそこに!!」

クラウスは竜に載りながら歓喜していた。

半身に一度会うと近くにいれば感じることができると書物で読んでいたが実際に体験してみると、その効果が面白いほど実感できた。2頭がすでに飛竜船の周りを大きく旋回して、攻撃魔法を仕掛けている。

飛竜船の竜は突然の攻撃に怒りで目を紅くして周りの竜に対して火を吹いて威嚇していたが、船に繋がっているためうまく攻撃は当たらずすべてかわされていた。


船の上にはすでに人が現れ、先ほどの爆音で壊した結界をまた張り直し始めていた。

魔術と火薬を合わせたバズーカ砲は、一度きりの使いきりだが威力は結界を壊すほどの物だ。だがこちらのバズーカ砲はすでに撃ってしまっているため二度目はない、結界を張られ直される前に船に侵入しなくてはならなくなった。

完成してしまえば、攻撃がしにくくなるうえ、スピードを上げて振り切ろうとしている、このままでは国境を越えられかねない。


クラウスは、スノップ国から持ってきた機械と魔術が織り交ぜられた武器を取り出した。


「さて、リザリー嬢。まっていてね」

笑みを浮かべて、クラウスは竜の上から飛び降り下にある飛竜船に飛び乗った。


突如表れた人に、軍人たちは一瞬乱れるがすぐに剣を構え直した。

「誰だ!!貴様!!」

「煩いな」

クラウスはそう一言いうと、隠し持っていた武器・・・銃を使って軍人の肩を貫いた。


「うわぁ!」

軍人たちは一気に間合いを広げ、クラウスを囲んだ。

「銃を持っているぞ!!!スノップ国の人間か!!」

空からは未だに攻撃の手が止まぬ中、守備と前衛が折り重なるように並んだ。


 - 流石、リネウス国と言った所か。


「はっ、あんな愚かどもと一緒にしないでくれるかな」


クラウスが手を上げると、クラウス目がけて砲弾が飛んできた。

それは、クラウスにあたらず足元へと直撃し船の天上に穴を開け入り口を作った。


「では、俺は失礼するよ」

そう言って穴の中へとヒラリとはいると同時に空から新たな人間、ガリエス国の軍人が降りたち行く手を阻んだ。







「さて、リザリー嬢はどこかな~」


クラウスは廊下を一周見て、ある角度に目を留めた。

「そこまでだ」


クラウスの首筋に冷たいものが当たった。


「凄い魔力だな、今まで隠していたのか」


クラウスは振り返らずに言った。


「ガリエス国第4王子クラウス・ディウ・ガリエスリグルだな」


「へー俺の正体に気づくなんて、なかなか有能だな」

どっかの馬鹿とは大違いだ、とクスクス笑いながらクラウスは手を握り締めたまま両手を挙げた。

リカルドが気づいたときには、手は広げられ黒い球体が落ちていった。


「しまっ!」


床に付くと同時に破裂しリカルドの体を黒い粒が貫いていった、一気に黒い爆煙が広がり廊下を埋め尽くし視界を遮られてしまった。









まだ戦闘の音が聞こえる中、鉄の扉が開き空間に光りが差し込んだ。

リザリーは思わず端へと後ずさり息を潜める。

光りから見える影は一人の人影を写し、そのままその影の人間は顔を突っ込んで奥に居るリザリーを見つめた。

逆さまになった状態のクラウスは笑みを浮かべた。

「みーつーけーたー」

紫の瞳が妖しく光った。


「ひっ」


思わず口を押さえてもすでに見つかっている状態、それでも恐怖でリザリーは壁に張り付いて身動きが取れなかった。

クラウスはいったん顔を引っ込めると、リザリーのいる空間に降り立った。


「り・・・」

屈んで、入ってくる姿は夢でみた悪夢のようだった。


「り・・・り・・リカルド!!」

引きつった声でやっと絞りだした声は、リカルドの名を叫んでいた。

そこから堰を切ったようにリザリーは叫んだ。

「来ないで!!!リカルドリカルドリカルド!!助けて!!んぐっ」


だがその言葉はクラウスの手によって押さえつけられてしまった。


「酷いな~リザリー嬢は、俺の前で他の男の名を叫ぶなんて」

そのまま軽々と担ぎ上げられ、床下の空間から出されると、クラウスは手を壁にかざして部屋の壁を破壊した。

「リザリーを離せ!!クラウス!!」

血だらけのリカルドが扉を吹っ飛ばして入ってきた。


「なんだ、生きてたのかしぶとい奴。もう手持ちの魔道具が尽きたし、探し物は見つかったからお前の相手なんてしてられないんだよ」


「リカルド!リカルド!リカルド!」

暴れて、なんとかクラウスから逃れようとするが強く抱きしめられ肩に手が食い込む痛さに身を強張らせた。

「いっ!!」

「大人しくしてくれないと困るんだよね~」

笑いながら、壁の穴えとクラウスは後ずさりながらリカルドをにらみつけた。


「リカルドで思い出した、お前始祖の再来とか言われてる王族か」

「・・・」


リカルドが一歩踏み出すと、クラウスは一歩さがり突如笑い出した。

「あははっはははははは!!!!君みづから出てくるなんて思いもしなかったよ!!邪魔だ」


そう言うと、クラウスは後ろポケットに入れていた最後の魔具を使った。

それは、刃物だけで出来た10センチほどの鉄の板。

だがそれは回転しながら大きくなり、リカルドの腕へと突き刺さりそのまま突き抜けた。


リカルドの腕からは血が噴出し、腕は床へと落ちていった。


「ぁっっっっ!!!!!いやーーーーーーーーーーー!!!!リカルド!リカルド!リカルド!リカルド!」

泣き叫び両手をリカルドへとだす、リザリー。

だがそれはクラウスに阻まれ、そのまま空へと堕ちていった。



「リ・・・ザ・・・リ」


手を差し出した先にはもう誰も立っておらず、ただ雲と青空が暴風と共に流れ込んでくるだけだった。


足音が部屋へと近づいてくる。

だが、リカルドはそのまま意識を失った。



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