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始まりはいつも突然に  作者: siro
第一章
25/50

25)童話

無機質な白い廊下を一人の男が歩いている。

厳重に管理された施設の奥へと奥へとその男は進んでいく。

扉を通るときには必ず認証を行い、チェックを何度も進む、そのたびに壁の柄が変わっていく、現代の無機質な壁でなく、煤けた鉄に、石垣に、だが共通しているのはどの壁にも術式が書かれているということ。


最後のチェックを通ると、そこはドーム状の広い空間、野球でも出来そうな程の空間が広がっている。

床は黒く汚れているが、よく見ると術式が描かれているのがわかる。その空間に不似合いな豪華な装飾のようにも見える鉄で型どられた術式が鳥かごのように組み立てられて、ポツンと真ん中に配置されていた。

中は薄いカーテンで覆われて見えない。


男はカーテン越しに見えるところまで籠に近づいた。


ここまで厳重に術式で囲っているのは、鳥かごに閉じ込められた者を逃がさないためのものであり隠すものでもあった。


「ご機嫌はいかがかな?カイゼリン」


男の目線の先には、キラキラと宝石が散りばめられた蒼いドレスを着た妖精のような女性、カイゼリンと呼ばれた者がいた。

背には大きな薄い羽は蒼く、時々虹色のようにも見せている。

その腕の中には紺色のジャケットを羽織った金色の毛並みをしたウサギのぬいぐるみを抱きしめていた。

クッションがひきつめられた円形の台座に鎮座し、男を見つめていた。


「あなたの子とも言える娘が見つかりましたよ。」


カイゼリンはが答える前に、愛くるしい顔をしていたぬいぐるみが、まるで獰猛な肉食獣のような顔に変貌し唸り声を上げた。

少しでも彼女に触れようものなら、喉元を噛み付かれるようなほどの殺気。

カイゼリンは人形のように微笑をたたえたまま無言で男を見つめた。


男は面白くなさそうに、顔をゆがめた。


「そうしていられるのも、今のうちですよ。俺は、娘を殺しますから」


その言葉に、ほんの少し反応をしたカイゼリンに満足したのか男は踵を返して部屋を出て行った。


静まり返った籠の中でカイゼリンはウサギのぬいぐるみを撫でた、男が出て行ったのに満足したのか、元の愛くるしい姿に戻り気持ち良さそうに目を細めた。

その様子に笑みを浮かべて呟いた。


「天上に触れることなかれ」

















* * * * * * * * * * * * * * * *



むかし、むかし、天上界と下界がまだ行き来していた時のはなし。

10年に一度、下界の各国の優秀な魔術師は天上界で行われる舞踏会に参加することができました。

主催者は、天上界を治める最高神。

それは、それは豪華絢爛、装飾も下界では見られないほどの素晴らしい王宮での舞踏会でした。


その舞踏会に参加できる資格者は、魔術師の中でもごく一部、皇帝が認めた魔力の資質を持ったものだけでした。

各国は競って国の力を誇示するために基準を超える魔術師を集め舞踏会に参加させました。

魔術師も参加できるように競って鍛錬を積みました、それは運がよければ、そのまま天上界で暮らすこともできたのです。



ある年の日、スノップ国の第一位継承者の王子が天上界の舞踏会に出席しました。

その王子は自身の魔力を奢っていたのです。

各国の中で一番強い魔力を持った王族でしたから。


煌びやかな世界と、天上界の素晴らしさに王子は魅了されました。

王子の魔力ならば、移り住むことさ可能でした。


ですが、それは一生叶わないことになったのです。


運良く王子は、最高神の花嫁が出席したときに出くわしたのです。

天上界で行われる舞踏会は1週間、その中の1日だけ、それも数時間だけ最高神の花嫁は参加するのです。

相見えるのはその時のみ、ですから皆一日も欠かさず出席します。

普段は王宮の奥深く隠されるように暮らしている花嫁に天上界の神々もなんとか一目見ようと集まるのです。


その姿は胸元まで隠すベールに包まれていて、顔を見ることも叶わなくとも、あふれ出す魔力に皆酔いしれ、周りのものを魅了していきました。

その素顔を拝見したとくとも、隣には最高神が常に隣に立ち、人々を寄せ付けません。

それは、あまり長くいると花嫁が望まないままに男たちを虜にしてしまうため。

すぐ奥に引っ込んでしまい、もう一度姿を見ることは叶いません。

次に相見えるのは10年後の舞踏会に参加できる者のみ。


ですが王子は10年の歳月を待っていられいませんでした。

王子は、もう一度花嫁に会いたいがために、王宮に侵入してしまったのです。

自身の魔力は天上界の人々にも劣らないという過信によって・・・。


花嫁の魅力に捕らわれた王子は舞踏会が続く中、花嫁が休む王宮の奥に忍び込みました。

かすかに香る花嫁の魔力を辿ると、そこは王宮の中庭にたどり着きました。

そこで花嫁はベールを脱ぎ去り、子供たちと戯れていました。

その素顔は愛らしく、ばら色に上気した頬はいっそう幼くみせました。

鈴のような愛らしい声に、王子はますます花嫁に心を奪われてしまいました。

花嫁は、王子が見ていることにも気づかず、子供たちと隠れんぼをし始めました。


花嫁は中庭の端の東屋の影に隠れました。


王子はこれ幸いと隠れている花嫁を眠らせ、そのまま攫ってしまいました。


転移魔法で国に連れ帰ると、家臣達は驚きました。

まだ、舞踏会は終わっていないのですから、当然です。そして何よりも腕に抱いた女性に皆が固まりました。

下界では、ありえないほどの魔力を持つ女性、そして着ているドレスは天上界にしか存在しないもの、頭には黄金に輝くティアラ。

それは、最高神が付けているものと同じティアラ、それを身に付けられるのはただ一人。


気づいた大臣たちは王子を止めようとしましたが、王子は花嫁を自身の妻にすると宣言したのです。

もちろん、家臣達はもう反対。早く最高神の元に戻すよう説得をするが聞く耳を持ちません。


野心に燃える家臣達は花嫁の存在を利用しようとする者まで現れ始めました。

最高神が大切にする花嫁を盾に、天上界へと進出しようと・・・。


次第に花嫁の魔力の魅力に捕らわれ男達が争いをはじめました。


花嫁が目覚めるとそこには、魔力の強い者たちが殺しあっていました。

花嫁は悲鳴をあげ、逃げ惑いました。

王子は、血に濡れた剣を持ち花嫁を追いかけたのです、その後を他の男達も追いかけました。

皆、花嫁の魔力に酔いしれ溺れてしまったのです。


その頃、花嫁を攫われたことに気づいた最高神は怒り狂い、周りの神々や人々は恐ろしくて近づくことも出来ませんでした。

ただ、最高神の足元に王子の国の参加者が倒れ付していました。

王子が花嫁を攫ったがために、自身の国の人々が犠牲になったのです。

最高神は、花嫁が下界に連れてかれ人々に襲われていることを知り、最高神自ら下界に降り立ったのです。

そして、その国に二度と魔力の強い者たちが生まれないように女性には呪いを、魔力の強い男は皆殺しにしてしまいました。


それ以来、その国は天上界に呼ばれることは無く、断絶してしまいました。

また、天上界も下界のものを呼ぶことを禁じました。


そのため、その国は各国からのけ者にされ、一番の弱小国になってしまったのです。


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