22)悪夢
ガタンという音と共に馬車は止まった。
後方の扉が開き、皆次々と降りていく。
リザリーも無言で降りる。
馬車の向こう側には一車両ぶんくらいの大きさの竜船が止まっていた。
竜船中から出てきた人たちを見てリザリーは息を止めた。
蒼い軍服を着た男の人達。
リザリーは一歩後ずさんだが、その腕をリカルドに止められる。
「リカルド・・・」
「俺の国の者だ、安心しろ」
「すぐに出発を」
軍人の一人が言い、他の皆は次々と竜船に乗り込んでいったが、リザリーは足を進めることができなかった。
この人達に付いていって本当にいいの?これ以上は危険なのでは?ここで逃げ出したほうがいいのではないだろうかという思いに駆られたリザリーに気づいたのか、リカルドは無言でリザリーを抱きかかえた。
「なっ!」
「悪いが待ってられないんでね」
やすやすと抱きかかえられ、竜船に乗せられた。
中は無機質は鉄で出来た廊下と個室らしき扉が続いていた。
逃がしてもらっている身でも、次々と起こる出来事の速さに不安と恐怖でリザリーはリカルドの腕の中で暴れた。
「おろして!おろしてよ!ここまででいい!!嫌だ!!おろしてリカルド!!」
「あらあら、ここまで連れてきてもらって何いってるのかしら、お嬢ちゃんは」
メルは、突然暴れだしたリザリーに冷笑を浮かべていった。
「メル、君はだまっとけ」
スイが釘をさすが、冷笑を浮かべたままメルは奥へと消えた。
「スアン!!落ち着け!!」
リカルドは落とさないように抱きしめながら声をかけるがリザリーは
「やだやだやだ!!」
焦点の合わない瞳で泣き叫んでいた。
呼吸も荒くなっている状態に、リカルドは思わず舌打ちをしてしまった。
- まずい。パニック状態になってる。
そ様子にスイは、リザリーの顔を見て気づいた。
「パニック状態になってる、リカルド押さえつけてて、眠らせる」
「わかった。」
リカルドが押さえつけている状態で、スイはリザリーの目を魔力を纏わせた手で覆い、言葉を紡いだ。
すると、リザリーは荒い呼吸から静かな呼吸へと変わり、動かなくなった。
「悪いな」
「いや。・・・そうとうストレスがきてるな。ちゃんと逃亡者の精神管理もしとけよ。」
「そんな余裕がなくてね」
「この場所だったからよかったが、他の場所でなってみろ。その時点でアウトだ」
わかってる。と呟いてリカルドは奥へと歩みを進めた。
「リカルド様、こちらです。」
今まで黙っていた軍人が一つの扉を開いた。
その部屋は質素だが廊下よりもましなたたずまいをした木造の個室。
リカルドは簡易ベットの上にリザリーを置いた。
涙で濡れた頬を拭うとリカルドは申し訳なさそうに呟いた。
「君を急いで、わが国に連れて行くにはこの方法しかないんだ」
解ってはいた、リザリーは自国の軍から逃げている状態、その中他国の軍に向かい入れられれば不安に思うだろう事は。
「ふーん。やっぱり彼女は重要人物なのか、わが国の軍が動くほどなんて」
「まさか、ここまで正規の軍を使うとは思わなかったよ俺も」
そう、たしかに早く着くために軍の手配をした、といっても影の小隊がくると思っていたが、きていたのは正規の軍。
部屋の入り口で、様子を見ていたスイはいぶかしげながら横に立っていた軍人の肩にある紋章を見ながらいった。
「ということは、君は何かしってるのか?代将」
「はっ、会議室でお話いたします。」
「解った」
リカルドはもう一度リザリーの頬を撫でて部屋を出て行った。扉には鍵をかけて。
「逃亡者に情なんてうつすなよ。」
「なにいってる」
「逃がした後が面倒になるだろ、適度な距離を保てよ」
「言われるまでも無い」
暗い暗い
リザリーは夢を見てる。
自分で夢だと認識してる。
解っている
解っているのに目の前に広がる暗闇から覗く濃い紫色の瞳に恐怖する。
『見つけた』
体がずるずると引き寄せられる
やだやだやだ
あがくが夢の中は思い通りに動けない。
『迎えに行くよ』
こないで!こないで!こないで!
『どこにいっても』
あなたと になんて ない!!




