21)女神か悪魔か
これ以上の追尾は国際問題になりかねないため、軍は国境線の手前で飛竜船から竜車と軍竜を離れさせた。
何人かスパイを残したが、それでは安心できない。
一頭の竜に跨りながらクラウスは進んでいく飛竜船を睨みつけていた。
「大至急本国へ連絡しろ。このままだと敵対国に渡る。」
「はっ」
横に控えていた軍人の一人が答え、踵を返した。
「エディル。匿っている奴は、そうとうな魔力の使い手だ。リザリー嬢の気配をぷっつり切れさせていた。どう思う?」
クラウスは地上へと竜を下降させながら後から追いかけてくる赤茶色の短髪の男、エディルに言った。
「それほどの使い手となると、最悪の場合・・・リネウス国のものかと」
その後を数人の軍人が追う。
「考えたくも無いが・・・やはりそう思うか。」
森の開けた場所に降り立つとクラウスは地図を広げた。
「アルデルドからリネウス国へのルートを警戒したほうが良いな」
リザリーとリカルドは劇団員に混じりながら船を下りた。
荷を運ぶ手伝いをしながら、リザリーはリカルドの側についていき3つある頑丈な木で組まれた荷馬車の内の小さい馬車に荷物を運び入れる。
乗り込んだまま、そのまま後方の扉が閉められた。
「リカルド・・」
リザリーはリカルドの服のすそを引っ張った。
「大丈夫だ。」
荷台にはリザリーとリカルド、そして男2人に女1人乗り込んでいた。
「ここにいるのは、自国に帰るための仲間だ。」
「仲間?」
「そうだよ、お嬢ちゃん。君は見たところ匿われて逃亡中といったところかな」
黒々とした肌のスキンヘッドのごつい男の人が声をかけた。
「俺は、ルーディス」
「私はメル」
魅惑的な体つきをした女性が答えた。
「俺はスイだ」
爽やかな蒼い髪の青年が答えた。
皆口々に自己紹介をした。
「彼女はスアンだ。俺は自己紹介するまでもないな」
あぁ、と笑いながら答えたのはスイと名乗った男だった。
リカルドはすでに自身の正体を知っているのに、あえて偽名を名乗らせていたことに疑問に思いつつリザリーは小さな声で自己紹介をした。
「・・・スアンです。よろしくおねがいします。」
「道中よろしく」
リカルドは御者のいる壁を叩くと小さな窓が開いた。
「さて、お迎えはどのくらいまでこれそうだ?」
目深に被った帽子で解らなかったが、年配の男が答えた。
「この先の川の所までくる。」
「オイオイ、アルデルド国内にまで入れるように手配したのか・・?」
ルーディスが驚いた声を上げた。
「これはラッキーなのかしら、それともアンラッキー?」
メルはリザリーの横に座り込み、頬をなでた。
困惑していたリザリーは何も言わず周りの様子を伺うが、リカルド以外の人たちは皆リザリーを見ていた。
「なるほど、そこまでする原因は彼女か。逃亡者にここまでするとは・・・」
「飛竜船に軍が乗り込んできたのも彼女が原因でしょ?リカルド」
「詮索は無用。嫌なら降りろ。」
「まさかー、直行便があるのに乗らないわけないじゃない」
メルはリザリーに抱きつき耳元で囁いた。
「あなたは幸運の女神かしら?それとも疫病神かしら?」
その言葉に、リザリーは体を硬くした。
幸運の女神であるはずがない、疫病神・・・もしかしたらそうなのかもしれない。
リザリーは俯き何も答えなかった。
リカルドはリザリーの様子にも気づかずに窓から目の前の風景をみていた。
「そういえば、SとGが最近裏でつながってるそうだぞ」
ルーディスが呟いた。
「まじか」
その言葉にリカルドも振り返る。
スイは身を乗り出して言ってきた。
「もしかして、Gが探している隣人がSにいるっていう噂は本当だったのか!」
「なんだって?!」
リカルドはスイの言葉に思わず叫んだ。
そして暗号文を思い出した、あれは各国の中で自国に対してAランクの危険な国の現状を書いていた。
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神の庇護の元に集え
(リネウス国に戻れ)
S
(スノップ国)
天上に触れることなかれ
(天上界に侵略を行う準備をしている)
G
(ガリエス国)
罪無き隣人を飼い殺すことなかれ
(軍は何も知らない半身を捜しだし、買い殺そうとしている)
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戻れという指令のときは戦争が勃発する可能性がある。
S と Gが繋がっている・・・
ガリエス国で思い出した、ガリエス国第4王子クラウス・ディウ・ガリエスリグル。
魔力は少ないが、術者としては天才、魔力が伴えば各国の脅威にもなっていたといわれる男。
魔力補助機を使えば、魔力さえ尽きなければできないことは無いというくらいの技術力を持つ。
そいつに半身が居たとしたら・・・
リザリーがあいつの半身だったら・・・彼女の魔力は未知数。その力を手に入れてしまえば。
恐ろしいことになりかねない。
リカルドは、リザリーを見つめた。
何も知らない少女。
精神的にも限界が近づいてるのが見て取れた。
急がなければ・・・
暗号文回収