16)ほころび
リザリーは真っ暗な部屋で目が覚た。
一瞬どこだかわからず、周りの豪華な内装で飛竜船にのっていたことを思い出した。
ベットから降り、壁に近づき天上から床まである分厚いカーテンを開けた。
「うわぁ・・・」
窓の向こうには雲海が広がっていた。
頭上には大きな月が輝き、月明かりに照らされた雲は蒼白く、まぶしかった。
空はどこまでも紺色で、星々がまたたいる。
穏やかに流れてく雲をリザリーはしばらくみていた。
コンコン
ノックの音でリザリーはやっと窓の前から動いた。
「リカルド?」
「スアン」
リカルドが扉を半分開けて入ってきた。
「よく眠ってたね。食事でもどうだい?お腹すいただろ?」
「えぇ」
リカルドはリザリーの手を取り、甲に口付けた。
「?!」
「食堂に行こうか」
顔を上げると笑顔でリカルドはリザリーの手を自身の腕に絡ませた。
リザリーは顔を紅くしながら素直にうなずいた。
リカルドは一瞬眉間に皺を寄せたが、すぐに笑顔にもどしリザリーの頭を撫でながら呟いた。
それは魔力を封じ込める言葉。
リザリーは俯いていたためリカルドの表情を見ていなかった。
リカルドはリザリーに触れたときにもう一つ魔法があることに気づいた、それは綻びによって・・・、そして軍に狙われる理由のカケラであることも。
大なり小なり皆魔法を使えるが、地域や素質、家系によって魔力の量は限られていた。
リザリーの居た国は、魔力の低いものが生まれる国でもあった、そのため科学が発展したのだ。
一定量以上魔力があればれば魔法専門の学校へ強制的に入れられる、この国には生活に使えるほどしか持っていない人ばかり。
リザリーに掛けられていたもう一つの魔法は、魔力の封印。
ほころびから漏れた魔力は先ほどまで微力にしかなかったリザリーの魔力とは違い魔法学校に入ることが可能なほどの魔力だった。
- この子の魔力は実は相当なものじゃないのか・・・この国にとって魔力を持っている人間は貴重だからな、だから軍が狙っているのか。
黒き竜と言われた男も、娘を軍に差し出すほど鬼畜ではなかったということか。
だが、それにしても騒ぎすぎだ・・・
リカルドはリザリーを連れて食堂に向かった。
優雅で豪華な食堂は、高級ホテルのようだった。
リザリーはなるべく冷静を装いつつ、周りのきらびやかさに感動していた。
- 凄い凄い!セレブだわ!!料理も手の込んだものばかり!!
自分の状況を忘れてしまいそうなほど、おいしい食事に思わず笑みがこぼれた。
「おいしそうに食べるね」
「だっておいしいもの」
先ほどまで張り詰めていた顔をなくし、ニコニコしながら食べるリザリーにリカルドも自然に笑顔がこぼれた。
きっと自身に秘められた価値を知らない少女。
人を疑うことや策略などは植えつけられている様子だが、根は純粋で無垢。
所詮彼女に与えられたのは知識でしかない。
彼女をこの国の軍に手渡してはならない、この国の魔法軍が裏で非道なことをしているのをリカルドは知っていた。
もともとこの国は魔力を持つものが少ない、それは
天上に見放され・・・魔力を失ったスノップ国
周辺諸国で知らないものは居ないほど有名な話しだが、スノップ国で知っているものはほとんど居ない、国が隠しているからだ。
そのために裏で軍が躍起になって魔力の高い者たちを集めている。
魔力が高いものは小さいときから軍の思想を叩き込まれて育つ、軍の思想に拒絶すれば心は壊され魔力のみ吸い取られる道具に成り下がる。
彼女が捕らわれれば、確実に心は壊され魔力は軍の好きなように使われる。
女性で魔力が高ければ、魔力の高い子が生まれる可能性が高くなり女の意思に関係なく関係が結ばれる。
彼女を見ているとほんの少し突いてしまえば心が崩れてしまいそうに見えた、それでも必死に考え逃げようとしている。
ー 守らなくては
そんな思いが沸いてきた。
それは、ほんの少しうまれた感情まだ本人も気づかないほど小さな。




