13)これくらい・・・!
スアンはリザリーが名乗った偽名です。
呼ばれてるときはスアン、文章のときはリザリーにしてます。
電車はどんどん国境にある飛竜船空港に近づいていた。
空港の駅につく前の最後の大きな駅につくと、ホームに紺色の制服に帽子を被った警備兵の人達が並んでいた。
リカルドは窓越しに電車にのってくる警備兵の人たちを見ながら呟いた。
「検問か」
びくりとリザリーは肩を揺らした。
向かい合わせに座っていたリザリーはリカルドの横、扉から離れた窓側に座り、リカルドにぴったりと張り付いた。
「賢明な判断だな」
リカルドはそう呟いて頭をなでた。
扉を開く音が遠くから聞こえてきた、それと一緒にガチャガチャとした煩い足音、質問する声。
その音が近づいてくるたびにリザリーは体を固くしていった。
「大丈夫だよ、スアン」
リカルドはリザリーの頭を撫でながら言った。
「ぇえ、リカルド・・お兄様」
次第に近づいてくる音に恐怖しながら、気を紛らわせるためにリザリーは別のことを考えることにした。
彼の腕の中はこれで二回目だわ、やっぱり男の人と女の人は全然違うのね。
ぺったりとくっついた胸板に添えていた手を少し動かした。
なんていうのかしら、固い。胸が無いからそうなんだけど・・・腕の感じも違うわよね。
くすぐったいのかリカルドから笑い声が聞こえた、そして胸においていた手をつかまれた。
「くすぐったいよ、スアン」
優しい笑みを浮かべるリカルドを不思議そうにリザリーは見上げた。
握られている手の感触も違う。運動系の女の子の手もごつごつしていたけど、やっぱり男の人と違うのだ。女子校育ちで周りに異性といえるものがいなかったリザリーには不思議でたまらなかった。
掴まれていた手を掴みかえしてニギニギした。
リカルドは肩眉を上げながら、リザリーの行動を見ていた。
- まるで初めて不思議なものを触るような感じだな・・・
その考えにリカルドはふと疑問にしたことを口にした。
「男の人の体を触るの初めて?」
「・・・そういえば、そうね」
リザリーはキョトンとした顔で答えた。
その答えにリカルドはため息をついた。
ちょうどそのとき、二人がいる個室の扉が開けられた。
「失礼します。」
扉を開けた男が声をかけた、後ろにはもう一人警備兵が待機していた。
「何の騒ぎだい?」
リカルドは冷たく、不機嫌そうに警備兵と目を合わせずに聞いた。
「不審者を探しております。」
リザリーは興味なさそうにリカルドに寄り添ったまま目をつぶった。
「・・・お手間を取らせてしまい申し訳ありません、2,3質問させていただきます。」
「答えないと、この列車は発車しなさそうだね」
「申し訳ありません。」
と話していた男が口元だけ笑みを作っていった。
「では、どちらに向かわれるのですが?」
「飛竜船空港に向かってる途中ですよ」
「ご旅行ですか?」
「いえ、これから国に帰るんです。」
「旅行証を確認してもよろしいですか?」
「どうぞ」
そういってリカルドは懐からリザリーと自分の物を警備兵に差し出した。
警備兵は旅行証を確認しながら眉をひそめた。
「リネウス国ですか、こちらには観光で?」
「えぇ」
「そちらのお嬢さんは入国された日が違うようですが・・・奥様で?」
「姪っ子です」
その答えにリザリーは頬を膨らまし。
「未来の奥さんです!」
と主張しリカルドにしがみついた。
「はいはい」
その様子にリカルドはため息をつきながら、リザリーの頭を撫でた。
警備兵はあっけに取られながら旅行証を返した。
「どういった経緯かおききしても?」
「それは、不審者を探すのに必要な情報なのかい?」
明らかに不機嫌そうにリカルドは答えた。
「申し訳ありません、規律でして」
「ふん、俺の旅行にこの子が後から追いかけてきたんだよ」
「だって一人でいっちゃうんだもん!!私も連れてっていったのに!!ひどい!!」
「そういうわけだ」
もう満足だろという感じに、リカルドは警備兵に手を振った。
警備兵もそれ以上質問せず、失礼しましたと言って部屋の扉をしめ次の個室へと移動した。
「・・・」
「・・・」
リザリーとリカルドはお互い無言のまま辺りの音を伺った。
遠ざかっていく足音と声、パタパタと走り回る音が聞こえると発射を知らせるベルが鳴り響いた。
リカルドは窓の外、ホームにいる警備兵をみた。最初にいた、乗り込んできていた人数よりも減っていた。
「警備兵って嫌い、威圧的よね」
リザリーが口を開いた。
「それが仕事だからね」
リザリーは未だにリカルドにしがみ付いたままだったことに気づき、しがみ付いていた手を緩めようとした。
「スアン。もう怖くないだろ?離れたらどうだい?」
そう言いながらも、リカルドはリザリーを強く抱き寄せた。
顔はリザリーに向かって口角があがっているが、目線は辺りを伺っていた。その様子にリザリーは
「・・・嫌よ。まだ怖いわ。リカルドお兄様は怖がっているか弱い少女をほっておくというの?」
「はぁ~困った子だな」
そういってリザリーの頭を撫で、おでこにキスをした。
リザリーは自分の頬に熱が集まるのを感じた。
- ぎゃーぎゃーおでこにキスって何?!はずいぃにゃぁあああ!顔絶対赤い!!!!ぁああああ!!
ぁ?!化粧してるから大丈夫よ!
厚塗りしたし!!!大丈夫赤くない!!
「やさしいリカルドお兄様だーいすき」
笑顔で言って、リカルドの胸に寄りかかった。リザリーは内心よくやった自分とガッツボーズをきめていた。
リカルドはその様子にクスクス笑いながら頭を撫でた。
リザリーは隠れていると思っていたが、耳が真っ赤になっていたのだ。
それでも声は震えずに言えていることに関心した。内心恥ずかしくて仕方が無いはずだ
- 女は女優とよくきけどまさしくそうだな。
それにしても聡い子で助かる。
「まだまだ先は長いからね、これくらいは慣れないとだめだよ」
”これくらい”は何を指しているのか、検問かスキンシップか、リザリーはしばし考えて両方だろうと結論付けた。
ため息が出そうになるのをぐっと堪えた。
「は~い」
外の景色はどんどん、平野に近い状態になっていった。
建物の数がへっていき、変わりに緑と森が囲んでいく。
リザリーは早くこの景色が終わり、建物に着かないかと焦る心を押さえつけながら横目で流れていく景色を眺めた。
列車がカーブを曲がると遠くのほうに積み木を重ねたような建物が見えてきた。
回りは何もないため巨大な建物は遠くからでも確認できるほど それが飛竜船空港だった。
ー まだ着かない。遠い。早く早く
その心がわかるのか、リカルドは優しくリザリーの頭を撫で
「もうすぐだよ」
そう呟いた