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The Man Who Would Not Die: 死んでたまるか  作者: Operator3118
第4章 鋼鉄
99/129

幕間 対極

局長は、頭を抱えていた。


---


 柏木の件で、空気が悪くなっていた。


---


 サラとマリーは、柏木と目を合わせなくなった。


 ナリンは、柏木を避けるようになった。


 ブラボーチームとチャーリーチームの間に、微妙な溝ができていた。


---


 「このままじゃ、まずいな」


---


---


 局長室。


 ハーパーとルノーが呼ばれていた。


---


 「アルファチームを、ウドンターニーに派遣する」


 「ウドンターニー?」


 「ああ。東北部の拠点だ」


---


 ハーパーは地図を広げた。


 「ラオス国境に近いですね」


 「そうだ。あの辺りは、まだ手つかずの組織が多い」


 「なるほど」


---


 ルノーが聞いた。


 「派遣期間は」


 「当面、三ヶ月」


 「三ヶ月......長いですね」


 「長くていい。距離を置く必要がある」


---


 局長は窓の外を見た。


---


 「柏木と瀧本は、同じ場所にいない方がいい」


 「......ナリンのことですか」


 「それもある。だが、それだけじゃない」


 「?」


 「あの二人は、対極だ」


---


---


 局長は続けた。


---


 「柏木は、『資格がない』と言って逃げた」


 「......」


 「だが、瀧本は違う」


 「違う?」


 「瀧本なら、『資格がないなら作る』と言うだろう」


---


 ハーパーは頷いた。


 「確かに、瀧本ならそう言いますね」


---


 「全てが対極だ」


 局長は言った。


 「柏木は、考えすぎて動けない。瀧本は、考える前に動く」


 「......」


 「柏木は、傷つくのを恐れる。瀧本は、傷だらけでも前に進む」


 「......」


 「柏木は、一発も食らわない。瀧本は、毎回ボロボロになる」


 「......」


 「柏木は、エレガント。瀧本は、泥臭い」


---


 ルノーが言った。


 「どちらが正しい、という話ではないですね」


 「そうだ。どちらも正しい。どちらも間違っている」


 「......」


 「だが、同じ場所にいると、比較される。それが、分裂の原因になる」


---


 局長は椅子に座った。


---


 「アルファチームをウドンターニーに送る。距離を置いて、それぞれのやり方で戦わせる」


 「了解」


 「柏木には、ここで頭を冷やしてもらう」


 「了解」


---


---


---


 翌日。


 アルファチームに、派遣命令が出た。


---


 「ウドンターニー?」


 瀧本が聞き返した。


 「三ヶ月?」


---


 「そうだ」


 ジョンソンが答えた。


 「東北部の拠点だ。ラオス国境に近い」


---


 マルティネスが言った。


 「まあ、いいんじゃないか。バンコクは飽きた」


 「飽きたのか」


 「飽きた。新しい場所で暴れたい」


---


 ヨナタンが言った。


 「ウドンターニーには、まだ手つかずの組織が多い」


 「つまり、仕事がたくさんあるってことか」


 「そういうことだ」


---


 瀧本はメンソールに火をつけた。


 「まあ、いいか。どこでも同じだ」


 「同じか?」


 「同じだ。バイクがあれば、どこでも戦える」


---


---


 アブドゥルが聞いた。


 「全員で行くのか」


 「全員だ」


 「スヨンも?」


 「スヨンも」


---


 瀧本の手が、一瞬止まった。


---


 「スヨンも、か」


 「通信担当だからな。当然だ」


 「......そうか」


---


 マルティネスがニヤリと笑った。


 「良かったな、瀧本」


 「何がだ」


 「スヨンと三ヶ月、一緒だぞ」


 「だから何だ」


 「何でもない」


 「何でもないなら言うな」


---


---


---


 出発の日。


 拠点の正門。


---


 アルファチームが、車両に乗り込もうとしていた。


---


 「瀧本」


---


 声が聞こえた。


 振り向いた。


---


 柏木が立っていた。


---


 「柏木さん」


 「見送りに来た」


 「......」


---


 柏木は、瀧本の前に立った。


---


 「三ヶ月、頑張れ」


 「......ああ」


 「怪我するなよ」


 「無理だ。俺は毎回怪我する」


 「......そうだな」


---


 沈黙。


---


 「柏木さん」


 「何だ」


 「ナリンのこと、気にしなくていいですよ」


 「......」


 「俺は、恨んでない。本当に」


 「......」


 「柏木さんは、悪くない」


---


 柏木は何も言えなかった。


---


 「でも、一つだけ」


 「何だ」


 「俺と柏木さんは、違う」


---


 瀧本はメンソールの煙を吐いた。


---


 「柏木さんは、『資格がない』と言った」


 「......」


 「俺なら、そうは言わない」


 「......」


 「資格がないなら、作る。それだけだ」


---


 柏木は目を見開いた。


---


 「作る......?」


 「そうだ。ないものは、作ればいい」


 「......」


 「女を幸せにする自信がない? なら、自信がつくまでやればいい」


 「......」


 「できないと思うなら、できるようになればいい」


 「......」


 「逃げるのは、一番簡単だ。でも、一番つまらない」


---


---


 瀧本は、柏木の肩を叩いた。


---


 「柏木さん、強いんでしょう?」


 「......」


 「戦闘じゃ、誰にも負けないんでしょう?」


 「......」


 「なら、これも戦えばいい。逃げないで」


---


---


 瀧本は車両に向かって歩き出した。


---


 「じゃあ、行ってきます」


---


---


 柏木は、瀧本の背中を見ていた。


---


 「資格がないなら、作る......」


---


 その言葉が、頭から離れなかった。


---


---


---


 ウドンターニー。


 アルファチームの新しい拠点。


---


 古い警察署を改装した建物だった。


 バンコクほど設備は整っていないが、必要なものは揃っている。


---


 「悪くないな」


 ジョンソンが言った。


 「悪くない」


 マルティネスが同意した。


 「テキーラさえあれば、どこでも同じだ」


---


---


 瀧本は、自分の部屋に荷物を運んでいた。


---


 隣の部屋から、声が聞こえた。


---


 「......これでいいかしら」


---


 スヨンの声だった。


---


 瀧本は気にせず、荷物を片付けた。


---


---


 夕方。


 食堂。


---


 アルファチームが集まっていた。


 初日の夕食。


---


 「乾杯!」


 「乾杯!」


---


 マルティネスがテキーラを注いだ。


 ジョンソンがビールを開けた。


 ヨナタンは無表情でウォッカを飲んでいた。


---


 「瀧本、スヨンは?」


 アブドゥルが聞いた。


 「知らん。部屋にいるんじゃないか」


 「呼んでこいよ」


 「なんで俺が」


 「お前が一番仲いいだろ」


 「仲良くない。喧嘩ばかりだ」


 「喧嘩するほど仲がいい、って言うだろ」


 「言わない」


 「言う」


---


---


 その時。


 食堂のドアが開いた。


---


 スヨンが入ってきた。


---


---


 全員が、固まった。


---


---


 スヨンは、変わっていた。


---


 髪型が違った。


 今までのポニーテールではなく、ゆるいウェーブがかかったロングヘア。


---


 化粧が違った。


 今までのナチュラルメイクではなく、しっかりとしたアイドルメイク。


---


 服装が違った。


 今までの軍服やジャージではなく、可愛らしいワンピース。


---


---


 「......」


 「......」


 「......」


---


---


 マルティネスが、テキーラを吹き出した。


---


 「ぶふっ......!」


---


 ヨナタンが、無表情のまま肩を震わせていた。


---


 「......」


---


 そして、二人とも爆笑した。


---


 「ぎゃははははは!」


 「ふ......ふふふ......はははは!」


---


---


 スヨンの顔が、真っ赤になった。


---


 「な、何よ!」


 「いや、何でもない......ぶふっ」


 「笑ってるじゃない!」


 「笑ってない......ふふふ」


 「笑ってる!」


---


---


 ジョンソンが咳払いした。


---


 「いや、スヨン......綺麗だぞ」


 「本当ですか?」


 「本当だ。ただ、ちょっと......驚いただけだ」


---


 アブドゥルが言った。


 「似合ってる。うん、似合ってる」


 「ありがとうございます......」


---


 ピーターが言った。


 「何かあったのか? 急に」


 「別に......何も......」


---


 スヨンの目が、ちらりと瀧本を見た。


---


---


 瀧本は、メンソールをくわえたまま固まっていた。


---


 「......」


---


 マルティネスが瀧本を肘で突いた。


 「おい、何か言えよ」


 「......」


 「瀧本?」


---


---


 瀧本は、ゆっくりと口を開いた。


---


 「お前、誰だ」


---


---


 スヨンの顔が、さらに赤くなった。


---


 「誰って......私よ! スヨンよ!」


 「嘘だ。スヨンはそんな格好しない」


 「してるでしょ! 今!」


 「今日から別人か」


 「別人じゃない!」


---


---


 瀧本はスヨンをじろじろ見た。


---


 「髪、巻いてるな」


 「巻いてるわよ」


 「化粧、濃いな」


 「濃くない! 普通よ!」


 「ワンピースなんか着て、どうした。デートか」


 「デートじゃない!」


 「じゃあ何だ」


 「......」


---


 スヨンは言葉に詰まった。


---


 「......気分転換よ」


 「気分転換で、こんなに変わるのか」


 「変わるわよ」


 「変わりすぎだ」


 「うるさい!」


---


---


 瀧本はメンソールに火をつけた。


---


 「まあ、悪くないんじゃないか」


 「え?」


 「悪くないって言った」


 「......」


 「似合ってるよ。アイドルみたいだ」


---


 スヨンの顔が、一瞬で明るくなった。


---


 「本当?」


 「本当だ」


 「似合ってる?」


 「似合ってる」


 「......」


---


 スヨンは、嬉しそうに笑った。


---


---


 瀧本は続けた。


---


 「でも、俺は前の方が好きだけどな」


---


 スヨンの笑顔が、固まった。


---


 「......は?」


 「前の方が好きって言った」


 「前って......ポニーテールの?」


 「ああ。あっちの方が、お前らしい」


 「お前らしいって何よ」


 「お前らしいって意味だ」


 「意味が分からない」


---


---


 瀧本は煙を吐いた。


---


 「気合い入れて変えてきたのに、悪いな」


 「......」


 「でも、俺は正直に言う。嘘はつかない」


 「......」


 「お前は、そのままでいい。無理に変わる必要はない」


---


---


 スヨンは黙った。


---


 嬉しいような、悔しいような、複雑な顔だった。


---


 「......馬鹿」


 「馬鹿? 俺が?」


 「そうよ。馬鹿」


 「なんで」


 「分からないなら、馬鹿よ」


 「分からない」


 「だから馬鹿なのよ」


---


---


 マルティネスとヨナタンは、まだ笑いを堪えていた。


---


 「ふふふ......」


 「くくく......」


---


 ジョンソンが溜息をついた。


---


 「お前ら、いい加減にしろ」


 「すみません......ふふふ」


 「笑いが止まらない......」


---


---


 瀧本はスヨンの隣に座った。


---


 「まあ、座れよ。飯、食おう」


 「......」


 「せっかく綺麗にしてきたんだから、楽しめ」


 「楽しめって......」


 「俺が褒めてやるから」


 「褒めるって......」


 「アイドルみたいで可愛いぞ」


---


 スヨンの顔が、また赤くなった。


---


 「からかわないでよ」


 「からかってない。本心だ」


 「嘘」


 「嘘じゃない」


 「......」


---


---


 瀧本はビールを注いだ。


---


 「乾杯」


 「......乾杯」


---


---


 ヨナタンがマルティネスに囁いた。


---


 「あいつ、分かってやってるのか」


 「分かってないだろ」


 「天然か」


 「天然だ」


 「スヨンも大変だな」


 「大変だ」


---


---


 アルファチームの、ウドンターニーでの生活が始まった。

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