表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
The Man Who Would Not Die: 死んでたまるか  作者: Operator3118
第4章 鋼鉄
97/129

幕間 責任

翌朝。


 食堂。


---


 瀧本は、いつも通りに朝食を食べていた。


 昨夜のことは、なかったことになっていた。


 少なくとも、表面上は。


---


 スヨンが隣に座った。


---


 「おはよう」


 「......おはよう」


 「昨日、ちゃんと寝た?」


 「寝た」


 「嘘」


 「嘘じゃない」


 「目の下にクマがある」


 「元からだ」


 「元からじゃない。私、毎日見てるから分かる」


---


 瀧本は箸を止めた。


---


 「......お前、毎日俺を見てるのか」


 「見てない」


 「今、見てるって言った」


 「言ってない」


 「言った」


 「言ってない!」


---


 スヨンの顔が赤くなった。


---


 マルティネスが横から口を挟んだ。


 「スヨン、お前、瀧本のこと好きなのか」


---


 スヨンが固まった。


 瀧本も固まった。


---


 「好きじゃない!」


 「好きじゃないなら、なんで毎日見てるんだ」


 「見てない!」


 「見てるって言った」


 「言ってない!」


---


 ヨナタンが無表情で言った。


 「スヨン、お前は嘘が下手だ」


 「嘘じゃない!」


 「嘘だ」


 「違う!」


---


 スヨンは瀧本を睨んだ。


 「あなたも何か言いなさいよ!」


---


 瀧本は溜息をついた。


---


 「あのなあ」


 「何よ」


 「俺は失恋したばかりなんだぞ」


 「......」


 「ナリンと別れて、まだ一ヶ月も経ってない」


 「......」


 「そんな簡単に次へ移れると思うか?」


---


 沈黙。


---


 マルティネスが言った。


 「移れるだろ」


---


 ヨナタンが言った。


 「移れる」


---


 ジョンソンが言った。


 「お前なら移れる」


---


 アブドゥルが言った。


 「余裕だろう」


---


 ピーターが言った。


 「問題ない」


---


 陳志明が言った。


 「大丈夫だ」


---


 全員が、瀧本を見ていた。


---


 「お前だし」


---


 全員が、同時に言った。


---


---


 瀧本は絶句した。


---


 「......お前ら」


 「何だ」


 「マジで悪魔だな......」


---


 全員が笑った。


 スヨンだけが、顔を真っ赤にして俯いていた。


---


---


---


 同じ頃。


 局長室。


---


 柏木が呼び出されていた。


---


 「座れ」


 局長の声は、低かった。


---


 柏木は座った。


---


 局長は、柏木を見た。


 その目は、怒りで燃えていた。


---


 「柏木」


 「はい」


 「お前に、言いたいことがある」


 「何でしょうか」


---


 局長は立ち上がった。


 窓に向かって歩いた。


---


 「瀧本のことだ」


 「瀧本が、何か」


 「瀧本は、昨夜、逃げようとした」


 「......」


 「日本の騒ぎのせいで、仲間に迷惑をかけると思ったからだ」


 「......」


 「アルファチームが止めた。だから、今もここにいる」


---


 局長は振り向いた。


---


 「瀧本がなぜタイに来たか、知っているな」


 「......ナリンを守るため、と聞いています」


 「そうだ。瀧本は、ナリンを守るために全てを捨てた」


 「......」


 「日本での地位。警察官としてのキャリア。法的な安全。全てだ」


 「......」


 「連続殺人犯を殺して、裁判も受けずに逃げた。指名手配されているかもしれない」


 「......」


 「それでも、瀧本はナリンを守った。ナリンと一緒にいるために、全てを捨てた」


---


 局長の声が、低くなった。


---


 「だが、二人は別れた」


 「......」


 「なぜだか、分かるか」


---


 柏木は黙っていた。


---


 「お前のせいだ」


---


 柏木の体が、固まった。


---


 「俺の......?」


 「そうだ。お前のせいだ」


---


 局長は柏木の前に立った。


---


 「ナリンは、お前のことが好きだ」


 「......」


 「最初から、そうだった。瀧本は、お前の代わりだった」


 「......」


 「瀧本も、それを知っていた。それでも、ナリンを守った」


 「......」


 「だが、タイに来て、お前に会って、ナリンの気持ちは変わらなかった」


 「......」


 「結果、瀧本は捨てられた」


---


 局長の声が、怒りで震えていた。


---


 「お前は、何をしていた」


 「......」


 「俺は、何度も言ったはずだ。身を固めろと」


 「......」


 「サラがいる。マリーがいる。そして、ナリンもいる」


 「......」


 「三人の女が、お前を待っている。なのに、お前は何もしない」


 「......」


 「曖昧な態度で、全員を宙ぶらりんにしている」


---


 局長は机を叩いた。


---


 「瀧本は、全てを捨ててナリンを守った!」


 「......」


 「なのに、お前は何だ!」


 「......」


 「女一人、選ぶ覚悟もないのか!」


---


---


 柏木は、何も言えなかった。


---


 局長は正しかった。


 全て、その通りだった。


---


---


 「俺は、お前を買っている」


 局長は言った。


 「戦闘の天才だ。チームを率いる才能もある」


 「......」


 「だが、この件に関しては、お前は最低だ」


 「......」


 「お前の曖昧な態度が、瀧本を傷つけた」


 「......」


 「お前の優柔不断が、ナリンを苦しめている」


 「......」


 「お前の無責任が、サラとマリーを宙ぶらりんにしている」


---


 局長は椅子に座った。


---


 「決断しろ」


 「......」


 「誰か一人を選べ。残りの二人には、はっきり断れ」


 「......」


 「それができないなら、三人全員に断れ。誰とも付き合わないと、はっきり言え」


 「......」


 「どちらにしても、曖昧なままにするな」


---


---


 柏木は、ようやく口を開いた。


---


 「......考えたことが、なかったんです」


 「何を」


 「恋愛を」


---


 局長は眉をひそめた。


---


 「考えたことがない?」


 「はい。俺は、戦うことしか考えてこなかった」


 「......」


 「正義のために戦う。仲間を守る。それだけを考えてきた」


 「......」


 「サラやマリーやナリンの気持ちは......正直、分からなかった」


---


 局長は溜息をついた。


---


 「お前、本当に鈍いな」


 「......自覚しています」


 「自覚してるなら、なおさら悪い」


 「......」


---


---


 局長は立ち上がった。


---


 「一つ、決めたことがある」


 「何でしょうか」


 「アルファチームは、俺が直接指揮する」


---


 柏木の目が見開かれた。


---


 「アルファチームを......?」


 「そうだ。お前の指揮下から外す」


 「なぜ」


 「瀧本がいるからだ」


---


 局長は続けた。


---


 「お前と瀧本は、同じチームにいない方がいい」


 「......」


 「ナリンのことがある。瀧本も、やりづらいだろう」


 「......」


 「それに、お前には考える時間が必要だ」


 「......」


 「アルファチームは、俺が預かる。別部隊として動かす」


---


---


 柏木は黙っていた。


 反論できなかった。


---


---


 「期限は、一ヶ月だ」


 「一ヶ月......?」


 「一ヶ月以内に、答えを出せ」


 「......」


 「サラか、マリーか、ナリンか。それとも、誰でもないか」


 「......」


 「答えが出なければ、俺は三人全員に事実を伝える。お前が何も考えていないことを」


 「......」


 「そうなれば、三人とも離れていくだろう。お前の自業自得だ」


---


---


 柏木は黙っていた。


 局長の怒りは、まだ収まっていなかった。


---


 「それだけじゃない」


 「......まだ、何か」


 「あるに決まってるだろう!」


---


 局長は再び机を叩いた。


---


 「お前、組織をどうするつもりだった!」


 「組織......?」


 「階級はどうなってる!」


 「......」


 「指揮系統は! 報告体制は! 昇進基準は!」


 「......」


 「何もないだろう!」


---


 柏木は言葉が出なかった。


---


 「四十四人もいるんだぞ!」


 「......」


 「三チームに分けました、はい終わり! そんなわけあるか!」


 「......」


 「誰が誰に報告する! 誰が誰に命令できる! 曖昧なままだ!」


 「......」


 「ハーパーとルノーに任せたんじゃなかったのか!」


 「任せました......」


 「任せた!? お前が承認しなければ何も決まらないだろうが!」


---


 局長は書類の束を柏木の前に投げた。


---


 「これを見ろ! ハーパーとルノーが出した組織改編案だ!」


 「......」


 「二ヶ月前に提出されている! お前、読んだか!?」


 「......読んでいません」


 「読んでない! 二ヶ月間、放置だ!」


---


 局長の顔が真っ赤になっていた。


---


 「女のことだけじゃない! 組織運営も放置!」


 「......」


 「お前は何をやっていた! 戦闘だけか!?」


 「......」


 「総隊長だろう! 組織を動かす責任があるだろう!」


 「......」


 「任せたらこれか!? ふざけるな!!」


---


---


 柏木は完全に黙り込んだ。


 何も言えなかった。


 全て、その通りだった。


---


---


 局長は深呼吸した。


 怒りを抑えようとしていた。


 抑えきれていなかった。


---


 「いい。もういい」


 「......」


 「お前には任せられん」


 「......」


 「アルファチームは俺が直接指揮する。別部隊だ」


 「......」


 「組織改編も、俺が監督する。ハーパーとルノーに直接指示を出す」


 「......」


 「お前は、自分のチームだけ見てろ。それすらできないなら、総隊長の肩書きも外す」


---


---


 柏木は立ち上がった。


---


 「......分かりました」


 「分かったなら、行け」


 「はい」


---


 柏木は部屋を出た。


---


---


---


 会議室。


 緊急招集。


---


 全員が集まっていた。


---


 局長が前に立った。


---


 「今日から、組織を改編する」


---


 全員が注目した。


---


 「アルファチームは、俺が直接指揮する。別部隊として動く」


---


 ざわめきが起きた。


---


 「柏木の指揮下から外れる。俺の直轄だ」


---


---


 その瞬間。


 ニコライが手を挙げた。


 全力で。


---


 「局長! ブラボーチームも局長の下に!」


---


 カルロスも手を挙げた。


 全力で。


---


 「俺も! 支援班も局長の直轄で!」


---


 局長はガン無視した。


---


 「階級制度を導入する」


---


 ニコライとカルロスは、手を挙げたまま固まっていた。


 誰も突っ込まなかった。


---


 「ハーパー、ルノー、ミュラー。お前たちに組織改編を任せる」


 「......了解」


 ハーパーは頭を抱えながら答えた。


 「また一から作り直しですか」


 「そうだ。今度は俺が直接承認する。二ヶ月も放置させん」


---


 ルノーが溜息をついた。


 「柏木は......」


 「柏木には、考える時間が必要だ。組織運営からは一時的に外す」


 「了解......」


---


 ミュラーがメモを取り始めた。


 参謀としての顔に戻っていた。


 だが、額には冷や汗が浮かんでいた。


---


---


 瀧本がマルティネスに囁いた。


 「柏木さん、何やらかしたんだ」


 「知らん。だが、相当やばいな」


 「局長、あんなに怒ってるの初めて見た」


 「ああ。M93Rをプレゼントしてくれた時とは別人だ」


---


 ヨナタンが言った。


 「ニコライとカルロス、まだ手を挙げてるぞ」


 「......下ろせよ」


---


 ニコライがゆっくり手を下ろした。


 カルロスも下ろした。


 二人とも、残念そうな顔をしていた。


---


---


 サラがマリーに囁いた。


 「何があったの」


 「分からない。でも、柏木のことみたい」


 「柏木が......」


 「組織運営を放置してたらしいわ」


 「......それだけ?」


 「それだけじゃないと思う。局長の怒り方が、尋常じゃない」


---


---


 局長は続けた。


---


 「一週間以内に、新しい組織図を提出しろ」


 「一週間......」


 「階級、指揮系統、報告体制、昇進基準。全て明文化しろ」


 「了解」


 「俺が承認したら、即日施行だ」


---


 ハーパーとルノーとミュラーは、顔を見合わせた。


 三人とも、同じことを思っていた。


---


 『また徹夜だ......』


---


---


 会議が終わった。


 全員が散っていった。


---


 柏木は、一人で窓際に立っていた。


 誰も、声をかけなかった。


---


---


 廊下。


 サラとマリーが並んで歩いていた。


---


 「柏木、何かあったのかしら」


 「分からないわ。でも、相当追い詰められてる」


 「私たち、何かできることある?」


 「......今は、そっとしておいた方がいいと思う」


 「そうね」


---


 二人は、柏木の背中を見た。


 いつもより、小さく見えた。


---


---


---


 夜。


 参謀室。


---


 ハーパー、ルノー、ミュラーが机に向かっていた。


 書類が山積みになっていた。


---


 「階級制度......どうする」


 「軍式でいいだろう。分かりやすい」


 「誰が何の階級になる」


 「柏木は......総隊長だから、大佐相当か」


 「ジョンソン、ニコライは中佐」


 「瀧本は......」


 「少佐か大尉だな」


 「あいつ、階級似合わないな」


 「似合わなくても、必要だ」


---


 ルノーがコーヒーを飲んだ。


 三杯目だった。


---


 「指揮系統は」


 「局長→チーム隊長→チームメンバー。シンプルに」


 「アルファは局長直轄だから、別ラインだな」


 「報告体制は」


 「日報、週報、月報。全て文書化」


 「柏木が読まなかったら意味ないぞ」


 「今度は局長に直接上げる。柏木は経由しない」


---


 ミュラーが眼鏡を外した。


 目を擦った。


---


 「柏木は、どうなるんだ」


 「総隊長の肩書きは残るだろう。名目上は」


 「実権は」


 「チャーリーチームだけだな。当面は」


 「......」


---


 三人は黙った。


---


 「柏木、大丈夫かな」


 「大丈夫じゃないだろう。局長に、あそこまで言われて」


 「自業自得だが......」


 「自業自得だな」


---


 ハーパーは書類に向き直った。


 「とにかく、一週間で仕上げるぞ」


 「ああ」


 「寝るのは後だ」


 「了解......」


---


---


 参謀たちの長い夜が、始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ