幕間 取材
ある日。
局長から全員に通達が出た。
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『明日、Netflixの取材陣が来る。全員、協力するように』
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食堂がざわついた。
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「Netflix? また映画か?」
マルティネスが聞いた。
「映画じゃない。ドラマシリーズだ」
ハーパーが答えた。
「前回の映画が好評だったらしい。続編じゃなく、ドラマ化の話が来た」
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サラの目が鋭くなった。
「前回は調査不足だった。架空のヒロインを勝手に追加して、私たちを無視した」
「今回は違う」
ハーパーは言った。
「局長を通して正式な密着取材だ。設定の改変も、こちらの承認が必要になる」
「本当に?」
「本当だ。契約書にも明記されている」
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マリーが腕を組んだ。
「前回、私とサラは製作会社に抗議メールを送った」
「知ってる。それが効いたらしい」
「効いた?」
「ああ。製作会社が謝罪してきた。『次回は必ず本人たちに取材する』と」
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サラとマリーは、顔を見合わせた。
「......まあ、それなら」
「協力してもいいわ」
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翌日。
拠点の正門。
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大型バスが三台、到着した。
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取材陣。カメラマン。音声スタッフ。照明スタッフ。
そして、俳優陣。
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「おお......」
瀧本は目を見開いた。
「マジかよ」
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最初に降りてきたのは、デンゼル・ワシントンだった。
前回の映画でジョンソンを演じた俳優。
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「ジョンソン!」
デンゼルが手を振った。
「久しぶりだな!」
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ジョンソンは少し照れくさそうに笑った。
「ああ。久しぶりだ」
「映画、見たか?」
「見た。俺より格好良かった」
「当然だ。俺はデンゼル・ワシントンだからな」
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次に降りてきたのは、キアヌ・リーブス。
柏木役。
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「柏木さん」
キアヌは深々と頭を下げた。
「お会いできて光栄です」
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柏木は無表情だった。
「......ああ」
「映画、いかがでしたか」
「......格好良すぎた」
「褒め言葉として受け取ります」
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ドルフ・ラングレンが降りてきた。
ニコライ役。
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ニコライとドルフが向かい合った。
190センチ超の巨体が二つ。
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「......」
「......」
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二人は無言で握手した。
それだけで十分だった。
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そして、新しい俳優たちが降りてきた。
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「瀧本勝幸さんは、どちらですか」
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声をかけてきたのは、ライアン・レイノルズだった。
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瀧本は固まった。
「......俺だけど」
「おお! あなたが瀧本さん!」
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ライアンは瀧本の手を握った。
満面の笑み。
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「俺、あなたの役をやることになったんです」
「......マジで?」
「マジです。脚本読みました。最高ですね。バイクで建物に突っ込むとか、正気じゃない」
「正気だよ。計算だ」
「そのセリフ! それ! 脚本にもありました!」
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ライアンは興奮していた。
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「『死ぬ気はない。生きる気満々だ』。このセリフ、最高です。俺、絶対に名言にしますから」
「......」
「あと、『壊れたんだ。壊したんじゃない』。これも最高」
「......」
「あなた、天才ですね」
「天才じゃない。普通だ」
「普通じゃないですよ。バイクでバンに突っ込む人間が普通なわけない」
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瀧本は、ライアンを見た。
「お前、俺より喋るな」
「喋りますよ。俺、デッドプールですから」
「知ってる」
「知ってるんですか! 嬉しい!」
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マルティネスが近づいてきた。
「瀧本、お前の役、ライアン・レイノルズなのか」
「らしい」
「ぴったりじゃないか」
「ぴったりか?」
「ぴったりだ。うるさいところとか」
「うるさくない」
「うるさい」
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取材陣が機材を設置していった。
俳優たちが、それぞれの「本人」と対面していった。
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サラ役は、シャーリーズ・セロンに決まった。
「前回と同じ俳優で良かったわ」
サラは少し安心した顔をした。
「架空のヒロインじゃなくて」
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マリー役は、レア・セドゥに決まった。
フランス人女優。
「フランス人がフランス人を演じる。当然のことね」
マリーは満足そうだった。
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ヨナタン役は、オスカー・アイザックに決まった。
「イスラエル系か」
ヨナタンは無表情で言った。
「悪くない」
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マルティネス役は、ペドロ・パスカルに決まった。
「テキーラ好きの役、できるか?」
マルティネスが聞いた。
「できる。俺もテキーラ好きだ」
「なら問題ない」
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会議室。
取材陣との打ち合わせ。
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プロデューサーが説明した。
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「今回は、ドラマシリーズとして制作します」
「何話だ」
「シーズン1は十話。好評なら、シーズン2以降も」
「十話か」
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「設定についてですが」
プロデューサーは続けた。
「俳優陣に合わせて一部改変させていただきたい」
「改変?」
「はい。例えば、年齢や経歴の微調整です」
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サラが口を開いた。
「前回のような、架空のヒロイン追加は」
「ありません」
プロデューサーは即答した。
「前回の件は、製作会社として深く反省しています。今回は、突撃隊の基礎を歪めないことを約束します」
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「基礎とは」
柏木が聞いた。
「皆さんの人物像、関係性、そして『正義のために戦う』という理念です」
「......」
「エンターテイメントとしての脚色はありますが、皆さんの本質は守ります」
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柏木は頷いた。
「分かった。協力する」
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密着取材が始まった。
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カメラが回る。
インタビューが行われる。
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「柏木さん、なぜタイに来たんですか」
「日本に居場所がなかったからだ」
「居場所が?」
「ああ。日本では、正しいことをしても報われない。タイでは、報われる」
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「ジョンソンさん、チームをまとめる秘訣は」
「秘訣はない。ただ、信頼するだけだ」
「信頼?」
「ああ。俺は仲間を信頼している。仲間も俺を信頼している。それだけだ」
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「瀧本さん、なぜバイクで突っ込むんですか」
「速いからだ」
「速い?」
「ああ。敵は、バイクが来ると思っていない。だから、対応が遅れる」
「でも、危険では」
「危険じゃない。俺が運転してるから」
「......」
「死ぬ気はない。生きる気満々だ」
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ライアン・レイノルズが横で見ていた。
メモを取っていた。
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「最高だ......」
「何がだ」
「このセリフ回し。俺、完璧に再現しますから」
「頼むぞ」
「任せてください」
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訓練場。
俳優たちが、実際の訓練を見学した。
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瀧本がバイクで建物に突入するのを見て、ライアンが叫んだ。
「マジかよ! 本当に突っ込んでる!」
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柏木がCQCのデモンストレーションをした。
キアヌが真剣な顔でメモを取った。
「......ジョン・ウィックより速い」
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ニコライがPKMを撃った。
ドルフが頷いた。
「いい腕だ」
「お前もだ」
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夜。
食堂。
俳優と隊員が一緒に食事をしていた。
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大宴会だった。
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「乾杯!」
「乾杯!」
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デンゼルとジョンソンが肩を組んでいた。
「お前、俺より格好いいぞ」
「いや、お前の方が格好いい」
「いや、お前だ」
「いや、お前だ」
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キアヌと柏木が静かに酒を飲んでいた。
「......」
「......」
無言。だが、通じ合っていた。
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ライアンと瀧本が大声で話していた。
「で、バイクで窓を突き破った時、どう思った?」
「『ガラスって意外と痛いな』と思った」
「最高だ! そのセリフ、使っていい?」
「使え」
「ありがとう!」
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スヨンが遠くから見ていた。
「......うるさい」
「二人とも、同じタイプだな」
パク・ジュンホが言った。
「似たもの同士だ」
「似てない」
「似てる」
「......」
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シャーリーズがサラに聞いた。
「あなたと柏木さんの関係は?」
「......仲間よ」
「それだけ?」
「......それだけ」
「嘘ね」
「嘘じゃない」
「女優の勘よ。あなた、彼のこと好きでしょ」
「......」
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レアがマリーに聞いた。
「あなたも、柏木さんのこと?」
「......何のこと?」
「分かるわよ。同じフランス人だもの」
「......」
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シャーリーズとレアが目を合わせた。
「三角関係ね」
「ドラマの王道だわ」
「脚本家が喜ぶわね」
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サラとマリーは、同時に溜息をついた。
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深夜。
取材陣が帰っていった。
俳優たちは、近くのホテルに宿泊。
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瀧本は屋上で煙草を吸っていた。
メンソール。
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「いい一日だったな」
ライアンが隣に来た。
「お前、まだいたのか」
「ホテルに戻る前に、挨拶しようと思って」
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ライアンは瀧本を見た。
「俺、あなたの役、全力でやりますから」
「頼む」
「バイクの練習もする。建物に突っ込む練習も」
「スタントマンがやるだろ」
「できるだけ自分でやりたい。あなたに恥じないように」
「......」
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瀧本は、メンソールの煙を吐いた。
「お前、いい奴だな」
「よく言われる」
「自分で言うな」
「事実だから」
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二人は笑った。
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「じゃあ、また」
「ああ。撮影、頑張れよ」
「頑張る。あなたも、生き残ってくださいね」
「生き残る。死ぬ気はないからな」
「そのセリフ、最高です」
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ライアンは手を振って、去っていった。
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瀧本は、夜空を見上げた。
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「ライアン・レイノルズか」
「悪くないな」
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メンソールの煙が、夜空に消えていった。




