第10話 蜂起
瀧本が入院して、三日目。
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バンコクが、燃え始めた。
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午前六時。
市内各所で、同時多発的に爆発が起きた。
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政府庁舎。
警察署。
軍施設。
王宮の外壁。
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「何が起きている!?」
局長が叫んだ。
「分かりません! 爆発が......複数箇所で......!」
カルロスが通信を捌いていた。
「場所は!?」
「少なくとも、十二箇所! まだ増えています!」
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ニュース速報が流れた。
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『バンコク市内で同時多発爆発 テロの可能性』
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そして、武装集団が現れた。
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政府庁舎前。
軍用トラックが三台、停車した。
中から、武装した男たちが降りてきた。
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AK-47。
RPG。
手榴弾。
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彼らは、建物に向かって発砲を始めた。
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王宮前。
同様に、武装集団が現れた。
警備の王宮警察と銃撃戦が始まった。
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警察署前。
武装集団が建物を包囲した。
中にいた警察官たちと、交戦状態に入った。
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聖域残党。
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一斉武装蜂起。
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突撃隊本部。
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局長は、状況を把握しようとしていた。
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「残党は何人だ!?」
「推定......二百人以上!」
「二百人!?」
「武器も大量に持っています! どこから調達したのか......!」
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ハーパーが報告した。
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「聖域事件で押収した武器の一部が、横流しされていた可能性があります」
「横流し......?」
「汚職ネットワークは、完全には潰れていなかった」
「くそ......!」
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局長は決断した。
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「全員出動! 全チーム、全員だ!」
「了解!」
「ブラボーチームは王宮を守れ!」
「了解!」
「支援班は政府庁舎!」
「了解!」
「アルファチームは......」
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局長は、少し黙った。
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「アルファチームは、俺と一緒に来い。最前線だ」
「了解!」
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ジョンソンが言った。
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「瀧本は」
「病院だ。今回は出られない」
「......了解」
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同じ頃。
病院。
瀧本の病室。
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瀧本は、テレビを見ていた。
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『バンコク市内で同時多発テロ 武装集団が複数箇所を攻撃』
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映像が流れていた。
爆発。
銃撃戦。
逃げ惑う市民。
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瀧本は、ベッドから起き上がった。
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「......行かなきゃ」
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スヨンが止めた。
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「待って! あなた、怪我してるでしょ!」
「怪我してても、行く」
「ダメよ!」
「ダメじゃない」
「左肩、撃たれたばかりでしょ!?」
「左肩は使わない。右手で撃つ」
「そういう問題じゃない!」
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瀧本は、服を着始めた。
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「仲間が戦ってる」
「......」
「俺だけ、ここで寝てるわけにはいかない」
「......」
「俺は、突撃隊だ」
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スヨンは、瀧本を見た。
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止められないことは、分かっていた。
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「......私も行く」
「お前は......」
「私も、突撃隊よ」
「......」
「一緒に行く。止めても無駄よ」
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瀧本は、少し笑った。
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「......分かった」
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病室のドアが開いた。
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ライアン・レイノルズが立っていた。
後ろには、ドキュメンタリー班。
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「Takimoto、まさかお前......」
「行く」
「行くって......お前、怪我して......」
「怪我してても、行く」
「Crazy......」
「Crazyでいい」
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ライアンは、少し考えた。
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そして、言った。
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「俺も行く」
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瀧本が振り向いた。
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「お前は民間人だ。危険だ」
「知ってる」
「死ぬかもしれないぞ」
「知ってる」
「それでも行くのか」
「行く」
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ライアンは、カメラマンを見た。
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「お前らも来るか」
「行きます」
「死ぬかもしれないぞ」
「俺たちは、戦場カメラマンです」
「戦場カメラマン?」
「今日から、そうなります」
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瀧本は溜息をついた。
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「止めても無駄か」
「無駄だ」
「......分かった。でも、俺の指示に従え」
「了解」
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病院の外。
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瀧本のバイクが停めてあった。
白いBMW R1250 GS Adventure。
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瀧本は、バイクに跨った。
左肩が痛んだ。
無視した。
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スヨンが後ろに乗った。
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ライアンは、レンタルのバイクに乗った。
ドキュメンタリー班は、車両に乗り込んだ。
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「行くぞ」
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サイレンを鳴らした。
バイクが走り出した。
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バンコク市内。
戦場と化していた。
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至る所で、銃声が響いていた。
煙が上がっていた。
サイレンが鳴り響いていた。
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「瀧本、どこに向かう」
ライアンが無線で聞いた。
「王宮だ。一番やばい」
「王宮......」
「陛下を守らなきゃならない」
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王宮前。
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激しい銃撃戦が繰り広げられていた。
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ブラボーチームが、王宮を守っていた。
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ニコライがAK-12を撃ちまくっていた。
サラがSCAR-Hで援護射撃をしていた。
アレクセイがRPGを構えていた。
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武装集団は、五十人以上。
王宮警察と合わせても、数で劣っていた。
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「押されてるぞ!」
ニコライが叫んだ。
「増援は!?」
「来るはずだ! 持ちこたえろ!」
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その時。
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サイレンの音が聞こえた。
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白いバイクが、猛スピードで突っ込んできた。
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「瀧本!?」
ニコライが叫んだ。
「あいつ、病院にいたんじゃ......!」
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瀧本は、武装集団の側面に回り込んだ。
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バイクを止めた。
M93Rを抜いた。
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スヨンも降りた。
グロック19を構えた。
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「援護する!」
瀧本が叫んだ。
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三点バースト。
三点バースト。
三点バースト。
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武装集団の背後から、弾丸が飛んできた。
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「後ろだ!」
「20発の男だ!」
「くそ、挟まれた!」
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武装集団が混乱した。
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ニコライが好機を逃さなかった。
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「押し返せ! 今だ!」
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ブラボーチームが反撃に転じた。
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同じ頃。
ドキュメンタリー班の車両。
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カメラマンが、窓から身を乗り出していた。
カメラを回していた。
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「すげえ......すげえよ、これ......」
「撮れてるか!?」
「撮れてる! 全部撮れてる!」
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ライアンは、バイクを停めていた。
戦闘の少し後方。
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そして、彼は何かを思いついた。
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「おい、カメラ、こっちに向けろ」
「え?」
「俺がレポートする」
「レポート!?」
「ああ。生中継だ」
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カメラマンは、ライアンにカメラを向けた。
Facebookライブが始まった。
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ライアンは、カメラに向かって話し始めた。
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「Hi, everyone. This is Ryan Reynolds.」
「俺は今、バンコクにいる。王宮の前だ」
「見てくれ。これが、今起きていることだ」
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ライアンは、背後の戦闘を指差した。
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「武装集団が、王宮を攻撃している」
「突撃隊が、それを守っている」
「そして、あそこにいるのが......」
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カメラが、瀧本を捉えた。
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「瀧本勝幸だ。21発の騎士」
「あいつは、病院から抜け出してきた」
「怪我してるのに、戦っている」
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視聴者数が、爆発的に増えていた。
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10万人。
50万人。
100万人。
200万人。
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コメントが、凄まじい速度で流れていた。
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『ライアン・レイノルズが戦場レポーターやってるwww』
『マジかよ......これ本物?』
『本物だ......銃声聞こえる......』
『瀧本、また戦ってる!』
『病院から抜け出したのかよ!』
『あいつ、本当に人間か?』
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王宮前の戦闘は、激しさを増していた。
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瀧本は、前線に移動していた。
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スヨンが後ろから援護している。
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「瀧本! 無茶するな!」
スヨンが叫んだ。
「無茶じゃない! 普通だ!」
「普通じゃない!」
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武装集団の一人が、RPGを構えた。
王宮の門に向けている。
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瀧本は、それを見た。
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「させるか......!」
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走った。
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痛む左肩を無視して。
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RPGが発射される前に、男に飛びかかった。
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組み付いた。
殴った。
RPGを奪った。
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男が反撃してきた。
ナイフを抜いた。
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瀧本の右腕を切り裂いた。
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「ぐっ......!」
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瀧本は、左手で男の首を掴んだ。
そのまま、地面に叩きつけた。
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男が気絶した。
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「確保......」
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瀧本の右腕から、血が流れていた。
左肩の傷も、開いていた。
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「瀧本!」
スヨンが駆け寄った。
「大丈夫だ......」
「大丈夫じゃない! 血が......!」
「まだ......戦える......」
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その時。
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ハンヴィーが到着した。
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アルファチームと局長だった。
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「遅くなった!」
局長が叫んだ。
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ジョンソンがGAU-19を構えた。
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「掃討する!」
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轟音。
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毎分千発の7.62mm弾が、武装集団を薙ぎ払った。
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「撤退だ! 撤退!」
武装集団が逃げ始めた。
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マルティネスがM240で追撃した。
ヨナタンがライフルで狙撃した。
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王宮前の戦闘は、収束に向かっていた。
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ライアンは、全てをレポートしていた。
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「信じられない光景だ」
「突撃隊が、武装集団を圧倒している」
「瀧本は......あいつは、血まみれだ」
「それでも、まだ立っている」
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視聴者数は、500万人を超えていた。
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世界中が、この戦いを見ていた。
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戦闘終了。
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王宮前の武装集団は、全員制圧された。
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死者、十二人。
逮捕者、三十八人。
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突撃隊の負傷者は、軽傷が数名。
死者、なし。
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瀧本は、壁にもたれかかっていた。
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右腕から血が流れていた。
左肩も血が滲んでいた。
顔は、汗と煤で汚れていた。
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「瀧本!」
局長が駆け寄った。
「お前、病院にいたはずだろう!」
「抜け出しました」
「また抜け出したのか!」
「また抜け出しました」
「......」
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局長は、瀧本を見た。
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血まみれ。
傷だらけ。
それでも、立っている。
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「......お前、本当にゴキブリだな」
「褒め言葉として受け取ります」
「褒め言葉だ」
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ライアンが近づいてきた。
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「瀧本、大丈夫か」
「大丈夫だ」
「大丈夫じゃないだろ。血が......」
「いつものことだ」
「いつものこと!?」
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カメラは、まだ回っていた。
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視聴者数は、600万人を超えていた。
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ライアンは、カメラに向かって言った。
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「見てくれ、みんな」
「これが、瀧本勝幸だ」
「21発の銃弾を受けて、まだ戦っている男」
「病院から抜け出して、仲間を助けに来た男」
「血まみれでも、立ち続ける男」
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ライアンは、瀧本の肩に手を置いた。
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「俺は、この男を演じる」
「この男の物語を、世界に届ける」
「これは......本物のヒーローの物語だ」
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瀧本は、カメラを見た。
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「......なんでやねん」
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ライアンが笑った。
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「What does that mean?」
「『なんでだよ』って意味だ」
「なんでって......お前がヒーローだからだよ」
「ヒーローじゃない。俺は、ただ......」
「ただ?」
「死ぬ気がないだけだ」
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ライアンは、また笑った。
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「That's exactly why you're a hero.」
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救急車が到着した。
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瀧本は、また担架に乗せられた。
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「また病院か......」
「また病院だ。諦めろ」
スヨンが言った。
「諦めたくない」
「諦めろ」
「......」
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瀧本は、空を見上げた。
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バンコクの空は、煙で曇っていた。
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「他の場所は......」
「制圧完了だ。全箇所、鎮圧された」
局長が言った。
「良かった......」
「お前のおかげで、王宮は守られた」
「俺だけじゃない......みんなで......」
「そうだな。みんなで、だ」
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救急車が走り出した。
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ライアンは、それを見送った。
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そして、カメラに向かって言った。
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「今日の放送は、ここまでだ」
「瀧本勝幸は、また病院に向かった」
「でも、俺は知ってる」
「あいつは、また戻ってくる」
「だって、あいつは......」
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ライアンは、笑った。
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「死ぬ気がないんだから」
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Facebookライブが終了した。
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最終視聴者数:800万人。
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聖域残党の一斉武装蜂起。
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バンコク市内、十二箇所で同時攻撃。
武装集団、推定二百人以上。
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結果。
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武装集団、死者四十七人、逮捕者百二十三人。
残りは逃亡。
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市民の死者、十七人。
負傷者、八十三人。
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突撃隊、死者なし。
負傷者、十二人。
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そして、瀧本勝幸。
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被弾数、変わらず21発。
ただし、新たな負傷。
右腕の切り傷。
左肩の傷の再発。
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彼は、また病院のベッドの上にいた。
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だが、世界は彼を見ていた。
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800万人が、彼の戦いを見ていた。
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瀧本勝幸。
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21発の騎士。
ゴキブリより強い男。
死ぬ気がない男。
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彼の伝説は、まだ続いていた。




