第9話 追跡
報道陣は、さらに沸いた。
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瀧本勝幸と、キム・スヨンが結婚する。
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その情報が流れた瞬間、世界は再び爆発した。
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特に、韓国。
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韓国のSNSは、とんでもないことになっていた。
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『우리 한국인이 타키모토와 결혼한다고!?』
(我らが韓国人がタキモトと結婚するって!?)
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『김수연 누구야? 대단하다!!』
(キム・スヨンって誰? すごい!!)
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『20발 맞고도 안 죽는 남자랑 결혼하는 여자... 존경한다』
(20発撃たれても死なない男と結婚する女...尊敬する)
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『한국의 며느리가 태국 기사의 아내가 된다!』
(韓国の娘がタイの騎士の妻になる!)
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韓国のテレビ局が、スヨンの特集を組んだ。
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『불사신의 기사를 잡은 여자 - 김수연의 이야기』
(不死身の騎士を射止めた女 - キム・スヨンの物語)
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「キム・スヨンさんは、元韓国陸軍通信士官です」
「セクハラ被害で退職後、タイの突撃隊に参加しました」
「そして、20発の銃弾を受けても死なない男と、恋に落ちました」
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韓国のネット掲示板は、祭り状態だった。
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『스연이 누나 축하해요!!!』
(スヨン姉さん、おめでとう!!!)
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『결혼식 언제야? 한국에서 할 수 있어?』
(結婚式いつ? 韓国でできる?)
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『타키모토 한국어 배워야지 ㅋㅋㅋ』
(タキモト、韓国語学ばなきゃねwww)
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『시어머니 한국인 아니야? 일본인이야?』
(姑は韓国人じゃない? 日本人?)
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『일본인이래... 근데 타키모토는 태국 사람이잖아』
(日本人らしい...でもタキモトはタイ人だよね)
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『복잡하다 ㅋㅋㅋ』
(複雑だねwww)
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日本のSNSも、また騒いでいた。
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『瀧本さん、韓国人と結婚するの?』
『国際結婚か...すごいな』
『日本人→タイ国籍→韓国人と結婚。国際的すぎる』
『もう何人なのか分からない』
『タイ人だよ。騎士だから』
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本人たちは、完全に置いてけぼりだった。
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瀧本は、二週間で退院した。
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また、退院許可は出ていなかった。
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「瀧本さん、無理です」
医師が言った。
「無理じゃない。俺は元気だ」
「元気じゃないです。2発撃たれたんですよ」
「2発くらい大丈夫だ」
「大丈夫じゃないです」
「前は18発だった。2発なんて、かすり傷だ」
「かすり傷じゃないです」
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医師は諦めた。
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「......せめて、週に三回は通院してください」
「分かった」
「前も同じこと言いましたよね」
「言った」
「ちゃんと来てくださいね」
「行く」
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バンコク。
突撃隊本部。
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瀧本が戻ってきた。
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「おう、帰ったぞ」
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そして、隣には。
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ライアン・レイノルズがいた。
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「Hi, everyone!」
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ライアンが手を振った。
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全員が固まった。
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「なんで、ライアン・レイノルズがいるんだ」
ニコライが聞いた。
「俺に会いに来たらしい」
瀧本が答えた。
「会いに来た?」
「ああ。プライベートジェットで」
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ライアンが言った。
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「俺は、瀧本を演じる。だから、瀧本を知りたい」
「知りたい?」
「ああ。一緒に行動したい」
「一緒に行動?」
「パトロールとか、任務とか」
「......」
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局長が入ってきた。
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「ライアン・レイノルズ氏の同行を許可する」
「局長!?」
「Netflixとの契約だ。ドキュメンタリーを撮影する」
「ドキュメンタリー?」
「瀧本の日常を撮影する。ドラマの参考にするらしい」
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瀧本は溜息をついた。
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「聞いてないんですけど」
「今、言った」
「今言われても」
「やれ」
「......はい」
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翌日。
バンコク市内。
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瀧本は、バイクでパトロールしていた。
白いBMW R1250 GS Adventure。
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そして、隣には。
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ライアン・レイノルズが、同じくバイクに乗っていた。
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レンタルのBMW。
ヘルメットには、小型カメラが取り付けられている。
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後ろには、撮影班の車両が二台。
カメラマン、音声、ディレクター。
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「瀧本、これが日常なのか」
ライアンが無線で聞いた。
「日常だ」
「バイクでパトロール」
「そうだ」
「かっこいいな」
「かっこよくない。仕事だ」
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二人は並んで走っていた。
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道行く人々が、振り返った。
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「あれ、瀧本さんじゃない?」
「隣の外国人、誰?」
「え、あれ、ライアン・レイノルズ!?」
「マジ!?」
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SNSに、写真が投稿され始めた。
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『瀧本とライアン・レイノルズが一緒にバイク乗ってる!!』
『なにこれwww』
『デッドプールがタイでパトロールしてるwww』
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その時。
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無線が入った。
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『強盗事件発生。スクンビット・ソイ23。武装した男二人。人質あり』
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瀧本の目が変わった。
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「了解。急行する」
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サイレンを鳴らした。
赤色灯が回転した。
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アクセルを開けた。
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白いバイクが、加速した。
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ライアンは、瀧本を見た。
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瀧本が、猛スピードで走っていく。
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「Wait, Takimoto!」
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ライアンも、アクセルを開けた。
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瀧本を追いかけ始めた。
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撮影班の車両は、二人を見送った。
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「......追うぞ」
ディレクターが言った。
「追うんですか!?」
「追う。これがドキュメンタリーだ」
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撮影班の車両も、走り出した。
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突撃隊本部。
通信室。
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カルロスが叫んだ。
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「局長! 大変です!」
「何だ」
「瀧本が現場に急行しています!」
「それは普通だろう」
「ライアン・レイノルズが追いかけています!」
「......何?」
「撮影班も追いかけています!」
「......何だと?」
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局長の顔が、引きつった。
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「民間人が......犯罪現場に......」
「はい」
「ハリウッドスターが......武装強盗の現場に......」
「はい」
「撮影班まで......」
「はい」
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局長は頭を抱えた。
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「止めろ! 今すぐ止めろ!」
「どうやって!?」
「アルファチームを出動させろ! 撮影班を止めるんだ!」
「撮影班を止める......?」
「ライアン・レイノルズも止めろ!」
「ライアン・レイノルズを......?」
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ジョンソンが立ち上がった。
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「俺たちが行く」
「頼む。とにかく止めてくれ」
「了解」
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アルファチームが出動した。
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目的:撮影班とライアン・レイノルズの制止。
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スクンビット・ソイ23。
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瀧本は、現場に到着していた。
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宝石店。
武装した男が二人、中にいる。
人質は、店員と客、合計五人。
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瀧本はバイクを止めた。
M93Rを抜いた。
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後ろから、バイクの音が聞こえた。
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ライアンが到着した。
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「Takimoto! What's the situation?」
「強盗だ。武装している。人質がいる」
「人質!?」
「お前は、ここで待ってろ」
「でも......」
「待ってろ。危険だ」
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さらに後ろから、車の音が聞こえた。
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撮影班の車両が到着した。
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カメラマンが飛び出してきた。
カメラを回し始めた。
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「撮影するな!」
瀧本が叫んだ。
「でも、これがドキュメンタリーで......」
「ドキュメンタリーじゃない! 実際の事件だ!」
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その時。
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宝石店の中から、銃声が聞こえた。
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瀧本は、考える前に動いていた。
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店に突入した。
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店の中。
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犯人が二人。
AKを持っている。
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人質が五人。
床に伏せている。
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一人が、犯人に撃たれていた。
足を押さえている。
血が出ている。
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「動くな!」
犯人が叫んだ。
「警察か!?」
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瀧本はM93Rを構えた。
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「突撃隊だ。武器を捨てろ」
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犯人たちは、瀧本を見た。
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白い服。
傷だらけの顔。
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「お前......まさか......」
「20発の男......!」
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犯人たちの顔が、青ざめた。
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だが、逃げ場がない。
追い詰められた獣は、牙を剥く。
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「死ね!」
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犯人がAKを乱射した。
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瀧本は横に飛んだ。
ガラスケースが砕け散った。
破片が顔を切った。
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M93Rで応射。
三点バースト。
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一人目の犯人の肩に命中。
銃を落とした。
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二人目が、人質に銃を向けた。
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「動くな! 撃つぞ!」
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瀧本は、動きを止めた。
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人質は、若い女性だった。
泣いていた。
震えていた。
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「銃を捨てろ! さもないと、こいつを殺す!」
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瀧本は、ゆっくりとM93Rを下ろした。
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「分かった。銃を捨てる」
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床に銃を置いた。
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犯人がニヤリと笑った。
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「馬鹿め......」
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その瞬間。
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瀧本が動いた。
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床を蹴って、犯人に突進した。
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犯人が引き金を引いた。
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弾丸が、瀧本の脇腹を掠めた。
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だが、止まらなかった。
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瀧本の拳が、犯人の顔面に叩き込まれた。
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鼻が折れる音がした。
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犯人が倒れた。
銃が飛んだ。
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瀧本は犯人を押さえつけた。
腕を極めた。
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「確保」
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だが、一人目の犯人が、落とした銃に手を伸ばしていた。
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瀧本は振り向いた。
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間に合わない。
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犯人が銃を拾った。
瀧本に向けた。
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銃声。
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瀧本の左肩に、衝撃が走った。
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「ぐっ......!」
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だが、瀧本は立ち上がった。
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落ちていたM93Rを拾った。
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撃った。
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犯人の手首に命中。
銃が再び飛んだ。
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「確保完了」
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瀧本は、二人の犯人を拘束した。
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左肩から、血が流れていた。
脇腹からも、血が滲んでいた。
顔には、ガラスの切り傷。
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人質たちは、呆然としていた。
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「大丈夫か」
瀧本が聞いた。
「は、はい......」
「救急車を呼ぶ。動くな」
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外では。
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撮影班が、全てをライブ配信していた。
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カメラマンが、店の窓越しに撮影していた。
ディレクターが、スマホでFacebookライブを配信していた。
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「これ、ライブで流してるのか!?」
ライアンが叫んだ。
「ドキュメンタリーですから!」
「いや、でも......!」
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視聴者数が、爆発的に増えていた。
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1万人。
5万人。
10万人。
50万人。
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コメントが、凄まじい速度で流れていた。
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『瀧本、また撃たれた!!!』
『やばいやばいやばい』
『死ぬな!死ぬな!』
『勝った!勝ったぞ!』
『血まみれじゃん......』
『これ生放送!?マジ!?』
『リアルタイムで英雄見てる』
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瀧本が店から出てきた。
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血まみれだった。
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左肩を押さえている。
脇腹からも血が滲んでいる。
顔は傷だらけ。
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ライアンが駆け寄った。
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「Takimoto! Are you okay!?」
「......大丈夫だ」
「大丈夫じゃないだろ! 血が......!」
「かすり傷だ」
「かすり傷じゃない!」
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救急車のサイレンが聞こえた。
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瀧本の膝が、崩れた。
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「......ちょっと、休む......」
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ライアンが瀧本を支えた。
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「おい、しっかりしろ!」
「大丈夫だ......死なない......」
「死ぬな!」
「死なない......俺は......死ぬ気がない......」
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救急車が到着した。
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救急隊員が駆け寄った。
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「また瀧本さんですか!?」
「また俺だ......」
「何回目ですか!」
「数えてない......」
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瀧本は担架に乗せられた。
救急車に運び込まれた。
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ライアンは、呆然と見送った。
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「......あいつ、本当に人間か?」
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撮影班は、救急車が去るまで撮影を続けていた。
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ライブ配信の視聴者数は、100万人を超えていた。
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その時。
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ハンヴィーが到着した。
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ジョンソンが降りてきた。
マルティネスが降りてきた。
ヨナタンが降りてきた。
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「遅かったな」
ライアンが言った。
「瀧本は」
「救急車で運ばれた」
「また撃たれたのか」
「また撃たれた」
「......何発だ」
「一発。あと、ガラスで顔を切って、脇腹も擦り傷」
「......あいつは、怪我しないと気が済まないのか」
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ジョンソンは、撮影班を見た。
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「お前ら、撮影は......」
「ライブ配信しました」
「ライブ......?」
「はい。Facebookで」
「視聴者は」
「100万人超えました」
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ジョンソンは、頭を抱えた。
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「局長が......倒れるぞ......」
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夜。
突撃隊本部。
局長室。
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局長の顔は、まだ引きつっていた。
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「ライアン・レイノルズが、犯罪現場に行った」
「はい」
「撮影班も行った」
「はい」
「全部撮影された」
「......はい」
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局長は、深く溜息をついた。
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「Netflixに連絡しろ。この映像は使うな、と」
「......了解」
「国際問題になる」
「......了解」
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瀧本が言った。
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「俺は悪くないですよね」
「お前は悪くない」
「良かった」
「でも、お前のせいで、こうなった」
「俺のせい?」
「お前が20発撃たれて生き残るから、こうなった」
「......」
「お前が有名になりすぎたんだ」
「......」
「お前が英雄すぎるんだ」
「......」
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瀧本は、メンソールに火をつけた。
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「俺、普通に仕事したいだけなんですけど」
「普通じゃなくなったんだ。諦めろ」
「諦めたくない」
「諦めろ」
「......」
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ライアンが入ってきた。
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「局長さん、すみませんでした」
「いや、あなたは悪くない」
「でも、現場に行ってしまいました」
「......まあ、怪我がなくて良かった」
「瀧本が、すごかったです」
「すごいだろう」
「犯人二人を相手に、一人で戦って、撃たれても止まらなくて......」
「いつものことだ」
「いつものこと!?」
「ああ。あいつは、いつもああだ」
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ライアンは、頭を抱えた。
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「俺、演じられるかな......あんな男を......」
「演じろ。それがお前の仕事だ」
「......はい」
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同じ頃。
ロサンゼルス。
Netflix本社。
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ドラマ班の会議室。
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プロデューサーが、モニターを見ていた。
Facebookライブの録画だった。
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瀧本が突入する。
銃撃戦。
殴り合い。
撃たれる。
それでも立ち上がる。
犯人を制圧。
血まみれで出てくる。
救急車で運ばれる。
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プロデューサーは、ドキュメンタリー班のディレクターを睨んだ。
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「お前ら、何やってんだ!」
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ディレクターが縮こまった。
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「いや、その、ドキュメンタリーなので......」
「ドキュメンタリー!? これがドキュメンタリーか!?」
「はい......」
「ドラマより、ドラマやってんじゃないか!」
「......」
「俺たちが、どれだけ苦労して脚本書いてると思ってんだ!」
「......」
「どれだけ金かけてアクションシーン撮ろうとしてると思ってんだ!」
「......」
「これ以上迫力のある映像、撮れるか!?」
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脚本家が頭を抱えていた。
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「また......また書き直しですか......」
「書き直しだ!」
「もう三回目ですよ......」
「四回目でも五回目でもやれ!」
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別の脚本家が言った。
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「現実が、脚本を追い越しすぎです......」
「追い越されてるから、問題なんだ!」
「どうすればいいんですか」
「知るか! とにかく書き直せ!」
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プロデューサーは、モニターを見た。
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血まみれの瀧本が、担架で運ばれていく映像。
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「......あの男、本当に人間か」
「人間じゃないと思います」
「だよな」
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脚本家が聞いた。
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「撮影は、どうしますか」
「延期だ」
「延期......」
「脚本が完成するまで、延期だ」
「また延期......」
「また延期だ。瀧本のせいだ」
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会議室は、重い空気に包まれた。
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ディレクターが小声で言った。
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「でも、視聴者数は100万人超えましたよ」
「だから問題なんだ! ドラマより先に、ドキュメンタリーがバズってどうする!」
「......すみません」
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バンコク。
病院。
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瀧本は、またベッドの上にいた。
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「何回目だ、これ」
「数えるな」
スヨンが言った。
「数えたい」
「数えるな。悲しくなる」
「......」
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瀧本は天井を見た。
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「俺、また撃たれたのか」
「撃たれたわよ」
「何発」
「一発」
「一発か。良かった」
「良くない」
「18発、2発、1発。減ってきてる」
「減ってきてるんじゃなくて、撃たれすぎなの」
「......そうか」
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スヨンは、瀧本の手を握った。
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「もう、撃たれないでよ」
「努力する」
「努力じゃなくて、約束して」
「約束......は、できない」
「なんで」
「俺は、考える前に動くから」
「......」
「でも、死なない。それだけは約束する」
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スヨンは溜息をついた。
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「......馬鹿」
「馬鹿だな」
「本当に馬鹿」
「本当に馬鹿だ」
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窓の外では、報道陣がまた集まっていた。
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瀧本勝幸。
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21発を受けた騎士。
存在自体が抑止力。
そして、世界一有名な警察官。
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彼の日常は、もう「普通」ではなかった。




