第7話 帰還
バンコク。
突撃隊本部。
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アルファチームが帰投した。
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「おう、帰ったぞ」
ジョンソンが言った。
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ブラボーチームが出迎えた。
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ニコライ、サラ、アレクセイ、川島、アンナ、デイヴィッド、ンゴマ、トーマス、ジェームズ、パク。
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「久しぶりだな」
ニコライが言った。
「久しぶりだ」
ジョンソンが答えた。
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だが、ニコライは気づいた。
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何かが、違う。
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アルファチームの面々を見た。
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ジョンソン。
いつも通り、落ち着いている。
だが、どこか柔らかくなっている。
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マルティネス。
いつも通り、陽気だ。
だが、どこか落ち着いている。
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ヨナタン。
いつも通り、無表情だ。
だが、どこか......穏やかだ。
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瀧本。
いつも通り、メンソールをくわえている。
だが、どこか......幸せそうだ。
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スヨン。
いつも通り、瀧本の横にいる。
だが、どこか......満足げだ。
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ニコライは眉をひそめた。
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「お前ら、何かあったのか」
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ジョンソンが首を傾げた。
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「何かって、何だ」
「分からん。だが、雰囲気が違う」
「雰囲気?」
「ああ。良くも悪くも、変わった」
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サラが近づいてきた。
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「確かに、変わったわね」
「変わったか?」
「変わったわ。特に瀧本」
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サラは瀧本を見た。
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「あなた、なんか......幸せそう」
「幸せそう?」
「ええ。前より、ずっと」
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瀧本は少し照れた。
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「......まあ、色々あったからな」
「色々?」
「色々だ」
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川島が言った。
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「SNSで見ました。ゴーゴーバーの騒ぎ」
「......見たのか」
「見ました。面白かったです」
「面白くない」
「面白かったですよ。瀧本さん、傷跡見せて叫んでましたよね」
「......」
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アレクセイが言った。
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「スヨン、お前も変わったな」
「変わりました?」
「ああ。前より、柔らかくなった」
「そうですか?」
「そうだ。瀧本といると、そうなるのか」
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スヨンの顔が、少し赤くなった。
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「......そうかもしれません」
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食堂。
ブラボーチームとアルファチームが、一緒に食事をしていた。
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ニコライが、マルティネスの横に座った。
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「おい、マルティネス」
「何だ」
「お前ら、ウドンターニーで何があった」
「何がって?」
「雰囲気が変わってる。全員」
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マルティネスは少し考えた。
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「......そうか?」
「そうだ。特にヨナタン」
「ヨナタン?」
「ああ。あいつ、穏やかになってる」
「穏やかか......」
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マルティネスは、ヨナタンを見た。
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ヨナタンは、川島と話していた。
無表情だったが、どこかリラックスしていた。
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「ああ、確かに」
「何があった」
「特別なことはない。ただ、一緒に過ごしただけだ」
「一緒に?」
「ああ。瀧本がいると、空気が軽くなるんだ」
「瀧本が?」
「ああ。あいつは、ムードメーカーだからな」
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ニコライは、瀧本を見た。
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瀧本は、スヨンと何か話していた。
スヨンが笑っていた。
瀧本も、少し笑っていた。
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「あいつ、変わったな」
「変わった?」
「ああ。前より、柔らかくなった」
「スヨンのおかげだろうな」
「スヨンの?」
「ああ。あの二人、付き合ってるんだ」
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ニコライは目を見開いた。
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「付き合ってる?」
「ああ」
「いつからだ」
「ウドンターニーでだ。瀧本が撃たれた後」
「......そうか」
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サラが、アンナと話していた。
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「ねえ、瀧本とスヨン、付き合ってるの?」
「そうらしいですね」
「いつの間に」
「ウドンターニーで」
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サラは、二人を見た。
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「お似合いね」
「そうですね」
「瀧本、幸せそう」
「ナリンさんのこと、吹っ切れたんでしょうね」
「そうね」
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ニコライは、ジョンソンの隣に移動した。
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「ジョンソン」
「何だ」
「お前も変わったな」
「俺が?」
「ああ。柔らかくなった」
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ジョンソンは少し笑った。
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「そうか」
「何があった」
「特別なことはない」
「本当か」
「本当だ。ただ、瀧本を見ていて、思ったことがある」
「何だ」
「あいつは、迷わない」
「......」
「18発撃たれても、子供を守った。迷わなかった」
「......」
「俺は、あそこまで迷わずに動けるか、分からない」
「......」
「でも、あいつを見ていると、俺も迷わずにいたいと思う」
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ニコライは頷いた。
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「分かる」
「分かるか」
「ああ。あいつは、影響力がある」
「影響力か」
「良い意味でな」
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食事の後。
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瀧本は、局長室に向かった。
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「局長、いいですか」
「ああ、入れ」
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瀧本は入った。
後ろから、スヨンもついてきた。
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「二人か。何の用だ」
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瀧本は、少し緊張していた。
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「報告があります」
「報告?」
「はい」
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瀧本は、深呼吸した。
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「俺、結婚します」
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局長が固まった。
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「......何?」
「結婚します。スヨンと」
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沈黙。
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局長は、瀧本とスヨンを交互に見た。
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「お前ら......」
「はい」
「結婚......?」
「はい」
「本当か?」
「本当です」
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局長は、ゆっくりと立ち上がった。
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そして。
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「よっしゃああああああ!!!!」
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局長が叫んだ。
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両手を突き上げた。
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ガッツポーズ。
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「やった! やったぞ!」
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瀧本とスヨンは、呆然とした。
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「局長......?」
「お前ら、結婚するんだな!?」
「はい......」
「本当に!?」
「本当です......」
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局長は、瀧本の手を握った。
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「おめでとう! 本当におめでとう!」
「あ、ありがとうございます......」
「スヨンも! おめでとう!」
「ありがとうございます......」
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局長は、興奮が収まらなかった。
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「いつだ!? 式はいつだ!?」
「まだ決まってません」
「早く決めろ! 俺が全部手配してやる!」
「いえ、そこまでは......」
「遠慮するな! お前は騎士になる男だ! 盛大にやるぞ!」
「盛大に......?」
「ああ! タイ中に知らしめるんだ! 英雄の結婚だ!」
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瀧本は、スヨンを見た。
スヨンも、瀧本を見た。
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「......どうする」
「......どうしよう」
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局長は、もう止まらなかった。
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「招待客は何人だ!? 百人か!? 二百人か!?」
「そんなにいません......」
「三百人でもいいぞ!」
「いません!」
「じゃあ、五百人だ!」
「増えてる!」
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局長は、ハーパーを呼んだ。
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「ハーパー! ハーパー!」
「何ですか、局長」
「瀧本が結婚するぞ!」
「......はい?」
「結婚だ! スヨンと!」
「......おめでとうございます」
「おめでとうじゃない! 式の準備だ! 今すぐ始めろ!」
「今すぐ......?」
「今すぐだ!」
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ハーパーは溜息をついた。
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「また仕事が増えた......」
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その夜。
食堂。
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瀧本とスヨンの婚約が、全員に伝えられた。
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「おめでとう!」
「おめでとう!」
「乾杯!」
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ニコライが言った。
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「お前、やるな」
「やるって何だ」
「ナリンと別れて、すぐに次を見つけた」
「すぐじゃない」
「すぐだ」
「......まあ、そうかもしれない」
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マルティネスが言った。
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「俺たち、全員正しかったな」
「正しかった?」
「お前が『失恋したばかりだ』って言った時、俺たちは言ったろ」
「何を」
「『移れるだろ、お前だし』って」
「......」
「移れただろ」
「......移れた」
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ヨナタンが言った。
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「幸せになれ」
「ああ」
「お前には、その資格がある」
「資格?」
「ああ。お前は、逃げなかった」
「......」
「資格がないなら作る。お前は、そう言った」
「言った」
「そして、作った」
「......」
「だから、幸せになる資格がある」
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瀧本は、ヨナタンを見た。
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「ありがとう」
「礼はいらん」
「でも、ありがとう」
「......ああ」
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スヨンが瀧本の腕を取った。
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「瀧本」
「何だ」
「幸せにしてね」
「ああ」
「約束よ」
「約束だ」
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窓の外では、バンコクの夜景が輝いていた。
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死ぬ気ゼロ。
生きる気満々。
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そして今、結婚する気満々。
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瀧本勝幸の人生は、加速していた。
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一方、ウドンターニー。
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チャーリーチームは、任務を開始していた。
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柏木は、マリーと並んでパトロールしていた。
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「柏木」
「何だ」
「スッティンとは、何を話したの」
「......」
「教えてくれない?」
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柏木は少し黙った。
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「俺が、タイに呼ばれた理由を聞いた」
「理由?」
「ああ。俺は、何のためにここにいるのか」
「......」
「戦うためだけじゃない。もっと大きな理由があるはずだと」
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マリーは、柏木を見た。
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「見つかった?」
「まだだ」
「でも、探してる?」
「探してる」
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マリーは少し笑った。
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「それでいいと思う」
「そうか」
「ええ。探し続けていれば、いつか見つかる」
「......」
「私も、一緒に探すわ」
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柏木は、マリーを見た。
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「......ありがとう」
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二人は、並んで歩き続けた。
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ウドンターニーの夕日が、二人を照らしていた。




